現世ではヒモだった男が異世界で英雄へと成り上がる

今野常春

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第二章 国家解体

第37話 ボーデル・ドートンと金融街の悪夢

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 王国衛兵団に所属するヘインとマークは店主の話に耳を傾ける。
 最初に店主が用意した酒で乾杯するとマークが話を促した。それを受け入れた店主はボーデル・ドートンについて話し始める。
「あの人は小さい工場を経営していました。名前はターボ会社です」
「ターボ会社? 調べるまで聞いたことがなかった。ヘインはどうだ」
「いや、俺もない」
 二人が首を横に振ると店主は当然だろうという表情で話を続ける。
「仕方ありません。何しろターボ会社は自動車工場にエンジンを供給する複数あるうちの一つでしたからね」
「だが、エンジンを供給するのなら俺たちでも名前くらいは聞いているだろ」
 しかし、店主は首を横に振る。
 納品先の自動車工場も規模が小さく、加えて自動車工場の名前も耳にしたことある程度の規模だった。
「ドートンさんは非情に熱意のある経営者でした。あの人は昔から社員想いで自らも才能豊かな人だったのです。小さな工場では自動車へのエンジン供給の限界を悟ったと言われ、飛行機なるものを造り上げたのですよ」
「飛行機?」
 ヘインたちは聞きなれない言葉に首を傾げた。
「空飛ぶ乗り物です」
「⁉」
 その言葉に二人は何故ボーデル・ドートンが必要なのかを理解した。
「マーク」
「ああ、俺たちとんでもない人物を引いてしまったようだぞ……」
 任務達成の余韻に浸り、気持ち良く酔いが回っていた。だが、店主の話しはその彼らを醒ましてしまった。
「どうしました?」
「店主。その話、もう少し詳しく聞かせて欲しい。それとその話は今後二度と誰にも話さない方がいい」
「ちょっと、脅かさないで下さいよ」
「店主、ヘインは脅かしてはいないぜ。店主の厚意に報いようとしているんだ」
 店主はその言葉に唾を飲み込んだ。
「やはり、興味本位で首を突っ込まなければよかった……」
「いや、話しをしてもらったことに感謝する。安心してくれ、この話をしなければ店主は一生安泰で過ごせる」
「それが怖いのですよ……」
 苦笑いを浮かべる店主に二人は笑い声をあげる。
「マーク、あまり脅すなよ」
「脅してはいないのだけれどな」
 二人は店主からもう少し詳しく話を聞くと支部に用意されている部屋に引き上げた。

 帰宅中、二人は無言で宿舎へと向かう。
 だが、その空気に耐えきれずマークが話し始める。
「どう思う?」
「……間違いなくイラバニア帝国に関係しているだろう」
「そうなるよな?」
 二人の見解は一致していた。頭の中では飛行機なる物が王国の国防にとって欠かせない物になるのではないかと当たりをつけている。
「なあ、内務省の人間に任せてよかったのか?」
 マークは不安げに尋ねた。
「どういうことだ?」
「いや、この国にもイラバニア帝国のスパイが紛れ込んでいるだろ」
 見た目は同じである為紛れ込むのは簡単だった。
 だからこそ、スパイが居ることを前提に回っているのがこの世界だ。
 そしてマークが不安視した内務省はその様な事に対する防衛が極めて脆弱な組織だった。
「不安だな」
「ああ、俺たちがキングローズに連れて行くべきではなかったかと思ってる」
「それほどの人物なのだから言えてるな」
 二人は溜息を吐く。
「それとだな、一つ気になる事がある」
 ヘインがマークに呟くように話す。
「何故昨日の今日で逮捕されたという話が出回ったのか、だ」
「それは俺も気になった。見られたのか?」
 二人が選ばれた理由は隠密性にある。
 仕事は素早く、周囲にもばれない事で衛兵団でも群を抜いていた。だからこそ今回の任務は彼らにとって最適だった。最初は楽な任務だと考えていたのだ。
「こう言っては何だが、ドートンを既にマークしている組織があるんじゃないかと思う」
「だから今日の噂に繋がった?」
「考え過ぎかもしれないけどな」
 ヘインは漸く苦笑いを浮かべる。
 吊られてマークも苦笑いを浮かべた。
「あとは上に任せよう」
「だな……」
 二人は僅か一日の休暇を締めくくった。

 一方、銀行業界に激震が走る。
 一、地方銀行の行為に対し王家及び政府から疑義が差し込まれたからだ。
 ボルドル王国の金融はレイクルトという都市にあり、世界の金融街とも言われている。
 そのトップを務めるハニガム・バーニンの下へ朝方、王家の家紋が象られた蝋印が押された書簡が届けられたのだ。
「な、何なのだこれは……」
 差出人が差出人であった為、朝食前に執務室で一人モーニングティーを飲みながらと考えていたがその様な計画はあっという間に頓挫した。
「サーリー! サーリーは何処だ‼︎」
 普段叫ばない当主の声にサーリーは息を切らせる様に執務室に入ってくる。
 「如何なされました、ハニガム様!」
「至急招集をかけよ」
「招集ですか……?」
 事情を把握仕切れないサーリーはたずねた。あの書簡の存在は把握してあるが、それがハニガムの理由に直結していなかった。
「キングダムの召集だ‼︎ 事態は急を要する。急げ、家の者は全て動員して構わん‼︎」
「はっ、ははぁー‼︎ 畏まりました‼︎」
 家の差配を一手に任されるサーリーは、主人の意向を受け有りとあらゆる手段を用いて関係者の召集を行った。

「バーニン卿、如何なされた?」
「アレイン卿の仰る通り。休日の朝に突然のキングダムを発するとは……」
 この場に集まったのは十五名だった。
 急なこととは言え慌てる事もなく、平然とした老紳士の会合だ。それでも内心は困惑している。なにせ緊急招集など数十年以来の出来事だからだ。出席者の中にはその当時の悪夢が呼び起こされる者がいるほどだ。
「急な呼び掛けをした事は詫びよう。しかし、これを見て卿らは同じことが言えるかな?」
 唯一顔色の悪いバーニンは、懐から取り出した手紙を全員の前に差し出した。
「これは……、王家からですな?」
 ますます理由が分からない。彼等は首を傾げる。
 しかし、それから程なくして彼等もまたバーニンと同じ言葉を吐いた。
「何なのだ、これは……」
 そこには地方銀行の所業について下問したいことがあると書かれていた。
「私なりに調べて見たのだが、どうやらワヤル銀行と言う地方銀行がとある会社に対し融資を断ったそうなのだ」
 それならば当たり前のことではないか、と言い出す出席者が居たがバーニンは手で制する。
「違うのだ。そうではない。その銀行は適切な対応がなされた形跡がなかったのだ……」
 バーニンは集合を待つ間ワヤル銀行の事を調べ上げた。そして分かった事は中々に阿漕な経営を行なっていたことが明らかとなった。
「貸付額については適切だが金利が高過ぎる。そして借金の形として必要以上に持ち出した形跡がある」
 バーニンの言葉に彼方此方で溜め息が漏れる。
 彼等にとって金融とは地方銀行を含んではいなかった。その事が今回の出来事に繋がり、法制度と業界の大幅な構造改革を強いられることとなる。
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