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第 十章 拡大する町。始動する商会。

第156話 入団試験と密偵組織と。

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    今日は八の月の七日。何の日かと言うと、騎士団の入団予定日である。

    先月に王都で宰相閣下と相談して一ヶ月後に入団試験を開催すると、冒険者ギルドを通じて告知したわけだ。ツールで入団試験を行うと。そして集まったのがざっと三百人程だ。今、屋敷の裏の練兵場に集まっている。
さて、先ずは、スパイを選別しないとね。

「〈マップ表示・オン〉。」
「〈サーチ・入団試験受験者〉表示白。〈サーチ・密偵〉表示赤。」

    マップを拡大して屋敷が収まるくらい拡大する。
〈サーチ〉により、密偵は他国、自国関係なく表示される。

「おお、以外といるな。ざっと四十人位いるなぁ。レナード!」
「はっ、何でしょう閣下。」
「これから、倒れる者は密偵だから、倒れたら拘束して、別の場所に隔離してくれるかい?」
「なんと、密偵が混ざっているのですか?」
「ああ、四十人程いるねぇ。」
「そんなにですか?どこからの密偵か分かりますか?」
「それは、まだだね。後で一人一人調べるからね。自殺しないようにしておいてくれよ。」
「承知しました。早速手配をします。」
「じゃあ、始めますか。〈マルチロック〉表示赤。」

    集まって始まるのを待っている受験者たちの前に出ていき挨拶をする。
勿論今日は冒険者スタイルだ。

「お集まりの受験者諸君。今日はわざわざこのツールにまで、受験のためにご足労頂き感謝する。私がツール伯爵のオオガミだ。今回は百五十人を目処に合格者を募る。各自是非頑張っていただきたい。さて、その前に残念なことに招かれざる客人が四十人ほどいるようだ。その方には申し訳ないがご退場いただきます。〈パラライズ〉。〈マルチロック〉表示赤〈スタン〉。」

呪文を唱えると、一瞬身を固くして直ぐに逃げようとした者や、私に向かって襲いかかろうとした者がいたが、全て麻痺して倒れた。
事情の分からない者達が騒ぎ始めようとする。

「静まれ!」

スキル〈王威〉を発動して一喝する。途端に静まり返る一同。

「騎士団は倒れた者を拘束せよ。」

レナード団長が騎士達に指示を下す。家ではよくある事なので、皆手際よく拘束していく。

    「改めて受験者諸君。驚かしてしまった様で申し訳ない。今拘束された者たちは、どっかからの密偵なので、気にしないで試験を受けて下さい。レナード団長、後は宜しく。」

そう言って、拘束された者達が集められている場所に向かった。そこは兵舎の裏庭で、回りからは隔離されている所だった。
私がそこに着いたときは、まだ麻痺が解けていない状態だった。

    「〈サーチ・奴隷〉。」

おや、四十二人の内、三十一人が奴隷ですか。試しに聞いてみますか。

「はぁい、密偵の皆さん。注目して下さい。これから、一人一人面接をします。嘘はつかないようにね。私は冗談は好きですが、嘘をつかれるのは、その相手を殺したくなるほどに嫌いですからね。心して答えること。では、一人目の人を連れてきて。」

その場から少しだけ離れて、自分に〈ライディテクター〉〈エアカーテン〉の呪文をかける。

    ハンリーが二十代後半の男を引き連れてきて、私の前の地面に座らせた。それから猿轡を外させた。
「〈鑑定〉。」
(鑑定結果・氏名ハミルトン・グラブリー。二十七歳。『職業・スカウトナイト』身体レベル二十五。(隷属・ゴール)。出身地ケルン王国。戦争奴隷となり帝国の情報部の密偵をしている。元々はケルン王国の騎士。)

(ほう、いきなり複雑な事情の方ですね。こちらについてくれれば有り難いのですがね。)

    「ハミルトン・グラブリーさん。これから私が言うことをよく聞きなさい。私の密偵として働く積もりがあるなら奴隷から解放してあげます。無理やり憎い帝国の密偵をするよりは遥かにましな生活を送れますよ。イエスかノーで答えてください。」
「本当に奴隷から解放してくれるのか?」
「ええ、仲間になるというのならね。ただし嘘は言わない方が身のために良いとだけ言っておきます。返答は?」
「イエスだ。頼むからこの身から助けてくれ。」

(ほう、嘘はないようですね。)

「分かりました。まず麻痺を治しますね。〈キュア〉。そして、隷属魔法を解除します。〈ディスペル〉。」

念のために、鑑定をかけてステータスから隷属が消えたのを確かめた。

「はい、解呪しましたよ。ところで、ゴールとは誰なんですか?隷属先の相手として、出ていた名前ですけど?」

ハンリーに縄を解かれながらハミルトンは答える。
「ゴールとは、帝国の諜報部の部長の名前です。帝国の密偵は皆、ゴールの奴隷なんです。」
「そうですか。また後程、詳しい帝国の話を聞かせてください。では次の人。」

次はレインロードが女の密偵を連れてくる。

    こんな感じで、面接をしていく。結果として、奴隷で密偵をさせられていた者三十一人は全て帝国の密偵で、それも他国の戦争奴隷を使っていた。俺の所に三十人以上の密偵を送り込んでくるとは、前の戦いの影響だろうか。帝国の密偵も定期的に〈サーチ〉して闇ギルドのメンバーと同様に消さないといけないな。身の回りが急に騒がしくなってきたようだ。今後は気を付けよう。

    さて、問題は奴隷ではない十一人だ。みな王国の他の貴族からの密偵だった。
一応、家の密偵になる気はあるかと聞いてみた。しかし、全員その気は無いと断られた。
    仕方がないので、流石に殺すのもマズイ気がしたので、〈ギアス〉で私の能力に関して他人に話すと心臓が潰れる様に呪文をかけてから解放した。
    魔法で私の事を他人に話すと心臓が潰れるから、気を付けるように強く言っておいた。後は自己責任だな。

    密偵達三十一人と騎士達を引き連れて、レナードの所に行くと、ちょっと見ない間にかなり人数が減っていた。今も副団長のライガが実技の相手をしていた。

「よし、合格。次の奴。」

ライガが合格判定を出している様だ。レナードの側に行き、話しかけた。

「レナード、少しいいかい?この三十一人は、家の密偵として、働いて貰う事にしたから、騎士として、扱うこと。細かいことは後で話すが、入団試験で合格した者と同じく、兵舎の部屋に案内してやってくれ。」
「承知しました。」
「それで、こちらは何人合格したんだい?」
「ギリギリで百二十人というところですね。」
「成程、家の兵舎も増築しないといけない様だな。国軍の兵舎の工事が済んだら、工事を親方に頼んでみるか。」
「はい閣下、その辺宜しくお願いします。」
「わかったよ。」

    昼休みを挟んで、夕方までかかって試験は終わる。
合格者は、騎士として百二十二人、諜報部隊として三十一人、魔法兵として四人だった。今いる騎士を足すと、百七十二人の騎士団の誕生だ。

    「諸君、お疲れ様です。この後に各人部屋を与えられます。分からないことは先任の騎士に聞くなりして下さい。明日からは私の騎士団として相応しい力を着けて貰います。このメンバーが将来の騎士団の核となることを期待します。以上だ。」

挨拶が済むとレナードが号令をかける。

「以上で入団試験を終わる。各人荷物を持ってここに集合すること。その後に部屋を案内する。以上だ。」
「じゃあ、皆あとよろしね。」

    こうして、すったもんだの挙げ句に、新人騎士を採用して、第一回入団試験は終わった。



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