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十章 琴瑟相和すか
1.兄「弟」対決、再び
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約束の時間ぴったりになると、星黎宮は翰鷹皇子の大声で揺れた。
「佳燕! よくぞ無事で──」
平伏する朱華《しゅか》や侍女たちを蹴散らす勢いで、翰鷹皇子は真っ直ぐに佳燕に駆け寄る。宙を切る勢いの袖に髪を乱され衣装の裾を踏まれて、あちこちから高い悲鳴が上がる。佳燕の隣に控えていた朱華も、翰鷹皇子の身体で押し退けられそうになったが──
「私の妃を足蹴にしてくださるな、兄上」
「炎俊……ああ、すまぬ。気が動転してしまった」
間一髪のところで、炎俊が盾となって庇ってくれた。もちろん、朱華を守ろうという意図ではなく、佳燕と翰鷹皇子の間に割って入る立ち位置を確保しようというだけだけど。でも、翰鷹皇子も佳燕も、まだそれには気付いていない。
「そなたにも雪莉姫にも、改めて礼を言う。白家の呪を、よく掻い潜ってくれたものだ」
翰鷹皇子は、弟に満面の笑みを向けているくらいだ。佳燕が見つかった経緯を、炎俊はまだ知らせていない。この方は、白家が佳燕を攫ったのだと信じ込んでいるのだ。
「雪莉様……!?」
佳燕が、ごく抑えた声量で悲鳴を上げた。指先が、皇子たちには見えないように朱華の服の袖をそっと引く。真実が──夫君から逃げて姿を眩ませたのだと知られたら、いかなる勘気を被るのかと、恐れ怯える気配がひしひしと伝わってくる。でも、宥めてあげることはできない。炎俊はもう芝居の役に入り込んでいる。
「礼を言われるのはまだ早い。私は白妃をお返しするとは言っていないのだからな」
「……何?」
うっとりするほど晴れやかな笑顔で炎俊は宣言し、翰鷹皇子もやはり笑顔のまま聞き返した。事前の約束を反故にされることなど、すぐに呑み込めるはずもないのだろう。けれど、炎俊は今日の役がいたく気に入っているから、兄皇子の察しの悪さを嘲るように唇に弧を描かせ、朗らかに軽やかに続ける。
「白妃には、この先ずっと星黎宮にいてもらう。皓華宮に戻ることはない」
「……馬鹿な」
低く、翰鷹皇子が漏らした声に、佳燕が震えるのが伝わって来た。顔を遠見で視る余裕は、ない。恐怖に引き攣った顔を視てしまったら、朱華も竦んでしまいそうだ。
「なぜそのようなことを言い出すのだ、炎俊!? 私に何の怨みが──それとも、お前も佳燕に恋慕したか!?」
「兄上こそ馬鹿げたことを」
なのに、炎俊は翰鷹皇子の怒気を正面から受けて、全く怯んでいない。自身よりも幾らか上背のある兄に対して、いっそ傲然と胸を張って、笑う。演技ではなく、翰鷹皇子を怒らせ慌てさせるのが楽しくて仕方ないかのよう。
(ほどほどに、しておいてよね……!?)
完全に怒らせて逆上させては、佳燕の身まで危ういかもしれないのに。芝居が始まってしまった以上、諫めることもできないのが不安でならない。
「雪莉、安心するが良い。そなたに危険が及ぶことはない」
炎俊が朱華にちらりと目を向けて、不気味なほど優しい笑顔を見せてきたのも、翰鷹皇子に見せつける演技の一環だ。翰鷹皇子に向き直った瞬間、朱華に向けていた労わるような笑顔が、嘲りの色を帯びるのは良い役者だということなのかどうか。朱華には、単に、兄皇子に喧嘩を売るのが本気で楽しいだけにしか思えない。
「それに、兄上も安心なされよ。兄上の妃に手を出すことなど思いもよらぬ。私は雪莉の──私の妃のことしか考えていない。他の妃などいらぬのだ。兄上同様に、な」
「ならばなぜ……!」
とにかく、翰鷹皇子は今のところ筋書き通りの反応を見せてくれている。だから──炎俊の唇が、優美な三日月の形に笑みを作り、見せ場の台詞を紡ぎ出す。
「どうでも良い女をひとり置いておけば、目くらましにはなるだろう」
「どうでも良い、だと……!?」
ぎり、と。翰鷹皇子の歯軋りする音が、朱華の耳に届いた。季節は初夏で、窓の外に目を向ければ新緑が目に染みるはず。なのに、氷の冷気を感じるのは、皇族の怒りが恐ろしいからだ。寵愛する妃が目の前にいるのに返さないと明言されて、しかも手ひどく貶されて。怒らないでいろという方が難しいだろう。しかも、息を詰めて見守ることができない朱華と佳燕と裏腹に、炎俊は涼しい顔で首を傾げて、兄皇子を挑発するのだ。
「どうでも良いだろう。白家の血を引くとはいっても、《力》を使いこなすこともできないのだから。本来ならば婢女がせいぜい、我が宮には全く持って相応しくない」
「──っ……!」
炎俊の言葉に、ふたつの呻き声が応えた。怒りを噛み殺すような翰鷹皇子と、悲鳴のような佳燕と。妻のために怒った夫に対して、妻は炎俊の評価の正しさを知っているのだ。その心中は察するに余りあるけれど、朱華にできるのは佳燕の手を握って支えの存在を伝えることくらい。まして、翰鷹皇子の怒りを宥めることはできない。
「だが、我が妻だ。私の前で佳燕を愚弄するな。私は帝位争いから退く。そなたに与しもしてやろう。佳燕に手を出していないのだという言葉を、信じてもやる。ただ──その代償に、佳燕を返せ。そうすれば今の言葉は忘れてやる」
「白妃が手の内にあれば、兄上は私に逆らえまい? 兄上の意思などどうでも良いのだ」
思いのほかに冷静さを保って訴える翰鷹皇子に涼しい笑みを向けて、炎俊はさりげなく朱華と佳燕を引き寄せた。朱華にとっては筋書き通りの立ち位置だけど、佳燕にとっては夫以外の男に抱かれた格好になる。恐怖に強張る気配が炎俊の身体越しに伝わって来た。
(どうかどうか、気付かないでくださいね……!)
逆らえないながらに、佳燕は懸命に炎俊から身体を離そうと努めているらしい。これなら、炎俊が女だとバレないで済むだろうか。
両手に花の格好でも、恥ずかしい、という感覚は皇族には無縁なのだろうか。弟を切るように睨む翰鷹皇子の目を、炎俊は澄ました笑みで受け止めている。
「なぜだ。そなたも一度は納得したことではないか」
「考えを変えたのだ。我が妃は美しい。どのような手段を用いても、掌中に収めておきたいと思わずにはいられない。兄上同様、私も雪莉ひとりを愛したい──が、妃をただひとりに留めるのもあまりに愚か。皓華宮の有り様を見れば知れよう。白妃は兄上を見かねて宮を出たと言っていたぞ」
「佳燕……! では──」
結局のところ、翰鷹皇子はことごとく対応を誤っていたのだ。それを突き付けるのが、炎俊の役どころのひとつだった。佳燕も朱華も、面と向かって言うにはあまりに畏れ多いことだから、炎俊に言ってもらうしかない。手ひどいやり方ではあるけれど、普通に茶菓を囲んで懇々と諭したところで、翰鷹皇子が聞き入れてくれたかどうかは怪しかった。
「私は兄上の轍は踏まぬ。だから、面倒が少なそうな女を置くことにした。私は本気で帝位を目指しているからな。白家も、娘の居場所が変わったところで文句を言うまい」
(でも、ここまで挑発しなくても良いでしょう!?)
愉しげに声を弾ませる炎俊とは裏腹に、朱華の心臓は音高く弾んでうるさいほどだ。夫君の怒りか、あるいは自身の行く末を恐れてか、佳燕の荒く引き攣ったような息遣いも気に懸かるのに。皇子同士のやり取りに口を挟むこともできない有様だとしたら、朱華の目論見は外れてしまうことになるのに。
(ほどほどに、ほどほどに、ね……?)
自重を促すつもりで炎俊の胸に手を添えると、一層間近に抱き寄せられた。多分、炎俊は芝居の筋書きをなぞっているだけだけど。翰鷹皇子に目に余るほど、あるべき規を越えるほどの過ぎた寵愛を見せつける、という。妃可愛さに賜った宮を蔑ろにして他の女を寄せ付けないのも、妃可愛さに兄皇子の妃を奪って目くらましにするのも。いずれも本来はあるべきではないこと、翰鷹皇子とは鏡映しの歪な像だ。それに気づいて、翰鷹皇子が自らを省みてくれれば良い。それが朱華の願いであり狙いだった。
「──誰かひとりを想う心があるのなら、どうして私から佳燕を奪う? 他の女でも良かったのだろうに。それこそ白家でも、他の家でも」
(貴方も! そうしてくれれば良かったの!)
朱華の切なる叫びは、もちろん口をついて出ることはなく、ただ胸の裡で木霊するだけ。ごくごく真剣な顔の翰鷹皇子に応えることができるのは、皇子である炎俊だけだ。宥めることは期待できず、兄皇子の怒りを煽るだけだと分かり切っているのが怖い。
「手近に都合の良い者がいたのだ。雪莉と争わず、差し出がましい振舞いをしないような女は貴重だろう。──それに、私は兄上に恨みがある」
「恨み? 何のことだ?」
これだけは本心からの恨み言なのだろう,、声を低めた炎俊に対し、心底不思議そうな面持ちで首を傾げる翰鷹皇子を見て、朱華は密かに絶望した。やはり、皇族には自省など期待できないのだ。
これでは、炎俊が挑発するままに、ふたりの皇子は決定的に仲違いしてしまう。佳燕が翰鷹皇子の本心を信じてくれても、それでは星黎宮に留められるしかない。炎俊の隣で固まったまま、佳燕は声を上げることさえできないでいるようだった。
「佳燕! よくぞ無事で──」
平伏する朱華《しゅか》や侍女たちを蹴散らす勢いで、翰鷹皇子は真っ直ぐに佳燕に駆け寄る。宙を切る勢いの袖に髪を乱され衣装の裾を踏まれて、あちこちから高い悲鳴が上がる。佳燕の隣に控えていた朱華も、翰鷹皇子の身体で押し退けられそうになったが──
「私の妃を足蹴にしてくださるな、兄上」
「炎俊……ああ、すまぬ。気が動転してしまった」
間一髪のところで、炎俊が盾となって庇ってくれた。もちろん、朱華を守ろうという意図ではなく、佳燕と翰鷹皇子の間に割って入る立ち位置を確保しようというだけだけど。でも、翰鷹皇子も佳燕も、まだそれには気付いていない。
「そなたにも雪莉姫にも、改めて礼を言う。白家の呪を、よく掻い潜ってくれたものだ」
翰鷹皇子は、弟に満面の笑みを向けているくらいだ。佳燕が見つかった経緯を、炎俊はまだ知らせていない。この方は、白家が佳燕を攫ったのだと信じ込んでいるのだ。
「雪莉様……!?」
佳燕が、ごく抑えた声量で悲鳴を上げた。指先が、皇子たちには見えないように朱華の服の袖をそっと引く。真実が──夫君から逃げて姿を眩ませたのだと知られたら、いかなる勘気を被るのかと、恐れ怯える気配がひしひしと伝わってくる。でも、宥めてあげることはできない。炎俊はもう芝居の役に入り込んでいる。
「礼を言われるのはまだ早い。私は白妃をお返しするとは言っていないのだからな」
「……何?」
うっとりするほど晴れやかな笑顔で炎俊は宣言し、翰鷹皇子もやはり笑顔のまま聞き返した。事前の約束を反故にされることなど、すぐに呑み込めるはずもないのだろう。けれど、炎俊は今日の役がいたく気に入っているから、兄皇子の察しの悪さを嘲るように唇に弧を描かせ、朗らかに軽やかに続ける。
「白妃には、この先ずっと星黎宮にいてもらう。皓華宮に戻ることはない」
「……馬鹿な」
低く、翰鷹皇子が漏らした声に、佳燕が震えるのが伝わって来た。顔を遠見で視る余裕は、ない。恐怖に引き攣った顔を視てしまったら、朱華も竦んでしまいそうだ。
「なぜそのようなことを言い出すのだ、炎俊!? 私に何の怨みが──それとも、お前も佳燕に恋慕したか!?」
「兄上こそ馬鹿げたことを」
なのに、炎俊は翰鷹皇子の怒気を正面から受けて、全く怯んでいない。自身よりも幾らか上背のある兄に対して、いっそ傲然と胸を張って、笑う。演技ではなく、翰鷹皇子を怒らせ慌てさせるのが楽しくて仕方ないかのよう。
(ほどほどに、しておいてよね……!?)
完全に怒らせて逆上させては、佳燕の身まで危ういかもしれないのに。芝居が始まってしまった以上、諫めることもできないのが不安でならない。
「雪莉、安心するが良い。そなたに危険が及ぶことはない」
炎俊が朱華にちらりと目を向けて、不気味なほど優しい笑顔を見せてきたのも、翰鷹皇子に見せつける演技の一環だ。翰鷹皇子に向き直った瞬間、朱華に向けていた労わるような笑顔が、嘲りの色を帯びるのは良い役者だということなのかどうか。朱華には、単に、兄皇子に喧嘩を売るのが本気で楽しいだけにしか思えない。
「それに、兄上も安心なされよ。兄上の妃に手を出すことなど思いもよらぬ。私は雪莉の──私の妃のことしか考えていない。他の妃などいらぬのだ。兄上同様に、な」
「ならばなぜ……!」
とにかく、翰鷹皇子は今のところ筋書き通りの反応を見せてくれている。だから──炎俊の唇が、優美な三日月の形に笑みを作り、見せ場の台詞を紡ぎ出す。
「どうでも良い女をひとり置いておけば、目くらましにはなるだろう」
「どうでも良い、だと……!?」
ぎり、と。翰鷹皇子の歯軋りする音が、朱華の耳に届いた。季節は初夏で、窓の外に目を向ければ新緑が目に染みるはず。なのに、氷の冷気を感じるのは、皇族の怒りが恐ろしいからだ。寵愛する妃が目の前にいるのに返さないと明言されて、しかも手ひどく貶されて。怒らないでいろという方が難しいだろう。しかも、息を詰めて見守ることができない朱華と佳燕と裏腹に、炎俊は涼しい顔で首を傾げて、兄皇子を挑発するのだ。
「どうでも良いだろう。白家の血を引くとはいっても、《力》を使いこなすこともできないのだから。本来ならば婢女がせいぜい、我が宮には全く持って相応しくない」
「──っ……!」
炎俊の言葉に、ふたつの呻き声が応えた。怒りを噛み殺すような翰鷹皇子と、悲鳴のような佳燕と。妻のために怒った夫に対して、妻は炎俊の評価の正しさを知っているのだ。その心中は察するに余りあるけれど、朱華にできるのは佳燕の手を握って支えの存在を伝えることくらい。まして、翰鷹皇子の怒りを宥めることはできない。
「だが、我が妻だ。私の前で佳燕を愚弄するな。私は帝位争いから退く。そなたに与しもしてやろう。佳燕に手を出していないのだという言葉を、信じてもやる。ただ──その代償に、佳燕を返せ。そうすれば今の言葉は忘れてやる」
「白妃が手の内にあれば、兄上は私に逆らえまい? 兄上の意思などどうでも良いのだ」
思いのほかに冷静さを保って訴える翰鷹皇子に涼しい笑みを向けて、炎俊はさりげなく朱華と佳燕を引き寄せた。朱華にとっては筋書き通りの立ち位置だけど、佳燕にとっては夫以外の男に抱かれた格好になる。恐怖に強張る気配が炎俊の身体越しに伝わって来た。
(どうかどうか、気付かないでくださいね……!)
逆らえないながらに、佳燕は懸命に炎俊から身体を離そうと努めているらしい。これなら、炎俊が女だとバレないで済むだろうか。
両手に花の格好でも、恥ずかしい、という感覚は皇族には無縁なのだろうか。弟を切るように睨む翰鷹皇子の目を、炎俊は澄ました笑みで受け止めている。
「なぜだ。そなたも一度は納得したことではないか」
「考えを変えたのだ。我が妃は美しい。どのような手段を用いても、掌中に収めておきたいと思わずにはいられない。兄上同様、私も雪莉ひとりを愛したい──が、妃をただひとりに留めるのもあまりに愚か。皓華宮の有り様を見れば知れよう。白妃は兄上を見かねて宮を出たと言っていたぞ」
「佳燕……! では──」
結局のところ、翰鷹皇子はことごとく対応を誤っていたのだ。それを突き付けるのが、炎俊の役どころのひとつだった。佳燕も朱華も、面と向かって言うにはあまりに畏れ多いことだから、炎俊に言ってもらうしかない。手ひどいやり方ではあるけれど、普通に茶菓を囲んで懇々と諭したところで、翰鷹皇子が聞き入れてくれたかどうかは怪しかった。
「私は兄上の轍は踏まぬ。だから、面倒が少なそうな女を置くことにした。私は本気で帝位を目指しているからな。白家も、娘の居場所が変わったところで文句を言うまい」
(でも、ここまで挑発しなくても良いでしょう!?)
愉しげに声を弾ませる炎俊とは裏腹に、朱華の心臓は音高く弾んでうるさいほどだ。夫君の怒りか、あるいは自身の行く末を恐れてか、佳燕の荒く引き攣ったような息遣いも気に懸かるのに。皇子同士のやり取りに口を挟むこともできない有様だとしたら、朱華の目論見は外れてしまうことになるのに。
(ほどほどに、ほどほどに、ね……?)
自重を促すつもりで炎俊の胸に手を添えると、一層間近に抱き寄せられた。多分、炎俊は芝居の筋書きをなぞっているだけだけど。翰鷹皇子に目に余るほど、あるべき規を越えるほどの過ぎた寵愛を見せつける、という。妃可愛さに賜った宮を蔑ろにして他の女を寄せ付けないのも、妃可愛さに兄皇子の妃を奪って目くらましにするのも。いずれも本来はあるべきではないこと、翰鷹皇子とは鏡映しの歪な像だ。それに気づいて、翰鷹皇子が自らを省みてくれれば良い。それが朱華の願いであり狙いだった。
「──誰かひとりを想う心があるのなら、どうして私から佳燕を奪う? 他の女でも良かったのだろうに。それこそ白家でも、他の家でも」
(貴方も! そうしてくれれば良かったの!)
朱華の切なる叫びは、もちろん口をついて出ることはなく、ただ胸の裡で木霊するだけ。ごくごく真剣な顔の翰鷹皇子に応えることができるのは、皇子である炎俊だけだ。宥めることは期待できず、兄皇子の怒りを煽るだけだと分かり切っているのが怖い。
「手近に都合の良い者がいたのだ。雪莉と争わず、差し出がましい振舞いをしないような女は貴重だろう。──それに、私は兄上に恨みがある」
「恨み? 何のことだ?」
これだけは本心からの恨み言なのだろう,、声を低めた炎俊に対し、心底不思議そうな面持ちで首を傾げる翰鷹皇子を見て、朱華は密かに絶望した。やはり、皇族には自省など期待できないのだ。
これでは、炎俊が挑発するままに、ふたりの皇子は決定的に仲違いしてしまう。佳燕が翰鷹皇子の本心を信じてくれても、それでは星黎宮に留められるしかない。炎俊の隣で固まったまま、佳燕は声を上げることさえできないでいるようだった。
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