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26 父の婚約
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その後もアルはダニエルに必死で自分を売り込み、また何よりも案外乗り気になっているガラティーンの口添えもあり、年内に二人の婚約を成立させることになった。社交界デビューした年のうちに結婚を決めることができて良かったとガラはひっそりと安堵する。
「私にも、普通の女性の感覚があったみたいだよ」
リンダにその胸の内をリンダに告げる。
「いいじゃないですか。しかもお嬢様が好きになった方とご結婚」
「それを言われると何とも気恥ずかしいね」
ガラティーンはアルからのリクエストで、ハンカチに彼のイニシャルを刺繍している彼女は、ドレス姿ではなくトラウザーズを履いて、足を広げて座っている。そんな姿ではあるが、刺繍はそこまで不得意ではないので、それなりにこなしている。
「結婚できなかったらどうしようかと思った。私が結婚しなかったら父上も結婚しなさそうだし」
「いや、お嬢様が結婚しても、ダニエル様は……どうでしょうね……」
「本当は、コーネリアの旦那さんになってもらいたかったんだけどね」
たおやかで美しいコーネリアは引く手あまたで、彼女の父のエッジウェア伯は結婚相手をゆっくりと吟味しているところだという。
「エッジウェア伯が許さないのでは……」
「やっぱりそう思う?」
ガラティーンは、刺繍をする手を止めて伸びをする。そしてふと窓の外を見たところで、ダニエルの馬車が戻ってきたのを見つける。
「おや、父上が帰ってきたよ。……まだ日も高いのに」
「そうですね」
ガラティーンとリンダはそれ以上の注意は特に払わずにまた刺繍に戻っていたら、屋敷の中がにわかに騒がしくなった。
「なんの騒ぎだい?」
ガラティーンが面白そうに騒ぎの方を覗きに行くと、冷静沈着な家令の目に涙が浮かんでいる。
「アンダーソン、どうしたの?」
「ダニエル様が、ご、ご結婚を」
「ええ!?」
ガラティーンは目を丸くして驚く。
「ど、どちらのご令嬢と!?」
ガラティーンについてきたリンダは、二人のやりとりを聞いてきゃあ、と大きな声を上げる。リンダからしてもこれだ、邸内の使用人がみなこのような反応をしていたら、それは先ほどのように大騒ぎになるだろう。
「エッジウェア伯からです」
「えっ、まさか」
「コーネリア嬢です!」
リンダはもう声も出せず口を覆って、目に涙を浮かべている。ガラティーンもじんわりと胸が熱くなる。ダニエルのことを好ましいと感じていたコーネリアが、ダニエルに嫁ぐことになるのだ。何があったのかはわからないが、それはコーネリアにとっては喜ばしい出来事であるだろうに違いない。
家令も感極まったようで、浮かんだ涙を指先でぬぐい、ぐっとその手を握りしめる。
「ガラティーン様、ダニエル様、お二方の婚儀を見ることができるようで、私は…!」
「アンダーソン…」
ダニエルの結婚、そして自分の結婚にも喜んでくれる家令を見て、ガラティーンは嬉しくなると同時に、自分たちはそんなに心配をされていたんだなあという気持ちもわいてくる。
「詳しくはダニエル様からもう少し話を聞きだしてからにしましょう。ガラティーン様もこちらへ」
「あ、ああ」
アンダーソンは一度強くうなずき、ガラティーンに頭を下げる。
自分たちがこれだけの騒ぎになるのだ、父上はどうなってしまっていることやら、とハラハラしながらダニエルの居室へ家令と一緒にガラティーンは向かう。
そこにはダニエルだけではなくてエッジウェア伯もいたので、ガラティーンはしまった、と思ったがそれは表に出さず、その日のトラウザーズ姿に沿った形のあいさつをする。
「お久しぶりです、エッジウェア伯」
「久しぶりですね、ガラティーン嬢」
「まさかおいでになるとは思わず、このような姿で失礼いたします」
「いや、コーネリアからあなたの話をよく聞いているよ」
コーネリアはガラティーンのトラウザーズ姿の方が好ましいらしく、クーパー家に彼女が遊びに来るときにはトラウザーズ姿をリクエストされている。それをコーネリアの父のハーバートも知っていたようだ。
「どうもこちらの方が気楽で」
「確かに、自分があのようにずるずる、ひらひらした服を着ると思うと、こちらの方が気楽だね」
ハーバートは、ガラティーンが思っているよりはくだけた人物のようだった。ダニエルとそれなりに付き合いがあるという時点で、まあ頭が固いばかりの官僚、ということではないのだろう。
「先ほどは、その――申し訳ありません。邸内を騒がしくしてしまいまして」
ガラティーンもまさかあれだけ邸内が騒がしいのだから、来客はなかっただろうと考えていたのだ。
「かまわないよ。……ダニエルに結婚話が来たからと邸内があれだけ盛り上がるのは、彼が使用人たちにも愛されている証拠ではないかな」
「そう言っていただけると、助かります」
ガラティーンは素直に微笑む。そして、周りを軽く見回す。自分が普通にエッジウェア伯と話をしているけれども、そもそもエッジウェア伯を連れてきたのは父のはずだ。
「ダニエルは参ってしまったようで、そこにいるよ」
ハーバートはにやりと唇の左側を上げて笑い、机の向こう側で、椅子の座面を抱え込んで床に座っているダニエルを指さす。
「……父上!」
「だって恥ずかしくて……」
消え入りそうな声で椅子を抱えるダニエルを見て、ガラティーンは天を仰ぐ。
「子供ですか……」
「コーネリアにこれを見せたらどうなることやら」
「全くですよ!」
ガラティーンは深い、深いため息をつく。
「この人のことですから、コーネリア嬢のことは大切にします。それは間違いない。万が一何かあったら私がコーネリアを守ります」
「はは、まるで君に嫁がせるようだね」
「私が男だったら、私の方から彼女に求婚していました」
ガラティーンは明るく笑う。
「コーネリアはダニエルのことが良いらしい。そして君の家のこともとても気に入っている。君との付き合いはまだ一年ほどなのにね」
「そうですね。ほんとうに、私も……コーネリアと出会えたのは一生の宝です。ありがとうございます」
自分の娘のことを気に入ってくれている婚家予定の家の小姑にハーバートは微笑む。
「仕事を通じてだが、私はダニエルのだめなところも良いところも知っている。それでも自分の娘――かわいい、大事な娘を渡して縁付いてもいいとは思っているのだからね。私も、君たちと知り合えてよかったと思っているよ」
「ありがとうございます…!」
ガラティーンは深く頭を下げる。
「そんなに恐縮しないでくれ」
ハーバートは苦笑する。
「まあ、結婚についてはこちらも、そちらも何も問題はないということでよいのかな」
「もちろんです!」
「あの恥ずかしがり屋からは返事を聞いていないんだけれどね」
「否なんてありませんよ。嫌だったら恥ずかしがっている余裕はないはずですから」
ねえ父上、と離れたところから声をかけるガラティーンにも、ダニエルは返事をしない。
「……乙女じゃあるまいし、父上がそういうことをやってもかわいくもなんともありませんよ!」
厳しく言い捨てるガラティーンを見て、ハーバートは大笑いをする。
「いやあ楽しいね」
「失礼いたしました」
ガラティーンはわざと涼しい顔を作ってハーバートに大げさな礼をする。
「いやあ君は女にしておくには本当に惜しかった」
「そう言っていただけると光栄です」
一年前まではクーパー家の御子息の話題が良く上っていたんだよ、とハーバートは笑う。
「紳士録には息子とは書いてなかったけれどもね、確かに君を見ていたら紳士録の記載が間違えているとしか思えなかった」
「紳士録が間違えていた!ははは、そうだったら良かったのに」
ガラティーンはいつも、ハーバートからの高評価で素直に喜んでしまう。身内ではない――身内になるが――人物に高く評価してもらっていたというのは、多少は大げさに言われているだろうにしても、素直に受け取りたくなるものだった。
「しかし、君とコーネリアとで、婚約の時期が重なってしまうのは」
「私は気にしないで、コーネリアを優先してください。父の方が結婚は先にするのが順番だと思っています」
「それでいいのかね」
「私はそれでいいですが」
ガラティーンからしてみたら、彼女の父と親友の結婚だ、さっさとまとめてしまいたい。
「君の婚約者はそれでいいのかね」
「……問題ないと思いますけど」
「アルジャーノン・ラッセルは大変だな……一応彼にも確認してみてくれるか。君たちの方が先に婚約の話が出ていたのだから、そちらが先に進めるべきではないかね」
ハーバートはアルジャーノンはすでに尻に敷かれているのだな、と苦笑する。
「いやあ……」
父上の方が年上なのだからそちらを先に、とガラティーンはぶつぶつつぶやくも、アルジャーノンに確認をしますということで話を収めた。
「さて、私はこれで失礼するよ。娘に朗報を届けなければいけない」
「ありがとうございます。……本当にありがとうございます」
ガラティーンはコーネリアの分もダニエルの分も、という勢いでハーバートに礼をする。
「君にそれだけ喜ばれるのは……ああ、そうか。知っていたわけだね」
「もちろんです」
ハーバートは、 デビュタント・ガラの時のことを話題に乗せる。
「私もあの時に、コーネリアがダニエルのことを好ましく思っているようだとは思ったけれどもね、まさかねえ」
ハーバートは、わざとしかめ面を作る。
「今後とも、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ガラティーンは、およそ一年前にも父の部屋でハーバートと会ったことを思い出す。彼の家の手伝いを受けてデビュタント・ボールの準備などを進めていったのだ。そしてガラティーンはアルジャーノンと結婚することになりそうだし、ダニエルもコーネリアと結婚をすることになる。
「それでは、また」
「はい。きちんとご挨拶に伺わせていただきます」
「よろしく頼むよ」
もちろんです、と微笑むガラティーンは家督を継ぐ者のような顔をしている。女性が伯爵位を継げないこの国の制度が違ったものであったなら、と思いながらハーバートはクーパー邸を退出する。
「私にも、普通の女性の感覚があったみたいだよ」
リンダにその胸の内をリンダに告げる。
「いいじゃないですか。しかもお嬢様が好きになった方とご結婚」
「それを言われると何とも気恥ずかしいね」
ガラティーンはアルからのリクエストで、ハンカチに彼のイニシャルを刺繍している彼女は、ドレス姿ではなくトラウザーズを履いて、足を広げて座っている。そんな姿ではあるが、刺繍はそこまで不得意ではないので、それなりにこなしている。
「結婚できなかったらどうしようかと思った。私が結婚しなかったら父上も結婚しなさそうだし」
「いや、お嬢様が結婚しても、ダニエル様は……どうでしょうね……」
「本当は、コーネリアの旦那さんになってもらいたかったんだけどね」
たおやかで美しいコーネリアは引く手あまたで、彼女の父のエッジウェア伯は結婚相手をゆっくりと吟味しているところだという。
「エッジウェア伯が許さないのでは……」
「やっぱりそう思う?」
ガラティーンは、刺繍をする手を止めて伸びをする。そしてふと窓の外を見たところで、ダニエルの馬車が戻ってきたのを見つける。
「おや、父上が帰ってきたよ。……まだ日も高いのに」
「そうですね」
ガラティーンとリンダはそれ以上の注意は特に払わずにまた刺繍に戻っていたら、屋敷の中がにわかに騒がしくなった。
「なんの騒ぎだい?」
ガラティーンが面白そうに騒ぎの方を覗きに行くと、冷静沈着な家令の目に涙が浮かんでいる。
「アンダーソン、どうしたの?」
「ダニエル様が、ご、ご結婚を」
「ええ!?」
ガラティーンは目を丸くして驚く。
「ど、どちらのご令嬢と!?」
ガラティーンについてきたリンダは、二人のやりとりを聞いてきゃあ、と大きな声を上げる。リンダからしてもこれだ、邸内の使用人がみなこのような反応をしていたら、それは先ほどのように大騒ぎになるだろう。
「エッジウェア伯からです」
「えっ、まさか」
「コーネリア嬢です!」
リンダはもう声も出せず口を覆って、目に涙を浮かべている。ガラティーンもじんわりと胸が熱くなる。ダニエルのことを好ましいと感じていたコーネリアが、ダニエルに嫁ぐことになるのだ。何があったのかはわからないが、それはコーネリアにとっては喜ばしい出来事であるだろうに違いない。
家令も感極まったようで、浮かんだ涙を指先でぬぐい、ぐっとその手を握りしめる。
「ガラティーン様、ダニエル様、お二方の婚儀を見ることができるようで、私は…!」
「アンダーソン…」
ダニエルの結婚、そして自分の結婚にも喜んでくれる家令を見て、ガラティーンは嬉しくなると同時に、自分たちはそんなに心配をされていたんだなあという気持ちもわいてくる。
「詳しくはダニエル様からもう少し話を聞きだしてからにしましょう。ガラティーン様もこちらへ」
「あ、ああ」
アンダーソンは一度強くうなずき、ガラティーンに頭を下げる。
自分たちがこれだけの騒ぎになるのだ、父上はどうなってしまっていることやら、とハラハラしながらダニエルの居室へ家令と一緒にガラティーンは向かう。
そこにはダニエルだけではなくてエッジウェア伯もいたので、ガラティーンはしまった、と思ったがそれは表に出さず、その日のトラウザーズ姿に沿った形のあいさつをする。
「お久しぶりです、エッジウェア伯」
「久しぶりですね、ガラティーン嬢」
「まさかおいでになるとは思わず、このような姿で失礼いたします」
「いや、コーネリアからあなたの話をよく聞いているよ」
コーネリアはガラティーンのトラウザーズ姿の方が好ましいらしく、クーパー家に彼女が遊びに来るときにはトラウザーズ姿をリクエストされている。それをコーネリアの父のハーバートも知っていたようだ。
「どうもこちらの方が気楽で」
「確かに、自分があのようにずるずる、ひらひらした服を着ると思うと、こちらの方が気楽だね」
ハーバートは、ガラティーンが思っているよりはくだけた人物のようだった。ダニエルとそれなりに付き合いがあるという時点で、まあ頭が固いばかりの官僚、ということではないのだろう。
「先ほどは、その――申し訳ありません。邸内を騒がしくしてしまいまして」
ガラティーンもまさかあれだけ邸内が騒がしいのだから、来客はなかっただろうと考えていたのだ。
「かまわないよ。……ダニエルに結婚話が来たからと邸内があれだけ盛り上がるのは、彼が使用人たちにも愛されている証拠ではないかな」
「そう言っていただけると、助かります」
ガラティーンは素直に微笑む。そして、周りを軽く見回す。自分が普通にエッジウェア伯と話をしているけれども、そもそもエッジウェア伯を連れてきたのは父のはずだ。
「ダニエルは参ってしまったようで、そこにいるよ」
ハーバートはにやりと唇の左側を上げて笑い、机の向こう側で、椅子の座面を抱え込んで床に座っているダニエルを指さす。
「……父上!」
「だって恥ずかしくて……」
消え入りそうな声で椅子を抱えるダニエルを見て、ガラティーンは天を仰ぐ。
「子供ですか……」
「コーネリアにこれを見せたらどうなることやら」
「全くですよ!」
ガラティーンは深い、深いため息をつく。
「この人のことですから、コーネリア嬢のことは大切にします。それは間違いない。万が一何かあったら私がコーネリアを守ります」
「はは、まるで君に嫁がせるようだね」
「私が男だったら、私の方から彼女に求婚していました」
ガラティーンは明るく笑う。
「コーネリアはダニエルのことが良いらしい。そして君の家のこともとても気に入っている。君との付き合いはまだ一年ほどなのにね」
「そうですね。ほんとうに、私も……コーネリアと出会えたのは一生の宝です。ありがとうございます」
自分の娘のことを気に入ってくれている婚家予定の家の小姑にハーバートは微笑む。
「仕事を通じてだが、私はダニエルのだめなところも良いところも知っている。それでも自分の娘――かわいい、大事な娘を渡して縁付いてもいいとは思っているのだからね。私も、君たちと知り合えてよかったと思っているよ」
「ありがとうございます…!」
ガラティーンは深く頭を下げる。
「そんなに恐縮しないでくれ」
ハーバートは苦笑する。
「まあ、結婚についてはこちらも、そちらも何も問題はないということでよいのかな」
「もちろんです!」
「あの恥ずかしがり屋からは返事を聞いていないんだけれどね」
「否なんてありませんよ。嫌だったら恥ずかしがっている余裕はないはずですから」
ねえ父上、と離れたところから声をかけるガラティーンにも、ダニエルは返事をしない。
「……乙女じゃあるまいし、父上がそういうことをやってもかわいくもなんともありませんよ!」
厳しく言い捨てるガラティーンを見て、ハーバートは大笑いをする。
「いやあ楽しいね」
「失礼いたしました」
ガラティーンはわざと涼しい顔を作ってハーバートに大げさな礼をする。
「いやあ君は女にしておくには本当に惜しかった」
「そう言っていただけると光栄です」
一年前まではクーパー家の御子息の話題が良く上っていたんだよ、とハーバートは笑う。
「紳士録には息子とは書いてなかったけれどもね、確かに君を見ていたら紳士録の記載が間違えているとしか思えなかった」
「紳士録が間違えていた!ははは、そうだったら良かったのに」
ガラティーンはいつも、ハーバートからの高評価で素直に喜んでしまう。身内ではない――身内になるが――人物に高く評価してもらっていたというのは、多少は大げさに言われているだろうにしても、素直に受け取りたくなるものだった。
「しかし、君とコーネリアとで、婚約の時期が重なってしまうのは」
「私は気にしないで、コーネリアを優先してください。父の方が結婚は先にするのが順番だと思っています」
「それでいいのかね」
「私はそれでいいですが」
ガラティーンからしてみたら、彼女の父と親友の結婚だ、さっさとまとめてしまいたい。
「君の婚約者はそれでいいのかね」
「……問題ないと思いますけど」
「アルジャーノン・ラッセルは大変だな……一応彼にも確認してみてくれるか。君たちの方が先に婚約の話が出ていたのだから、そちらが先に進めるべきではないかね」
ハーバートはアルジャーノンはすでに尻に敷かれているのだな、と苦笑する。
「いやあ……」
父上の方が年上なのだからそちらを先に、とガラティーンはぶつぶつつぶやくも、アルジャーノンに確認をしますということで話を収めた。
「さて、私はこれで失礼するよ。娘に朗報を届けなければいけない」
「ありがとうございます。……本当にありがとうございます」
ガラティーンはコーネリアの分もダニエルの分も、という勢いでハーバートに礼をする。
「君にそれだけ喜ばれるのは……ああ、そうか。知っていたわけだね」
「もちろんです」
ハーバートは、 デビュタント・ガラの時のことを話題に乗せる。
「私もあの時に、コーネリアがダニエルのことを好ましく思っているようだとは思ったけれどもね、まさかねえ」
ハーバートは、わざとしかめ面を作る。
「今後とも、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
ガラティーンは、およそ一年前にも父の部屋でハーバートと会ったことを思い出す。彼の家の手伝いを受けてデビュタント・ボールの準備などを進めていったのだ。そしてガラティーンはアルジャーノンと結婚することになりそうだし、ダニエルもコーネリアと結婚をすることになる。
「それでは、また」
「はい。きちんとご挨拶に伺わせていただきます」
「よろしく頼むよ」
もちろんです、と微笑むガラティーンは家督を継ぐ者のような顔をしている。女性が伯爵位を継げないこの国の制度が違ったものであったなら、と思いながらハーバートはクーパー邸を退出する。
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