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28 横やり ☆

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ヒロインがヒーロー以外と性的接触をするので、苦手な方はご注意ください。

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 その後、幸いにもアルジャーノンがドレスを着せられることもなく、ダニエルとコーネリアは正式の婚約を結び、結婚式の予定もたった。ガラティーンの指導もあってコーネリアとダニエルの距離は近づいてもいた。ダニエルもコーネリアに対しての挙動不審さは無くなってきたのでガラティーンは心底安心をしていた。
 しかしそこで安心をしていられなくなっていたのがアルジャーノンだった。「ラトフォード伯のガラティーン嬢はホルボーン子爵と婚約を結ぶらしい」という話だけは流れはしたが、二人は実際のところ正式に婚約を結んではいなかったので、ガラティーンにちょっかいを出す男が現れ始めたのだ。
 ただガラティーンも、彼女の保護者のダニエルも彼らのことを相手にせず、アルジャーノンのことだけを婚約者――婚約者候補――として扱っているので、良識のある人間は本気でちょっかいを出しては来ないが、世の中そんなにお人よしばかりではないということだ。現ラトフォード伯のダニエルはたとえ自分に子供ができても、爵位を継がせるのはガラティーンに子供ができたらそちらを優先すると広言している。そうなるとガラティーンに男子を産ませれば……と考える男が出て来ても全く不思議ではないのだ。
 そして運の悪いことにアルジャーノンも子爵だということで伯爵の位を狙っているのかと痛くもない腹を探られることが増えていた。
「ラトフォード伯は、叔父上とコーネリアの子供に継いでもらうつもりですよ」
 ガラティーンは、ドレスを着て社交の場に現れるときは必ずアルジャーノンを連れ、相続の話が出ると必ずこのように話す。それでも実際現ラトフォード伯のダニエルがまだ結婚をしていないということでガラティーンに声をかける男がちらほらいることは事実だった。
 そうでなくても社交シーズンも2年目になったガラティーンはドレス姿で「女」を演じることに慣れてきたようで、アルジャーノンは彼女を見ていると少しだけ心が落ち着かない夜会が増えてきた。

 ある夜のこと。まさか夜会に出ていてもずっと本当の顔見知りとだけ話をしているわけにもいかない。ガラティーンはダニエルとコーネリアと一緒にいたが、それぞれ他の友人達と会話をしたり、旧知を深めたりダンスをしたりとお互いがほどほどに離れている時のことだった。以前、ダニエルと同じ陸軍の違う部隊に勤務しているということで挨拶をしたことがある青年がガラティーンに声をかけてきた。
「ああ…ストーナー殿でしたね?」
「はい、ヘンリー・ストーナーです。ヘンリーと呼んでください」
「ありがとうございます。ストーナー殿」
 ガラティーンは、顔もろくに覚えていない青年のことをいきなりファーストネームで呼んだことがアルジャーノンに知られたら機嫌を悪くされるな、と彼の苗字を繰り返す。
「ところでガラティーン嬢、少し内密のお話が。叔父上のラトフォード伯のことで」
「まあ」
 彼が本当にダニエルのことで話があるのかどうかはわからないが、何か話があるということなら少しくらいは聞いてやらないことはない。そう思ってガラティーンは話に乗ることにした。
「どのようなことでしょう」
「ここでは人が多すぎるので、ちょっと」
「外ですか?」
「いかがでしょう」
「……あまりよろしくはないですよね?」
 ガラティーンは回りを見回す。この日の夜会は、顔見知りや友人の顔が目立つ会だった。陸軍関係の人間が多い夜会だったようだ。席を外しても仲の良かった青年たちが気にしてくれるだろう、というつもりであたりを見ていたが、見事に仲の良かったハリーとジョニーが気付いてくれた。
「……まあいいでしょう。で、どちらへ?」
 ガラティーンはほどほどに愛想よく返事をし、ヘンリーのエスコートで会場から外に出た。それをハリーとジョニーは目で追いかける。
「……あれ、隊長に報告したほうがいいやつ?」
「かもしれない。第三部隊のストーナーだろ、あれ。金髪好きっていう評判の」
 二人は遠くで誰かと話をしているダニエルの方を見る。ダニエルは上役たちと話をしているので、声をかけに行くのを少しためらう雰囲気だ。
「俺、一応追いかけてみる。後で隊長に報告しに戻ってくるわ」
「ハリー、頼んだ」
 おう、と軽く手を挙げてハリーは二人が消えた扉へ向かう。
 二人とも「まあガラなら大丈夫だと思うけど」と思いつつも、それでもやはり女性だということで彼女のことを気にしているのだ。かけっこならともかく、押し倒すのなんのとなったら腕力で勝つことは難しいだろうという判断だ。
 ハリー達はガラが彼らの部隊へ顔を出していたときも、足は遅くないが腕力は強くない印象だった。当時は「まあまだ子供だから」と思っていたが、今になって思い返せば「それはそうだろう」となる。
 そして年下の、しかも成人前の女性に娼婦を買ってきた話やらなにやらもあけすけに話していたのだ。舞踏会の場で、外で話をしたいという男には気をつけないといけないことくらいは知っているだろう。だから周囲に知り合いの顔があるかを探していたのだから。
 こういう夜に限ってアルジャーノンが参加していない。まあ、だからこそストーナーが声をかけてきたのだろうが、とハリーはため息をついた。
 これで万が一にも何かがあったら隊長に殺されるだけじゃなくてアルにも殺される、とハリーはガラティーンの保護に向かった。

 ガラティーンを別室に誘い出したヘンリー・ストーナーの目的は、実際にダニエルの話――と言っても、やはり相続の話だった。彼は本当にガラティーンの息子を次の伯爵にするのか、という内容だった。ガラティーンからすると逆に、その話を内密に、と言われても今さら困るような内容だ。実際周囲に人が多いパーティの会場でも今までさんざんその話をしてきたところだった。
 ひょっとしてこれはまさか私本人に興味があるということか、とガラティーンがようやく思い至った頃に、ヘンリーの瞳が自分の胸を見ていることにガラティーンが気づく。
 ガラティーンはふう、とため息をついてわざと胸に手を当てる。
「お話がこれだけでしたら、私はそろそろ戻りますね」
「そうおっしゃらず」
 ヘンリーはドアに向かったガラティーンの腕を掴み引き留める。
「困りますよ、ストーナー殿」
「ですから、ヘンリーと呼んでください」
「呼びません」
 さすがに軍隊所属の男性だけあって、腕の力が強い。しかしガラティーンは、ハリー達が昔話をしていた「舞踏会で女性を別室に連れ込む話」をしっかり思いだしていたので、いっそヘンリーがズボンの前を開けるまで待とうかと気を取り直す。
「麗しのガラティーン嬢、私の思いを受け取ってください」
「困ります」
 ガラティーンはまだなるべく淑女らしく、と殴ったり締めたりをせず、体をよじって逃げる。そこにストーナーが押し付けてくる股間がふと触れた。
「あなたも私と同じ気持ちですか?」
 ストーナーは自信家だなあ、とガラティーンはげんなりする。見た目は良いかもしれないが、ストーナーのつけている香水の香りで頭が痛くなって来た。
 とりあえずここで事に及ぶようなことになることだけは自分の名誉と、なによりもアルジャーノンのために避けねばならないと思い、ドアまでの道を確保した状態を確保してからストーナーのトラウザーズの前をつかむ。そして、このまま握りつぶしてやろうと思ったところでふと気が付く。
「ストーナー殿、中のものを見せていただけませんか」
「ガラティーン嬢は積極的なのだな」
「興味があって」
 意味深に聞こえるように囁き、ストーナーのトラウザーズの中身を出させる。
 ストーナーのズボンの前からこぼれ出たものをガラティーンは軽くつかむ。ここからサイズが大きくなるだろうとしても、だいぶアルの物より小さいな、と軽く握る。
「……かわいらしいものをお持ちなのだな。ここも身長や手足と一緒で、人それぞれなのだねえ」
「ガラティーン嬢、あなたは何を……」
「ふふ、そんなことを淑女に聞くんだね」
ガラティーンはアルにしたのと同じように、ヘンリーのものを強く握って、勢いよくこする。
「あなたと寝ることはできないけど、抜いてあげるくらいなら構わないよ」
「抜くって……」
 ガラティーンは唇の両端を上げて、声を立てずに笑う。
「じゃあ、なんて言えばいい?」
 ヘンリーは返事をせず、ガラティーンの胸を触ろうと手を伸ばしてきたのでガラティーンは空いている左手で自分の胸を守る。
「お触りは禁止」
 ガラティーンは冷たく言い、ヘンリーのものの先の部分の穴に爪を立てる。
「うっ」
「おや、こういうのが好き?」
 ガラティーンはなんとなく楽しくなって来ていたので軽口をたたく。そして、アルジャーノンのものをいじったときは背中側からだったのでどんな様子だかをあまりよく確認できなかった。それが今回は正面から観察できるので、次回アルのものをいじるときの参考にしよう、と冷静に見ている。
 ガラティーンは、アルの物は片手では握りきれなかったな、と考えながら一生懸命にこする。前回と同じように擦っていると手が頭の部分をこすって飛び出してしまう。しかしその、頭の部分への刺激が良いらしく、ヘンリーは彼のものを一層熱く、固くする。やはりアルの時にどんなものかをある程度学んでいたので、ヘンリーのものが一層固さを増して脈を打った時に「これは」と思い、左手で彼のものの頭の部分もふさぐ。
そしてストーナーが出した、ぬるぬるとした精液を手で受け止め、彼のシャツでとぬぐう。アルだと何とも思わなかったのに、と自分がやったことなのに出てきたものとその青臭い匂いがやたらと気持ち悪くて、どことなく不機嫌になる。
「……私は帰るよ。くれぐれも私の名誉は汚さないでほしいものだね。もしも私に不都合な情報が出れば、君のものがとぉっても可愛らしかったことを言いふらしてあげる」
 ストーナーはズボンの前を開けたまま、ガラティーンを抱き込もうとして伸ばしかけた手をぴたりと止める。
「男はいいよね、自分が純潔であろうが関係ないからね。……ああ、女はめんどくさいね。では失礼」
 ガラティーンの声音が変わっていることと、話している内容に動揺しているうちにとガラティーンは足早にドアに向かう。
「ガラティーン嬢」
 彼女を呼ぶヘンリーの声にも振り向かずガラティーンは部屋から出て行った。

 部屋から出たガラは、すぐ外で待っていたハリーを見つけて驚いた。
「おや、ハリー」
 ハリーは、出てきたガラティーンの着衣に乱れもないことを確認して少し緊張が解ける。
「無事だったか」
「ふふふ」
 しれっとした顔でガラティーンは返事をして、ホールの方へ足を向ける。
「もちろん無事だったよ。……ヘンリー・ストーナーは第三部隊の副長だっけ?」
「良く知ってるな」
「話したことはあったからね」
 ガラティーンはにこにこと明るく笑いながら右手を挙げる。
「第三部隊の副長も大したことはないねえ。アルの方がよっぽど……」
「……ガラ、お前、その手」
 ハリーはガラティーンの右手の形を指摘せずにはいられなかった。
 彼女は、何かを握っているような手の形をしていた。
「ん?……なんだろうねえ」
 ガラティーンは、にやりと笑って首をかしげる。
「お前、本当に何もなかったのか?」
「私には何もなかったよ」
 あはは、と淑女らしくない声を立てて笑うガラティーンに、ハリーは苦笑する。
「隊長とアルには黙っておいてやるから」
「そうだね、黙っておいてくれると助かるよ」
 笑いながら去っていく二人の背中を、慌てて身づくろいをしたヘンリーが追いかけようとしたが、ガラティーンがダニエルの部隊の一員のハリーと一緒にいるのを見て足を止める。

 翌日以降、幸いにもガラティーンに対しては彼女の美しさを称える話と、第三部隊の副隊長のストーナーが彼女に振られたらしいという話以外は出てこなかった。具体的な話についてはストーナーのプライドのためか話は流れてこなかったが、ヘンリー・ストーナーはガラティーンに婚約の申し入れをしてきた。さすがにこの話はガラティーンに話をする前にもダニエルが即座に断りを入れたが、ダニエルは「なぜストーナーから」と不思議がっていた。
その理由になんとなく予想ができるハリーとジョニーは知らぬふりを通していた。実際あの部屋で二人の間にどの程度のことが起きていたかはわからないからだ。
 ただ、ガラティーンはストーナーの「何か」をアルジャーノンと比べて、アルジャーノンの方がよっぽどいいと言ったということで――ハリー達は「何を比べたにしても黙っていてやるのがストーナーのため、というより恩を着せることになるだろう」、そして「黙っておくのがガラティーンとアルジャーノンのため」と考え、何も知らない素振りを通していた。
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