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episode1 死んだ→神様に会った→生き返った→天使来た。 は?
1 ラブコメのプロローグなんですが……
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昨日降った大雪の影響で、この街は見渡す限り白一色に姿を豹変させている。
こういうのは静かに楽しみたいものなのだが、残念ながら今日はそんなことも言っていられない。
雪が降りつもっただけで騒ぎ立て、ついでにいちゃついているカップルども。……家でしてくれ。そのカップルを見て「リア充爆散しろ」とかわめいている中高生。……みすぼらしいぞ。家族のためにケーキを買っていく会社帰りのおっさんたち。……おっさんたちに幸あれ。若い同伴女性に高級ブランドのバッグを買い与えているおじさま。……今見たのは俺の幻想として脳内処分しておこう。
とまぁ、いろんな人間模様が垣間見える今日は――クリスマスイブである。
ただ、俺と一緒に歩いてくれる彼女はいない。しかし、一緒に歩いてくれる幼馴染がいる。しかも女。大事なことなのでもう一度言おう。しかも女。
通常俺みたいな地味属性フルスロットルな残念系男子高校生君はお家にこもって過ごすのがお似合いなんだけど……。俺はそれとは一味、いやいや三十二味くらいは違う。
さらに、その幼馴染に言われてこんな『リア充ひゃっほいハッピーデイ』の街の中を歩いている訳で。
心の中で『クリぼっち回避』の大勝利宣言をし終えると、その横にいる幼馴染をちらと見てみた。
南雲楓である。同じ県立幕張高校一年六組で俺の幼馴染。家もお隣さんという奇跡の環境。軽いウェーブがかかった、明るめの茶髪ショートだ。比較的小柄なほうで、体形にしてもまだまだ子供っぽく大人女性のプロポーションにはまだまだ遠い。
例えるなら幕張と海浜幕張くらい遠い。
結構ちけぇじゃねぇかって? それはバスを使っとるからだろうが。歩け、ゆとりジェネレーションども。すごく分かるから。……ってそんな話はどうでもいい。話を軌道修正しよう。
……そんな彼女は少女のようなあどけなさを持っているので、その体系に関しては全くマイナスポイントなどではない。むしろ的を得ているだろう。
そして運動神経抜群で成績優秀。しかもそれを人に自慢することなく、誰にでも気兼ねなく接する。一部では『聖女』とよばれ、さらにファンクラブも作られたそうだ。どこかの誰かさんがつくったらしい。
一言で言うと、完璧人間。
うーむ、欠点があるとすれば『俺と幼馴染』ってとこくらいかなぁ。あ、泣いていいですか?
「どうしたの、聡ちゃん? そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」
横にいた楓をじっと眺めていたことに気づかれたようで、顔は前に向けたまま俺のことをちらと見ている。
今、聡ちゃんと呼ばれたのがこの俺、柊城聡馬。楓と同じく高一。顔面偏差値、頭脳、運動能力、身長などほぼすべてが平均。取り柄などない。趣味はラノベ&アニメの鑑賞とかゲームとか……。
ここで「以上です」と言えてしまうのがかなり悔しい。
何かいい点をあげるとするならば、『楓と幼馴染』ってとこだけだな。あ、泣いていいですか?
「いいや、ちょっと考え事してただけ」
「へんな聡ちゃん」
楓は顔をこちらに向けて、俺と視線を合わせるために思いっきり頭を上げるとそう言った。
ひとり身には心身ともに寒いであろうこんな聖夜に、幼馴染という関係性以外何もない、まったく釣り合わない二人で出かけているのには訳がある。決してデートなどではない、お使いだ。
毎年クリスマスイブは隣の家どおしでパーティーを開催しているため、お使いを二人で頼まれたのだった。
しかし今年も向こうの家族や楓が誘ってくれたのには感謝しなければなるまい。クリスマスイブを独りで悲しく過ごすところだったのだから。
家族は仕事か何かで忙しいのですか。と、そんな質問が来るかもしれない。そんな理由だったらどれだけ幸せか。
両親はともに海外旅行中に起きた二年前の航空機墜落事故で死亡。今は親が残した莫大な財産で無駄に広い家で一人暮らし、ってところである。
当時は家に引きこもるくらい衝撃的なことだったし中二の俺は完全に行き場を失っていた。一瞬にしてこれから来たであろう未来をブラックホールに吸い込まれたのだ。
メンタルが限界に陥っている中、必死にもがいてひたすらその闇の中を手探りした。でも見つからず、あきらめた。病んで、病んで、病んだ。
『生きる意味』を深く考えた先、鋭利な何かを持った日があるくらいに。
しかしそんな人生の断崖絶壁に立たされた中、現れたのが彼女ら――南雲楓や彼女の父母なのだ。一筋の希望の光だった。
楓は俺を毎日のように励ました。元気をくれた。勇気づけた。いつの間にか通常の生活に戻れるくらいに。さらに自炊スキルを身に着けるまでの間は楓の母にご飯を作ってもらっていたし、休日になれば楓の父が我が子のように車でどこかへ連れて行ってくれた。
命の恩人とはまさにこのことだ。お陰で今の高校にも通えている。多分、この恩は死んでも償いきれないものだろう。
そしてこの一家はもう一つ俺に大事なものをくれたのだ。
それは、――――俺が生きる意味。
決意したのだ、これからは楓や彼女の家族のために生きるのだと。自分の幸せより楓や彼女の家族の幸せを考える、これが俺の理想の生き方とやらである。
だから俺は、幸せにならなくていい。
……などと俺に似つかわしくないことを考えてみたりする。いやぁほんとらしくねぇ。
とりあえず『幼馴染の南雲楓は、すごい! やばい! 神!』ってことが言いたい。たまにネジが外れるときがあるけど、それを除いたら完全完璧幼馴染。
ちなみにこんなにべた褒めしているが、恋愛感情はない。むしろ崇拝感情ならある。
よくラノベとか漫画とかでヒロイン枠に主人公の幼馴染が出て恋しちゃってるけど、現実ではそんなのない。もちろん朝目覚めたら制服姿で馬乗りになっているとか、とんでもない。ある意味事件です、それ。
幼馴染の部屋に窓からは入れません、というか部屋なんて見えません。だから着替えイベントなんて永久的に起きません。残念でしたー。
確かに向こうの世界では恋愛攻略対象かもしれないが、現実世界では攻略不可なのだ。いや、そもそもしないけどね。ていうかできないけどね、まず。
「ねぇ、聡ちゃん、あのお店行かない?」
俺が全世界の幼馴染信仰患者を一掃し終わり謎の満足感でお腹一杯になると、楓が交差点の向こう側の洋服店を指さしながらそう言った。
はて、洋服類などは頼まれていないのだけれど。
「そこに用事はないぞ?」
楓が先に交差点を渡り始めたため、少しばかり距離があいた。そんな彼女に聞こえるように俺は、ちょっぴり声のボリュームをあげる。
「聡ちゃんのクリスマスプレゼント買いに行くの!」
楓は交差点の真ん中まで行って俺の方へ振り返ると、かわいげのある大きな声を出して手招きをする。かなりご機嫌な様子で。
俺は楓のちょっとしたサプライズに驚いた。てっきり「今年のプレゼントはないでーす!」とか言うのかとばかり。いや、俺はそれでも十分ですけどね。
……なんてことを言いながら実は少し期待していたところも心のどこかにある。俺も一応用意しているし。
付き合ったばかりの初々しいカップルみたいで、ちょっと恥ずかしいな。……ごめんなさい、今のは俺の幻想が入りました。
俺は確認程度にポケットに手をつっこむと、プレゼントのざらついた小さい箱を一撫でする。家を出る前に何度も確認したから忘れるはずはないのだが。
「はいはい、行きますから」
信号が点滅しているのを確認し、この銀世界に溢れていたはずの雑踏から取り残された楓のところに駆け足で行く。
奇跡的にその交差点には自分たちしかいなかったため、楓を映す背景がまるで映画のワンシーンのように、いや有名モデルの雑誌の一ページのように幻想的だった。思わず目を見開いてしまうくらいに。
そんな情景に見とれていた、その時である。
「……ろー!! よけろー!!」
「きゃーーー!」
「そこの女の子、早くそこから離れろっ!!」
右を向けば眩しいくらいの光。物凄い轟音をあげながら大型のトレーラーが彼女に迫っている。
硬直する彼女。
赤に変わる信号機。
目を隠す人々。
急に俺の視界にそんな膨大な量の情報が入る。
鳴り響くクリスマスソングは恐怖の叫び声でかき消されていた。
このままでは確実に楓は……。それを考えるのはとても嫌なことだが、どうしても頭の中から消えない。
居ても立っても居られなかった。
なんとか楓のもとについたときには既に距離五メートル弱。こんな緊縛した状況下でさえ俺の感覚というのは働きっぱなしであることに少々驚いたが、今はそんなことを言っていられる場面じゃない。
そして俺の研ぎ澄まされた感覚は一つの回答を提示する。
簡潔に言えば、両方が助かるのは無理だと察したのだ。しかし今なら俺はなんとか逃げられる。
だから――ではない。でも――である。
俺は猛牛のごとく突進し、彼女を突き飛ばした。目いっぱい、トレーラーが触れないところまで。
突き飛ばして自分の死を意識した瞬間、『タキサイキア現象』というやつだろうか、まわりのものが連写されるようにスローモーションになる。
全てがスローになったこの銀世界で俺は一人、とあることを考えていた。
そう、これが一番ベストなんだ、と。
楓は俺の命の恩人だ。やっと借りを返すことができる。まぁ半分くらいだけど。しかも楓か俺かどっちかしか生き残れないとわかったら、楓を選ぶのは至極当然のことだろう。だって楓が死んだら悲しむ人がたくさんいる。
やっぱり価値のある人間が残るべきだ。対して俺なんかが死んでも世の中には何の影響ももたらさないだろう。
ちなみにこれは俺のしょうもない屁理屈などではない。ただ、真実を述べているのだ。これこそ世のため人のためってやつ。
でもいざ死ぬとなるとなんだか悲しいというか、虚しいというか、儚いというか。あー、どーしよ、成仏とかできなかったら。幽霊とかになっちゃうのかな、やっぱり。うーん、そうだな楓が泣いてくれれば俺はそれで満足して成仏できるかなぁ。
楓が俺のことを見ている。手を伸ばしている。でもそれに応じる気はない。応じたらかっこわるいしな。羞恥心にさいなまれて今度はずっと不登校かもね。
……でも。涙が体内貯水槽から混みあがってきた。
だがそれを外界に放出する一歩手前、俺はトレーラーの正面に頭と胴体が当たっているのを理解する。
当たって砕けろ、の実写版。だが上映時間はゼロに極限に近いほど一瞬だった。
気づいたときには交差点の横断歩道とはまるで違うところにいた。そりゃ吹っ飛ばされたんだから当然だけど。
「つめたぁ……」
ほぼ虫の息だったが、そんなどうでもいいことを口に出した。多分顔に、地面に積もった雪でも張り付いているのだろう。ただただ冷たい。今はそれくらいしか考えられなかった。
とりあえずまだ意識はあるっぽい。でも『THE死の淵』って感じ。
目の前がだんだんとかすれていき、瞼が強制的に閉じられていく。握りしめていた拳も徐々に開かれる。そんな極限状態にも関わらず、物凄く冷静でいられることに俺は少しばかり驚いた。
「こりゃあ、ひどい、全身つながっていただけでも奇跡かもなぁ」
「まだ生きてるぞ! 救急車! 早く救急車を!」
「もう呼んでもおそいだろうなぁ」
どんどんと人が近づいてくるのが雪を踏む音でわかる。なんとかぎりぎり機能している耳を使って情報収集をした。
ありがたいことに、どうやら四肢は欠損していないらしい。四肢を欠損してたら運転手呪ってたかも。
横向きで倒れたため、自分の血がどんどん外に流れ出ていくのが見える。真っ白な雪景色は一面の赤で染められ始めていた。あぁ、たしかにグロい。FPSゲームなどで見るものとはまるで別格である。赤、というより黒と赤のブレンド。
「……聡ちゃん! 死んじゃやだ!!」
どうやら楓も来てくれたらしい。かすかに声がする。そしてほぼ最後の力を振り絞って、声の主のいるところに視線を移動させていく。
最後に見る景色が楓でよかったなぁ、と。れっきとした俺の嘘偽りのない本音である。
肌で感じることはできないけど楓の熱いものが顔に落ちてくるのがわかる。俺ごときで涙流してくれるなんて。さすが聖女様と呼ばれるだけのことはある。
ああそうだ、これ渡しとかなきゃ。
決死の思いで力の入らない手をポケットに進ませる。そして小さい箱を出し、楓のところまでなんとか手を伸ばした。
細目でそれを見る。箱はなんとか形をとどめているが外は俺の血で最悪な色合いになってしまっていた。それでもこれだけは手渡ししたくて、手を広げた楓に箱をポンと乗せる。
「…リス…スプ……ント。そしてあ……」
最後の言葉は口パクになってしまった。「ありがとう」と言ったつもりなのだが楓には届いただろうか。
もうこれくらいのかすれた声しか出せなかったのは非常に残念ではあったが、楓はそれを察してくれた。一瞬真顔になったが、すぐに顔を真っ赤にさせる。その顔には悲しみの感情の他に、それとは別の違う感情があったような気がした。
俺は楓の手に置いたプレゼントを離すと、そのまま崩れ落ちる。力尽きたのだ。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
その声を耳で受け取ったのを最後に、俺は目を閉じる。
とあるクリスマスイブの夜、俺こと柊城聡馬は死んだのだ。
こういうのは静かに楽しみたいものなのだが、残念ながら今日はそんなことも言っていられない。
雪が降りつもっただけで騒ぎ立て、ついでにいちゃついているカップルども。……家でしてくれ。そのカップルを見て「リア充爆散しろ」とかわめいている中高生。……みすぼらしいぞ。家族のためにケーキを買っていく会社帰りのおっさんたち。……おっさんたちに幸あれ。若い同伴女性に高級ブランドのバッグを買い与えているおじさま。……今見たのは俺の幻想として脳内処分しておこう。
とまぁ、いろんな人間模様が垣間見える今日は――クリスマスイブである。
ただ、俺と一緒に歩いてくれる彼女はいない。しかし、一緒に歩いてくれる幼馴染がいる。しかも女。大事なことなのでもう一度言おう。しかも女。
通常俺みたいな地味属性フルスロットルな残念系男子高校生君はお家にこもって過ごすのがお似合いなんだけど……。俺はそれとは一味、いやいや三十二味くらいは違う。
さらに、その幼馴染に言われてこんな『リア充ひゃっほいハッピーデイ』の街の中を歩いている訳で。
心の中で『クリぼっち回避』の大勝利宣言をし終えると、その横にいる幼馴染をちらと見てみた。
南雲楓である。同じ県立幕張高校一年六組で俺の幼馴染。家もお隣さんという奇跡の環境。軽いウェーブがかかった、明るめの茶髪ショートだ。比較的小柄なほうで、体形にしてもまだまだ子供っぽく大人女性のプロポーションにはまだまだ遠い。
例えるなら幕張と海浜幕張くらい遠い。
結構ちけぇじゃねぇかって? それはバスを使っとるからだろうが。歩け、ゆとりジェネレーションども。すごく分かるから。……ってそんな話はどうでもいい。話を軌道修正しよう。
……そんな彼女は少女のようなあどけなさを持っているので、その体系に関しては全くマイナスポイントなどではない。むしろ的を得ているだろう。
そして運動神経抜群で成績優秀。しかもそれを人に自慢することなく、誰にでも気兼ねなく接する。一部では『聖女』とよばれ、さらにファンクラブも作られたそうだ。どこかの誰かさんがつくったらしい。
一言で言うと、完璧人間。
うーむ、欠点があるとすれば『俺と幼馴染』ってとこくらいかなぁ。あ、泣いていいですか?
「どうしたの、聡ちゃん? そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」
横にいた楓をじっと眺めていたことに気づかれたようで、顔は前に向けたまま俺のことをちらと見ている。
今、聡ちゃんと呼ばれたのがこの俺、柊城聡馬。楓と同じく高一。顔面偏差値、頭脳、運動能力、身長などほぼすべてが平均。取り柄などない。趣味はラノベ&アニメの鑑賞とかゲームとか……。
ここで「以上です」と言えてしまうのがかなり悔しい。
何かいい点をあげるとするならば、『楓と幼馴染』ってとこだけだな。あ、泣いていいですか?
「いいや、ちょっと考え事してただけ」
「へんな聡ちゃん」
楓は顔をこちらに向けて、俺と視線を合わせるために思いっきり頭を上げるとそう言った。
ひとり身には心身ともに寒いであろうこんな聖夜に、幼馴染という関係性以外何もない、まったく釣り合わない二人で出かけているのには訳がある。決してデートなどではない、お使いだ。
毎年クリスマスイブは隣の家どおしでパーティーを開催しているため、お使いを二人で頼まれたのだった。
しかし今年も向こうの家族や楓が誘ってくれたのには感謝しなければなるまい。クリスマスイブを独りで悲しく過ごすところだったのだから。
家族は仕事か何かで忙しいのですか。と、そんな質問が来るかもしれない。そんな理由だったらどれだけ幸せか。
両親はともに海外旅行中に起きた二年前の航空機墜落事故で死亡。今は親が残した莫大な財産で無駄に広い家で一人暮らし、ってところである。
当時は家に引きこもるくらい衝撃的なことだったし中二の俺は完全に行き場を失っていた。一瞬にしてこれから来たであろう未来をブラックホールに吸い込まれたのだ。
メンタルが限界に陥っている中、必死にもがいてひたすらその闇の中を手探りした。でも見つからず、あきらめた。病んで、病んで、病んだ。
『生きる意味』を深く考えた先、鋭利な何かを持った日があるくらいに。
しかしそんな人生の断崖絶壁に立たされた中、現れたのが彼女ら――南雲楓や彼女の父母なのだ。一筋の希望の光だった。
楓は俺を毎日のように励ました。元気をくれた。勇気づけた。いつの間にか通常の生活に戻れるくらいに。さらに自炊スキルを身に着けるまでの間は楓の母にご飯を作ってもらっていたし、休日になれば楓の父が我が子のように車でどこかへ連れて行ってくれた。
命の恩人とはまさにこのことだ。お陰で今の高校にも通えている。多分、この恩は死んでも償いきれないものだろう。
そしてこの一家はもう一つ俺に大事なものをくれたのだ。
それは、――――俺が生きる意味。
決意したのだ、これからは楓や彼女の家族のために生きるのだと。自分の幸せより楓や彼女の家族の幸せを考える、これが俺の理想の生き方とやらである。
だから俺は、幸せにならなくていい。
……などと俺に似つかわしくないことを考えてみたりする。いやぁほんとらしくねぇ。
とりあえず『幼馴染の南雲楓は、すごい! やばい! 神!』ってことが言いたい。たまにネジが外れるときがあるけど、それを除いたら完全完璧幼馴染。
ちなみにこんなにべた褒めしているが、恋愛感情はない。むしろ崇拝感情ならある。
よくラノベとか漫画とかでヒロイン枠に主人公の幼馴染が出て恋しちゃってるけど、現実ではそんなのない。もちろん朝目覚めたら制服姿で馬乗りになっているとか、とんでもない。ある意味事件です、それ。
幼馴染の部屋に窓からは入れません、というか部屋なんて見えません。だから着替えイベントなんて永久的に起きません。残念でしたー。
確かに向こうの世界では恋愛攻略対象かもしれないが、現実世界では攻略不可なのだ。いや、そもそもしないけどね。ていうかできないけどね、まず。
「ねぇ、聡ちゃん、あのお店行かない?」
俺が全世界の幼馴染信仰患者を一掃し終わり謎の満足感でお腹一杯になると、楓が交差点の向こう側の洋服店を指さしながらそう言った。
はて、洋服類などは頼まれていないのだけれど。
「そこに用事はないぞ?」
楓が先に交差点を渡り始めたため、少しばかり距離があいた。そんな彼女に聞こえるように俺は、ちょっぴり声のボリュームをあげる。
「聡ちゃんのクリスマスプレゼント買いに行くの!」
楓は交差点の真ん中まで行って俺の方へ振り返ると、かわいげのある大きな声を出して手招きをする。かなりご機嫌な様子で。
俺は楓のちょっとしたサプライズに驚いた。てっきり「今年のプレゼントはないでーす!」とか言うのかとばかり。いや、俺はそれでも十分ですけどね。
……なんてことを言いながら実は少し期待していたところも心のどこかにある。俺も一応用意しているし。
付き合ったばかりの初々しいカップルみたいで、ちょっと恥ずかしいな。……ごめんなさい、今のは俺の幻想が入りました。
俺は確認程度にポケットに手をつっこむと、プレゼントのざらついた小さい箱を一撫でする。家を出る前に何度も確認したから忘れるはずはないのだが。
「はいはい、行きますから」
信号が点滅しているのを確認し、この銀世界に溢れていたはずの雑踏から取り残された楓のところに駆け足で行く。
奇跡的にその交差点には自分たちしかいなかったため、楓を映す背景がまるで映画のワンシーンのように、いや有名モデルの雑誌の一ページのように幻想的だった。思わず目を見開いてしまうくらいに。
そんな情景に見とれていた、その時である。
「……ろー!! よけろー!!」
「きゃーーー!」
「そこの女の子、早くそこから離れろっ!!」
右を向けば眩しいくらいの光。物凄い轟音をあげながら大型のトレーラーが彼女に迫っている。
硬直する彼女。
赤に変わる信号機。
目を隠す人々。
急に俺の視界にそんな膨大な量の情報が入る。
鳴り響くクリスマスソングは恐怖の叫び声でかき消されていた。
このままでは確実に楓は……。それを考えるのはとても嫌なことだが、どうしても頭の中から消えない。
居ても立っても居られなかった。
なんとか楓のもとについたときには既に距離五メートル弱。こんな緊縛した状況下でさえ俺の感覚というのは働きっぱなしであることに少々驚いたが、今はそんなことを言っていられる場面じゃない。
そして俺の研ぎ澄まされた感覚は一つの回答を提示する。
簡潔に言えば、両方が助かるのは無理だと察したのだ。しかし今なら俺はなんとか逃げられる。
だから――ではない。でも――である。
俺は猛牛のごとく突進し、彼女を突き飛ばした。目いっぱい、トレーラーが触れないところまで。
突き飛ばして自分の死を意識した瞬間、『タキサイキア現象』というやつだろうか、まわりのものが連写されるようにスローモーションになる。
全てがスローになったこの銀世界で俺は一人、とあることを考えていた。
そう、これが一番ベストなんだ、と。
楓は俺の命の恩人だ。やっと借りを返すことができる。まぁ半分くらいだけど。しかも楓か俺かどっちかしか生き残れないとわかったら、楓を選ぶのは至極当然のことだろう。だって楓が死んだら悲しむ人がたくさんいる。
やっぱり価値のある人間が残るべきだ。対して俺なんかが死んでも世の中には何の影響ももたらさないだろう。
ちなみにこれは俺のしょうもない屁理屈などではない。ただ、真実を述べているのだ。これこそ世のため人のためってやつ。
でもいざ死ぬとなるとなんだか悲しいというか、虚しいというか、儚いというか。あー、どーしよ、成仏とかできなかったら。幽霊とかになっちゃうのかな、やっぱり。うーん、そうだな楓が泣いてくれれば俺はそれで満足して成仏できるかなぁ。
楓が俺のことを見ている。手を伸ばしている。でもそれに応じる気はない。応じたらかっこわるいしな。羞恥心にさいなまれて今度はずっと不登校かもね。
……でも。涙が体内貯水槽から混みあがってきた。
だがそれを外界に放出する一歩手前、俺はトレーラーの正面に頭と胴体が当たっているのを理解する。
当たって砕けろ、の実写版。だが上映時間はゼロに極限に近いほど一瞬だった。
気づいたときには交差点の横断歩道とはまるで違うところにいた。そりゃ吹っ飛ばされたんだから当然だけど。
「つめたぁ……」
ほぼ虫の息だったが、そんなどうでもいいことを口に出した。多分顔に、地面に積もった雪でも張り付いているのだろう。ただただ冷たい。今はそれくらいしか考えられなかった。
とりあえずまだ意識はあるっぽい。でも『THE死の淵』って感じ。
目の前がだんだんとかすれていき、瞼が強制的に閉じられていく。握りしめていた拳も徐々に開かれる。そんな極限状態にも関わらず、物凄く冷静でいられることに俺は少しばかり驚いた。
「こりゃあ、ひどい、全身つながっていただけでも奇跡かもなぁ」
「まだ生きてるぞ! 救急車! 早く救急車を!」
「もう呼んでもおそいだろうなぁ」
どんどんと人が近づいてくるのが雪を踏む音でわかる。なんとかぎりぎり機能している耳を使って情報収集をした。
ありがたいことに、どうやら四肢は欠損していないらしい。四肢を欠損してたら運転手呪ってたかも。
横向きで倒れたため、自分の血がどんどん外に流れ出ていくのが見える。真っ白な雪景色は一面の赤で染められ始めていた。あぁ、たしかにグロい。FPSゲームなどで見るものとはまるで別格である。赤、というより黒と赤のブレンド。
「……聡ちゃん! 死んじゃやだ!!」
どうやら楓も来てくれたらしい。かすかに声がする。そしてほぼ最後の力を振り絞って、声の主のいるところに視線を移動させていく。
最後に見る景色が楓でよかったなぁ、と。れっきとした俺の嘘偽りのない本音である。
肌で感じることはできないけど楓の熱いものが顔に落ちてくるのがわかる。俺ごときで涙流してくれるなんて。さすが聖女様と呼ばれるだけのことはある。
ああそうだ、これ渡しとかなきゃ。
決死の思いで力の入らない手をポケットに進ませる。そして小さい箱を出し、楓のところまでなんとか手を伸ばした。
細目でそれを見る。箱はなんとか形をとどめているが外は俺の血で最悪な色合いになってしまっていた。それでもこれだけは手渡ししたくて、手を広げた楓に箱をポンと乗せる。
「…リス…スプ……ント。そしてあ……」
最後の言葉は口パクになってしまった。「ありがとう」と言ったつもりなのだが楓には届いただろうか。
もうこれくらいのかすれた声しか出せなかったのは非常に残念ではあったが、楓はそれを察してくれた。一瞬真顔になったが、すぐに顔を真っ赤にさせる。その顔には悲しみの感情の他に、それとは別の違う感情があったような気がした。
俺は楓の手に置いたプレゼントを離すと、そのまま崩れ落ちる。力尽きたのだ。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
その声を耳で受け取ったのを最後に、俺は目を閉じる。
とあるクリスマスイブの夜、俺こと柊城聡馬は死んだのだ。
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幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
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