短編集

かなり柘榴

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無名作家からのお願い

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作家というのは大変だ。
はたから見たら机に向かってキーボードを叩いたり、紙面を埋めたりしているようにしか見えないし実際そうなのだが、これが存外きついのだ。
今回は、私の愚痴がてら作家の苦労というものを読者の皆さんに知ってもらいたいと思う。これを見て、少しだけでもいいから作家へとやさしさを向けてくれる人が生まれたら幸いである。
まず、これはどの職にも共通することなのだが才能、とりわけ発想力に優れた人間は他と比べても重用されるしもてはやされる。もちろん才能がすべての世界ではないが、努力のみの凡才では上位10%には入れても1%にはなりえない。あくまで私見だが。願はくは純度100%の努力が才能をも超えるということを私の手で証明してやりたいが。
第二の苦難は、邪知暴虐にして悪逆無比、艱難辛苦の具現たる編集者の存在である。権力を笠に着た走狗どもは、執筆作業という長く苦しいマラソンを走る我々作家に対して原稿を催促するという血も涙もない鬼の所業を素面でしてくる。これまで何人の作家が
「原稿まだですか?」
のメールに泣かされ、おびえさせられてきたのか彼らはわかっていない。そんな彼らに
‘ユートピア‘という作品の言葉を贈ろう。
“羊が人間を食べる!!”
いつか彼らと我々との立場は逆転するだろう。
作家諸君、それまでの辛抱だ。編集者ども、震えて眠れ。
第三の苦難。これに関しては我々作家では対処不能だ。少し回りくどく話すが、作家の条件とは何か?と質問した時に皆さんはどうこたえるだろうか。
私の予想では、およそ9割の方は作品を執筆して収入を得ている人と定義すると思う。間違いではない。だが、私の考えとは少々異なる。私の定義する作家というのは、収入の有無にかかわらずに文章という形でエンタメを提供するものである。売れない新米作家であろうが、歴史に名を残す文豪であろうが、はたまたアマチュアネット小説家だろうがその点において違いはない。作家の中に上下はあっても貴賤はない。
しかし現実は無常である。厳しい衆目の視線に耐えられず心折れてしまう作家はごまんといる。思うように書けずに夢を諦める者がいる。私だってそうだ。書きたいことを完璧に描き切ることなんてできたことはないし、心無い評価に傷ついてばかりいる。
他者からの評価。こればっかりは努力や才能ではどうにもならない。評価は他人が下すものだから。百万人に一人の才能も、血を吐くような努力も見てもらえなければ無いのと同じだ。
自分の創作物をさらけ出す、作家という名の承認欲求の化け物にとっては評価されないということは核爆撃に匹敵するダメージである。
これまでの主張を踏まえて伏してお願いしたい。どうか、作家に対してもう少し優しくなってほしい。少なくとも作品内容に関係のない人格批判だけはやめてほしい。マジで。
                         
                                   無名の作家

この文書は編集者にバレ、執筆者は原稿締め切りを縮められたらしい。嗚呼、無情。
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