短編集

かなり柘榴

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復讐代行、ただし自分

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もう学校へは行きたくない。僕は一人、部屋の隅で縮こまっていた。辛い、苦しい、恥ずかしい。またいじめられて、馬鹿にされる。
「拓郎、そろそろ起きなさい」
来なければいいのにと願っても、当然のように朝は来る。蝸牛のような愚鈍な歩みで食卓につく。少しでも嫌なことを先延ばしにしようとゆっくりと口を動かしても、簡素な朝食では大した時間稼ぎにもならない。
「もう時間がないから、早く行きなさい」
たとえ苦行であっても毎日刷り込まれると一種のルーティーンと化してしまうらしい。心ではどれだけ強固に抵抗していても、すでに僕の体は玄関の外にあった。
うつむきながら学校への道を行く。口を結んで、俯きながらも足だけは勝手に動く。
ああ、この時間が嫌いでたまらない。自分で自分の首をじわじわと真綿で絞めているようで気分が悪い。
ガードレールを跨ぎ、車道を車が走り抜ける。
いつもの様に暴走車がこちらに突っ込んでくる光景を、この地獄が終わってくれるもしもを妄想する。
早く終わってくれ。今すぐ終わってくれ。もういいだろう、散々苦しんだ。
今生を捨てたくなるほどに。残りの生に希望を抱けなくなるほどに。
誰か助けてくれ。もう僕は生きていたくないのだ。理由もないのに虐げられ続けるのは苦しいのだ。いじめがなくなるなんてありもしない幻に縋るのはもう疲れたのだ。だからお願いだ。誰でもいい、たのむから
「たのむから、一思いにやってくれ」
殺ってくれ。
しかしどうやら彼の哲学者が提唱した通り、神は死んでしまっているようだ。ほんのささやかな願いの一つでさえ叶わないのなら神はもうこの世にいないのだろう。
靴箱を開き、泥にまみれた上履きに履き替え教室への十三階段を上る。席に着いたその瞬間、後頭部に走る衝撃と痛みで机に突っ伏した。
今日もまた、心を殺す死刑執行が行われる。
「ごめーん。ボールと間違えて打っちまった」
「…」
「なんか言えよ、まるで俺が悪いみたいだろ。安心しろよ、大丈夫だから。今度はちゃんと狙って殴ってやるよ」
箒が落ちてくる直前、教室の扉が開かれ先生が入ってきた。
「高橋席につけ。全員いるな?」
「先生、鳥山がいません」
「鳥山はいい。さて、非常に言いにくいが残念なお知らせがある。鳥山が昨日、交通事故にあって亡くなった」
一瞬の静寂の後、ざわめきの大きくなる教室で一際騒がしかったのは先ほどまで嬉々として僕を殴りつけていた高橋だった。後ろからその姿を見つめていると、急に振り向きこちらを睨みつける。その視線だけでこの後何が起こるのかを悟る。
案の定トイレまで連れていかれ、意識が朦朧とするまで殴られ続けた。痛いし眠い。でもおかげで授業に行かなくて済みそうだ。そんなことを考えながら、僕はゆっくりと意識を手放した。
目を開き、口を歪めて笑みを浮かべる。先ほどまでとは打って変わった獰猛な顔で。
「始まったぞ、僕。まずは一人目だ。安心しろ。残りも全部、俺が殺してやる」
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