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楓が呼吸を整えようとしていたとき、ふと視界の端に、異質な色が引っかかった。
生活空間にあるはずのない色だった。
床の上、テーブルの脚の影に寄り添うようにして、
細い線が一本、微かに光を帯びている。
楓はゆっくりとしゃがみ込み、その異物を凝視した。
光の角度を変えると、それは確かに“髪”だった。
ほとんど白に近い銀。
毛先だけが、乾いた花弁のようなフューシャピンクに染まっている。
人の自然な色ではない。
染髪にしては不自然なほど均一で、一本の中で滑らかに色が移り変わっている。
指先が触れそうになった瞬間、背後から声が落ちた。
「触るな」
恭吾の声は、いつもよりわずかに低かった。
振り返ると、恭吾がすぐ近くに立っていた。
視線は楓ではなく、その髪へまっすぐ向いている。
「……人間の髪じゃない可能性が高い」
淡々とした口調だが、そこには警戒が滲んでいた。
「色ですか?」
楓は喉が渇くような声で問う。
「いや、切断の状態だ」
恭吾は床に落ちた一本の髪を、手袋越しに持ち上げた。
光に透かしながら、断面を確認する。
「熱で断たれてる。しかも高温だ……普通の器具じゃない」
楓は思わず息を呑んだ。
遺体の断面と、この髪の断ち切られた跡。
どちらも“滑らかすぎて”、どこか現実離れしている。
何かが繋がりかけている。
しかしその輪郭はまだぼやけたままだった。
「鑑識にまわす。お前は下がれ」
恭吾はそう言って立ち上がった。だが楓は動けなかった。
胸のざわつきが、さっきより強くなっている。
まるで、この一本の髪から何かが“こちら側へ触れてくる”ような感覚。
それが錯覚なのか、記憶の残骸なのか、
楓自身にはわからない。
ただ――
見つめたまま、立ち尽くす以外にできなかった。
「……秋本?」
恭吾の呼び声が、深い水面の向こうから響いてきたように感じた。
楓は小さく首を振り、息を吸い込む。
「すみません……大丈夫、です」
恭吾は短くため息をついた。
「無理はするな。この髪は……普通の事件じゃない」
楓はその言葉に、言いようのない寒気を覚えた。
――知っている。
この部屋は、普通ではない。
だが、その理由をいちばん強く感じているのが自分であることを、楓自身はまだ知らなかった。
生活空間にあるはずのない色だった。
床の上、テーブルの脚の影に寄り添うようにして、
細い線が一本、微かに光を帯びている。
楓はゆっくりとしゃがみ込み、その異物を凝視した。
光の角度を変えると、それは確かに“髪”だった。
ほとんど白に近い銀。
毛先だけが、乾いた花弁のようなフューシャピンクに染まっている。
人の自然な色ではない。
染髪にしては不自然なほど均一で、一本の中で滑らかに色が移り変わっている。
指先が触れそうになった瞬間、背後から声が落ちた。
「触るな」
恭吾の声は、いつもよりわずかに低かった。
振り返ると、恭吾がすぐ近くに立っていた。
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「……人間の髪じゃない可能性が高い」
淡々とした口調だが、そこには警戒が滲んでいた。
「色ですか?」
楓は喉が渇くような声で問う。
「いや、切断の状態だ」
恭吾は床に落ちた一本の髪を、手袋越しに持ち上げた。
光に透かしながら、断面を確認する。
「熱で断たれてる。しかも高温だ……普通の器具じゃない」
楓は思わず息を呑んだ。
遺体の断面と、この髪の断ち切られた跡。
どちらも“滑らかすぎて”、どこか現実離れしている。
何かが繋がりかけている。
しかしその輪郭はまだぼやけたままだった。
「鑑識にまわす。お前は下がれ」
恭吾はそう言って立ち上がった。だが楓は動けなかった。
胸のざわつきが、さっきより強くなっている。
まるで、この一本の髪から何かが“こちら側へ触れてくる”ような感覚。
それが錯覚なのか、記憶の残骸なのか、
楓自身にはわからない。
ただ――
見つめたまま、立ち尽くす以外にできなかった。
「……秋本?」
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楓は小さく首を振り、息を吸い込む。
「すみません……大丈夫、です」
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