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鑑識員が荷物を入れたケースを運び込み、室内の空気がさらに慌ただしくなる。
その気配に押し流されるようにして、楓は一歩後ろへ下がった。
自分の呼吸が浅い。胸の奥がざわめく。
まだ立っていられるはずなのに、足の裏が土台を失ったように不安定だった。
恭吾は鑑識員に短く指示を与えると、楓の前へと回り込んだ。
その目は静かだが、どこか“判断を決めた”色が宿っている。
「秋本。外に出るぞ」
楓は反射的に首を振った。
自分だけ離脱するのは、逃げるようで嫌だった。
そう返すつもりで口を開いたが、声はうまく出なかった。
「……まだ、見られます。大丈夫です」
「その顔で、何を言ってるんだ」
淡々とした口調なのに、否定の余地がない。
恭吾は楓の腕に触れようとして、指先を寸前で止めた。
触れずに距離だけを詰めて、その影だけが楓の肌にかすめる。
「立てるか」
その問いに、楓は一瞬迷ってから、かすかに頷いた。
頷くというより、頷こうとしただけのような弱い動きだった。
恭吾は楓の様子を一瞥し、玄関へ向けて歩き出した。
楓は数テンポ遅れて、その背中を追う。
足元はふわりと浮いたままで、現実に体がついてこない。
玄関の外へ出た瞬間、空気の密度が変わった。
ひんやりした外気が肺に入ると、胸のざわつきがわずかに薄らいでいく。
楓はその場に手をついてしゃがみ込み、静かに息を吐いた。
恭吾は壁際に立ち、彼女の呼吸が整うのを黙って待った。
「……すみません。こんなつもりじゃ……」
楓は額を押さえたまま、か細い声を漏らした。
「謝るな。異常な現場だ。むしろ普通の反応だ」
恭吾はそう言うと、楓の横にしゃがみ込んだ。
距離は近いのに、触れようとはしない。
触れなくても十分に伝わる間合いを、彼は正確に知っていた。
「息、苦しいか?」
「……はい。でも……少し楽になりました」
「ここで待て。鑑識の初動がおさまったら呼ぶ」
楓は頷いた。
息が落ち着いていくにつれ、また別の感覚が胸の奥に立ち上がってくる。
自分でも説明できない、あの部屋への拒絶と、
あの一本の髪に触れた瞬間の、冷たいざわつき。
理由はわからない。
ただ、それは“初めて”ではない気がした。
その気配に押し流されるようにして、楓は一歩後ろへ下がった。
自分の呼吸が浅い。胸の奥がざわめく。
まだ立っていられるはずなのに、足の裏が土台を失ったように不安定だった。
恭吾は鑑識員に短く指示を与えると、楓の前へと回り込んだ。
その目は静かだが、どこか“判断を決めた”色が宿っている。
「秋本。外に出るぞ」
楓は反射的に首を振った。
自分だけ離脱するのは、逃げるようで嫌だった。
そう返すつもりで口を開いたが、声はうまく出なかった。
「……まだ、見られます。大丈夫です」
「その顔で、何を言ってるんだ」
淡々とした口調なのに、否定の余地がない。
恭吾は楓の腕に触れようとして、指先を寸前で止めた。
触れずに距離だけを詰めて、その影だけが楓の肌にかすめる。
「立てるか」
その問いに、楓は一瞬迷ってから、かすかに頷いた。
頷くというより、頷こうとしただけのような弱い動きだった。
恭吾は楓の様子を一瞥し、玄関へ向けて歩き出した。
楓は数テンポ遅れて、その背中を追う。
足元はふわりと浮いたままで、現実に体がついてこない。
玄関の外へ出た瞬間、空気の密度が変わった。
ひんやりした外気が肺に入ると、胸のざわつきがわずかに薄らいでいく。
楓はその場に手をついてしゃがみ込み、静かに息を吐いた。
恭吾は壁際に立ち、彼女の呼吸が整うのを黙って待った。
「……すみません。こんなつもりじゃ……」
楓は額を押さえたまま、か細い声を漏らした。
「謝るな。異常な現場だ。むしろ普通の反応だ」
恭吾はそう言うと、楓の横にしゃがみ込んだ。
距離は近いのに、触れようとはしない。
触れなくても十分に伝わる間合いを、彼は正確に知っていた。
「息、苦しいか?」
「……はい。でも……少し楽になりました」
「ここで待て。鑑識の初動がおさまったら呼ぶ」
楓は頷いた。
息が落ち着いていくにつれ、また別の感覚が胸の奥に立ち上がってくる。
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ただ、それは“初めて”ではない気がした。
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