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楓の身体は、呼吸をしているのに酸素が足りないように震えていた。
胸の奥の揺れは“揺れ”という言葉では足りず、何かに引き裂かれるような感覚へと変わりつつあった。
恭吾は楓から距離を取りながら、しかし逃げるような動作は一切見せず近くの棚を背に腰を落とした。先程肩に触れたときの尋常ではない反応を考慮したゆえだ。
「秋本、聞こえるな。ゆっくり吸え。吐け」
「……っ……む、り……れ、す……」
楓は床を爪で掴み、肩を震わせながら必死に呼吸を整えようとした。
そのとき。
胸の奥が一気に跳ね上がった。
痛いほど強く、深く。
「──っ!!」
声にならない悲鳴が漏れ、楓の上体が大きく反らされた。
恭吾が即座に立ち上がる。
「秋本!」
「っ……や……来る……来てる……っ……!」
楓の瞳は焦点を失い、涙とは違う“反応”の水膜が薄く広がった。
呼ばれている。
引き寄せられる。
何かが階下から波のように押し寄せ──
それが楓の身体を内部から震わせている。
恭吾は楓に触れようとして、その手を止めた。触れた瞬間に跳ねた楓の反応がまだ頭に残っていた。
今触れれば、何が起こるかわからない。だが離れることもできない。
救急車を呼んだところで、病院に行ったところでどうにかなるようにも思えない。まるで昔観た映画の悪魔憑きの少女のようだ。
楓の身体は、呼吸をしているのに酸素が足りないように震えていた。
胸の奥の揺れは“揺れ”という言葉では足りず、何かに引き裂かれるような感覚へと変わりつつあった。
「秋本、こっちを見ろ」
「……っ……やだ、……怖い……っ……!」
「何が怖い」
「……わからない……っ……でも……来たら……だめ……!」
楓の身体は呼吸に合わせてではなく、外の“何か”の歩幅に合わせて震えているようだった。
その揺れは次第に、不規則から規則的へと変化していく。
恭吾は窓の方へ目を向ける。
誰もいない。
ただ静まり返っているだけだ。
だが、空気の層がひとつひとつ押しつぶされるように、微かに重く沈んでいく。
恭吾は小さく息を吐き、決めた。
恭吾は楓の前に膝をつき、どこにも触れない距離でその顔を覗き込んだ。
「大丈夫だ。俺がここにいる。誰も入れない」
楓は涙をこぼした。
「……っ……違う……“あれ”には……あなた……じゃ……」
言い終えるより早く。
同期は最高値に達した。胸の奥が破裂したように跳ね、楓の身体が一瞬、宙に浮くほど反り返った。
「──っっ!!」
悲鳴ではない。声ですらない。ただの“反応”。
そして──ピタリと止まった。
震えが。呼吸の乱れが。胸の疼きが。
まるで、外の何かが急に遠ざかったように。
楓は床に片手をつき、息を荒くしながらゆっくりと上体を丸めた。
「……い……ま……止まっ……た……」
恭吾は楓の背後から物音の気配を探る。
しかし、外の廊下はただ静かだ。
「秋本。息は戻ってるな」
「……は、い……すみません……」
「謝ることじゃねぇ。お前が倒れたら困るだけだ」
恭吾の声は落ち着いていたが、その手はゆっくりと拳を握っていた。
自分でも説明できない“嫌な確信”が胸に残っていたからだ。
楓はまだ震えの残る身体で、膝を抱えるようにして呼吸を整えた。
外の空気は不自然なほど静かだった。
まるで何かが去った直後のように。
恭吾はそれを知らない。ただ、楓の隣に座り、落ち着くまでそこにいることを選んだ。
今できることはそれだけだった。
胸の奥の揺れは“揺れ”という言葉では足りず、何かに引き裂かれるような感覚へと変わりつつあった。
恭吾は楓から距離を取りながら、しかし逃げるような動作は一切見せず近くの棚を背に腰を落とした。先程肩に触れたときの尋常ではない反応を考慮したゆえだ。
「秋本、聞こえるな。ゆっくり吸え。吐け」
「……っ……む、り……れ、す……」
楓は床を爪で掴み、肩を震わせながら必死に呼吸を整えようとした。
そのとき。
胸の奥が一気に跳ね上がった。
痛いほど強く、深く。
「──っ!!」
声にならない悲鳴が漏れ、楓の上体が大きく反らされた。
恭吾が即座に立ち上がる。
「秋本!」
「っ……や……来る……来てる……っ……!」
楓の瞳は焦点を失い、涙とは違う“反応”の水膜が薄く広がった。
呼ばれている。
引き寄せられる。
何かが階下から波のように押し寄せ──
それが楓の身体を内部から震わせている。
恭吾は楓に触れようとして、その手を止めた。触れた瞬間に跳ねた楓の反応がまだ頭に残っていた。
今触れれば、何が起こるかわからない。だが離れることもできない。
救急車を呼んだところで、病院に行ったところでどうにかなるようにも思えない。まるで昔観た映画の悪魔憑きの少女のようだ。
楓の身体は、呼吸をしているのに酸素が足りないように震えていた。
胸の奥の揺れは“揺れ”という言葉では足りず、何かに引き裂かれるような感覚へと変わりつつあった。
「秋本、こっちを見ろ」
「……っ……やだ、……怖い……っ……!」
「何が怖い」
「……わからない……っ……でも……来たら……だめ……!」
楓の身体は呼吸に合わせてではなく、外の“何か”の歩幅に合わせて震えているようだった。
その揺れは次第に、不規則から規則的へと変化していく。
恭吾は窓の方へ目を向ける。
誰もいない。
ただ静まり返っているだけだ。
だが、空気の層がひとつひとつ押しつぶされるように、微かに重く沈んでいく。
恭吾は小さく息を吐き、決めた。
恭吾は楓の前に膝をつき、どこにも触れない距離でその顔を覗き込んだ。
「大丈夫だ。俺がここにいる。誰も入れない」
楓は涙をこぼした。
「……っ……違う……“あれ”には……あなた……じゃ……」
言い終えるより早く。
同期は最高値に達した。胸の奥が破裂したように跳ね、楓の身体が一瞬、宙に浮くほど反り返った。
「──っっ!!」
悲鳴ではない。声ですらない。ただの“反応”。
そして──ピタリと止まった。
震えが。呼吸の乱れが。胸の疼きが。
まるで、外の何かが急に遠ざかったように。
楓は床に片手をつき、息を荒くしながらゆっくりと上体を丸めた。
「……い……ま……止まっ……た……」
恭吾は楓の背後から物音の気配を探る。
しかし、外の廊下はただ静かだ。
「秋本。息は戻ってるな」
「……は、い……すみません……」
「謝ることじゃねぇ。お前が倒れたら困るだけだ」
恭吾の声は落ち着いていたが、その手はゆっくりと拳を握っていた。
自分でも説明できない“嫌な確信”が胸に残っていたからだ。
楓はまだ震えの残る身体で、膝を抱えるようにして呼吸を整えた。
外の空気は不自然なほど静かだった。
まるで何かが去った直後のように。
恭吾はそれを知らない。ただ、楓の隣に座り、落ち着くまでそこにいることを選んだ。
今できることはそれだけだった。
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