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奇妙なひとりごと4
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地下資料庫の空気は乾き、かつてこの部屋で作業をしていた者たちの痕跡をすべて砂の底に沈めたような静けさがあった。
朝比奈玲は、封印札を剥がしたばかりのバインダーをそっと開く。
最初のページに記された文言を見た瞬間、胸が冷たく縮む。
──《白百合機構》愛玩型生体モデル開発部
ペア培養実験:感応系モデル 12・13
および調整体 L(11号)
懐かしさではない。
震えではない。
“これを見てしまった”という確かな嫌悪が身の内を静かに掘り進めていく。
ページをめくる。
青い印字が整然と並び、過去の狂気が詳細に記録されていた。
──<目的>高度愛玩個体の作成。特定対象に対する依存性、従属性、感応性を遺伝子および情緒環境の両面から設計する。
玲はため息を押し殺した。
(……そう。あの子たちはただの材料だった)
12──“受信の器”。
13──“刺激の刃”。
そして L──“二つをつなぐ接合剤”。
資料の数行が、淡々とそれを証明していく。
──個体12(感応性モデル)は、外部情緒を受信する特性を持つ。自発的な感情形成能力は低く、外部刺激と保護の対象が必要である。
(……楓ちゃん)
玲は目を細めた。
幼い頃の12──楓──の顔が脳裏に浮かぶ。
呼ばれれば素直に振り向き、触れられればくしゃりと笑う、感情入力の“受け皿のような子”。
だが、その笑顔の裏側にどれほどの設計図が埋め込まれていたかを当時の玲は知らなかった。
ページをめくる。
──個体13(反転刺激モデル)は、12に対し“強い情緒刺激”を与えるよう設計される。愛情・嫉妬・攻撃性などの過剰反応を誘発させ、12の感応回路を加速度的に成熟させるための起爆剤である。
「……起爆剤、ね」
吐き捨てるように呟き、玲はページの端を押さえた。
13は12を苦しめるために作られたわけではない。だが、反応を“引き出す”ためには苦しませるしかなかった。
慈しみも、安堵も、恐怖も、絶望も──
12の情緒回路にとっては“栄養”であり、研究者たちにとっては“商品改良の手段”だった。
だが、問題はそこからだった。──個体12・13の情緒反応が想定よりも強固な依存結合へ変化。暴走の危険性が高まり、調整体 L(11号)が追加配備される。
(……ここから狂い始めた)
玲は記憶をたぐった。
本来はペアのはずだった二体。だが、12は優しさを、13は執着を過剰に持ってしまい、その差を埋めるためにLが投入された。
Lは穏やかで、賢く、何より二体の反応の中間に立つことができた。
本来の計画にはない、“人間的なつながり”が三人の間に生まれた。だが、研究所はそれを“不具合”と呼んだ。
──12が13に曝露され続けると、12は過刺激により神経破綻を引き起こす可能性。よって両個体の分離を検討。調整体 L を統括個体として配置。
「……結局、壊す気だったのね……」
声はひどく静かだった。
白百合機構は、“売れる商品(12)”だけ残れば良かった。13は最初から捨て駒。Lも12が安定すれば不要。
彼らにとって、“命”などひとつもなかった。
資料の最後のページには、あまりに残酷な結論が記されていた。
──個体12 の外部刺激許容量の限界値を超えた場合、12は“対象への情緒固定”を発現し、回路開放が起こる。
──回路開放が起こった12は、“触れた対象”を精神的主対象として認識する。
玲の指が震えた。
「……つまり……」
今日、楓の異常が始まった理由。恭吾の存在が引き金になった理由。13が反応を示した理由。
すべてが、この一文に集約されている。
──秋本楓は、加藤恭吾という“新しい対象”によって封印されていた回路が開いた。
そしてその開放を、エルとNo.13 がどこかで感じ取った。
玲はバインダーを閉じ、目を伏せた。
「……あの子は今、一番危ないところにいるわ……」
玲は目を伏せる。
(でも、私にはどうすることもできない……)
「加藤……恭吾」
僅かな望みを託すようにその名を呼んだ。
朝比奈玲は、封印札を剥がしたばかりのバインダーをそっと開く。
最初のページに記された文言を見た瞬間、胸が冷たく縮む。
──《白百合機構》愛玩型生体モデル開発部
ペア培養実験:感応系モデル 12・13
および調整体 L(11号)
懐かしさではない。
震えではない。
“これを見てしまった”という確かな嫌悪が身の内を静かに掘り進めていく。
ページをめくる。
青い印字が整然と並び、過去の狂気が詳細に記録されていた。
──<目的>高度愛玩個体の作成。特定対象に対する依存性、従属性、感応性を遺伝子および情緒環境の両面から設計する。
玲はため息を押し殺した。
(……そう。あの子たちはただの材料だった)
12──“受信の器”。
13──“刺激の刃”。
そして L──“二つをつなぐ接合剤”。
資料の数行が、淡々とそれを証明していく。
──個体12(感応性モデル)は、外部情緒を受信する特性を持つ。自発的な感情形成能力は低く、外部刺激と保護の対象が必要である。
(……楓ちゃん)
玲は目を細めた。
幼い頃の12──楓──の顔が脳裏に浮かぶ。
呼ばれれば素直に振り向き、触れられればくしゃりと笑う、感情入力の“受け皿のような子”。
だが、その笑顔の裏側にどれほどの設計図が埋め込まれていたかを当時の玲は知らなかった。
ページをめくる。
──個体13(反転刺激モデル)は、12に対し“強い情緒刺激”を与えるよう設計される。愛情・嫉妬・攻撃性などの過剰反応を誘発させ、12の感応回路を加速度的に成熟させるための起爆剤である。
「……起爆剤、ね」
吐き捨てるように呟き、玲はページの端を押さえた。
13は12を苦しめるために作られたわけではない。だが、反応を“引き出す”ためには苦しませるしかなかった。
慈しみも、安堵も、恐怖も、絶望も──
12の情緒回路にとっては“栄養”であり、研究者たちにとっては“商品改良の手段”だった。
だが、問題はそこからだった。──個体12・13の情緒反応が想定よりも強固な依存結合へ変化。暴走の危険性が高まり、調整体 L(11号)が追加配備される。
(……ここから狂い始めた)
玲は記憶をたぐった。
本来はペアのはずだった二体。だが、12は優しさを、13は執着を過剰に持ってしまい、その差を埋めるためにLが投入された。
Lは穏やかで、賢く、何より二体の反応の中間に立つことができた。
本来の計画にはない、“人間的なつながり”が三人の間に生まれた。だが、研究所はそれを“不具合”と呼んだ。
──12が13に曝露され続けると、12は過刺激により神経破綻を引き起こす可能性。よって両個体の分離を検討。調整体 L を統括個体として配置。
「……結局、壊す気だったのね……」
声はひどく静かだった。
白百合機構は、“売れる商品(12)”だけ残れば良かった。13は最初から捨て駒。Lも12が安定すれば不要。
彼らにとって、“命”などひとつもなかった。
資料の最後のページには、あまりに残酷な結論が記されていた。
──個体12 の外部刺激許容量の限界値を超えた場合、12は“対象への情緒固定”を発現し、回路開放が起こる。
──回路開放が起こった12は、“触れた対象”を精神的主対象として認識する。
玲の指が震えた。
「……つまり……」
今日、楓の異常が始まった理由。恭吾の存在が引き金になった理由。13が反応を示した理由。
すべてが、この一文に集約されている。
──秋本楓は、加藤恭吾という“新しい対象”によって封印されていた回路が開いた。
そしてその開放を、エルとNo.13 がどこかで感じ取った。
玲はバインダーを閉じ、目を伏せた。
「……あの子は今、一番危ないところにいるわ……」
玲は目を伏せる。
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僅かな望みを託すようにその名を呼んだ。
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