15 / 50
15
しおりを挟む
店から恵比寿駅まで徒歩五分。広尾駅で降りて病院までだいたい五分。ちょっとしたお菓子を手土産に買おうと、広尾のランドマーク的ショッピングモールに寄る。
転職するときに先輩から教えてもらったオススメのお店。おなじみのNY発のデリカテッセンや軽井沢が本店のパン屋さんもあるけど、先輩イチオシは入ってすぐのブーランジェリー。
一面見渡しても夢しかない。ハード系のパンやクロワッサンも捨て難いが、ここはあえての生ケーキか。ベリージュレの乗ったタルトか、ああ、いや、エクレアも捨て難い。シンプルにシュークリームも。んー。色味が可愛いエクレアにしよう。味もそれぞれ楽しめるし。本当は自分の分も買って帰りたいくらいだが我慢だ。お給料日に出直してこよう。
外来の受付で病棟を教えてもらい、多田さんの病室に行った。四人部屋の一番奥のベッドで、右脚と左腕を固定されていた。
ルビーピンク(赤と紫系ピンク)のグラデーションカラーは艶やかでとても目立つ。スポーティな黒いオーバーシャツとハーフパンツなのに、なんとなく垢抜けてみえるのは何故だろう。私がやったら魔女の仮装(失敗ver.)だろう。
「お疲れさま。わざわざ来てもらってごめんね」
多田さんがいう。
「いえ、これ、少しですけど、エクレアです。よかったらどうぞ」
と先程のブーランジェリーの袋を手渡すと、多田さんの目が輝いた。
「わざわざ? ありがとう。甘いもの欲しかったんだ。気を遣わせて悪いね」
「いえいえ。お怪我の経過はどうですか?」
「全治三週間だって。それまでこれ」
と、手脚のギプスを指す。
「だからごめんね。急に代役なんか頼んで」
「いいえ。私は滅多にないチャンスをいただいてしまって。かえってすみません」
「レシピとモデルのウィッグ、そこに入れといたから持っていって。ごめん。母が置いたから窓際」
「わかりました」
と、ベッドの向こう側に回ると、私でも知っているハイブランドの超特大サイズのショップバッグが置いてあった。膝を抱えて丸まれば人も入れそうな大きさだ。その中には練習用のマネキンじゃないフルウィッグが四つ入っていた。
ホワイトブリーチを重ねて、薄いラベンダーとピンクを混ぜたような、淡いすみれ色のようなカラーリングのミディアムボブと、トップはアッシュブラックで、ヘムラインをブルーにしたショートヘア、ミルキーなピンクのサイドツインテールのロングヘア、そしてシンプルな金髪ショート。それぞれ番号とモデルの名前が記されている。
「これ、モデルに被せるだけでいいから」
「へえ。ショウってフルウィッグなんですね」
「アイツ、仕事遅いから」
鋭さが潜んだ声にピンとくる。けれど、ここは聞こえなかった振り。
「わたし、今回事故に遭って良かったと思ったの。後遺症は怖いけど。sakitoとペアで、自分が考案したレシピもアイツのものとして発表しなくちゃいけないし。オーナーとデキてるの、知ってた? sakitoってどう思う? たいしたサロンワークも出来ないくせに態度だけは大物なのよね」
わーお。怒涛の暴露展開。
「知りませんでした。けど、多田さんに後遺症が残らないといいなって思います。だってsakitoさんなんてどうでもいいですもん。あんな奴」
私の答えに多田さんが吹き出す。
「あと、三日しかないけど、連携取れてる? 無理だと思うけど」
「練習をお願いすると彼は口説かれてると思うようです」
「馬鹿じゃないのアイツ!」
アハハと笑う。私も吹き出してしまった。
「わたしが退院したらお詫びにご飯ご馳走する。迷惑かけて本当にごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。これ、お借りします。ご飯行けるの、楽しみにしてますね」
多田さんはショウの流れとレシピの説明を迅速で丁寧にレクチャーしてくれて、なんだか感じよく引き継ぎを済ますことが出来た。
転職するときに先輩から教えてもらったオススメのお店。おなじみのNY発のデリカテッセンや軽井沢が本店のパン屋さんもあるけど、先輩イチオシは入ってすぐのブーランジェリー。
一面見渡しても夢しかない。ハード系のパンやクロワッサンも捨て難いが、ここはあえての生ケーキか。ベリージュレの乗ったタルトか、ああ、いや、エクレアも捨て難い。シンプルにシュークリームも。んー。色味が可愛いエクレアにしよう。味もそれぞれ楽しめるし。本当は自分の分も買って帰りたいくらいだが我慢だ。お給料日に出直してこよう。
外来の受付で病棟を教えてもらい、多田さんの病室に行った。四人部屋の一番奥のベッドで、右脚と左腕を固定されていた。
ルビーピンク(赤と紫系ピンク)のグラデーションカラーは艶やかでとても目立つ。スポーティな黒いオーバーシャツとハーフパンツなのに、なんとなく垢抜けてみえるのは何故だろう。私がやったら魔女の仮装(失敗ver.)だろう。
「お疲れさま。わざわざ来てもらってごめんね」
多田さんがいう。
「いえ、これ、少しですけど、エクレアです。よかったらどうぞ」
と先程のブーランジェリーの袋を手渡すと、多田さんの目が輝いた。
「わざわざ? ありがとう。甘いもの欲しかったんだ。気を遣わせて悪いね」
「いえいえ。お怪我の経過はどうですか?」
「全治三週間だって。それまでこれ」
と、手脚のギプスを指す。
「だからごめんね。急に代役なんか頼んで」
「いいえ。私は滅多にないチャンスをいただいてしまって。かえってすみません」
「レシピとモデルのウィッグ、そこに入れといたから持っていって。ごめん。母が置いたから窓際」
「わかりました」
と、ベッドの向こう側に回ると、私でも知っているハイブランドの超特大サイズのショップバッグが置いてあった。膝を抱えて丸まれば人も入れそうな大きさだ。その中には練習用のマネキンじゃないフルウィッグが四つ入っていた。
ホワイトブリーチを重ねて、薄いラベンダーとピンクを混ぜたような、淡いすみれ色のようなカラーリングのミディアムボブと、トップはアッシュブラックで、ヘムラインをブルーにしたショートヘア、ミルキーなピンクのサイドツインテールのロングヘア、そしてシンプルな金髪ショート。それぞれ番号とモデルの名前が記されている。
「これ、モデルに被せるだけでいいから」
「へえ。ショウってフルウィッグなんですね」
「アイツ、仕事遅いから」
鋭さが潜んだ声にピンとくる。けれど、ここは聞こえなかった振り。
「わたし、今回事故に遭って良かったと思ったの。後遺症は怖いけど。sakitoとペアで、自分が考案したレシピもアイツのものとして発表しなくちゃいけないし。オーナーとデキてるの、知ってた? sakitoってどう思う? たいしたサロンワークも出来ないくせに態度だけは大物なのよね」
わーお。怒涛の暴露展開。
「知りませんでした。けど、多田さんに後遺症が残らないといいなって思います。だってsakitoさんなんてどうでもいいですもん。あんな奴」
私の答えに多田さんが吹き出す。
「あと、三日しかないけど、連携取れてる? 無理だと思うけど」
「練習をお願いすると彼は口説かれてると思うようです」
「馬鹿じゃないのアイツ!」
アハハと笑う。私も吹き出してしまった。
「わたしが退院したらお詫びにご飯ご馳走する。迷惑かけて本当にごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。これ、お借りします。ご飯行けるの、楽しみにしてますね」
多田さんはショウの流れとレシピの説明を迅速で丁寧にレクチャーしてくれて、なんだか感じよく引き継ぎを済ますことが出来た。
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる