一度私が振ったらしい美形の歳下ワンコくんが溺愛してきます。

森野きの子

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 店から恵比寿駅まで徒歩五分。広尾駅で降りて病院までだいたい五分。ちょっとしたお菓子を手土産に買おうと、広尾のランドマーク的ショッピングモールに寄る。

 転職するときに先輩から教えてもらったオススメのお店。おなじみのNY発のデリカテッセンや軽井沢が本店のパン屋さんもあるけど、先輩イチオシは入ってすぐのブーランジェリー。

 一面見渡しても夢しかない。ハード系のパンやクロワッサンも捨て難いが、ここはあえての生ケーキか。ベリージュレの乗ったタルトか、ああ、いや、エクレアも捨て難い。シンプルにシュークリームも。んー。色味が可愛いエクレアにしよう。味もそれぞれ楽しめるし。本当は自分の分も買って帰りたいくらいだが我慢だ。お給料日に出直してこよう。

 外来の受付で病棟を教えてもらい、多田さんの病室に行った。四人部屋の一番奥のベッドで、右脚と左腕を固定されていた。

 ルビーピンク(赤と紫系ピンク)のグラデーションカラーは艶やかでとても目立つ。スポーティな黒いオーバーシャツとハーフパンツなのに、なんとなく垢抜けてみえるのは何故だろう。私がやったら魔女の仮装(失敗ver.)だろう。

「お疲れさま。わざわざ来てもらってごめんね」

 多田さんがいう。

「いえ、これ、少しですけど、エクレアです。よかったらどうぞ」

 と先程のブーランジェリーの袋を手渡すと、多田さんの目が輝いた。

「わざわざ? ありがとう。甘いもの欲しかったんだ。気を遣わせて悪いね」

「いえいえ。お怪我の経過はどうですか?」

「全治三週間だって。それまでこれ」

 と、手脚のギプスを指す。

「だからごめんね。急に代役なんか頼んで」

「いいえ。私は滅多にないチャンスをいただいてしまって。かえってすみません」

「レシピとモデルのウィッグ、そこに入れといたから持っていって。ごめん。母が置いたから窓際」

「わかりました」

 と、ベッドの向こう側に回ると、私でも知っているハイブランドの超特大サイズのショップバッグが置いてあった。膝を抱えて丸まれば人も入れそうな大きさだ。その中には練習用のマネキンじゃないフルウィッグが四つ入っていた。

 ホワイトブリーチを重ねて、薄いラベンダーとピンクを混ぜたような、淡いすみれ色のようなカラーリングのミディアムボブと、トップはアッシュブラックで、ヘムラインをブルーにしたショートヘア、ミルキーなピンクのサイドツインテールのロングヘア、そしてシンプルな金髪ショート。それぞれ番号とモデルの名前が記されている。

「これ、モデルに被せるだけでいいから」

「へえ。ショウってフルウィッグなんですね」

「アイツ、仕事遅いから」

 鋭さが潜んだ声にピンとくる。けれど、ここは聞こえなかった振り。

「わたし、今回事故に遭って良かったと思ったの。後遺症は怖いけど。sakitoとペアで、自分が考案したレシピもアイツのものとして発表しなくちゃいけないし。オーナーとデキてるの、知ってた? sakitoってどう思う? たいしたサロンワークも出来ないくせに態度だけは大物なのよね」

 わーお。怒涛の暴露展開。

「知りませんでした。けど、多田さんに後遺症が残らないといいなって思います。だってsakitoさんなんてどうでもいいですもん。あんな奴」

 私の答えに多田さんが吹き出す。

「あと、三日しかないけど、連携取れてる? 無理だと思うけど」

「練習をお願いすると彼は口説かれてると思うようです」

「馬鹿じゃないのアイツ!」

 アハハと笑う。私も吹き出してしまった。

「わたしが退院したらお詫びにご飯ご馳走する。迷惑かけて本当にごめんなさい」

「いえ、大丈夫です。これ、お借りします。ご飯行けるの、楽しみにしてますね」

 多田さんはショウの流れとレシピの説明を迅速で丁寧にレクチャーしてくれて、なんだか感じよく引き継ぎを済ますことが出来た。

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