一度私が振ったらしい美形の歳下ワンコくんが溺愛してきます。

森野きの子

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 シャワーから上がった小野塚くんが、着替え始めて、バサッとドレスシャツを羽織る。

「え。まって」

「ん?」

 私はその姿を眺める。ボトムスの黒と素肌のコントラストがどちらの良さも引き立てていて、色っぽいのにクールだ。はだけた胸元を切り取って際立たせているような、黒。計算し尽くされているのだろう、シャツのライン。プラケット部分を持ったまま、虚をつかれた無防備な表情で止まる姿が、可愛い。

「きっちり着なくてもいいねぇ」

「え。え。おれ、どうしたらいいの? 着ていいの? 脱いだほうがいいの?」

「着ていいよ。ごめんごめん」

 冷蔵庫の中を見ると、お弁当が入っている。

「これ、持っていっていい?」

「どうぞ」

「ありがとう」

 やったー! 今日のお昼は豪華だ。

 スマホを見ると、そろそろ家を出る時間になっていた。出がけに連絡先を交換して、部屋を出ようとすると、ドアをいったん閉められた。

「いってらっしゃい」

 と、キスをして抱きしめられる。

「仕事何時くらいに終わる?」

「早くて八時、練習頼まれたら十時過ぎるかな」

「じゃあ、八時くらいに昨日のカフェで待ってるよ」

 頬にまたキスをされる。

「八時になったら連絡するから家にいてよ」

「近くで待っていたいんだって」

「んー。わかった」

 なんだかくすぐったい。外に出ると、すでに日差しが強く残暑が厳しい。蝉の声が耳の中で乱反射してキリキリする。なんだか嫌な夢見たなぁ。

 天国でお母さん、怒ってんのかな……。あの世から見られてたりしたらやだな。まあ。そんなこと、ありえないんだけど。

 スタイリストになって、最近ようやく後ろめたさを誤魔化すことがなくなってきた。

 お母さんの遺してくれた保険金を使って美容専門学校に通ったことが気にかかっていた。親の目を盗んでいけないことをしたような気がしていた。昨夜だって、あたりかまわず男の子に夢中になって。うー。恥ずかしい。

 階段を降りていると、隣の部屋の人が戻ってくるところだった。四十代後半か五十代前半くらいの水商売風の女性。ゴミ捨て日、明日なのに。と思いつつも

「おはようございます」

 と挨拶すると、意味ありげに目配せ、というか、全体をぐるっと舐めるように見られた。

「おはよ。彼氏、激しいのねぇ。羨ましい。でも気をつけて? うちのアパート古いから、すごく軋むのよォ」

 と、すれ違いざまに言われて、電光石火のような羞恥が走る。カンカンカン、と高いヒールが軽やかに階段を登っていく。下ネタ挨拶キッツ! 信じられない。わざわざ言わなくてよくない!? あ、いや、近所迷惑ごめんなさいだけど! そこまで!? そんなに響いてた!? うわー! 今までひっそりと暮らしてたから、あっちのそういうのは聞き慣れてたけど、まさか自分が騒音の元になるなんて。迂闊! 不覚! そりゃ天国のお母さんだって怒りたくなるわ。恥ずかしい。いたたまれなくなって、走って職場を目指した。

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