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「お客さん用のスリッパ……、どこだったっけ……、あ。ここか」
小野塚くんは玄関から向かって左側のシューズルームの中をのぞきこむ。センサーで勝手に照明がつくタイプ。私もどさくさに紛れて覗き込んだが唖然とした。三畳くらいのスペースに壁一面上から下まで、真ん中には棚もそびえ立っているけど、靴、靴、靴、の靴だらけ。よく見るとブランドごとに分けられている。
手前のシューズラックにあったスリッパを取って、どうぞー、と私の足元に置いてくれた。スリッパなのに、高級メゾンのロゴが、なんてことない模様みたいに刺繍してある。これは、ここからすでに、いわゆる、お・も・て・な・し? スリッパさえ使っていなかった生活を送っていた私は足を突っ込むのさえ躊躇する。小野塚くんは自分のルームシューズ(別ブランド)に履き替えると、「上がって上がってー」と先に進む。いや、音の反響すでに違うし。それにしても、私の部屋によく上がったな。ここからしたら、あんなとこ廃墟じゃん……。もしかして、私を抱き枕にしてたのって恐怖と戦うため?
玄関から右に廊下があり、そこだけでうちの台所スペースが入る仕様。真っ白な石の床と壁紙じゃない壁に目眩を覚えながら後についていく。「奥がバスルーム」とつきあたりを指す。左側のドアを入ると、右側が対面式のキッチンスペース、リビングも広い。街が一望できる大きな窓。麻布のデザイナーズマンション、ルーフバルコニー付き。家賃いくら? 分譲? ルームシェアって、ここの家賃ひと月分で私の年収飛んでかない?
リビングの真ん中には洗練されたデザインのチャコールグレーのソファと、向かいには大きな壁掛け液晶テレビ。その左奥にまた廊下が続いている。
「あっちは寝室とスタジオ」
私の視線に気づいてか説明する。
「スタジオ?」
「練習するとこ。井上さんも使ってね」
「あ、ありがとう……」
キッチンカウンターにデリの紙袋を置くと、部屋の豪華さに魂を抜かれかけている私を覗き込んだ。
「疲れたでしょ。ごはん先に食べよう。その間お風呂沸かすから」
「ありがとう」
「この部屋気に入ってくれた?」
「頷くのも気が引ける。私の部屋と桁違いすぎて、比べること自体無理があるけど。よくあんなとこ来たね」
「すきなひとの部屋ならそりゃ行くでしょ。あの部屋、必ず視界に井上さん入るし、井上さんのいい匂いするし、よかったよ」
「うわあ。生活臭しかしないからヤダ。すごいヤダ。絶対こっちの方がいいに決まってる」
「じゃあもうこっちに引っ越してきなよ」
と、私の腰をホールドすると、目つきで誘う。
「それは、まだ、考えさせて」
「慎重だね」
唇が重なる。角度を変えながら、啄まれる。
「そういわけでもないけど……」
キスの合間に答えて、やんわりと胸を押し返した。
「おれはずっと一緒にいたいんだけどなあ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
小野塚くんはニコッと笑う。けれど、声と眼が笑っていない。だって、これからの生活かかってるんだもん。そう簡単には決められない。
「一週間後も仲良くいられたらいいけど」
「なんでそんなこというの。どうなるかなんてわからなくて当たり前で、喧嘩しても仲直りしていけばいいじゃん」
小野塚くんは拗ねたような口調でいう。
「はい。おっしゃる通りです」
「おれたちの今後を悪い方向にばかり考えないでよ」
「善処します」
「はー……。どうしたら井上さんに信用してもらえるんだろ……」
「まあまだ一日目だから。それに私、彼氏ができたの、」
「初めてなんでしょ。わかってる。これからたくさん愛し合おうね」
「は、はぁ。お手柔らかにお願いします」
小野塚くんって臆面もなく照れくさいこというなあ。あと行動力が尋常じゃない。
「じゃ、ご飯にしよう。あ、そうだ。二日おきに家政婦さんに来てもらってるんだ。急に知らない人が入ってきたってびっくりしないでね」
私を解放して、紙袋の中のものをテレビの前のローテーブルに並べ始める。
なるほど、家政婦さん。この部屋の景観はそうして守られているのか。
「斉藤さんっていって、おれが三ヶ月のときから実家に来てもらってたんだけど、あっちの契約が終了するっていうから、こっちに来てもらうようにお願いしたんだ」
「三ヶ月? 産まれてすぐってこと?」
「うん。うちの両親共働きだったから」
「へえ~」
共働きって聞こえは庶民的だけど、彼のお母さん、モデルで女優だからな。どうしよう。彼の話は私のリアルの範疇にない。小野塚くんは、アシスタントAIスピーカーに呼びかけてお風呂を沸かすようにいった。すごいな。家事から解放された生活。うらやましい。うん、これは白昼夢。すぐに覚める夢。そもそも私みたいな特に取り柄も面白みもない女、何度かやってしばらく傍に置いたらすぐに飽きられる。一発で釣れなかったから物珍しがられただけ。甘やかされることに慣れないようにしなくちゃ。
小野塚くんは玄関から向かって左側のシューズルームの中をのぞきこむ。センサーで勝手に照明がつくタイプ。私もどさくさに紛れて覗き込んだが唖然とした。三畳くらいのスペースに壁一面上から下まで、真ん中には棚もそびえ立っているけど、靴、靴、靴、の靴だらけ。よく見るとブランドごとに分けられている。
手前のシューズラックにあったスリッパを取って、どうぞー、と私の足元に置いてくれた。スリッパなのに、高級メゾンのロゴが、なんてことない模様みたいに刺繍してある。これは、ここからすでに、いわゆる、お・も・て・な・し? スリッパさえ使っていなかった生活を送っていた私は足を突っ込むのさえ躊躇する。小野塚くんは自分のルームシューズ(別ブランド)に履き替えると、「上がって上がってー」と先に進む。いや、音の反響すでに違うし。それにしても、私の部屋によく上がったな。ここからしたら、あんなとこ廃墟じゃん……。もしかして、私を抱き枕にしてたのって恐怖と戦うため?
玄関から右に廊下があり、そこだけでうちの台所スペースが入る仕様。真っ白な石の床と壁紙じゃない壁に目眩を覚えながら後についていく。「奥がバスルーム」とつきあたりを指す。左側のドアを入ると、右側が対面式のキッチンスペース、リビングも広い。街が一望できる大きな窓。麻布のデザイナーズマンション、ルーフバルコニー付き。家賃いくら? 分譲? ルームシェアって、ここの家賃ひと月分で私の年収飛んでかない?
リビングの真ん中には洗練されたデザインのチャコールグレーのソファと、向かいには大きな壁掛け液晶テレビ。その左奥にまた廊下が続いている。
「あっちは寝室とスタジオ」
私の視線に気づいてか説明する。
「スタジオ?」
「練習するとこ。井上さんも使ってね」
「あ、ありがとう……」
キッチンカウンターにデリの紙袋を置くと、部屋の豪華さに魂を抜かれかけている私を覗き込んだ。
「疲れたでしょ。ごはん先に食べよう。その間お風呂沸かすから」
「ありがとう」
「この部屋気に入ってくれた?」
「頷くのも気が引ける。私の部屋と桁違いすぎて、比べること自体無理があるけど。よくあんなとこ来たね」
「すきなひとの部屋ならそりゃ行くでしょ。あの部屋、必ず視界に井上さん入るし、井上さんのいい匂いするし、よかったよ」
「うわあ。生活臭しかしないからヤダ。すごいヤダ。絶対こっちの方がいいに決まってる」
「じゃあもうこっちに引っ越してきなよ」
と、私の腰をホールドすると、目つきで誘う。
「それは、まだ、考えさせて」
「慎重だね」
唇が重なる。角度を変えながら、啄まれる。
「そういわけでもないけど……」
キスの合間に答えて、やんわりと胸を押し返した。
「おれはずっと一緒にいたいんだけどなあ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
小野塚くんはニコッと笑う。けれど、声と眼が笑っていない。だって、これからの生活かかってるんだもん。そう簡単には決められない。
「一週間後も仲良くいられたらいいけど」
「なんでそんなこというの。どうなるかなんてわからなくて当たり前で、喧嘩しても仲直りしていけばいいじゃん」
小野塚くんは拗ねたような口調でいう。
「はい。おっしゃる通りです」
「おれたちの今後を悪い方向にばかり考えないでよ」
「善処します」
「はー……。どうしたら井上さんに信用してもらえるんだろ……」
「まあまだ一日目だから。それに私、彼氏ができたの、」
「初めてなんでしょ。わかってる。これからたくさん愛し合おうね」
「は、はぁ。お手柔らかにお願いします」
小野塚くんって臆面もなく照れくさいこというなあ。あと行動力が尋常じゃない。
「じゃ、ご飯にしよう。あ、そうだ。二日おきに家政婦さんに来てもらってるんだ。急に知らない人が入ってきたってびっくりしないでね」
私を解放して、紙袋の中のものをテレビの前のローテーブルに並べ始める。
なるほど、家政婦さん。この部屋の景観はそうして守られているのか。
「斉藤さんっていって、おれが三ヶ月のときから実家に来てもらってたんだけど、あっちの契約が終了するっていうから、こっちに来てもらうようにお願いしたんだ」
「三ヶ月? 産まれてすぐってこと?」
「うん。うちの両親共働きだったから」
「へえ~」
共働きって聞こえは庶民的だけど、彼のお母さん、モデルで女優だからな。どうしよう。彼の話は私のリアルの範疇にない。小野塚くんは、アシスタントAIスピーカーに呼びかけてお風呂を沸かすようにいった。すごいな。家事から解放された生活。うらやましい。うん、これは白昼夢。すぐに覚める夢。そもそも私みたいな特に取り柄も面白みもない女、何度かやってしばらく傍に置いたらすぐに飽きられる。一発で釣れなかったから物珍しがられただけ。甘やかされることに慣れないようにしなくちゃ。
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