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凍える月と熱い夜
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底冷えのする十二月中旬の満月の夜。地平線に沈む濃紺は薄紫を刷いたような神秘的な色をして、白い朧月に近づくにつれ白みを帯びた薄い青になっていた。気温は7℃、ビル風のせいでさらに凍えるほど寒い。
桐原冴子は会社のエントランスから出た瞬間にぶるりと震えた。整髪料でかっちり固めたひっつめ髪を解きたい。胸まで伸ばした髪は、風除けの一つになってくれそうだ。だがしかし、一日働いてしっかり癖のついてしまった髪を解いても、不格好になるのは目に見えていた。
寒い……。寒すぎる。
ラインのきれいなロングのダウンコートはお気に入り。ババくさいと言われようが、おしりまでは死守したいのだ。暖かい。だが、骨格診断を気にしたタイトなペンシルスカートにタイツだけではどうしても冷える。本末転倒だ。冬のパンプスは爪先が凍える。早く帰って熱い湯船に浸かるべきだとは思うが、金曜の夜だ。少しくらい、寄り道したい。しかも、珍しく定時退社。その上とってもきれいな望月の宵ときたもんだ。冴子はギュッと右手で小さくガッツポーズを決めた。よーし。今夜はあそこに寄って帰ろう! と、息巻いた瞬間、ショルダーバッグの中から着信音が聞こえた。すぐさまディスプレイを確認すると、課長の高峯孝志からだ。ヒュッと息を吸う。嫌な予感しかしない。しかし出ない訳にはいかない。
「はい。桐原です」
「高峯だ。桐原、悪い。すぐ戻ってきてくれ」
「わ、……わかりました」
切羽詰まった上司の声に、断るという選択をできるはずもなく、己の弱さを恨みつつ踵を返した。
冴子は営業部の庶務課に所属しているのだが、とある社員が今日までに計上しておかなければならない領収書をひと月分溜め込んだまま、体調不良を理由に昨日から有給休暇を取っていた。それが冴子が退社した直後に発覚したのだった。しかも、明日の役員会議の資料も白紙だという。他の社員はまだそれぞれの仕事を抱えているというので、高峯が会議の資料を、仕事を終わらせていた冴子が領収書を計上せざるを得なかった。しかもその社員は専務の姪ときたもんだ。業務を終えたのは結局、深夜一時を回っていた。真っ暗になったオフィスを後にし、冴子はため息をついた。
桐原冴子は会社のエントランスから出た瞬間にぶるりと震えた。整髪料でかっちり固めたひっつめ髪を解きたい。胸まで伸ばした髪は、風除けの一つになってくれそうだ。だがしかし、一日働いてしっかり癖のついてしまった髪を解いても、不格好になるのは目に見えていた。
寒い……。寒すぎる。
ラインのきれいなロングのダウンコートはお気に入り。ババくさいと言われようが、おしりまでは死守したいのだ。暖かい。だが、骨格診断を気にしたタイトなペンシルスカートにタイツだけではどうしても冷える。本末転倒だ。冬のパンプスは爪先が凍える。早く帰って熱い湯船に浸かるべきだとは思うが、金曜の夜だ。少しくらい、寄り道したい。しかも、珍しく定時退社。その上とってもきれいな望月の宵ときたもんだ。冴子はギュッと右手で小さくガッツポーズを決めた。よーし。今夜はあそこに寄って帰ろう! と、息巻いた瞬間、ショルダーバッグの中から着信音が聞こえた。すぐさまディスプレイを確認すると、課長の高峯孝志からだ。ヒュッと息を吸う。嫌な予感しかしない。しかし出ない訳にはいかない。
「はい。桐原です」
「高峯だ。桐原、悪い。すぐ戻ってきてくれ」
「わ、……わかりました」
切羽詰まった上司の声に、断るという選択をできるはずもなく、己の弱さを恨みつつ踵を返した。
冴子は営業部の庶務課に所属しているのだが、とある社員が今日までに計上しておかなければならない領収書をひと月分溜め込んだまま、体調不良を理由に昨日から有給休暇を取っていた。それが冴子が退社した直後に発覚したのだった。しかも、明日の役員会議の資料も白紙だという。他の社員はまだそれぞれの仕事を抱えているというので、高峯が会議の資料を、仕事を終わらせていた冴子が領収書を計上せざるを得なかった。しかもその社員は専務の姪ときたもんだ。業務を終えたのは結局、深夜一時を回っていた。真っ暗になったオフィスを後にし、冴子はため息をついた。
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