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凍える月と熱い夜4
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「大丈夫。まだ理性あるし、大人だし。暴れてご迷惑はおかけしません。ただ美味しいカクテルが飲みたいだけなんです。じゃあ、あと二杯飲んだら帰ります」
「じゃあ、まず水飲もっか」
と、なみなみと水の入ったタンブラーが置かれる。
「やですぅ。せっかくの酔いが覚めちゃう!」
「もう酔っ払ってる?」
亮の窘める声に、冴子は悪ふざけを諦めた。
「……いいえ。まだです。ごめんなさい」
しゅんとしながらタンブラーの水を飲む。
「素直じゃん。じゃあはい、ご褒美」
少し笑って、今度は冴子の前に小さな四角い生チョコの載った小皿を置いた。
「友達がくれた土産物だけど、よかったらどうぞ」
「わあ。ありがとう! 誰かからご褒美貰うなんて子供の時以来かも!」
「そんな、たったこれだけでそんなに喜んでもらうとこっちが申し訳ないくらいなんだけど」
「だって大人になると、ご褒美なんて貰える機会ほぼなくなるじゃないですか」
「まあそうだね。じゃあそろそろ二杯目のブルームーン作るよ」
「やったぁ! ありがとう。亮さん」
「いや、逆、逆。こっちの台詞。注文頂いてありがとうございます」
「あ。そっか。だいたいまだ一杯しか飲んでないのに酔っ払って暴れる前提ですもんね。ひどい」
「いや、そうじゃないよ」
一瞬見せた真顔のあと、亮は流れるような動作で二杯目のブルームーンを作り、冴子の前に置いた。そして自分にも同じものを用意する。
「ブルームーン。お気に入りなんだね。これはおれからのプレゼント」
「ええ。嬉しい。ありがとう、亮さん。香りも色もすごく好きなんです」
と、乾杯をして互いにあっという間に飲み干した。
「頑張ってきた冴子ちゃんにアルコールと糖分以外のご褒美あげようか」
「えっ」
カウンターから出た亮に、冴子はついあらぬ期待を抱く。こ、これは、オトナの女性向けコミックとかにありがちな肉体派ご褒美展開!?!? スマホにダウンロードした少し過激な漫画を思い出し、心拍数と体温が上がる。
亮はそのまま冴子の前をスルーして、フロアの真ん中の壁側に置いてあるアップライトピアノの蓋を上げた。
「ドゥワップ調じゃなくて、甘めのスムースなアレンジでいいかな」
と、立ったまま弾き始めたのは、ムーンライトをメロウなアレンジにした曲。冴子は不埒な想像をしてしまった自らを心から恥じた。いたたまれない三分間が終わり、謝罪と感謝の拍手を送る。
「すごく良かった。亮さん、ピアノ上手い」
「本当? 気に入ってくれた?」
「うん。すごく。演奏してもらえるなんて、特別な気がして嬉しい。二十前半の私なら恋に落ちてた」
「今の君にはこんなんじゃ、ベタすぎて効かない?」
亮はアップライトピアノの蓋を閉じて振り向く。
「じゃあ、まず水飲もっか」
と、なみなみと水の入ったタンブラーが置かれる。
「やですぅ。せっかくの酔いが覚めちゃう!」
「もう酔っ払ってる?」
亮の窘める声に、冴子は悪ふざけを諦めた。
「……いいえ。まだです。ごめんなさい」
しゅんとしながらタンブラーの水を飲む。
「素直じゃん。じゃあはい、ご褒美」
少し笑って、今度は冴子の前に小さな四角い生チョコの載った小皿を置いた。
「友達がくれた土産物だけど、よかったらどうぞ」
「わあ。ありがとう! 誰かからご褒美貰うなんて子供の時以来かも!」
「そんな、たったこれだけでそんなに喜んでもらうとこっちが申し訳ないくらいなんだけど」
「だって大人になると、ご褒美なんて貰える機会ほぼなくなるじゃないですか」
「まあそうだね。じゃあそろそろ二杯目のブルームーン作るよ」
「やったぁ! ありがとう。亮さん」
「いや、逆、逆。こっちの台詞。注文頂いてありがとうございます」
「あ。そっか。だいたいまだ一杯しか飲んでないのに酔っ払って暴れる前提ですもんね。ひどい」
「いや、そうじゃないよ」
一瞬見せた真顔のあと、亮は流れるような動作で二杯目のブルームーンを作り、冴子の前に置いた。そして自分にも同じものを用意する。
「ブルームーン。お気に入りなんだね。これはおれからのプレゼント」
「ええ。嬉しい。ありがとう、亮さん。香りも色もすごく好きなんです」
と、乾杯をして互いにあっという間に飲み干した。
「頑張ってきた冴子ちゃんにアルコールと糖分以外のご褒美あげようか」
「えっ」
カウンターから出た亮に、冴子はついあらぬ期待を抱く。こ、これは、オトナの女性向けコミックとかにありがちな肉体派ご褒美展開!?!? スマホにダウンロードした少し過激な漫画を思い出し、心拍数と体温が上がる。
亮はそのまま冴子の前をスルーして、フロアの真ん中の壁側に置いてあるアップライトピアノの蓋を上げた。
「ドゥワップ調じゃなくて、甘めのスムースなアレンジでいいかな」
と、立ったまま弾き始めたのは、ムーンライトをメロウなアレンジにした曲。冴子は不埒な想像をしてしまった自らを心から恥じた。いたたまれない三分間が終わり、謝罪と感謝の拍手を送る。
「すごく良かった。亮さん、ピアノ上手い」
「本当? 気に入ってくれた?」
「うん。すごく。演奏してもらえるなんて、特別な気がして嬉しい。二十前半の私なら恋に落ちてた」
「今の君にはこんなんじゃ、ベタすぎて効かない?」
亮はアップライトピアノの蓋を閉じて振り向く。
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