24 / 28
投げられた賽5
しおりを挟む
「ねえねえ、桐原さん。それって、わざと?」
昼休みにトイレの手洗いでコーヒーのシミがついた服を洗っていると、化粧直しにやってきたらしい御三家の中で松原が入ってくるなり、鏡越しに言った。
「何のことでしょう」
冴子は視線を三人から洗濯物へと移し、手短に応える。
「その制服、社長へのアピール? それとも、男性社員全員? 何そのシャツ。女超えてメスアピール? できてると思ってるの? フツーにキモいよ?」と結城。
「ここ、キャバじゃないんですけどぉ」と秋元。
サイズ違いの、要りもしないスカート八千円、ベスト九千五百円、ジャケット一万五千円、ボタンの飛んだシャツ四千五百円。合計三万七千円。これが今月の給料から天引きされるのだ。二度と着ることのない会社の制服のために。気になるデパコスの春夏の新色が三つほどあった。そろそろ下着も新調したかった。貯金がないわけでもないが、どうしたって三万七千円は安くない。
「社販に合うサイズがなかったんです。元々着ていた服は、結城さんと秋元さんがぶつかってきた拍子にコーヒーが零れて、着れなくなったんです。シミも落ちないですし。軽くですけど、火傷っぽいんですよね。どうしてくれるんですか?」
「えー? ぶつかったっけ?」
「サヤちゃんが覚えてないならアタシも知らなぁーい」
「自分の不注意、人のせいにしないでくれる?」
あははと甲高い笑い声がトイレ内に響く。心底憎たらしくて腹が立ったがどうしようもない。
「午後の会議の準備、終わってるの? 昼休みあと十五分よ」
と冷たい声で松原がいう。
「先に終わらせました。どうぞご心配なく」
冴子は言い返し、コーヒーの染みがついたシャツを絞る。後は家に帰ってクリーニング店に相談しよう。そう諦めてランチのサンドイッチが入っていたコンビニのビニール袋に洗って絞ったシャツとスカートを折りたたんでつめた。
「お先に失礼します」
冴子がいう。
「どうぞお気をつけて。新人さん」
と松原が不敵な笑みを浮かべた。
昼休みにトイレの手洗いでコーヒーのシミがついた服を洗っていると、化粧直しにやってきたらしい御三家の中で松原が入ってくるなり、鏡越しに言った。
「何のことでしょう」
冴子は視線を三人から洗濯物へと移し、手短に応える。
「その制服、社長へのアピール? それとも、男性社員全員? 何そのシャツ。女超えてメスアピール? できてると思ってるの? フツーにキモいよ?」と結城。
「ここ、キャバじゃないんですけどぉ」と秋元。
サイズ違いの、要りもしないスカート八千円、ベスト九千五百円、ジャケット一万五千円、ボタンの飛んだシャツ四千五百円。合計三万七千円。これが今月の給料から天引きされるのだ。二度と着ることのない会社の制服のために。気になるデパコスの春夏の新色が三つほどあった。そろそろ下着も新調したかった。貯金がないわけでもないが、どうしたって三万七千円は安くない。
「社販に合うサイズがなかったんです。元々着ていた服は、結城さんと秋元さんがぶつかってきた拍子にコーヒーが零れて、着れなくなったんです。シミも落ちないですし。軽くですけど、火傷っぽいんですよね。どうしてくれるんですか?」
「えー? ぶつかったっけ?」
「サヤちゃんが覚えてないならアタシも知らなぁーい」
「自分の不注意、人のせいにしないでくれる?」
あははと甲高い笑い声がトイレ内に響く。心底憎たらしくて腹が立ったがどうしようもない。
「午後の会議の準備、終わってるの? 昼休みあと十五分よ」
と冷たい声で松原がいう。
「先に終わらせました。どうぞご心配なく」
冴子は言い返し、コーヒーの染みがついたシャツを絞る。後は家に帰ってクリーニング店に相談しよう。そう諦めてランチのサンドイッチが入っていたコンビニのビニール袋に洗って絞ったシャツとスカートを折りたたんでつめた。
「お先に失礼します」
冴子がいう。
「どうぞお気をつけて。新人さん」
と松原が不敵な笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる