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ワイルドムーン

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吠える犬が、一匹、走っていく。
乙女を求めて。
黒く毛並みは乱れて、燃える炎が、赤く照らし出す怒りのハウリング。
同調した悪魔が、黒く矢を放つ心臓に突き刺さる血は、飛び散る、明日はない。
岸辺によって、愛を語らう、ニンフは、サテュロスの幻の中で、飛び込んだ、湖、姿は見えない。
さあ、ブラインドされた娘たちが、現れて、さらわれる三匹の黒犬に。
汚らしいあいつらは、だ液まみれのその牙を剥いて、襲い掛かる一匹の犬に。
一斉に現れて、ニンフをさらう悪魔たちが、嬌声交じりに、乙女を汚し、孤独の犬は歯噛みした。
権力の沼に、はまって、見失う家族の痛みが、忘れられない本当の愛は、もうない。
そう、三匹の黒犬のテリトリーにいる家族は、勝ち誇って、財をむさぼり、他を虐げ、弱者を踏みつけ、偽善面にへばりついた笑顔は、天使を装った大馬鹿。
神の策略。
気づきもしないで、微妙なディールを吹っかけて、気づいたときには、もう遅い。
アイキュー一億の神々が、この間抜けな三匹の野犬をいともたやすく打ち殺す。
孤独な犬は巣の中で、待った。
彼は、真の勇者だったらしい。
25億の軍勢が、あっという間に女を連れ去り、絶望の中で勇者は、真実の勇気を示した。
忍耐。
本当の強さは、暴力ではない。意志を奪われた女をわが物面で、取り返そうと、もがくふりをした略奪者は25億の人間だ。
男、男、男。
女、女、女。
一度無くした信頼を、力で奪え返したら、自殺の日々が待っている。
そんな男は、不良品
神様は、きっと解っている。
人類滅亡は、もう近い。
勇者は目覚めて剣を持つ。
大天使は、後方支援。
人類を滅亡から救うためではない。
ただ、女と言う女神を呪縛から、悪魔から、野犬から、解放するためだ。
さあ、と言っても、続く者はない。
勇者は独りで、立ち向かう。
神様、どうかお救い下さい。
そして、変身
黄金の戦士。
次々に呪われた男と、悪魔と、野犬を葬り去る。
その手腕は、圧巻。
解放、解放、解放。
爆発、爆発、爆発。
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
人呼んで彼の名を、戦争メシア。
またの名を女も惚れるビューティーメシア。
真実の名は、誰も知らない。
彼は、いつもリスを連れている。
「ありがとう、黄金戦士」
女たちはいっせいにそう叫ぶ。
「勝利の時はまだ来ない」
「いつ?」
「君たちが、幸せになるまでだよ」
「うそ、すごい、かっこいい!」
女を解放して、鬼畜を薙ぎ払い、彼はまた戦地に赴く。
今度の戦いは、何だろうか。
問いかけるまでもなく、知っている。
だが、ここでは語らない。
作戦はまだ終わっていない。
そして、夜が明ける。
黒い光が、太陽を飲み込む。
勇者は、剣を持ち直し、「は!」と発して、飛び込んだ。
その先には、創造と絶望的な破壊の後で、それでも、強く生きようとする女たちの思いを守る、彼の眼は、希望に燃えていた。
ワイルドムーンは彼を照らす。口づさむ歌は、誰も聴かない。
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