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前衛ダンス

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 緑豊かな小高い山にあるあの家で、おもちゃのピストルを持って、追いかけた千切れ雲の間から、郷愁とは程遠い、地球の片隅にある楽園のような花畑、草木の呼吸の繰り返す生命ロンド、犬が吠えて、地球が一回転するような、子供心に、道化師が、やってくる紙芝居を演じるように、雷の晩に、鳴り響く、この日々が、永遠に続けば、何て、想ったことはない子供の心、影法師が、追いかけてくる、ルノアールの乙女の絵画に、幻の季節を感じた、自由の息吹に、草花の萌えるような息遣い、荒くなる天気に、移りゆくビートのような快感、まるで、怒権の顔が、手鏡に映って、その時、背後の景色に、僕は、永遠の天使を見つけた。
 胸が、苦しい病の晩に、遠くでアライグマの荒い鼻息、僕は、荒い呼吸に、布団の上で、虫の息。蚊が一匹まるで、僕の血を吸い取って、熱を下げてくれるかのように、近くにいて、ブーンッと鳴いて、悲し気なダンスをしてくれた。
 ある朝、雀に起こされて、ちょっと、気持ちのいい空気を吸って、しんっとする木木の瞳に、まるで乙女の髪が豊かに揺れるように、乳房を想像した、子供心に、麗しい天使の影を見つめている、視界が開けて、祈りをささげるダンス、踊る萌え木に、その美しき御手を取りたい、草むらのはだける葉擦れの白き服きた笛を持つ天使の指使いが、撫でてくれる髪の毛に、皮膚の感覚が、残っている、優しい体温と体のぬくもり、恋以上の感情が、愛未満で濡れてくる汗をかいた髪の毛を包み込む吐息のような前衛さん。
 いつか、すり抜けるように風をかわして、独りで走った山の中で、滑り落ちそうになった時、崖の上で、手を持って、引き揚げてくれたあなたはマイ天使、慈しみの踊りを衣装をひらめかせて、励ましてくれた希望の御足、僕は走る。逃れるように、背を向けた子供の頃に帰りたいだなんて、信じることは、できなかったけど、信じているのは、ただ僕の前衛さん、肉体の麗しい恋人、年上の羽根の生えた天使、僕は堕天使るように、苦しみの尾根を越えて、山から空へ昇りたい、でも、優しいお姉ちゃん、前衛さんがいてくれたから、僕の唇にいつも触れてくれたから、生きていくことができた。
 今思えば、懐かしい、友ひとりとて、いないと信じていたその人生に、訪れる平和が、あなたの手、柔らかい乳房、触れることの許されぬ禁断の天使の恋。
 ああ、そうかと思い出して、あの時見た虹を渡っていく動物たちの楽しそうな踊りに、まじりたい、でも、本当は、子供の僕は、天使の乳房に房やかなブドウの果汁を置いて、捧げもののように、一粒食べたなら、きっと、苦しい日々は、悦びにむせび泣く、叶わぬ恋は、いつも、後悔の後に、先に進む勇気をくれる。
 ありがとう、前衛姉さん、どうか、また出会った空の下で、大きくなったこの僕を抱きしめてください。
 そしたら、今度は子ども扱いしないで、キスの跡を首筋に残して、まるで、嵐の後に兆した虹のように、あなたの穹窿を渡りたい。たどり着いた場所が荒野でも、結ぶ目を解くように、あなたの帯を解いて、裸のあなたを草むらの風が連れ去る前に、留めるように、詩にしました。
 前衛ダンスが似合うなら、今すぐ僕とダンス&ダンス。
 回転していく世界から、酩酊の足もとに淑女の誘いを誘う風。
 スカートを履いたあなたの御足に、むしろ、あの頃の恨みを晴らすように、口づける。
 そんな子供じみた僕をまた愛してくれますか?
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