悪役令嬢に転生したけど、推しが中の人だった件について

佐伯すみれ

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ノエル・アルベリッヒ

ノエル・アルベリッヒ

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王立魔法学園『アカデミア・グランヴェール』。
午後の自由研究時間。
私は、図書塔の最上階にいた。

(ノエル・アルベリッヒ。魔法理論科主席。雷属性。
無口で無愛想、でも知識量と魔力制御は学園随一。
ゲームでは“知識共有イベント”で好感度+15……!)

でも、彼は基本的に誰とも関わらない。
イベントを発生させるには、彼の“興味”を引く必要がある。

私は、魔法理論の専門書を手に取り、そっと彼の隣に腰を下ろした。
彼は、こちらを一瞥しただけで、また本に視線を戻す。

(……よし、無視されてない。これはチャンス)

「……その本、前から気になっていたんです。
“魔力干渉と感情波動の相関性”──難しいけれど、面白そうですね」

ノエルの手が止まった。
彼の視線が、ゆっくりとこちらに向く。

「……君が、その本に興味を持つとは思わなかった」

(きた!イベントセリフきた!!)

「私、最近少し……魔力の揺らぎを感じることがあって。
感情と魔力の関係、もっと知りたいと思ってますの」

ノエルはしばらく黙っていたが、やがて静かに本を閉じた。

「……なら、君に合いそうな論文がある。ついてきて」

彼は立ち上がり、別の書架へと歩き出す。
私は慌てて後を追った。
 
「これだ。“魔力共鳴における個体差と記憶の影響”。
……君の言う“揺らぎ”は、記憶由来の魔力干渉かもしれない」

「記憶……?」

「君の魔力は、他の貴族令嬢とは違う。
……まるで、別の世界の構造を知っているような、そんな感触がある」

(えっ、ちょっと待って、今のって……バレてる!?)

「……君は、面白い。
もしよければ、今度一緒に研究しないか?」

「……喜んで」

その瞬間、彼の瞳がわずかに細められた。
それは、微笑みに近いものだった。

(好感度、上がった……!)

図書塔の静寂。
魔法理論科の書架に囲まれ、私はノエル・アルベリッヒの隣に立っていた。
彼は今日も無言で本を読み、誰にも興味を示さない。
でも、私は知っている。
彼の好感度を上げるには、“理論では説明できない現象”を提示するのが一番だ。

だから、私は口を開いた。

「……実は、誰にも話してないんですが……」

ノエルの指がページをめくる途中で止まった。
私は、少しだけ声を落として続ける。

「乗馬の訓練中に、馬に蹴られてしまって……。
それ以来、時々……誰かの記憶が入り込んでる気がするんですの」

沈黙。
彼は、ゆっくりと顔を上げた。

「……記憶の混入?」

「ええ。夢の中で知らない人の人生を見たり、
魔力の流れが、以前とは違うように感じられたり……」

ノエルの瞳が、わずかに細められた。
それは、興味の兆しだった。

「……君の魔力は、確かに異質だ。
感情波動が不安定で、記憶干渉の痕跡がある。
だが、外傷由来の記憶混入は、理論上ありえない」

「……でも、起きてしまったんですの。
だから、私……自分が“誰か”じゃない気がして」

その言葉に、ノエルは本を閉じた。
そして、静かに言った。

「君を、観察したい」

「……え?」

「君の魔力構造、記憶の揺らぎ、感情波動。
それらを記録し、解析する価値がある。
君は、研究対象として……非常に興味深い」

(きた……!好感度+15、確定……!)

でも、彼の言葉は“冷たい”のではなかった。
それは、彼なりの“関心”の表現だった。

「……もし、君が協力してくれるなら。
僕は、君の“正体”を見つけてみたい」

「……喜んで。あなたになら、見つけてほしいですわ」

その瞬間、ノエルの瞳がわずかに揺れた。
それは、氷の表面に走る、最初のひびのようだった。

 
「では、次回の観察は火曜の第七講義後。
君の魔力波動を記録するには、安定した時間帯が望ましい」

 
ノエル・アルベリッヒは、いつも通り淡々と告げた。
その声は低く、静かで、どこか冷たい。
でも、私には分かる。
その“冷静”の中に、確かに“関心”がある。

(定期的に会う約束……これ、実質デートでは!?)

 
「……ええ、承知しました。火曜の第七講義後ですね」

 
令嬢らしく微笑みながら返す。
でも、内心では──

(無理無理無理、ノエル様の声、破壊力えぐい……!)

彼の声を担当しているのは、今人気急上昇中の声優・久遠律。
知的で冷静、でも時折見せる感情の揺らぎがファンの心を撃ち抜く“演技の魔術師”。

(その久遠さんの声で「君を観察したい」って言われたら、もう……語彙力死ぬよね!?)

しかも、ノエルは“君の魔力は異質だ”って言ってくれた。
それって、私だけに興味を持ってるってことじゃない?
この世界で、唯一無二の存在として見てくれてるってことじゃない?

(好感度+15どころか、+50くらい跳ねた気がする……!)

でも、令嬢としては優雅に振る舞う。
スカートの端を摘み、姿勢は崩さない。
語彙力が灰になっても、品位は保つ。

「……君の反応速度、前回より0.3秒早い。
感情波動の変化か、魔力の慣れか……興味深い」

(ちょっと待って、反応速度まで見られてる!?
それって、私の“ときめき”バレてる!?)

「……次回は、感情刺激を加えた状態での測定も試してみよう」

「……ええ。お好きなように、どうぞ」

(“感情刺激”って何!?それって、まさか、まさか──)

──でも、令嬢としては冷静に微笑む。
心臓が爆発しても、魔力は安定させる。
だって私は、雷属性研究者にも好かれる令嬢になるって決めたんだから。
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