FULUNAGAN

新妻泉子

文字の大きさ
1 / 9

トライアウト 1

しおりを挟む
日出る国。忍びの者、凌ぎを削る興行あり。名を『不忍しのばずリーグ』という。
 
 PM 17:00
 
 ランスはトライアウト会場に向かうバスに揺られながら、散々見返したPVをもう一度、携帯で眺めていた。

 『古長忍士団
 強く 清く 逞しく       
      皆んなおいでよ 古長へ』

 アメコミ調のアニメーションではあるが、明らかに金の掛かってない仕上がり。それには理由がある。この古長は毎年春先に行われるドラフト会議にて、指名されたにも関わらず、その場で入団を拒否されてしまうパターンが、もはや風物詩となっている人気も実力もない万年最下位のチームなのだ。それが祟り祟って、最低六人の定員を割ってしまい、急遽トライアウトを開催するという、何とも情けないニュースがネットを中心に拡散されたのである。

(ラストチャンス……だな)
 
 しかし、ランスにとって世間の評判など、よもやどうだってよかった。どんな形であれ、この国でプロの忍者になる事こそが、唯一の本懐なのだから。
 
 
 時は戦国。大名や領主が己に仕えている忍者同士を武術で競わせ、家臣に勝敗を賭けさせた裏賭博を『不忍の』と呼んでいた。徳川の世になると次第に大衆娯楽へと発展。幕府が正式に興行として認める事となる。日本各地に忍士団(※忍者のチーム)が作られ、その数は十。これこそが現在まで続く『不忍リーグ』の始まりである。
 世界的に知名度も高く、複数の大企業がスポンサーとなっているため、実力者は潤沢な報奨金を手に入れる事が出来た。その魅力に惹かれ、各国から志願者が続出し、今では国際色豊かなリーグとなっている。かくいうランスも一攫千金を夢見る男の一人なのだ。
 
 バスが会場近くの停車場に着き、ゆっくりとドアが開く。無論、確固たる自信を引っ提げ此処へやって来たわけだが、視界に入ってきた人間の多さに、思わずランスは面食らってしまった。

(これが全てプロ志望なのか)
 
 個性的な見た目な者もいれば、至極無個性な者もいる。大柄で筋骨隆々な女、視線が定まらない男。大道芸人や雑技団員のような人間までチラホラと。思わず飲んだ生唾の音が体内で反響する。皆一様に強者、曲者に見えて仕方がない。
 
「……あのう」

 背後から薄ら聴こえた声で、彼はようやく我にかえり、自分がバスの降車口で立ち止まっている事に気付いた。

「後ろがつかえてるんで、早く降りて下さい」
「あ、ああ。すまない」
 
 謝罪の為に振り返ったランスは目を疑う。そこに居たのは、忍び装束を纏った小柄で華奢きゃしゃな少女だった。

「君もトライアウトを?」
 
 驚きのあまり上ずった声の問いに、
 少女は「そうですけど」と一言答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...