コロニー

神楽 羊

文字の大きさ
5 / 20

第五話 本能

しおりを挟む
クリーチが大群を成してやって来たのだ。

 地獄はまだ続いている。
 
 襲撃に虚を突かれた仮面達は逃げ惑い異形を含め一斉に逃走を始めた。 ネンの首を持つ者も居る。 私達に仮面を撃退した余韻に浸る暇は無かった。こちらに向かって来ていた兵士達とクリーチとの戦闘がそのまま始まる。
 仮面との対峙とは違う確固たる殺意の銃声が響く。
 私とジンも照準を合わせてクリーチを狩っていく、クリーチが一頭こちらに襲いかかってきた。私達は一斉に銃撃する。絶命の声を上げクリーチが倒れる。 だがそれは陽動だった。背後から回り込んできた別のクリーチがジンの背後から襲いかかり左腕を鋭い歯で噛みついた。ジンが叫び声を上げながらそのまま反時計周りに勢いよく振り返るとクリーチの左目に右手の銃槍を突き刺した。クリーチは脳まで届いたであろう死の痛みに体勢を崩す。
 そのままジンは口の中に銃を突っ込み引き金を引く。私はそのクリーチの脳天を狙い何度も銃を撃った。
  撃ち抜かれたクリーチの身体から力が抜けジンは右足で口を蹴り上げ左手を抜いた。
 千切れかけた腕の出血が酷い。私は小屋の陰にジンを連れて行き近くに落ちていた枝で腕を固定するときつく包帯を巻いた。
「ジン少し待っていてくれ、助けを呼んでくる。」
 息も絶え絶えにジンが言う。
「すまない、下手打っちまった。クリーチに知能が無いってのは嘘だなハハハ…疲れた、少し休んでいるよ。」
 そう言うとジンは目を閉じた。
 すぐ戻ると呟き私は護り手達の方に駆けて行く。あいつらならクリーチを撃退しながらジンを保護室まで連れて行ってくれるだろうと思ったからだ。

  いつしか雨が降り始めた。

 逃げ惑う兵士達と仮面、漆黒の毛皮を纏い耳まで裂けた大きな口と鋭い爪で人間を襲うクリーチ、地獄があるというのならこの場所の事を言うのだろう。

 そんな大混乱の中、咽せる様な一陣の風が吹いた。
 赤目が人の目にも留まらぬ速さで暗闇と火炎の草原を跳ぶ様に翔ける。
 荒れ狂う暴風の様に人間を擦り抜け赤目は人智を超えた畏怖の象徴の様に見えた。



 赤目がニエの肩から脇腹にかけて大部分の肉と内臓を喰った。

 私はその一部始終を見ていた。瞬きする間の一瞬の出来事だった。

 不意を突かれニエのそばに居た護り手も若いクリーチに喰われている。
 私は銃を向けて赤目を狙ったが頭を振り続け喰いちぎったニエの内臓を貪る赤目に当てる事が出来なかった。
 その時ヨコが鬼の形相で赤目に走り寄り異質な短銃で赤目を撃ち抜いた。何度も、何度も何度も。
 赤目が呻いている。
 ニエが火傷を負っていなければ避けられたかもしれない、ヨコがもう少し早くニエの側に行けていれば、ただ全ては遅かった。

 私は近くの家屋の陰に身を隠し、銃を撃つ。血の臭いと衝撃と恐怖の中、こう確信せざるを得なかった。

 赤目は意志を持ってニエを狙った。

明らかに他のクリーチとは行動原理が違うのだ。
そうでなければあれだけ人間が居た中で脇目も振らずにじり寄りニエを狙った説明がつかない。
 他のクリーチは逃げ惑う仮面や兵士を無差別に追いかけ喰っているではないか。
 巨大な魔獣の赤い血で地面が染まる。あれだけの銃弾を受けてなお唸り声を上げてニエを見ている。何が赤目をそうまでさせるというのか私には分からなかった。

 赤目は最後の力を振り絞る様に闇へと走り去った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

元バリキャリ、マッチ売りの少女に転生する〜マッチは売るものではなく、買わせるものです

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【マッチが欲しい? すみません、完売しました】 バリキャリの私は得意先周りの最中に交通事故に遭ってしまった。次に目覚めた場所は隙間風が吹き込むような貧しい家の中だった。しかも目の前にはヤサグレた飲んだくれの中年男。そして男は私に言った。 「マッチを売るまで帰ってくるな!」 え? もしかしてここって……『マッチ売りの少女』の世界? マッチ売りの少女と言えば、最後に死んでしまう救いようがない話。死ぬなんて冗談じゃない! この世界で生き残るため、私は前世の知識を使ってマッチを売りさばく決意をした―― ※他サイトでも投稿中

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...