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いい加減だと言われても。
⒈
しおりを挟む『夏だったら、好きな人に嫌われていたらどうする?』
『まず相手がいるか確かめるかな。迷惑かけたら嫌だから。それで相手がいなければ、好きになってもらえるよう努力すると思うよ。』
向井さんを好きになってから、2年くらいが経つ。
だけど今までのわたしは、向井さんとどうなりたいとかどう思われたいとか、あまり考えていなかった。
「出来の悪い後輩」として嫌われているのが明らかだから、それ以上なんて考えられるわけもなかったのだ。
でも、夏の言葉を聞いて初めて、気づくことができた。
わたしはやっぱり、向井さんに振り向いてもらいたい。
そしてその前に、相手がいるかを確かめないといけないのだ。
「おはようございます!」
「おはよう。」
いつもの挨拶。
わたしは通常の出勤時間より1時間は早く職場にいるけれど、向井さんは大体もっと早く出勤している。
だから毎日のように2人きりになる時間はあるんだけど…気まずくて会話なんてほとんどない。
「無駄話する余裕あるのか?」なんて怒られるのが関の山だし。
だけど、今日はさりげなくチェックしようと思っていることがある。
それは向井さんの指に「結婚指輪」がはめられているかということ。
作業をしながらチラッとみた向井さんの薬指には、指輪はないみたいだ。
わたしは一瞬胸を撫で下ろしたけれど、まだまだ安心はできない。
料理を仕事にしている人の中には、衛生的に結婚指輪を外す人も多いから。
やっぱり見た目だけでは判断できなさそうだし、聞くしかなさそうだな…と思いながらも、ダイレクトに聞くのは躊躇われる。
考えに考えた結果、仕事に絡めた聞き方をしてみることに。
「向井さん、朝何時から来られてるんですか?毎日早いですよね…!」
「…その日によるけど。」
案の定、温かいとは言い難い返事が。
でも、返ってくるだけマシだと思う。
「わたしも早く起きたいんですけど、何か秘訣とかってありますか?」
ちょっと遠回しすぎるかもしれないけど、答えによっては誰かと一緒に暮らしているかどうか、判断できるかと思った。
でも…
「気持ちの問題じゃない?」
バッサリと切られてしまった。
むしろ、わたしに早く起きる気持ちが足りないとネガティブアピールをしただけかもしれない。
「そ、そうですよね…すみません。」
結局、奥さんがいるかどうかわからなかったし。
全く意味のないことをしてしまった、そう思った時。
「遮光カーテンを薄いのに変えたら、起きやすくなったけど。」
確かに向井さんがそう言った。
「そうなんですか!ありがとうございます!」
これで会話が終わってしまうかと思っていたから…思わぬ返答が返ってきて嬉しくなったわたし。
定型文みたいな返事しかできないくらいには興奮してしまっていた。
そして気分が高揚したせいで、こんなことまで。
「それって向井さんがご自分で考えたんですか?それとも奥さんとか…」
そこまで言って、ハッとした。
距離を詰めすぎてしまったかもしれない…。
向井さんからどんな反応が返ってくるのか、こないのか、怖くて目を見られなかった。
でも、返ってきた答えは意外とシンプルなものだった。
「俺、独身なんだけど。」
聞きたかった言葉を意外と簡単に聞くことができて、ホッとしたわたし。
顔を上げると、顔色を変えず作業している向井さん。
まぁ、向井さんは事実を口にしただけだから、顔色が変わらないのは当たり前か。
「つーか、早くやることやんないと、早く来た意味なくなるけど。」
ぼやっと立っているわたしに、向井さんがピシャリ。
いや、この言い方は向井さんにしては優しい方だろう。
「はいっ、すみません!」
とりあえずは向井さんが独身だとわかって、一安心だ。
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