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いい加減だと言われても。
⒋
しおりを挟む家に帰ってから、すぐに眠ってしまっていたようだった。
「うわー…すごい顔。」
泣きながら眠ってしまっていたのか、朝起きて目がパンパンに腫れているのに気づく。
幸い今日は休みだけど、明日になったら向井さんと顔を合わせないといけないのは変わらない。
向井さんにやめろって言われたの、何回目だろう。
数え切れないほど言われた気がするけど、やっぱりわたしはやめられない。
仕事も、好きな気持ちも。
ことごとく上手くいかないのは元々だし、やめろと言われてやめられるなら、もうとっくにやめているだろう。
やめられたら、楽なんだろうけど。
だけど今回は、ずずるずると同じ状況でいるのは、何か違う気がした。
自分の店を開くっていう夢を叶えるために今の職場にいるはずなのに、恋愛に夢中になって疎かになっていたのは否定できない。
そんなつもりはなかったけれど、いい加減だと思われても仕方ないのかもしれない。
向井さんから嫌われるからというのを抜きにしても、自分自身、今のわたしを好きになれない…そんな気持ちだ。
『わたし間違ってたかもしれない。夢があって今の仕事に就いたのに、最近好きな人のことばっかり考えて。こんないい加減な状態じゃあ、彼どころかわたしも自分を嫌いになってしまうかも。』
夏には、今の仕事のこととか、どこで暮らしているとか、パーソナルな事は話していない。
だからどこか抽象的な話し方になってしまうんだけど、それでも夏は寄り添って聞こうとしてくれる。
いい大人にもなって、誰かにこんなに洗いざらい悩みを零すなんて思わなかった。
夏からどんな返事がくるのか…予想はできなかったけど、どんな言葉であっても、勇気をもらえる気がした。
きっとわかりやすい道しるべを渡してくれるわけではないけれど。
そっと背中を押して、どんな選択をしても見守ってくれる、そんな気がしたんだ。
そして夕方、夏から返ってきた返事は…
『いい加減じゃないと思う、夢も恋愛も、どっちにも一生懸命だってことじゃないかな。』
やっぱりわたしの心を、まるごと包み込んでくれたのだ。
そうだった。
わたしは向井さんを好きになったからって、夢がどうでもよくなったわけじゃない。
むしろ好きになったからこそ、追いつきたい、認めてほしい、そう思うようになった。
素直に聞けなくて、詮索みたいな真似をして…方法は間違えてしまったけれど。
店を開くために仕事を頑張りたい気持ちも、向井さんを好きだと思う心も、いい加減だった瞬間なんてなかったんだ。
『わたし、まだ頑張ってみてもいいかな。』
『もちろん。白が決めることだよ。白が好きだと思える自分でいたら、きっと相手にも伝わるんじゃないかな。』
夏の言葉で、気がついた。
夢を追いかけることと、向井さんを好きだという気持ち。
それは別方向を向いているとばかり思っていた。
だけど本当はそうじゃなくて、わたしは夢に向かって頑張る自分が好き。
何回もへこたれるけど、その度に起き上がれる自分のことが好き。
そうやって自分の好きな自分でいたら、向井さんの前でも堂々と振る舞えるのかな。
そうしたら少しは、嫌いな後輩から抜け出せるのかな。
そんな望みがある限り、わたしは諦めないことにした。
夢も、好きな人のことも。
たとえ、いい加減だと言われても。
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