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第一章
12 戦闘
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道中いくつか教えてもらった。
まずこちらのお金事情。通貨は“トル”と言い、貨幣が5種類。銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨で、銅貨1枚が10トル。あとは10倍ごとで価値が上がり、大金貨になると1枚10万トル。一般的な宿屋で1泊するのに、だいたい50~100トルと言っていた。
俺無一文だけど大丈夫か!?と思ったらパティが王城から俺の分までお金を貰っていた。よかった。
そして荷物。みんなやけに身軽だと思ったら、魔法道具の鞄らしい。限度はあるものの生物以外は大きさ問わず入るようで、パティは斜め掛けの小さな鞄、サーラはウエストポーチがそうだった。食料や武器、採取した植物や倒した魔獣もそのまま入れても大丈夫で、中がどうなっているかは誰にも分からないとのこと。ちなみに中々の高級品なのでゼルは持っておらず、『剣と水があればなんとかなる!』らしい。
ついでにゼルは犬ではなくて狼の獣人だった。『尻尾も全然違うだろ!』とすごく主張していたけど、残念ながら俺には柴犬にしか見えない。
何度か休憩を取りテミスの村まであと少しという頃、周囲の空気がふと変わった気がした。
「サーラ!なんか来るぞ!」
ゼルが大剣を構えて呼びかける。
「分かってる!みんな注意して」
サーラもローブに隠れていた双剣を取り出し両手に構え、パティもいつのまにか先が輪になった長い木の杖を持っていた。俺も一応剣の柄に手をかける。
草のすれる音が聞こえてきて、だんだん大きくなる。そして目の前に現れたのは大きな緑色のワニ。全身が周囲の草と同じ色……というか背中から植物が生えている。大きく裂けた口に鋭い牙、体長は2メートルはあるだろうか。ワニなんてテレビでしか見たことがないが、それよりも脚が長い気がする。
「グラスカイマン!運が良いのか悪いのか……ゼル、あなたは二人の側に……」
「うおっしゃぁぁぁ!!」
サーラの話も聞かず、ゼルはワニを目掛けて飛び出していってしまった。
「ああもう!パティ、一応防御かけといて!」
サーラもゼルの後に続く。パティが「防御」と唱えると、体の周りに薄い膜が張られたように感じた。
「あれは魔獣……か?」
「あれはグラスカイマン。滅多に現れないこともあってランクBの魔獣とされています。岩も砕く顎の力、硬い皮膚を持ちますが……サーラさんに任せておけば大丈夫です!」
巨体に似合わずワニの動きは素早く、大きく口を開けて威嚇しながらゼルの剣を避け、隙をついて噛みつこうとしている。ゼルも上手くかわしているが、ワニの顎が閉じる『ガツン』という音が響き見ているこっちがヒヤヒヤする。
ゼルの剣がワニの胴をとらえたと思ったら、なんと剣が弾かれた。
「うおっ!?」
その隙を見逃さなかったワニの牙がゼルに届く瞬間、
「エアロストーム!」
風が勢いよく渦を作りワニの巨体を浮かす。その一瞬でサーラの双剣がワニの喉元を斬り裂き、動かなくなった。
「す、すごい……」
「はい!“疾風のサーラ”と言えばヴェルメリオの有名人です!」
さすがランクAの冒険者。“疾風”の名の通り、サーラは風と一体になったような流れる剣さばきで、まるで舞っているようだった。ゼルもあの大剣を持ちながら、その重さを感じさせない身軽さで……力の限り振り回しているだけにも見えたが。
「だから護衛だってことを忘れるなって言ったでしょ!それにあの戦い方は何!?もっと観察眼を身に付けなさいって何度も……」
ゼルがサーラにお説教を受けている。危機は去ったようでホッとしたように俺とパティは顔を見合せる。
その時、パティの後ろで何かがうごめいた。音もなく近づいてきたそれは、巨大な口を開けパティを狙っている。2匹いたのか!
「パティ!!」
俺はとっさにパティを押し退け剣を抜く。間近に迫る大顎をすんででかわし、喉元目掛け斬り上げようとしたその一瞬、俺はためらってしまった。
「速度低下!」
「エアロストーム!」
ワニの動きが鈍くなったと同時に風が巨体を浮かし、とどめを刺したのはゼルの大剣だった。
「アキラ!大丈夫!?」
サーラたちが駆け寄ってくる。
「……ああ、なんともない。パティも大丈夫だったか?」
「私は大丈夫です!アキラさんありがとうございます」
「にしてもアキラの動きもすごかったな!けどなんで剣を止めたんだ?」
「俺も……よく分からない。体が勝手に動いた気がして」
魔獣相手といえど、自然と斬りかかろうとした自分に驚いたんだ。
「もしかしたら、アキラさんには魂の記憶があるのかもしれませんね」
考えていた様子のパティが口を開いた。
「魂の記憶?」
「はい。私たちの魂は死後、神のもとへ行き新しい命を与えられ、その際まれに前世の記憶や力を引き継いだまま生まれる命もあると云われています。体が自然と動いたということは、アキラさんにもその記憶があるのかもしれませんね。あくまで可能性ですが……」
パティの言う通りならば、俺は前世で何かしらと戦っていたのだろうか。結局はっきりとした答えは出ないまま、俺たちはテミスの村へと先を急ぐのだった。
まずこちらのお金事情。通貨は“トル”と言い、貨幣が5種類。銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨で、銅貨1枚が10トル。あとは10倍ごとで価値が上がり、大金貨になると1枚10万トル。一般的な宿屋で1泊するのに、だいたい50~100トルと言っていた。
俺無一文だけど大丈夫か!?と思ったらパティが王城から俺の分までお金を貰っていた。よかった。
そして荷物。みんなやけに身軽だと思ったら、魔法道具の鞄らしい。限度はあるものの生物以外は大きさ問わず入るようで、パティは斜め掛けの小さな鞄、サーラはウエストポーチがそうだった。食料や武器、採取した植物や倒した魔獣もそのまま入れても大丈夫で、中がどうなっているかは誰にも分からないとのこと。ちなみに中々の高級品なのでゼルは持っておらず、『剣と水があればなんとかなる!』らしい。
ついでにゼルは犬ではなくて狼の獣人だった。『尻尾も全然違うだろ!』とすごく主張していたけど、残念ながら俺には柴犬にしか見えない。
何度か休憩を取りテミスの村まであと少しという頃、周囲の空気がふと変わった気がした。
「サーラ!なんか来るぞ!」
ゼルが大剣を構えて呼びかける。
「分かってる!みんな注意して」
サーラもローブに隠れていた双剣を取り出し両手に構え、パティもいつのまにか先が輪になった長い木の杖を持っていた。俺も一応剣の柄に手をかける。
草のすれる音が聞こえてきて、だんだん大きくなる。そして目の前に現れたのは大きな緑色のワニ。全身が周囲の草と同じ色……というか背中から植物が生えている。大きく裂けた口に鋭い牙、体長は2メートルはあるだろうか。ワニなんてテレビでしか見たことがないが、それよりも脚が長い気がする。
「グラスカイマン!運が良いのか悪いのか……ゼル、あなたは二人の側に……」
「うおっしゃぁぁぁ!!」
サーラの話も聞かず、ゼルはワニを目掛けて飛び出していってしまった。
「ああもう!パティ、一応防御かけといて!」
サーラもゼルの後に続く。パティが「防御」と唱えると、体の周りに薄い膜が張られたように感じた。
「あれは魔獣……か?」
「あれはグラスカイマン。滅多に現れないこともあってランクBの魔獣とされています。岩も砕く顎の力、硬い皮膚を持ちますが……サーラさんに任せておけば大丈夫です!」
巨体に似合わずワニの動きは素早く、大きく口を開けて威嚇しながらゼルの剣を避け、隙をついて噛みつこうとしている。ゼルも上手くかわしているが、ワニの顎が閉じる『ガツン』という音が響き見ているこっちがヒヤヒヤする。
ゼルの剣がワニの胴をとらえたと思ったら、なんと剣が弾かれた。
「うおっ!?」
その隙を見逃さなかったワニの牙がゼルに届く瞬間、
「エアロストーム!」
風が勢いよく渦を作りワニの巨体を浮かす。その一瞬でサーラの双剣がワニの喉元を斬り裂き、動かなくなった。
「す、すごい……」
「はい!“疾風のサーラ”と言えばヴェルメリオの有名人です!」
さすがランクAの冒険者。“疾風”の名の通り、サーラは風と一体になったような流れる剣さばきで、まるで舞っているようだった。ゼルもあの大剣を持ちながら、その重さを感じさせない身軽さで……力の限り振り回しているだけにも見えたが。
「だから護衛だってことを忘れるなって言ったでしょ!それにあの戦い方は何!?もっと観察眼を身に付けなさいって何度も……」
ゼルがサーラにお説教を受けている。危機は去ったようでホッとしたように俺とパティは顔を見合せる。
その時、パティの後ろで何かがうごめいた。音もなく近づいてきたそれは、巨大な口を開けパティを狙っている。2匹いたのか!
「パティ!!」
俺はとっさにパティを押し退け剣を抜く。間近に迫る大顎をすんででかわし、喉元目掛け斬り上げようとしたその一瞬、俺はためらってしまった。
「速度低下!」
「エアロストーム!」
ワニの動きが鈍くなったと同時に風が巨体を浮かし、とどめを刺したのはゼルの大剣だった。
「アキラ!大丈夫!?」
サーラたちが駆け寄ってくる。
「……ああ、なんともない。パティも大丈夫だったか?」
「私は大丈夫です!アキラさんありがとうございます」
「にしてもアキラの動きもすごかったな!けどなんで剣を止めたんだ?」
「俺も……よく分からない。体が勝手に動いた気がして」
魔獣相手といえど、自然と斬りかかろうとした自分に驚いたんだ。
「もしかしたら、アキラさんには魂の記憶があるのかもしれませんね」
考えていた様子のパティが口を開いた。
「魂の記憶?」
「はい。私たちの魂は死後、神のもとへ行き新しい命を与えられ、その際まれに前世の記憶や力を引き継いだまま生まれる命もあると云われています。体が自然と動いたということは、アキラさんにもその記憶があるのかもしれませんね。あくまで可能性ですが……」
パティの言う通りならば、俺は前世で何かしらと戦っていたのだろうか。結局はっきりとした答えは出ないまま、俺たちはテミスの村へと先を急ぐのだった。
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