私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

文字の大きさ
2 / 115

2 落ちた先は

しおりを挟む
>>
 マンデル大陸の歴史を語る上で、人と魔物との戦いは大きなテーマである。いや、むしろ戦いによって歴史が作られると言えるであろう。人間(ヒューマン)の立場から見た歴史では、常に人間側が善、魔物側が悪とされるが、実際は必ずしもそうであるとは言えない。また、魔物と呼ばれる存在の定義も曖昧であり、単に「人間を脅かす存在」として、野生の動物や所謂「亜人(デミ・ヒューマン)」も魔物とされることがある。人間でも魔物に分類され、魔人として歴史に名を残す者もいる。
 時に驚異的な力を持ち、その力によって戦争を終結させるような者が現れた場合、その者は「勇者」と言われる。まれには、その出処や戦後の行方が分からないことをもって、降臨した神であるとされている者もいるが、仔細は不明である。5963年に発生した大戦においては、人間側の勇者と女神が戦争を終結させたという記録がある。
     ―「マンデル大陸史」序章より―
>>

 「くっ…」

 俺は立ち上がろうとしたが、足に力が入らず膝をついてしまった。さっきまで一緒に戦っていた仲間も後ろで倒れている。少しでも動けるのは自分だけだ。しかし立ち上がるほどの力も残っていない。

 一週間ほど前に現れた魔女(ウィッチ)は、人を直接攻撃せず、建物や畑などを面白がって壊していくのが常だった。逃げ惑う村人を眺めるのが好きな悪趣味な奴だ。そのため、怪我人などは少なかったものの、被害を受けた人々は村を捨てて逃げるしかなかった。王都に助けを求めるべく使いを出したが、ここは辺境だ。王都からの兵が到着するのにはまだ大分掛かるだろう。それに、今の王がこんな村に兵を割いてくれるかどうかも分からなかった。
 ここは、大陸の端で小さな村が集まっている地方だ。この地方で、この村は逃げてきた人が集まる最後の村となった。最後の砦となった村で、もちろん村人たちは懸命に闘った。逃げてきた他の村人と力を合わせたが、だんだんと追い詰められていった。最後に冒険者や腕に自信のある者が魔女と対峙し、直接対決となった。村長の息子の俺もその一人だ。

 俺たちはかなり頑張ったと思う。それなりの腕のある冒険者もいたし、多少は魔法の使える奴もいた。俺も、剣の腕には自信があった。しかし、しかし…だ。

 「はあっ、はあっ。妾をここまで追い詰めるとは大したものよの。しかし、もう立てまい。後ろの者達と纏めてとどめを刺してくれるわ」

 魔女は魔法の詠唱を始めるが、息が上がっているのかつっかえつっかえだ。かなりダメージを受けている、あと一撃、あと一度でも攻撃できればきっと勝てる。しかし、もう動けるのは俺一人で、俺にはやっと立ち上がれるかどうかの力しか残っていない。

 くそー、神様はいないのか!

 「…きゃあああ」

 なんか変な悲鳴のような声が聞こえる。なんだこの声は?声に気付いた魔女が魔法の詠唱を中断する。俺は何とか立ち上がり、一撃を食らわせようと魔女を睨みつけた。そんな俺の目が捉えたのは、魔女の頭上かなりの高さから落ちてくる人間だった。女の子か?
 一瞬攻撃を忘れた俺が次の瞬間に見たのは、落ちてきた女の子の頭と魔女の頭が衝突する情景だった。

 『ゴイ~ン』

 という、かなり間抜けで派手な音がした。魔女はあっさりと倒れた。ピクリとも動かない。

**********

 きゃあ!と言ってどこかに落ちた感覚があったけど、せいぜい2階の高さで、まっさかさまに落ちた私はすぐに後頭部を何かにぶつけて、地面に転がった。頭が痛いだけでなく、パジャマのまま地面に投げ出されたので体中が痛い。しかし、2階の部屋から穴に落ちたのなら、1階の部屋のはずなのに、なぜ外?それに、もう遅いから寝ようと思っていたはずなのに、どう見ても真っ昼間。
 ここどこ?と周りを見回してから、眼鏡がなくなっていることに気付く。もう一度良く周りを見た私は、瓦礫の上にレンズが粉々に割れてフレームがひん曲がった眼鏡(であったもの)を見つけた。

 「ああー、買ったばかりだったのに!」

 と叫んでからやっと気が付く。私は今眼鏡をしていない。それなのに、何故こんなに良く周りが見えるのだろう。瓦礫の細かい石や砂粒まではっきりと、って瓦礫?ここどこ?
 もう一度周りを見回して、若い男の人と目が合う。私と同じぐらいの年齢だろうか。

 「お、おい、あんた…」

 初対面で「あんた」呼ばわり。見かけちょっとカッコいいと思っていたのだけど、残念ながら好感度がダウンした。

 「そ、それ…」

 今度は「それ」?と不審に思ったが、その男の人の指差す所、尻餅をついている私のすぐ横を見る。…なんか変なハロウィンの魔女みたいな恰好をした女の人が倒れてる。え?まさかさっき私はこの人にぶつかった?そういえば頭がガンガンする。いや、そんなことより。
 大丈夫ですか!?と声をかけて手を伸ばそうとした瞬間、その女の人の体はシュルシュルと(そんな音はしなかったが)萎んで、跡形もなく消えてしまった。後に残ったのは、魔女っぽい服ととんがり帽子と杖、それと赤い靴だけ。

 「え、えっと…」
 「スゲーよ!」

 私の疑問の声は、さっきの男の人に遮られた。

 「悪い魔女を倒すなんて!ここらの村はどこもこの魔女に襲われて、殆ど潰されちまったんだ。この村も魔物と戦えるような若い奴は俺を含めて何人もいないし、あと少しあんたが来てくれるのが遅かったら、俺も命がなかった。本当にスゲーな!っていうか、あんた何者?村で見たことがない。どこかから落ちてきたみたいに見えたけど、高い建物はみんな壊されてるしな。それにしても…」
 「…」

 口をはさむ暇がない。それに、魔女とか魔物とかなんか物騒な単語が聞こえてるけど。
 私はもう一度周りを見てみる。瓦礫の山。崩れた建物。これを、魔女とか魔物がやったっていうの?しかも建物は日本の家と違う、アニメに出てくる中世の田舎のようだ。それにしても頭が痛い…ここどこ?

 「おい、あんた大丈夫か?」
 「アイタタ…。ここどこ?」

 頭がズキズキする。そのまま意識がふっと遠のく。男の人が何かを言っているらしいが、口が動いてるのは見えても声は聞こえない。そのまま私は気を失った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...