私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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3 まさかの異世界

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 「ん…」

 薄暗い中目を覚ました私は、えーっとまだ金曜の夜だっけ。と、のろのろ考え、ハッと気づいて慌てて起き上がった。自分の部屋ではない。見回すと簡素なベッド。昨夜…かどうかもはっきりしないけど、変な穴に落ちて、いきなり見知らぬ場所にいた。いや、穴に落ちたんじゃない。落とされたのだ。変な穴に落とされて、その先は中世の田舎町みたいなところ。魔物と魔女がいて。
 …いや、ありえない。でも夢という感じではない。そうすると、何かの悪戯?私は人を騙して喜ぶ悪趣味なテレビ番組を思い出した。しかし、悪戯で気付かれずに変な穴を作ったり、一瞬で夜から昼間に変えたり、こんな場所を用意して気付かれずに連れて来たり、そんなことまでするだろうか、というかそもそもそんなこと可能だろうか?

 私がある悪い予感に思い当たったとき、部屋のドアがバーンと派手な音ともに開けられた。

 「お!気が付いたか!おーい、親父ー!」

 例の失礼な男の人だ。

 「大丈夫か?いやー、倒れたときはどうしようと思ったけどなぁ!」

 他人の肩をつかんでがくがくと揺さぶる。ちょ、ちょっと…。そのとき、後ろから新たに部屋に入ってきたちょっと年を取ったおじさん(親父さん?)が声を掛けた。

 「こら、アルス!何をしとるんじゃ!女神様に失礼があってはいかん」
 「「め、女神ぃ?」」

 私とアルスとかいうらしい失礼な男の人の声がダブった。失礼なアルスと親父さんは部屋の隅に行ってこそこそと話し始めた。

 「親父は、あのちっこい女の子が女神さまだっていうのか?そもそも、女神というのは妙齢の美女で、あんな浅い顔じゃなく、体だってもう少し凹凸があるんじゃないのか?」

 小声だがはっきり聞こえている。やはり失礼な内容っぽい。

 「アルス、天と地の間にはお前の哲学では思いも寄らない出来事が随分あるぞ」
 「何だよその名言っぽいセリフは」

 「空から降臨したのじゃろう?」
 「ただ落ちてきたみたいだったぞ」

 「魔女を倒したのじゃろう?」
 「たまたま頭がぶつかっただけみたいだったぞ」

 スゲーとか言ってた割には評価が低い。でもその通り。私は会話に割り込むことにした。

 「あの…」

 二人がいっせいに振り向く。ちょっと気圧されながら、

 「私は落ちてきただけで女神とかじゃありません。…あと、ここはどこですか?」

 そう私が言うと、親父さんは感激したように、

 「おお、やはり女神さまじゃったか…」

 と声を上げた。…話が通じていない。

 「あと、ここはマンデル大陸の東のはずれにある「アルヒコ村」ですじゃ」

 マンデル大陸、アルヒコ村…。聞いたことがあるような気もするけど、少なくとも世界地図にはなかったと思う。

 「空の上にあるのが天界、地面の下にあるのが魔界。空から落ち…降臨してきたあなたは、女神に間違いないですじゃ」
 「…」

 やっぱりここって…。私の顔はたぶん真っ青。

 「おい親父、あの娘様子が…」
 「ううむ、どうやら女神様は記憶喪失のようだ」

 「はあ?…いや、そういえば様子が変だし」
 「落ちてきた、もとい降臨のショックじゃろう。過去に降臨された女神さまにも同じようなことがあったという話があるぞ」

 「親父、今『落ちてきた』って…。やっぱり頭を強く打ったのがいけなかったのか…」

 なおもこそこそと色々と話している二人の声は、あまり耳に入って来なかった。

 とにかく今夜はゆっくりと休んで、と二人が出て行ってからも、この状況が悪い冗談であってほしいと、私はどこかでまだ思っていた。溜息をつきながらベッドを出て窓を開ける。窓は木製の扉のような形で外に開くようになっていて、ガラスはない。夜にしては明るいと思った私は、窓を開けて夜空を見上げた。その目に今の状況が悪い冗談ではなく、最悪の現実だという証拠が飛び込んできた。夜空を照らしていたのは私の見慣れている月ではなく、青く土星のような輪を持った大きな星だったのだ。

 私はのろのろと歩いて、ベッドに戻って腰かける。ここはやはり異世界で、魔女や魔物がいて、おそらく魔王もいて、さらにたぶん女神も実在するような世界のようだ。本好きな私はそういうお話もたくさん読んでいる。異世界転生、いや召喚モノか。しかし、それらを思い浮かべてみても、自分がそういう状況に置かれた時に、役立つような話はなかった気がする。まあ当然だけど。
 大体、そういうのは大抵異世界に行く前に、それこそ神様から説明を受けて、さらに困らないように特殊能力かなにか与えてくれるのが王道パターンだ。その特殊能力で、敵をバッタバッタと倒し、異性にモテモテ…みたいな。もしそんな能力が与えられていれば、「そうです、私が戦女神(ワルキューレ)です!」なんて言えるのだけど。残念ながら、力が強くなったような気はしない。目をつぶって考えてみても魔法の呪文が浮かんでくることも、特殊能力の使い方を教える声が聞こえてくることもない。一つあるとすれば、何故か近視が治っていることだけど、どう考えても魔王と戦えるような能力ではない。
 そう考えて、もう一度自分がこの異世界に落ちてきたことのことを思い出してみる。突然落とし穴を作り、落ちないとみると舌打ちをし、さらに穴に突き落とす。…神様のすることではない。あれが召喚者だとすると、サービスが悪いのも納得できるというものだ。
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