私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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11 風魔法

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 「…思ったよりも遅くて、森から中々出てこないな」
 「結構、木が邪魔になっている感じだったからな」
 「…もしかしたら、ワイバーンの動きの鈍る森の中で戦った方が良かったのでは…」

 アルスとイルダの話にフレアが突っ込むと、全員が顔を見合わせる。…そんな気がする。

 「…ほら、あれだ、俺たちだって開けたところの方が動きやすいし」
 「…そ、そうだよ。ユーカの魔法だって、こういうところの方が良いだろ?」

 …絶対、考えてなかった。…と思う。

 「と、とにかく、フレアがシールドを張って、その陰から適宜俺とイルダが剣で攻撃、ユーカは隙を見て魔法を使うということで。ウルフンさんは、近接用の斧じゃきついから、後ろから矢で援護してくれ」
 「シールドを『張る』?」

 ウルフンさんの疑問にフレアが微笑んでうなずく。

 「い、いや、しかし…」
 「来たぞ!」

 やっと出てきた。あまり動きが速くないのなら、早いうちに剣で…。と、思っていた瞬間、ワイバーンは飛び上がったかと思うと、高速で突っ込んできた!

 「どっせい!」
 「…シールド!」

 突っ込んできたワイバーンを、掛け声とともにイルダが剣を持った両腕で受け止めた。少し吹っ飛ばされているけど、それはワイバーンも同じ。ワイバーンはそれでもひるまず、体を反転すると素早く尻尾で攻撃してきたけど、それはフレアの張ったシールドで弾かれた。
 ワイバーンは距離を取って飛んでいる。

 「ワイバーンと力で拮抗するとは…。それにこの『シールド』は…」
 「イルダの馬鹿力を馬鹿にしちゃいけないぜ。フレアの魔法もな」
 「馬鹿力って言うな」

 ウルフンさんの言葉に得意そうに答えたアルス、突っ込むイルダ。

 「それより、あんなに素早く飛びまわれたのでは、剣で攻撃するのは難しいのでは」

 フレアが言う。確かに。やっぱり森の中で戦うべきだったかも。

 「大丈夫。地面にいるときは後ろの森を気にしなけりゃならなかったけど、空にいればそんな必要ないだろ」
 「ああ、なるほど」

 と、皆が私を見てくる。え?

 「空に向かって撃てば、山火事の心配もないってな。さ、やっちゃってくれ」

 アルスが言う。えー、…と嫌がってもしょうがない。私は小さく溜息を吐くと、魔力をイメージした。体の中で、ぞわりと何かが動くような感覚。その力がいくらでも大きくなろうとするのを抑え込み、シールドの陰からちょこっと顔と手を出す。

 「…ファイアー」

 手から勢い良く炎が噴き出す。

 「おお!」

 ウルフンさんが感嘆の声を上げる。炎はワイバーンにまっすぐ伸びて行って、そして外れた。

 「…おい」

 炎を出したまま手を動かすけど、ワイバーンの動きが速くて当たらない。わずらわしそうに地面に降り立ったのを見て、私はファイアーを止めた。嫌な沈黙が降りた。

 「…そ、そうだ。フレア、前に使っていた『スロウ』とかいう魔法は?あいつの動きを止められれば…」
 「すみません、この距離で、しかも相手があれだけ大きいと『スロウ』は無理かと。それよりユウカさん…」
 「おい、なんか来るぞ!」

 アルスとフレアをイルダが遮る。ワイバーンは再び飛び上がって近づいてくると、着地した途端に口を開いた。

 「ンゲロゲロゲロ…」

 思いがけない情けない声で脱力しそうになったけど、その口から何かが吐き出されて私達の方へ飛んできたので、慌ててシールドの陰に隠れる。
 いや、普通は火炎とか怪光線を吐くものじゃないかと思うのだけど、どう見てもゲ○にしか見えない。しかも毒々しい黄緑色。

 「…ふぇぇ」
 「うええぇ」
 「…しかし、これはまずいの」

 私やイルダが気持ち悪がっているだけの間に、ウルフンさんはちゃんと観察していた。

 「周りを見てくれ。あのゲ…良く分からない液体が掛かったところの草が枯れている」

 確かに草はみるみる茶色に変色していて、ゲ…良く分からない液体と共に異臭を放っている。酷い刺激臭だ。良く見ると地面の土や石も溶けているようで、泡が出ている。酸の類かも。

 「触れると剣でも溶けそうだし、そもそもわしらの体も危ない。周りをこの液で囲まれるようなことになったら詰むぞ」
 「ユーカの魔法で焼き払うというのは?」
 「刺激臭の煙が出て却ってまずいことになるだろうな」
 「絶体絶命じゃんか!」

 「…ユウカさん」

 皆の議論を遮ってフレアが言う。

 「先程も言おうと思ったのですが、火魔法以外の魔法は使えませんか?例えば風魔法でこの液体と刺激臭を吹き飛ばすとか、水魔法で洗い流すとか」
 「なるほど」

 イルダは感心するけど、初めてファイアーを使ってから、水魔法のアクアも、風魔法のウェンなんとかも、フレアに聞いて色々やってみたけど結局使えなかったし…。

 「一般的な『イグニス』は使えなかったけど、『ファイアー』が使えたでしょう?『ウェントゥス』が使えなくても、ユウカさん独自の風魔法が使えるはずです」

 ああ、『ウェンなんとか』じゃなくて『ウェントゥス』か。…じゃなくて、確かにそうだった。実際今でも『イグニス』は使えないのだし。…やってみるしかないか。

 風、風。風をイメージして、ファイアーのときのように魔力を…。深呼吸して、刺激臭に咳き込む。早くしないと。風、風、魔力、魔力…。
 体の中で、ぞわりと何かが動くような感覚。しかし、ファイアーと微妙に異なるような?そう、イメージと魔力の動き方が違う。これは、イメージと魔力との共鳴。フレアが言っていた、「音を込める」と。そうか、火と風では魔力と共鳴する「音」が違う。周波数みたいなもの?火がFの音なら風はG。共鳴をだんだん大きくして…。

 背後からゆっくりと吹き始めたそよ風が、やがて強風になった。漂っていた刺激臭は薄れ、ワイバーンのゲ…は風に吹き戻されてワイバーン自身に降り注ぐ。ワイバーンがイラついた鳴き声を上げる。

 「ユーカ!」

 私はアルスの声に魔力の「音」を弱くした。

 「…う、ウインド(wind)?」
 「何で疑問形なんだよ…。しかも魔法を使った後で名前を言ってるし。でも、やったな」

 ワイバーンは風のせいかかなり後退して、しきりに顔を拭っている。ああ、ゲ○が自分の顔に掛かっちゃったのか。

 「これでゲロ攻撃は大丈夫だが、こっちの攻撃はどうする?」

 ああ、アルス、はっきりと「ゲロ」って言っちゃった。それはともかく、試してみたいことがある。

 「ちょっと試させて」

 言って、イメージを思い浮かべる。そう、イメージを思い浮かべて魔力と共鳴させれば魔法が使えるのなら。魔法使いの冒険物語だってたくさん読んだことがあるのだから。

 「えっと、ウインドカッター」

 空気を刃の形に圧縮して飛ばす攻撃呪文、だったっけ。スピードも速く、見えないから避けられないはず。

 「…?何も…」

 イルダが疑問の声を上げた一瞬後、ゴンという音がしてワイバーンの顔ががくんとのけぞった。体や羽にも当たったらしく、後ろ向きにズンという音と共にばったりと倒れる。
 …うーん、イメージではスパスパと切れるはずだったのだけど、空気の圧縮が足りなかったのかしら。これじゃあ「カッター」じゃないし。

 「な、何をしたのか」
 「えっと、空気を固めてぶつけてみました」

 切るつもりだったとは言わない。ウルフンさんは目を見張った。

 「良く分からないけど、倒したってことでいい?」
 「用心しながら近づいてみようか。いずれにせよ止めは刺さなけりゃならないし」

 イルダとアルスの言葉に頷くと、皆でそろそろと倒れたワイバーンに近づく。両側から近づいて恐る恐る顔を覗き込むと、またピリピリする感じがした、

 「まだ!」

 このピリピリとした感じは、さっき上からいきなりワイバーンが降りてきたときに感じたのと同じ、危険信号。
 ワイバーンのこちらを向いた口から出る液体を女神の剣を楯に変形させて受け止める。フレアは攻撃しようとしてきた尻尾を、シールドで受け止めたようだ。一瞬後、ウルフンさんの矢がワイバーンの目を射抜き、アルスとイルダの剣が首を両側から刺していた。

 「ふいー、往生際の悪い」
 「いや、しかし何もしなかったことにならなくて良かった」
 「確かに」

 アルスが額の汗を拭いつつ言うと、ウルフンさんとイルダが答える。

 「さてと、これだけ大きいと、解体は大変だな。肉は美味いという話だが」

 うぇぇ。

 「討伐部位だけで…」

 と言っていたら、ポンという大きな音と共に、ワイバーンの姿は消えて、魔石が残った。

 「ああ、肉が…」

 いや、要らないんで。
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