私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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36 迷宮入口

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 「む、無駄って…」
 「あー、ゴメンゴメン、『無駄遣い』って意味よ。もっと魔力を使わなくて効果的な魔法があると思うのよ」
 「例えば?」
 「あたいなら、火の玉を複数作るか、矢にして飛ばすよ。その方が作る火が少ないから魔力はずっと少なくて済むし、効果も大きい」
 「なるほどー」
 「でも、アレだけの大きな炎を出して魔力切れの心配もなければ、かまわないのかねえ。あー、苦労して色々な魔法を作ってきたのに、あたいの方が無駄な努力だった気がしてきて自信なくすわー」

 「いやいや、そんなことないって。ユーカのファイアーじゃ一方向にしか撃てないし、スピードもない。実際、ワイバーンには当たらなかったし。複数の火球や火矢が飛ばせる方が便利だろ」

 アルスが言う。

 「そうだな。それに…。ユーカは迷宮内では、むやみに魔法使うの禁止ね」

 イルダが言うとみんなが頷く。えー。

 「あんなのをぶっ放されて、天井が崩れたら僕ら全員生き埋めだよ。広い所以外では控えてね」

 ザクルさんが苦笑いしながら言う。

 「ユーカさんはまず魔力の制御が出来るようにならないと」
 「練習はしてるんだけど…」
 「うらやましい悩みだねえ」

 フレアに突っ込まれて溜め息を吐くと、シオンさんが笑って言う。

 「シオンさんは火の他にどんな系統の魔法が使えるんですか?」
 「殆ど火専門。光の魔力属性も高いけど、光じゃ攻撃に使えないからねえ」
 「光?光の魔法もあるの?」
 「何言ってんの。生活魔法に『ルーメン』があるんだから当然じゃん」

 あー、何故か火・風・水・土の4つしか頭になかった。四大元素のイメージがあったからかも。うーん、光ねえ。結構使い道がありそうな気もするけど。

 「僕はアルスの剣術にも興味があるんだけどね。このパーティーにいるんだから相当なんだろ?」
 「なんだよいきなり」

 ザクルさんの言葉にアルスが返す。

 「いやほら、僕ってエルフの癖に魔法が苦手だからさ、色々あったのよ。それで、飽きっぽいといわれるエルフにしては珍しく剣の腕をあげようと思ったわけ。人間よりは寿命が長いから、真剣にやれば強くなれると思ったんだよね」

 なるほど。種族的に飽きっぽいってのは初めて聞いたけど。

 「それで、今噂のパーティーの剣士ともなればさ。オクトーで魔物を倒したときの必殺技とかも聞いてるし。そりゃあ一度手合わせしてみたいと思うじゃない?」

 「あー。まあ別に模擬戦ぐらいならいつでも良いけど。でも何で俺?イルダも強いし、ユーカもあまり剣は使わないけどかなり行けると思うぜ」
 「いや、イルダ嬢の大剣やユーカ嬢の剣にも興味はあるんだけどね。でも僕の剣と『噛み合う』のは君の剣だろ?」
 「まあそうかな。そういえば、お前は弓もやるんだろ?」
 「ああ、まあ弓も結構自信があるけど、エルフでは普通だからね…」

**********

 「おっとここだ。木に目印を付けておいたんだ」

 と、サイラスさんに続いて街道横の森に入ると、迷宮の入り口はすぐだった。これでは迷宮から魔物が出てきたら、街道にも出るだろう。

 「本当にすぐなんだね」
 「あ?ザクルは知ってたんじゃなかったっけ?」
 「いやいや、僕は君やイルダと一緒で、たまたま街道に出ていたときに、サイラスにつかまって、そのまま無理やりトレンタの町に引っ張っていかれたんじゃないか」
 「あー、そうだったよな。『俺達の仲間が見張ってるから問題ない』とか言っちゃって。こんなに近ければ、見に戻っても良かったのに」
 「いや、焦って急いでたからな。俺らだけでギルドに説明したり、フレアの嬢ちゃんたちを呼んできたりするのは大変そうだったし」

 ザクルさんとアルスの文句に、サイラスさんが弁解する。

 「それよりお仲間は?誰もいないじゃないか」

 周りを見廻しながらイルダが言う。

 「テントで寝ていらっしゃるのでしょうか」
 「いやいや、こんな時間に。それに一人は休んでいても、少なくとももう一人は外に出て見張りをしてなくちゃいけない。ったく、サボってんのか、あいつら…おい、お前ら!」

 フレアにちょっと呆れ気味に言われて、サイラスさんはテントに向かいながら声を上げた。そこらの木を使ったと思われる簡易的なものだ。前に焚き火の跡も見える。確かに、私達が外でこんなに騒いでるのに、寝ていてテントから出てこないなんて、見張りとして駄目っぽい。
 私は、恐る恐る迷宮の入り口(実際はただの丸い縦穴)に近づいて覗き込んだ。本当にまん丸だ…でも、…何これ。

 「テントの中にもいないぞ…サボるような奴らじゃないんだが」
 「何かあったんじゃないか?」
 「あったって何が?」

 皆の声を聞きながら、私はまだ迷宮の入り口を見ていた。

 「ねえ」

 私の声に、皆が一斉に振り向く。

 「これって普通なの?」
 「これ?…はあ?何で…」

 近づいてきたアルスが、私の指の先を見て間抜けな声を出した。近づいてきた他の人も、同じところを見て驚いた様子だ。

 「私の目がおかしいのじゃなければ、これって階段に見えるんだけど」
 「僕の目にもそう見えるね」

 「おい、サイラス、どういうことだよ」
 「い、いや、昨日見たときにはこんなものはなかったんだよ。さっきも言ったろ?ちょっと登ってこれるような取っ掛かりはあったけど、そこは残った奴らが崩すって」
 「階段作ってどうする!」
 「だから知らねぇって!」
 「落ち着いてください!」

 のんびりと穴を見ている私とザクルさんの後ろで、言い合いを始めたアルスとサイラスさんを、フレアが止めた。

 「シオンさん、確かに昨日は階段はなかったのですね?」
 「な、なかったわよぅ。でも一晩でこんな階段を作るなんて、いったいどうやって…」

 「シオンさんたちの仰っているのが本当だとしますと、見張りに残ったはずの二人がいらっしゃらない理由も見当が付きますね」
 「…階段が出来て魔物がたくさん出てきて、入り口では対応しきれず、逃げた魔物を森に追って行った?」
 「か、見るからに怪しいので、迷宮の中を調べに行ったか」
 「…後のはないと思いたいが…。二人で調査が出来ると思ってれば、昨日の時点で俺達4人で入ってるしな」

 私とイルダの意見に、サイラスさんが答える。

 「…といっても万が一ってこともある。すぐに中を調べたいところだな」
 「反対だな。それは危険なのではないか?」
 「いかにも怪しすぎる状況だしな、もう一度準備を整えたいって理屈は分かるぜ。でも、俺にとってはパーティーの仲間なんだ。俺とシオンだけでも行くぜ」
 「ああ、なら予定通り皆で入ろう」

 あっさり前言を翻すイルダ。

 「良いのかよ?」
 「イルダ嬢は試しただけだよ。階段のことにしろ、君らを疑いたいところはあるけど、君らが何かの理由で僕らを迷宮に引き入れたがっているとすれば、一緒に行こうと言うだろう。でも君はそうしなかった。逆に僕たちに迷宮に入ってもらいたくない場合は、昨日さっさと自分達だけで入れば良い話だ。いずれにしろ、君らが何か嘘を付いて騙したりはしてないと考えられるってこと」

 なるほどー、さすがザクルさん。そういえば、そもそも階段のことも嘘をいう必要がない。階段もあるような異常な入り口を持った迷宮、とギルドで最初から話しても、今と同じように私達がここに来ることになっただろうし。


 「これで良し」

 三脚の先に大きな魔石が付いたような良く分からないものを設置して、サイラスさんが言った。

 「それで、周りに魔法陣を描く、と」

 ただの円に見えるけど。

 「で、魔石に魔力を込めて起動する。これで、転送石を地面に叩き付けて割ると、そこに魔法陣が開いてそこの魔法陣の中にあるものがこっちの魔法陣の中に転送される」
 「何て便利な…。じゃあもしかして、これを立てておけば、遠くの国とかにも移動できるってこと?」
 「いや、距離と転送する範囲がちょっと大きくなっただけで、転送石に込める魔力がすごく必要になるんだよ。隣の町とかでも無理だな」
 「ユーカの魔力に耐えられる転送石があれば分からないけどね」

 アルスに転送石のことを聞いているとイルダが言ってきた。うーん、門かドアみたいな形にして、緊急時に別の都市に移動、とか国レベルだと便利そうだけど。今度、王様に言ってみようかしら。

 「それと、これを立てておいても駄目なんだ。大事なのは今描いた魔法陣の方で、これもこの魔石に、予め込められていた魔力によって使用時間が決まるのさ。普通は一日がやっとだな」

 アルスが言う。そういえば、サイラスさんの描いた円、もとい魔法陣は淡く光っているようだ。

 「魔方陣に半分引っ掛かって体の半分だけ転送されちゃったり、転送先で物同士が重なっちゃったり、そういうことは起こらないのかしら」
 「怖い事言うなよ。そうならないように作ってあるんだろ」

 そうならないようなイメージが込めてあるってこと?いまいち良く分からないな…。
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