私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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39 迷宮での戦い2(決着)

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 振り向く間もなく、私の頭を掠めて飛んでいった何かがモーザの片方の目に刺さった。魔法のではなく普通の矢?しかし危ないなあ。私の頭に当たるかと思った。

 「ギャアアァ!…キサマ、な、何故…ガッ」

 もう一本の矢がモーザの舌を射た。弓を構えているのはザクルさん。それにしてもすごい腕だ。

 「何故って、シオン嬢が看病してくれたおかげで目が覚めたからだよ。動きを止めて口を開けてくれて助かったよ。みんな済まない。気絶していた上に、迷宮の中では使わないかと思って、弦を張ってなかったから、張りなおすのに時間が掛かった」
 「あたいはポーションをぶっ掛けただけだけどね!」
 「ザクルさん…」
 「みんな!目と口の中なら刃も通るはずだよ!」

 「させるもの…ぐワぅ」
 「あたいも何もしないわけにはいかないからね!」

 シオンさんの無詠唱の火矢、いや『ほのおのや~』がモーザの残ったもう一つの目に刺さった。

 「良くやった!」

 イルダは叫ぶと、ものすごい勢いでモーザを連打した。その勢いに圧された私は、ちょっと遠慮気味になってしまったけど、しっかりとモーザに攻撃する。両目が見えなくなり、舌に刺さった矢のせいで息も苦しそうなモーザは、今までのように攻撃を避けることが出来ない。

 「ぐふぅ、おのれラ…」
 「止めはお前が刺せ、サイラス!」

 叫んだイルダは、モーザの腹を下から思い切り叩き上げた。堪らず大きく口を開けるモーザ。そこに向かってサイラスさんが槍を振り上げた。

 「犬っころ!ハルツとカリーナの敵だ!」

 最後の抵抗とばかりに、モーザは弱々しい火を吐くが、サイラスさんは腕が焼けるのも構わず、思い切り槍を口の中に突っ込んだ。

 どう、と倒れたモーザを、私達はゼエゼエと無言で息を吐いて見下ろしていたが、やがて、ポンという大きな音とともにその体が消え、大きな魔石だけが残った。サイラスさんは膝を突き、イルダと私は尻餅をついて座り込んだ。アルスは座り込まなかったものの、剣で体を支えて大きく息を吐いている。

 「みなさん!」

 後ろにいたフレアたちが駆け寄ってくる。フレアは特に重点的にイルダとサイラスさんにヒールを掛けて、

 「無茶しすぎですよ」

 と、やさしく言った。

 「本当に済まない。最初に昏倒して力になれなくて」
 「いや、最後の方はお前のお蔭だよ」

 頭を下げるザクルにアルスが言う。

 「さて…」

 アルスが言うと、皆が黙って頷く。前方の岩壁の横に階段を見つけた私達は、サイラスさんの仲間が倒れている所に登って行った。

 フレアが駆け寄ると、左右に首を振り、小さく息を吐いて跪く。そして祈るように手を合わせた。

 「うっ、うっ、すまねえ、俺が、俺がお前らに残れなんて言わなけりゃあ…」
 「サイラス…」

 号泣するサイラスさんにそっと寄り添うシオンさん、シオンさんの目からも涙があふれている。残りの皆も、黙って俯くことしか出来ない。

 「サイラスさん…」
 「うん、ああ、せめて安らかに天国へ行けるように祈ってやってくれ…うぅっ」

 フレアが声を掛けると、サイラスさんは無理やり笑うように言った。私やイルダも涙を堪えて横を向く。

 「いえ、あの…お二人は眠っていらっしゃるだけです。キュアオールを掛けたいのですがよろしいですか?」

**********

 「あれはないわー」
 「そもそも、フレアが首を振って跪いて祈り始めるから、もう間違いないと思ったよなあ」
 「いや、あの、神聖魔法は、神の名の下に神の力を借りて行使する魔法ですから、無詠唱でない場合、呪文は神様への呼びかけなのですよ。それは跪いて祈らないと…」
 「そういえば、エルフの精霊魔法も精霊の力を借りるものだから、普通は詠唱が絶対に必要だね。僕は使えないけど。呼びかけがいらないほど心が通じていれば無詠唱でも出来るのかな」
 「ちょっと待ってよ。フレアの神様ってのは女神様なんでしょ?だったら…」

 シオンさんの言葉に皆が一斉に私を見る。え?私は別に何もしていない。…と思う。

 「あ、あのその女神の件は…」
 「分かってるって。訳ありなんだろ?秘密ってことで。何か俺らの助けが必要なときには呼んでくれ。一緒に戦うだけで自慢できる」

 私が慌てて言うと、サイラスさんが笑った。

 「次は今回寝てた二人も活躍するからよ。な、ハルツ、カリーナ」
 「面目ない」
 「まったくです」
 「まあ、正直この二人は盗賊と斥候兼ポーターだからな。今回は運が悪かった。いや、それで見逃されたのは運が良かったかな?…それと、ハルツ、お前は寝相の悪さを治せ」
 「な!」
 「お前が力尽きて前のめりに倒れたみたいな格好で寝ていたのが、そもそもいけない」
 「勘弁してくれよー」


 「お待たせしましたね」

 私達が談笑していると、ケヴェスンさんとアズノールさんが入ってきた。ここは迷宮に行く前にも皆で集まった、ギルドの会議室だ。今回の依頼は、結果としても色々普通じゃなかったので、報告も特別にギルドマスターと副長にする必要があったというわけだ。


 「…というわけで、これがその魔物の魔石だ。今回の迷宮に関しては、これが迷宮核とも言えるな」
 「…分かりました。依頼は全て達成したと認め、この魔石の件も含めて、報酬も上乗せしましょう」

 サイラスさんの説明に、ケヴェスンさんがギルドマスターとして依頼の完了を認める。

 「しかし、問題はこれからですね…」
 「ああ、やはり魔物の活性化と魔将の復活。たまたまとか言うことじゃないようだな…。しかし、目的は何なんだ?何で、一々順々に魔将が出て来るんだ?侵略が目的なら、纏めて来るのが普通だろ?」
 「魔将達の仲が良くないのかもしれないね」

 ケヴェスンさんとアズノールさんの問いに、ザクルさんが混ぜっ返すけど、誰も答えは持ち合わせていない。

 「まあ、国の上の方にも報告するとして、あとは魔物たちの動き待ちでしょうか。皆さん、お疲れでしょう。今日はもうゆっくり休んでください。報酬は二、三日中に用意します」
 「あれ、すぐに貰えないんだ」
 「まさか当日中に片付けてくるとは思わないじゃないですか」

 ザクルさんが意外そうに言うと、ケヴェスンさんが苦笑する。

 「といっても疲れてないんだよなぁ。フレアの『キュアオール』でいつもより調子が良いくらいだ」

 アルスが言う。戦いの後のヒールだけなら、精神的な疲れは残っていたかもしれないけど、ハルツさんとカリーナさんへキュアオールを掛けたとき、全員が魔法陣の中にいたし。

 「…そうだ、ザクル、朝言ってた模擬戦、今からやらないか?」
 「あ、良いね。あたしも興味がある」
 「あたいも~」

 皆でぞろぞろと立ち上がる。

 「やれやれ、皆さん元気ですね」

 ケヴェスンさんは少々呆れ気味に苦笑した。

 「ケヴェスンさん達も見学なさいませんか?」
 「私達はギルドの仕事を…」
 「…いえ、是非」

 誘いを断ろうとしたケヴェスンさんに、フレアは軽く目配せした。イルダも小さく頷く。やっぱり気付いていたか。ケヴェスンさんとアズノールさんも、その意味に気付いて、黙って頷いた。
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