私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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40 アルスとザクルの戦い

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 模擬戦には、ギルドの裏にある修練場でやるようで、ぞろぞろと続く。

 「何だ、皆来たのかよ」
 「いやあ、興味がありますからね」

 アルスが言うと、ケヴェスンさんが笑った。

 「それじゃあ早速…」

 アルスとザクルさんが同時に剣を抜く。

 「おいおい、模擬剣じゃなくて良いのかよ」
 「これだけの相手に、自分の得物じゃないともったいないからな。まあ、怪我をしてもフレアがいるから大丈夫だろ。尤も、俺の方は怪我をするつもりはないがな」
 「僕もだよ」

 サイラスさんに、アルスとザクルさんが当然のように言う。

 「じゃあ…」
 「…行くぞ!」

 アルスが一気に間合いを詰めて、猛烈な速さで剣を振り下ろす。その一撃はザクルさんの剣によって受け止められる。ザクルさんは踏み込んで押し込み、弾き飛ばす。アルスはすぐ踏み止まり、すぐに追ってくる胴への一撃を受け止める。お互いに、敢えて最初の一太刀を受け、剣撃の速さと強さを確かめたというところか。
 剣同士が目まぐるしく閃くと、二人の間で激しい金属音が鳴る。弾かれた思った瞬間、それが切り返される。二人の戦闘スタイルはまったく同じだ。素早い体術と目にも留まらない剣撃。これが「噛み合う相手」の意味?

 「これは…」
 「すごいですね」
 「俺の槍で捉えられるか?」

 皆感心して見ている。サイラスさんだけはちょっと見るところが違うみたいだけど。

 ザクルさんがアルスの剣を受け流して踏み込むと、そのまま切り上げる。アルスはそれに逆らわずに、体をわずかに捻るだけで避け、そのままザクルさんの背中に向けて剣撃を出した。それをザクルさんはまったく見ることもなく、背中で剣を回すことで弾いて見せた。そのまま正面を向いて振り出したザクルさんの剣を、アルスは後方に宙返りして避ける。宙返りの途中をザクルさんの剣が追うが、アルスは殆ど頭が下になっている状態で、エビぞりのような格好でその剣を弾く。
 優雅な踊りのように回り、立ち位置を入れ替え、その間に剣同士の金属音と火花が散る。いや、逆に金属音と火花の煌きに乗って踊っているかのようだ。

 一瞬両者の動きが止まると、今度はその場を殆ど動かず、剣同士の打ち合いだけが始まった。今までよりも剣撃が速い。横に動いたり、飛んだりといった「余計な」動きはもう隙になるだけなのだろう。

 「…」

 見学している私達からは、もう声も上がらない。
 二人はじりじりと距離を詰めていて、それによって音の間隔が次第に狭まってくる。既に、お互いの攻撃を代わる代わる弾くといったものではなく、攻撃を弾く剣がそのまま攻撃になっている。全ての剣撃が攻撃であり防御だ。剣を合わせずに、体を捻って避けているときは当然剣同士の金属音はしないはずだが、それでもその金属音が殆ど途切れることのない連続した音に聞こえるのは、両者の剣がどれだけ速いものであるかを物語っているだろう。
 少しずつ狭まってくる両者の距離と金属音の間隔。先にこのスピードに付いて行けなくなった方が負ける―。

 「二人とも笑ってる」

 イルダが言う。確かに、一歩間違えば命にかかわる怪我を負うだろうに、とても楽しそうだ。

 ついに二人の足が完全に止まった。剣撃は止みそうにない。これは、完全に互角?

 「!…」

 声を上げそうになったのは、アルスが殆どそのままの状態で自然に二人に増えたように見えたからだ。今まで分身剣を使うときは、いつも準備動作が必要だったはず。それが剣撃を繰り出しながら、何の準備動作もなく…。
 ギャギャギャンといった感じの一際大きな音がして、二人が離れた。

 「とんでもないね…」
 「そっちこそ、だ」

 ザクルさんとアルスが殆ど同時に声を上げ、ザクルさんは肩をすくめて見せた。

 「え、え、どうなったの?」

 シオンさんが周りの皆に尋ねる。アルスの殆ど倍に増えたといっても良い剣撃を、ザクルさんは防御に徹することで全て防ぎきったのだ。その後二人とも相手の隙を見出せず、剣を繰り出せずに離れたと。

 「まったくの互角か…」
 「そうみたいだね、それじゃあ今回はこれぐらいにしておこうか」
 「ああ、次が楽しみだな」

 サイラスさんの感想に、ザクルさんとアルスが答える。「次」ねぇ。

 「次も良いけど、ザクルさんに聞きたいことがあるの」
 「え?」

 私は左手を前に構えたまま言った。私、イルダとフレアが、修練場の出口側に行き先を防ぐように立っているのに気付いて、ザクルさんは大げさに肩をすくめて見せた。

 「やれやれ、僕は何かやってしまったかな?アルスと戦ったのが、同じパーティーの女性陣としては気に入らなかったとか?」
 「それはない」

 いや、イルダ、そこは答えなくても良い所でしょ。

 「模擬戦に乗じて、ってのはあまり心配していなかったわ。周りにこれだけの人がいるし。ただ、あなたは私たちに隠していることがあるでしょ?それを教えて欲しいの。魔物の活性化とか魔将が出てきたこととか、心配することが多いから、小さな疑惑でも晴らしておきたいのよ」
 「小さな疑惑ねぇ。何かな?」
 「…あなたはモーザの仲間じゃないの?」


 は?という強い驚きを示したのは、アルスやサイラスさんで、ザクルさんは笑顔のまま驚いた様子はなかった。

 「驚かないのね」
 「いやいや、しかしそれは『小さな疑惑』とは言えないんじゃないかな」
 「まあ、最悪の可能性で、強く疑っているわけじゃないの。でも色々とおかしいのよ」
 「例えば?」
 「そうね、モーザがあなたの矢で射られたとき、『何故』って言ったわよね?あなたが戦闘に復活したのがそんなに驚くことかしら?」
 「さあ、彼女が何を考えていたかは、僕には分からないね」
 「さらに、何か言おうとしたモーザの舌を射て、それ以上都合の悪いことを話さないようにした」
 「それは考えすぎだね」
 「それと私は何でか分からないけど、危険を察知できるみたいなのよ。モーザに矢を射る前、私を狙ったでしょ?」
 「気のせいだね」
 「その直前、モーザが『奥の手』と言ったわよね?あれがあなたのことで、ぎりぎりであなたがモーザを裏切ったと考えると、説明が付くんじゃないかしら?」
 「面白いけど想像だね」
 「ふぅ。それにそもそもその戦闘でも、あなたは都合よくいきなり気を失った。アルスと互角に戦えるあなたが、おかしいのじゃない?他のみんなは大丈夫だったのに」
 「いやあ、油断してたからね…他に何かあるかい?」
 「…そうね、たまたまとか想像とか言われてもしょうがないわね。じゃあ後一つだけ。何であの迷宮のことを前から知っていたのに、知らないと嘘を言ったの?」
 「え…?」

 「あなたは迷宮の入り口で、始めて来て場所も知らなかったようなことを言ってたわ。サイラスさんにいきなりギルドに連れてこられたので迷宮を確認する暇もなかったって」
 「うん、それは本当だよ?」
 「…でも、迷宮に行く前のここの会議室で、迷宮の入り口の話で、穴が綺麗だとか正確な円形だとか、見ないと分からないようなことを言ってたの。覚えてない?」
 「…いや、それはサイラスに聞いて…ハア、なかったな。とにかくサイラスは急いでいて細かい話はしなかった」

 他の皆も頷いている。

 「あー、やれやれ、失敗したなぁ」

 ザクルさんは天を仰いで言った。

 「…で、どうなんだい?」

 イルダが背中の剣に手を掛けて尋ねる。

 「おおっと、君の大剣にも興味があるけどね、今は勘弁して欲しい。…しかし、何だってそんなに白くて華奢な腕でその大剣を振り回せるんだか」
 「そんな話は…」
 「分かった、分かったよ、話すから…。そうだね、ユーカ嬢の言ったことはかなりの部分で当たりさ。あの迷宮のことは最初から知っていた。というか、迷宮が出来る前からモーザとも知り合いでね、いや、話を聞いてくれって…。」

 私達の雰囲気を感じ取って、ザクルさんが慌てて手を振る。

 「君達をおびき寄せて、いざとなったら分断するか後ろから挟み撃ちにする、ってのも僕がモーザに提案したことさ。実際は最初からそんなつもりはなかったけどね」
 「じゃあ、最初からモーザを裏切る気だったと?戦いの途中で形勢を見て裏切ったんじゃなくて?」
 「違うよ。実際、こっちの方が不利な感じだったでしょ?あそこでユーカ嬢を射てたら、完全にモーザの勝ちだったと思うよ」

 「俺たちのパーティーは餌だったってわけか。それでハルツとカリーナを危険な目に…」

 サイラスさんが鋭い目でザクルさんを睨む。いつの間にか槍を構えていて戦闘態勢だ。

 「結果としてだよ。モーザは関係ない人間は暇つぶしにどんどん殺せばいい、みたいなことを言ってたから、人質に使えるから他の人間には手を出さない方が良い、と必死になって説いたんだよ?その点については感謝して欲しいね」

 サイラスさんが不機嫌そうに槍を降ろす。

 「結局、あなたは何者なの?魔将と顔見知りというだけで怪しすぎると思うけど」
 「…僕は、君達とは別の理由で、彼らと敵対してるんだよ。表向きそこそこ仲良くしてるんだけどね。今はちょっとこれ以上は話せないかな」

 「そう行くと思いますか?私達は、魔将や魔王の情報がぜひとも必要なのですが」

 ケヴェスンさんが厳しい口調で言う。

 「魔王、か…。それは分かるけど、僕の目的のためには、まだ彼らと仲良く見せておく必要もあるし、自由に動きたいからね…ユーカ、今度会った時は呼び捨てで良いからね!」

 はぁ?と思った瞬間、ザクルさんは何かを地面に叩きつけた。魔法陣が広がり、ザクルさんの体がキラキラと輝く光の粒子になって消えていく。

 「転送石か!」

 アルスが叫ぶ。とっさに手を伸ばすが、捕まえられなかった。攻撃なら間に合ったかもしれないけど、完全な敵という訳でもなさそうなので躊躇してしまった。

 「転送石…とすると行先は迷宮?」
 「いや、別のもっと近い場所だろう。どっちにしろ今から見つけるのは無理そうだな」

 非常の場合に備えて、最初から用意してたという訳ね。また、正体不明の面倒臭そうな相手が増えてしまった。
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