私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

文字の大きさ
41 / 115

41 ザクルの正体は

しおりを挟む
 「…ということがあってですね…」

 数日後、私は、コンラートさんの屋敷で、コンラートさんとアマティアさんに、今回の迷宮の話をしていた。色々と考え事をしながら湖の畔を歩いていたら、二人に捕まってそのまま御呼ばれしてしまったのだ。
 しかし、新婚家庭に連れて来られたような雰囲気で落ち着かない。

 結局、ザクルの件も含めて、ギルドから国に報告することになった。魔将や魔王のことが分からないので、こちらから動くことが出来ず、今はそれくらいしか出来ない。
 ちなみに、国への報告は一部を秘匿していて、国王と教皇にはフレアから秘匿部分を私信で送ってもらっている。これは大臣にも信用できないのがいるらしいという話だからだ。申し訳ないけど、コンラートさん達にも全部は話せない。私が「っぽい」じゃなくて正式に女神と認められてることとか。

 「それは大活躍でしたね~」
 「さすが『女神様と称せられるほどの方』ですね」

 ばれてないわよね。

 「でも、そのザクルとかいうエルフの正体も不明だし。魔将がこれからどう動いてくるかも分からないし、待つしかないのよね」
 「僕は、そのザクルとかいうのは、魔将なのではないかと思いますね」
 「魔将同士で争っているということ?」

 そういえば、魔将同士の仲が悪い、みたいな事を言っていたような気がする。でも、本に載っていた魔将には、エルフはいなかったと思うけど。

 「そのザクルですが、エルフではないのではないでしょうか?」
 「やはり名前が?」
 「ええ」

 なんだか、二人だけで分かっているようだ。

 「どういうこと?」
 「エルフ語では、所謂『濁音』は良い意味の単語には使わないのですよ。親が子供に付ける名前ではないと思います」

 アマティアさんが言う。なるほど。エルフじゃない、あるいは偽名ってこともあるかな?そういえば、殊更『エルフだけど魔法が使えない』って強調していたような気がする。エルフでないと疑われないように、自分から敢えて言っていたということも考えられるか。


 コンラートさんの屋敷をお暇して帰ってくると、庭でイルダが剣を振り回していた。ヒュンヒュンというすごい音がする。アルスとザクルの模擬戦に思う所があったらしく、剣の練習を以前より熱心にやっているようだ。

 「剣は大丈夫?」
 「ああ、無茶な使い方をしたけど、どこも痛んでない」

 剣は斬る物で叩く物じゃないから、モーザとの戦闘で痛んだのではないかと気にしていた。剣は、柄の部分に剣身を差し込む形で作られている。叩き込んだり、ネジや釘で留めてあったりするのが普通。硬いものを無理に切ろうとしたり、激しい戦闘をしたりすると、ここの部分が緩んでしまい、使い物にならなくなる。ある意味、剣先の切れ味より重要だそうだ、というのは昔何かの本で読んだ受け売りだけど。
 実際、アルスはあの後、武器や鍛冶屋を回っていたらしい。

 「あたしの剣は、そういう心配はないんだ。良く見てみ」

 ずいと差し出されるが、重いのは分かっているので、受け取らずに見るだけだ。

 「…これは、もしかして柄も剣も繋がって、るの?」
 「そ、全体が一つのアダマンタイトの塊」

 アダマンタイトって、すごく硬い、高価な金属鉱物だったのでは。その金属を熔かして型に入れて作ったってこと?

 「うんにゃ、錬金すると硬度が落ちるからね。大きな結晶から剣の形に削り出しただけ」

 はあ?それはもう伝説級なんじゃないの?どこから手に入れたんだか。

 「結構、由緒ある上等な剣なんだよ」

 結構、ねえ。まあ、誰にでも扱えるものじゃないというのは分かるけど。重いし。

 「ユーカはどこに行ってたんだ?」
 「湖の畔を歩いていたら、コンラートさんに捕まっちゃって。屋敷に御呼ばれしちゃって」
 「ふーん、何か面白い話はあった?」
 「ザクルって名前は、エルフではありえないって」
 「うん?」


 「なるほど、さすが学者さんだけあって物知りだな」

 夕食を食べながら、アルスが言う。剣が直ってきたらしく、上機嫌だ。

 「考えてみれば、モーザも最初人間の女性に化けてたし、レイミアもだったな」

 ラミアは元々上半身が人間の魔物だし、人化の術もあるのだろう。ネレイスのアマティアさん達と同じだ。しかし、モーザはヘルハウンドで犬だからな…。力のある魔物はみんな化けられるのかしら?

 「あれ?」
 「どうした?」

 私が急に声を出したので、イルダが尋ねてきた。

 「あ、モーザは何故人間の姿をしていたのかなー、と考えちゃって。レイミアはともかく、モーザは人間の姿になる必要はなかったはずでしょ?」
 「そういえば…趣味かな」

 そんなわけないでしょ、アルス。

 「強い魔物は姿を自由に変えられるのかもしれません。ドラゴンが人の姿を取って人間に会うという話は昔からありますし」
 「魔力が多いとそういう魔法も使えると?もしかしてユーカも化けられる?」

 イルダが言うけど、考えたこともなかった。魔法で女の子が変身するってのは、アニメとかでは良くある話だけど。

 「そういえば、ユウカさんはこの世界のことを本で読んだって仰ってましたよね。その本には魔将のことはどこまで書いてあったのですか?」
 「歴史書みたいな小説…いや歴史書か。そういう本だったので、魔将のことだけ整理されて書かれていたわけではないの。歴史上知られている一部の魔将の一部のデータだけね」

 一覧表みたいなのはあった。しかし、種族は大体埋まっていたけど、名前の欄は結構空白があった。特に上位に行くほど、名前は抜けていたと思う。まあ、たとえ出会ったとしても、むこうには名乗る必要もなかっただろうし、こっちにも聞く余裕もなかっただろうし。

 「魔将にエルフがいなかったと記憶してるから、ザクルは魔将ではないと思ってたんだけど…」
 「魔将がみんな違う種族に化けられるなら、それもわからない、ということだね。まあ元々、人間やエルフが魔王側になるとは考えにくいけど」
 「俺は、ザクルが魔将だとしても、人型の魔物だと思うんだよな」

 アルスが言う。

 「どうして?」
 「例えばモーザみたいにヘルハウンドなら、戦いはその姿がメインだろ?人型に化けても剣をそんなにうまく使えるとは思えない。元々人型じゃなかったら、ザクルほどの剣の腕はないんじゃないかな」

 なるほど。

 「それにしても、向こうが動いてくれないと、こちらは何も出来ないというのはもどかしいですね」
 「ケヴェスンさんは、国やギルドを通して、魔物の情報を集めてくれる、って言ってたけどね…あたしも剣の練習ぐらいしかやることがないな」
 「ユーカも、魔法の練習をした方が良いんじゃないか?シオンさんとも色々話をしたんだろ?」

 そーね。おかげで自分のイメージの貧困さを良く理解できたわ。

 「火、風、水、光。基本魔法で、あと使われたことがないのは土ですかね」
 「それが、土で何か出来るイメージがないのよ」
 「そこはほら、敵を蹂躙する巨大ゴーレムを」

 イルダはそればっかりじゃないの。そういえば火の鳥とかも言ってたっけ。

 「わたくしは、可愛い人形が踊るのが良いですね」

 フレアまで、また…。

 「冗談はともかく、魔工の道具を作るというのも良いのではないでしょうか」

 そういえば、活版印刷用の金属版は土魔法で作っているという話だった。金属の加工が出来るなら、色々作れるかも。

 「まあ、モーザもユーカが目的みたいなことを言ってたから、待てば来るのは間違いないし。待つしかなくても、無駄に過ごさないようにしようぜ」

 おお、アルスがまともなことを言っている。しかし、私が目的というのも、いまいちはっきりしない気がする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...