私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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43 きのことフェアリー

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 そんなわけで、またコンラートさんの屋敷にお邪魔している。相変わらずアマティアさんもいる。コンラートさんは、フェアリーリングの話に、異常に食いついてきた。

 「それは面白い!いやあ、そのような現象は以前から知られていますよ。しかし、原因は分かっていなかったはずです。その意味では、ユーカさんが仰る『フェアリーリング』という名称は言いえて妙ですね。それにしてもきのこが原因とは。これは確かめてみる必要がありますね…」
 「コンラートさんは生物に詳しいですから、意見を伺おうと思いまして。ギルドからの依頼料からお礼も出しますから…」
 「いやいや、そんなものは要りません。これは純粋に私的な興味ですから。いやあ面白い研究が出来るかもしれないなあ」

 しまったなあ。こちらではきのこが原因という話は一般的じゃなかったのかしら。

 「しかし、ユーカさんが生物学の知識も豊富とは思いませんでした。てっきり、フェアリー派で、分からないものはみなフェアリーのせいにするタイプかと」

 何よ、フェアリー派って。

 「やっぱり、コンラートさんは、フェアリーの存在は認められない立場ですか?」
 「いえ、頭から否定することはないですよ。それは、正しい考え方ではありません。僕が正しくないと思うのは、深く考えずに何でもフェアリー等のせいにすることです。例えば、今回のフェアリーリングですが、ユーカさんの『きのこ説』は筋も通っていて、何より検証可能です。しかし、『フェアリーの輪踊り』説は、分からないからフェアリーのせいにしてしまえというものであり、宜しくないですね。仮説としても、存在のはっきりしないフェアリーの存在を前提としなければいけないという点で、弱いと言えます」
 「…はあ」

 しまった、学者モードに入られてしまったかもしれない。

 「しかし、頭からフェアリーの存在を認めず、無理やり他の自然現象のせいにするというのも同じように正しくありません。サークルは過去に雷説やつむじ風説がありましたが、綺麗な円形になる理由が説明できない以上、フェアリー説の方がましですね」
 「ユーカさんは、畑の方の、えっと、サークルは人の悪戯だと思ってらっしゃるのですよね?」

 アマティアさんが、堪らず割り込んできた。

 「ええ、コンラートさん風に言えば、他に仮説が思いつかないというところかしら?」

 というか、地球でそうだったから、だけど。

 「リングの方も、人間の悪戯説がありましたよ」
 「え、どうやって?」
 「簡単です。農家で使っているような、土魔法で作った肥料があるでしょう?あれを草地に丸く撒けばいいのですよ」
 「あ…」
 「ただ、その仮説は人が立ち入らないようなところにも発生するということを説明しにくいという難点がありました。『きのこ説』に期待するところですね。後は畑の方ですが…うーん…」

 あ、学者思考モードに入ってしまった。

 「で、ユーカさんはこれから調査に?」
 「ええ、夕方から行って、夜中まで張り込んでみようと思って」
 「夜中まで?」
 「草地のリングは、きのこで納得してもらえるかもしれないけど、畑の方は悪戯だとしたら、犯人を見つけなきゃいけないでしょ?聞いた話だと、最近は、しょっちゅう出来ているらしいの。持ち主のおじさんは、魔物だの幽霊だの言って、夜見回るのは怖いとか言ってるし…」

 「…僕も一緒に行きましょう!」

 アマティアさんと話していると、何か考え込んでいたはずのコンラートさんが、いきなり大声を上げたので、びくっとして固まってしまった。

 「リングの方も消える前に下の土を採取したいところですが、サークルの方はもし出来るところを見ることが出来れば、すばらしいですよ!」

 いや、悪戯をする人間を見つけても、そんなに素晴らしいこととは思えないんだけど。私の手を取って叫ぶほどのこととはとても思えない。

 「わ、私も行きます!」

 何かアマティアさんも、慌てて声を上げてるけど。夜の張り込みがそんなにしたいのかしら。


 「これから出て、夜中まで帰らないから、夕食は要らないですから」

 フレアの屋敷に帰ってメイド長に言う。

 「ああ、例の調査依頼?」
 「そうなの。張り込みね」
 「結構面倒くさそうだな」

 イルダが言う。

 「面倒くさいっていうか、一人で退屈かと思ったけど、何かコンラートさんが付き合ってくれるって言うから…」
 「何だって!…いや、俺も付き合うぞ。人数は多い方が良いだろ」

 アルス、何焦ってるのよ。

 「アルス、お前…あたしも付き合う!」
 「えっと、じゃあ、わたくしも?一人で残っていてもつまらないですし」

 みんな、夜の張り込みがそんなにしたいの?


 「何だ…アマティアさんも来るんだったのか」
 「皆さんも来られたのですね」

 目的地の畑の前でアルスとアマティアさんが脱力している。何なの。フレアはニコニコしながら頷いているが、何か分かったのだろうか。

 「僕は来なくても良いと言ったんですけどねえ」

 コンラートさんが言う。まったくだ。こんなに人数は必要ないのに。まあ夜まで退屈しないで済むかな。


 林の方に先の方に行ってみると、皆が声を上げた。

 「これはすごいですね」
 「こんなにたくさんあるとは」

 なんか増えているような気がする。

 「ふうむ。きのこは見当たりませんね…やはり、後で掘ってみる必要がありますね。いや、しかし、この形状は…」

 コンラートさんは、地面にしゃがみ込んでぶつぶつと言っている。

 「ったく…。ん?あっちにも誰かしゃがんでるな」

 イルダが言う方を見ると、女の子がしゃがみ込んで、木の枝でリングをつんつんと…って、昨日もいた子じゃないかしら。
 アマティアさんが隣に行って声を掛けた。

 「お嬢ちゃん、何してるの?」
 「フェアリー…」
 「えっ」
 「…フェアリー、いる?」
 「フェアリーを見たことがあるの?」
 「ううん、でも見たい」
 「そうね…お姉ちゃんたちもフェアリーは見てみたいわ。私はアマティアっていうの。あなたのお名前は?」
 「…イライザ」
 「イライザちゃん、フェアリーを見つけたら、お姉ちゃんたちが教えてあげる」
 「ほんとう?」
 「ええ、だから今日はもう、お家にお帰りなさい。もう暗くなるから」
 「…うん、わかった」

 女の子は走って帰って行った。結構速い。

 「今の子は…」

 フレアがちょっと驚いたような顔をしている。

 「ん?今の子がどうかした」
 「い、いえ、ちょっと変わった子でしたね」
 「そう?確かに表情が乏しい気はしたけど」
 「人見知りなだけだろ。あたしらみたいな冒険者っぽいのがぞろぞろやってきたら、警戒もするよ」

 だから付いてこなくても良いって言ったのに。


 畑の方もひとしきり見て、私達は今近くの丘の上にいる。

 「ちょうど良い場所だな。林も畑も良く見える」
 「でも暗くなったら…」
 「大丈夫だと思いますよ」
 「コンラートさん?」

 アルスと話していたら、コンラートさんが言ってきた。他の皆も注目する

 「皆さんは、ユーカさんの『きのこ説』とさっき見たリングを見てどう思われました?ちょっと矛盾しているところなど気づかれたでしょうか」

 いきなり学者モードになっている。

 「んー、あたしはリングは良く分からなかったけど、ユーカの『きのこ説』は出来過ぎてると思うんだよな」
 「そう思われるのは良く分かりますが、自然現象で複雑な模様が描かれることは結構あるのですよ。僕は、今まで良く見られたリングの殆どは、『きのこ説』で説明されると思っています」
 「じゃあ、ここのは違うと?」
 「ええ、一言で言うと、綺麗すぎます。地面の状態は場所によって微妙に違うので大きなものは形が崩れてくるはずなのですよ。実際、今まで他所で見たものはそうでした。また、リングの線が細いのも気になりました。それとユーカさん」
 「はい」

 いきなり指されて思わず返事をする。学校の授業のようだ。

 「『きのこ説』によれば、時間とともにリングはだんだん大きく成長するはずです。では、リング同士が成長してぶつかったらどうなるでしょうか」
 「…ぶつかった部分が消滅する?」
 「少なくとも、形状が崩れるでしょうね。しかし、さっき見たところ、リング同士が綺麗に交差しているものがあり、しかも交点部分の形状もはっきりしていました」

 「なるほどぉ」

 アルスは感心しきりだ。

 「最初に見た時から違和感がありましたが、それはリングの大きさが全て測ったように同じだったからです。同時に発生したとしても、あまりにも不自然です」
 「そういえば、昨日よりも増えているような気がしたのよ。昨日見た後出来たものだとしたら、同じ大きさのはずがない。それに出来たばかりならきのこが全く見つからなかったのもおかしい」
 「ええ、その理由として、きのこ以外の原因、例えば地中で放射状に根や菌糸を伸ばすようなものを考えてみましたが、大きさの点と形状が綺麗すぎる点はどうしても説明が付きません」
 「とすると?」
 「結論から言って、何者かの悪戯でしょうね。まあ、悪戯の理由は不明ですが」

 「残念だったな、きのこ博士」

 イルダが笑って私の肩を叩く。

 「いえ、『きのこ説』は他所でのリングの有力な仮説ですよ。僕は他の所のものも研究してみようと思っています」
 「…まあ悪戯ってことなら。畑の方も含めて解決か。大人数で来たかいがあったな」
 「でも暗くなったら…」
 「さっきも言ったように、大丈夫だと思いますよ。誰かの悪戯なら、皆さんなら気配を感じ取れるでしょう?それに、灯りなしで綺麗な円が描けるとは思えませんからね」


 時間が経ってもう真夜中だ。人数が多く、皆で話をしていたので、退屈ということはなかった。ただ、もっぱら話の内容は、女性陣によるコンラートさんとアマティアさんの馴れ初めの詳細の追及だったため、一人話に入れないアルスが、林と畑の監視をする羽目になっていた。

 「おい、何か音がするぞ」

 アルスの声に皆が一斉に振り向く。アマティアさんはホッとして息を吐いた。確かにガサガサという音が聞こえる。小さな光と…女の子の声?

 「ウフフ、ラララ…」

 笑い声、いや歌っているのか。

 私達は、素早く丘を降りると、声の方に向かった。光の玉がゆらゆらと動き回り、そこから歌声が聞こえる。アルスとイルダが剣に手を掛け、左右に展開。私は左手を構えながら前に進む。フレアを制して、アマティアさんが手を挙げて呪文を唱える。

 「光よ闇を照らせ、ルーメン」

 照らされた先を見た私達は言葉を失って立ちすくんだ。最初に声を上げたのはコンラートさんだった。

 「フェ、フェアリー?」

 空中に浮かんでいた光は、ただの光の玉ではなく、全身から光を放っているフェアリーだった。
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