私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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59 王都からの使い

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 数日後、呼び出されて皆でギルドに行ってみると、待っていたのはセリアさんと副長のアズノールさんだった。

 「ケヴェスンさん…ギルドマスターは?」
 「あはは…ユーカさんのアイデアに嵌ってしまったらしくてー、長期お休みだそうですー」
 「まあ、国というより国王の依頼っぽいからな、あまり文句も言えん」

 アズノールさんが苦笑しているけど、今一所懸命作っていると思われる、魔力を作る魔工は国からの依頼ではないかも。

 「それで、今日わざわざ来てもらったのはいくつか話があってな。まずは…」
 「この前の通信機の依頼の報酬の受け渡しですねー。通信よりも、理論の方が大分評価されたらしく、かなり色が付いていますー」
 「一部は秘匿して欲しいらしくてな。その分増えた。ギルドは建前上、国とは独立している機関であるし、魔工の技術的にも広めた方が良いと思ったんだがな」
 「まあ、魔工具を解析すれば分かってしまうので、時間の問題だと思うのですがー。貰えるものは貰っておきましょー」

 まあ、ちょっとでも他国よりも進んでいた方が良いのだろうということは分かるけど。

 「それとだ、今回の件で、宮廷の魔術師と騎士がお前達のパーティーに会いたいと」
 「俺達に?」

 意外な話にアルスが聞き返す。騎士なら、最初に王都に行ったときに会ったけど。あまり強そうじゃなかった。

 「興味があるんだろうよ。まったく、ギルドは国の出先機関じゃないんだから、こういう話は役所の方にすれば良いと思うんだが…まあ、何か依頼もあるような話だったがな。二、三日中に訪問があるだろうから、会ってから聞いてくれ。それと、依頼はギルドを通してくれよ。じゃないと、ギルドに金が入らない」

 魔法の理論の話でもしたいのだろうか。別にいいけど。


 二日後、王都より宮廷魔術師と騎士の訪問があった。例によって、教皇が案内を言い訳にしてフレアに会うために来るかと思っていたが、案内役としてきたのは聖都の神官だった。教皇もたまには忙しいのかもしれない。

 神官はフレアと顔見知りだったらしく、挨拶を交わしている。宮廷魔術師と騎士は、一目でそれと分かる格好をしていた。痩せた中年の男でローブを着て杖を持っているのが宮廷魔術師、大剣を背負っている若い女性が騎士だろう。

 「…へえ」

 女性騎士を見て何か思う事があるのか、イルダが感心するような声を上げた。

 「突然の訪問を受け入れていただいて感謝します。私は宮廷魔術師のタルタリウス、こちらが宮廷騎士団副団長のソランダさんですよ」

 紹介しようとする神官を遮って、屈託のない笑顔で言ってくる。

 「隠してもしょうがないので、さっさと用件を言ってしまいますが、王都ではあなた方に対して、色々つまらない事を言う人間がいてですね」
 「王族に取り入るとか何とかという話でしょうか。そういう御心配をお掛けしないために、ここに来ているのですが」

 前にも聞いた話で、フレアが不満げに反応した。

 「私などは良く分かっているのですけどね。そもそも、いざという時には女神様に頼らなければいけないのに、『取り入る』とか何を言っているかという話ですよ。実際、この前のヴェンティの件だって、頼りっぱなしでしょう?」
 「その女神様というのは…」
 「ああ、私と騎士団の団長と副団長は伺っています。逆に言うと、他の人間は話せないような連中ということですね」

 私が、やや焦って言うと、タルタリウスさんはあっさりと答えた。ろくでもない貴族や大臣ばかりという事か。

 「面倒くさいなあ。だからいっそのこと、ユーカが王城と貴族にファイアーをぶっ放してくれば…」
 「またイルダはそういうことを言う」

 アルスがイルダに突っ込む。

 「貴族といっても、王都の周りの領地の領主などは、王族と良い意味で仲良くして欲しいと思っているはずですけどね。『取り入る』などと文句を言っているのは、領地を持たずに発言権だけ持っているような大臣とかでしょう」

 「あんたらはどうなんだよ。宮廷魔術師団と宮廷騎士団は、お株を取られたって思ってもおかしくないだろ」
 「まあ、そういう連中もいますけどね…」

 イルダの容赦ない一言に、タルタリウスさんは苦笑して返す。

 「まあ、そこでさっきイルダさんが仰ったようなことをやれば良いわけです」
 「あたしの言ったこと?」
 「ええ、王族と貴族相手に魔法を『ぶっ放す』のは困りますが、宮廷魔術師と宮廷騎士に、なら問題ないでしょう?」
 「おいおい、良いのかよ…」
 「文句を言っている連中は、あなた達の実力を疑っているわけですよ。所詮女神っぽい偽者、大した力もないだろうとね。これが、自分達にはとても適わない力を持っていると納得すれば文句も出ないでしょう」
 「それでわざわざ来たって訳かい。ご苦労なこった、っていうか感謝するべきなのかな」
 「少なくとも、私達が言えば宮廷魔術師団と宮廷騎士団は抑えられますからね」
 「私は興味があったのも事実だけど」

 ソランダさんがニヤリといった感じの笑顔になって付け加えた。

 「女神様もだけど、女神様が選んだという剣士に」
 「そりゃ光栄だね」

 イルダは嬉しそうだ。


 というわけで、ぞろぞろと町の外の荒地にやって来た。

 「さて…」

 と言って、さっそく背中の剣を抜くイルダとソランダさん。

 「おいおい、やる気だねぇ」

 アルスが突っ込む。

 「まあね。アルスはあたしと良い勝負だし、ユーカもそこそこやると思うけどさ、得物の点から言っても、ここはあたししかいないだろ」
 「私もそう思ってた。同じ大剣使いだし、…あと色々と」
 「なるほど、色々か。…ところで、あんた副団長って言ったよな。やっぱり団長の方が強いのかい?」
 「兵を率いれば…。一対一なら私が5回のうち3回は勝つ」
 「…それを聞いて安心した」

 話しながら、私達と離れて少し低い所に歩いていく二人。しかし、剣の試合なら、ギルドの裏にある修練場でも良かったのでは。

 「…あの二人じゃそうは行かないよ…見ていれば分かる」

 私の疑問にアルスが答える。

 二人は適当に距離を取る。ソランダさんが剣を構えると、それを見たイルダが軽く笑う。

 「なるほど、『色々』か」

 普段は自然体というか、構えらしい構えを見せなかったイルダが、対峙するソランダさんと全く同じ構えを見せた。同じ大剣使いというだけでなく、肌の白さや、大剣を使うとは思えない細い手足など、何となく共通点が多いように見えたが、出身が近いのかもしれない。

 ソランダさんが地を蹴ると、信じられない速度で間合いを一気に詰めた。猛烈な勢いで大剣が振り下ろされたが、一歩踏み出したイルダはその一撃を真正面から受け止める。ぶつかり合った剣を中心に強風が広がったように見え、私は思わずその風に顔を背けそうになるが、風を感じるのは錯覚で、これは闘気だ。
 イルダはさらに踏み込み、剣ごとソランダさんを弾き飛ばす。ソランダさんはすぐに踏み止まると、追ってくるイルダの剣を受け止めた。体を大きく捻り、その勢いを剣に乗せてイルダの胴を狙う。それを剣で受け返したイルダは、思ったほど強くないその斬撃に戸惑うが、ソランダさんの狙いは別。もう一回転して、信じられない速度で再び胴に剣が向かう。
 イルダはその剣から逃げるように同じぐらいの速度で回転し、避けられてやや体勢が崩れたソランダさんの背中を追うような斬撃を繰り出した。
 それを、ソランダさんはさらに回転して正面から受けた。

 「…よく回るな」
 「…そっちこそ。さっきのを軽く受けられるとは思わなかった」

 鍔迫り合いをしながら言葉を交わすが、次の瞬間どちらからともなく剣に力を入れて、飛び離れる。

 「…じゃあこれは?」

 下段から強く振り上げたイルダの剣から闘気の斬撃が飛ぶ。ソランダさんは、それを真っ向から闘気を纏わせたで剣で切り落とした。そのままお互いにまた突っ込んでいく。

 「私は闘気を飛ばす事は出来ない。けど剣に闘気を纏わせる事は出来る」
 「そうかい!」

 剣撃が荒れ狂う。お互いに体を回転させて勢いをつけるような動きをするため、まるで二つの旋風がぶつかり合うようだ。風に巻き上げられるように砂埃が上がり、旋風の巻き添えのように地面ばかりか岩が切り裂かれる。
 攻撃も防御も馬鹿げた威力だ。お互いに並みではない膂力を持っているのだろうが、それだけではない。恐らく闘気で力の補強をしているのだろう。

 「はあっ!」

 ソランダさんが声を上げ、剣を地面に突き刺し、そのまま振り上げると…衝撃波と共に砕かれた地面が巻き上げられる。闘気を帯びた土や石がまるで散弾のようにイルダに向かう。さらに、それを追うようにソランダさんは勢いよく間を詰めた。
 イルダは、土や石を剣撃と闘気の刃で悉く跳ねかえした。ソランダさんの剣もがっしりと受け止める。

 「えぐい技だな」
 「これも受けるの」

 アルスが、ギルドの裏にある修練場では駄目だと言っていた訳が分かった。こんな戦いでは、修練場の地面ばかりか周りの建物も切り裂かれてしまうに違いない。

 またお互いに剣を押すようにして離れるが、イルダはそれほど後退しなかった。すかさず下段から闘気の刃を飛ばすと、それを追いかけるように飛び込み、上段から袈裟懸けに振り下ろす。…これは、闘気連斬の応用?闘気の斬撃と実際の斬撃との時間差が殆どない。

 「ふぇぇ…」

 私はソランダさんが真っ二つに斬られる様を幻視してしまい、思わず変な声を上げてしまった。
 しかし、ソランダさんは闘気の斬撃に動きを止めることなく、イルダの袈裟懸けの剣を跳ねかえした。そればかりか、体ごと押し込む。堪らずイルダの体が宙に浮く。それを追いかけるように、ソランダさんは突きを繰り出した。今までに見せなかった剣筋だ。

 瞬間的な三段、いや四段の突きを、イルダは空中でその三つまでを剣の腹で受け、四つめを払い、その反動で横向きに風車のように体を回転させて着地した。

 「今のは闘気連斬の…」
 「改良のつもりだったんだがな…見事に躱されたな」
 「闘気の方は躱せてない。闘気を体に纏って受けただけ。真っ二つにされたかと思った」
 「それより何だあの突きは。アルスの突き並みじゃないか。串刺しになるかと思ったよ」
 「『取って置き』だった。体勢が変えられない空中で簡単に避けられるとは思わなかった」

 もういい加減に止めないと、どちらかが大怪我をしそうだ。そう思って声を掛けようと思ったが、私のその気配を感じたのか、ソランダさんから視線を外さないままイルダが声を掛けてきた。

 「もうちょっとやらせてくれ。…まだ全部出してない」
 「…へえ」

 イルダのセリフに嬉しそうに笑うソランダさん。やはり似たもの同士か。

 お互いに最初のように上段に振り上げて剣を交わす。そして弾き弾かれ、正面から、横から、宙に浮いたまま、着地して、激突、斬撃を応酬。
 一瞬開いた間合いにイルダが剣を大きく後ろに引いて飛び込む。振り上げたその剣はソランダさんに届かない。

 「同じ手を!」

 飛んでくるであろう闘気の斬撃に怯まず、体に闘気を纏わせて突っ込もうとしたソランダさんは、瞬間的に踏み止まり剣を前に出した。飛んできたのは闘気の斬撃とは別のもの。ぎりぎり剣の刃で切り裂いたが、左右の髪の毛と頬がわずかに切れる。

 「な、何?」

 動きの止まったソランダさんの隙を、イルダは見逃さなかった。踏み込んで剣を振るう。ソランダさんの剣が宙を舞った。
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