60 / 115
60 情報操作
しおりを挟む
「私の負けだな」
ソランダさんが両手を揚げて降参の意思を示す。ちょっと高い所から見ていた私、アルスとフレアも下りていった。
「いつ大怪我をするかと思ったわよ」
「それにしてもすごいですね」
私とフレアがイルダに声を掛ける。フレアの言っているのは、戦いの内容ではなく、切り裂かれた地面や岩のことだ。
「…いや、殆ど互角だった。最後の破れかぶれに近い技が、たまたま決まっただけだ」
「そういえばアレは一体何なんだよ」
「…私も聞きたい」
アルスに続いて、背後の地面に刺さっていた自分の剣を回収して戻ってきたソランダさんが後ろから声を掛けた。
「闘気の刃かと思って、体に闘気を纏わせて無理やり突っ込もうと思ったんだけど。直前で闘気じゃない何かだと分かったから咄嗟に剣で受けるのがやっとだった」
「いや、初見で切り落とされるとは思っていなかったぜ」
ソランダさんの頬の傷に気付いたフレアが、ヒールを掛けている。
「で、アレは何なんだ?」
「あたしにも良く分からないんだけどよ、闘気の刃の出来損ない、かな?闘気を飛ばすのが、最初中々出来なくてさ、やってるうちに何か飛ばせるようになったんだけど、空気の塊っていうか渦っていうか、そんなものみたいだぜ?練習を続けたら、ちゃんとした闘気が飛ばせるようになったけど」
「いやいや、空気の塊の方がスゲーから」
アルスが突っ込む。
「…というと、ユウカさんの『ウインドカッター』と同じもののようですね」
フレアが言う。いや、私のは空気の圧縮が足りなくて、カッターという名前の割には切れないし。それよりすごいんじゃないの。
「剣を交わす前に相手を切れるって。反則」
ソランダさんが言う。
「そこそこ良い勝負が出来たかと思ったけど、完敗。団長にも土産話が出来る。騎士団の皆も納得すると思う。後は、女神と称せられる本人だけど…」
「そちらは宜しいでしょう」
タルタリウスさんがあっさりと言う。
「私も、他人の魔力量を見る事は出来ますからね。少なくとも、私などと比較出来るような量ではありませんね」
「フレアもそう言ってたし、あの…シオンさんだっけ?も言ってたけど、何十倍何百倍どころじゃないって、そんななのか」
「この世界に住むものは、生まれつき人間も魔物も、予め決められた大きさの魔力を溜めるコップをそれぞれ持っているようなものなのです」
「あれ、訓練で大きくなったりはしないんだ」
「ええ、訓練で変わるのは、そのコップから如何に速く多くの魔力を取り出せるかどうかだけですね」
アルスの問いに、タルタリウスさんが答える。
「普通の人間は、コップの大きさが多少異なる程度ですね。私も『無尽蔵』などと噂される事もありますが、普通の人と比べて、せいぜい数十倍といったところです。魔力の回復が速いこともありますけどね」
「コップじゃなくてバケツということか…それでユーカは風呂桶だと?」
アルス、無理やり水を入れる容器を例に挙げなくてもいいと思うの。でも、お風呂だったら小さくてもコップ1000杯くらいかなあ。魔力は時間が経つと自然に回復してくるから、無限と言っても良いかな。
「風呂桶?いやいや、そんなものではないですよ。私には大きすぎて容器の全体が見えませんね。それこそ…トレンタ湖程度なのか、はたまたヴェンティの先の外海程度なのか」
「そんなに!?」
「…いや、俺も驚いたけど、何で本人が一番驚いてるんだよ」
私が驚いて大声を上げると、アルスが突っ込んだ。
「いや、私は他人のも自分のも、魔力量を見るなんて出来ないし」
「結構ユーカって、色々使えないよな。魔力量はあっても魔法の種類はあまりないし」
イルダが言う。失礼な。結構最近は、色々考えてるんだけど。
「あはは…、そうそう、雷魔法を見せて頂けませんか?」
「ああ、雷魔法は女神と勇者にしか使えないという話でしたね」
「正確に言うと、勇者でも使えたのは過去にお一人だけですね。それに、女神の魔法と違って精霊魔法らしいですよ」
「精霊魔法ですか?」
「ええ、前回の女神と共に旅をしていたエルフだそうで。一般魔法の他、精霊魔法も神聖魔法も使えたとか」
私の問いにタルタリウスさんが答える。雷の精霊とかがいるってことかしら。
「過去の女神の事を調べても、あまり詳しいことはわからないのよね…」
「魔王や魔将に情報が伝わる事を恐れて、敢えてなるべく記録は残さないようにしたらしいですからね。しかも、前回の女神が降臨なさってから200年以上経っていますし」
タルタリウスさんが言う。実際、過去の勇者にエルフがいたとか、はっきりした記録は読んだことがないし。いや、お話はたくさんあるのだが、どれも脚色が強い小説のようなもので、どこまでが真実か分からないのだ。
「雷魔法も見せて頂きましたし、魔術師団の方にもそれなりの話が出来るでしょう」
タルタリウスさんが言う。あれから戻ってきて、例によってフレアの屋敷で皆でお茶をしている所だ。
「つまんねーな。ユーカとの魔法大戦が見られるかと思ったのに」
アルスが余計な事を言う。
「魔力量と雷魔法を見せて頂きましたしね…。それに、魔術師団の方は、元からユーカ…さんに好意的でしたから」
私への敬称でちょっと詰まったようにタルタリウスさんが言う。雷魔法を見て「様」付けになる所を、お願いして止めてもらったのだ。
「好意的って言うと?」
「ほら、ギルド経由で魔法と音の関係とか色々な発見を報告して頂いたでしょう?あのおかげで、理論を基にして各自の伸びしろや向いている魔法の系統が分かるのではないかと期待されているのですよ」
「自分達の実力を上げる方法を教えてくれた、というわけか」
アルスが納得したように言う。
「専属の魔工技師などもやる気になっていますね」
「あと、妖精が付いているというのも大きい。妖精は正しい者としか縁を結ばないというし」
ソランダさんがスピカを見ながら言う。スピカは例によって何も考えていないようなだらけた感じでふよふよと空中に漂っている。ヴェンティでもそんな事を言われたっけ。とてもそんな大層な存在には見えないけど、伝説の存在ということで、一部の人たちからは女神と同じくらいに思われているらしい。
「力は『女神と称するほど』のパーティーとして問題はない。国に変に取り入ろうといういう素振りもなく冒険者として魔物を退治してくれていて特に褒賞を求めるでもない。かといってその力を国に向ける事も考えられず、国王や教皇との関係も良好」
「何の問題もないな」
アルスが纏めてイルダが結論付ける。
「全て解決ね」
「いえいえいえいえ」
私がホッとしたように言うと、タルタリウスさんが手を振った。
「そもそも一番大きな問題が残ったままですよ」
「大きな問題?」
「今回、表向きの問題はユーカさ…ん達の実力と、国に対する態度が問題になっているわけですが、解決したのはあくまで『女神と称せられるほどの方達』としての話です。実力などが分かれば、ろくでもないことを言う貴族連中は納得するでしょうが…」
「が?」
「実際には『称せられる』ではなく、本物の『女神』らしい。とすると、何故降臨されたのか」
「あー、それがあったか」
「そもそも、本物の『女神様』と理解されていれば、文句を言うような方はいらっしゃらないですからね」
「しかし、本物であれば、何らかの目的があるはず。それもこの世界にとって良くないことが」
「だから、あたしも来たのよ。本当に自分では分からないの?」
アルスに続いて、イルダ、フレア、スピカが言ってくる。そんな事を言われても。
「ユーカが間抜けな女神で、間違って落ちてきたという可能性を祈るしかないか」
アルスはひどい言い様だ。落ちてきたときにウイッチから助けてあげたというのに。
「魔将が現れているのに魔王が復活しているという話もないしなあ。国の方で色々調べると言ってたけど、その辺りはどうなんだい?」
「芳しくない。そもそもその魔将も、そう騙っているだけの少々強いだけの魔物ではないのか、という意見もあった」
イルダの問いにソランダさんが答える。まあ確かに、倒した後の魔石を調べても、名前は書いてないだろうし。
「結局情報待ちか…。そういえば、俺達の腕試し以外に何か依頼があるかもって聞いたけど?」
「ああ、それですか。いえ、多少情報操作というか喧伝をさせて頂きたいので、その許可を」
「ジョーホーソーサ?」
「ええ、皆様の強さや国王や教皇との関係をちょっと脚色して都合の良いように広めるという話ですね」
「例えば?」
「そうですね、この前のヴェンティでの戦いでは…、『魔将の起こした港町を飲み込まんばかりの大津波。それが罪のない多くの漁民に叩きつけられようとした、まさにその瞬間、光を纏った少女の魔法が一瞬にしてその暴力を止めた。女神と称せられるその名に恥じない大魔法で海水を凍らせたのだ。その魔法に怯む魔将であったが、懲りずに無数の眷属を呼び出し、町を蹂躙せんとする。しかし、そこに立ち塞がったのは少女の仲間である剣士と女戦士。剣士の剣は目にも留まらぬ速度で眷属達を切り裂き、女戦士の大剣は信じられない勢いで叩き切る。他方で恐ろしい魔物から逃げ出した住民を守るのは教皇の娘である聖女。神聖魔法で皆の傷を癒す。津波や眷属の攻撃を防がれた魔将は業を煮やし、ついに自ら町を攻撃しようと海から姿を現した。それは見るもおぞましく、また小山のように巨大な魔物であった。この魔物にまず立ち向かったのは、仲間の中では反対に体の一番小さな妖精であった。その小さな体から発せられる美しき魔歌は、善良なるものの心を癒し邪悪なものの心をを打ち砕く。動きの止まった魔将は、剣士と女戦士の攻撃を何も出来ずに受けるしかない。止めを刺したのはやはり女神の魔法であった。光の剣が魔将の胸を貫く…』といった感じでしょうか」
「…大体合ってるわね」
「わたくしの活躍が少ない気がしますが…」
「おいおい」
スピカとフレアにアルスが突っ込む。
「さらに、『王都やトレンタから遠く離れたヴェンティに、これほどまで早く女神と称せられる少女のパーティーが赴く事ができたのは、ひとえに国王の慧眼があった。国王の密命により、ネレイスが各地を調査していたのである。先にネレイスと友好を結んでいたのはこういうときのためであった…』という感じでしょうか」
「おいおい」
アルスがまた突っ込む。実際は、国王に連絡が行ったのは魔将が倒された後だったけど。
「フレアさんの活躍が少ないなら、教皇様がフレアさんにパーティーを聖女の力でもって守るように言う場面も追加しましょうかねぇ」
「おいおい」
アルスがさらに突っ込む。そもそも『聖女』も初耳だ。
「彼はこういうのが得意」
ソランダさんが済ました顔で言う。やれやれ。タルタリウスさんは、まともな人だと思ったのに。
「…まあ、冗談は置いておいてですね」
「冗談かよ」
「いや、まあ皆さん方の実力がまさに女神と勇者と称されてもおかしくない事と、国や教会との関係が良好だという事をちょっと広めておきたいというだけです」
アルスに突っ込まれたタルタリウスさんは、笑いながら言った。
「まあ、あたしらの実力は良いとして、国王や教皇との関係は『それなりに良好』ぐらいにしておいた方が良いんじゃないのか?実力から『取り入る』必要がないのは分かるだろうけど、国王の直属みたいなのもまずいだろ」
「あくまで冒険者であって、冒険者は国から独立している、ということですか」
「ギルドマスターも、依頼はギルドを通してくれって言ってたぜ。まあ、理由は依頼料がギルドに入るってのが大きいだろうけど」
「分かりました。そういうお話を考えましょう」
イルダにタルタリウスさんが答える。まだ「お話」を作る気のようだ、
ソランダさんが両手を揚げて降参の意思を示す。ちょっと高い所から見ていた私、アルスとフレアも下りていった。
「いつ大怪我をするかと思ったわよ」
「それにしてもすごいですね」
私とフレアがイルダに声を掛ける。フレアの言っているのは、戦いの内容ではなく、切り裂かれた地面や岩のことだ。
「…いや、殆ど互角だった。最後の破れかぶれに近い技が、たまたま決まっただけだ」
「そういえばアレは一体何なんだよ」
「…私も聞きたい」
アルスに続いて、背後の地面に刺さっていた自分の剣を回収して戻ってきたソランダさんが後ろから声を掛けた。
「闘気の刃かと思って、体に闘気を纏わせて無理やり突っ込もうと思ったんだけど。直前で闘気じゃない何かだと分かったから咄嗟に剣で受けるのがやっとだった」
「いや、初見で切り落とされるとは思っていなかったぜ」
ソランダさんの頬の傷に気付いたフレアが、ヒールを掛けている。
「で、アレは何なんだ?」
「あたしにも良く分からないんだけどよ、闘気の刃の出来損ない、かな?闘気を飛ばすのが、最初中々出来なくてさ、やってるうちに何か飛ばせるようになったんだけど、空気の塊っていうか渦っていうか、そんなものみたいだぜ?練習を続けたら、ちゃんとした闘気が飛ばせるようになったけど」
「いやいや、空気の塊の方がスゲーから」
アルスが突っ込む。
「…というと、ユウカさんの『ウインドカッター』と同じもののようですね」
フレアが言う。いや、私のは空気の圧縮が足りなくて、カッターという名前の割には切れないし。それよりすごいんじゃないの。
「剣を交わす前に相手を切れるって。反則」
ソランダさんが言う。
「そこそこ良い勝負が出来たかと思ったけど、完敗。団長にも土産話が出来る。騎士団の皆も納得すると思う。後は、女神と称せられる本人だけど…」
「そちらは宜しいでしょう」
タルタリウスさんがあっさりと言う。
「私も、他人の魔力量を見る事は出来ますからね。少なくとも、私などと比較出来るような量ではありませんね」
「フレアもそう言ってたし、あの…シオンさんだっけ?も言ってたけど、何十倍何百倍どころじゃないって、そんななのか」
「この世界に住むものは、生まれつき人間も魔物も、予め決められた大きさの魔力を溜めるコップをそれぞれ持っているようなものなのです」
「あれ、訓練で大きくなったりはしないんだ」
「ええ、訓練で変わるのは、そのコップから如何に速く多くの魔力を取り出せるかどうかだけですね」
アルスの問いに、タルタリウスさんが答える。
「普通の人間は、コップの大きさが多少異なる程度ですね。私も『無尽蔵』などと噂される事もありますが、普通の人と比べて、せいぜい数十倍といったところです。魔力の回復が速いこともありますけどね」
「コップじゃなくてバケツということか…それでユーカは風呂桶だと?」
アルス、無理やり水を入れる容器を例に挙げなくてもいいと思うの。でも、お風呂だったら小さくてもコップ1000杯くらいかなあ。魔力は時間が経つと自然に回復してくるから、無限と言っても良いかな。
「風呂桶?いやいや、そんなものではないですよ。私には大きすぎて容器の全体が見えませんね。それこそ…トレンタ湖程度なのか、はたまたヴェンティの先の外海程度なのか」
「そんなに!?」
「…いや、俺も驚いたけど、何で本人が一番驚いてるんだよ」
私が驚いて大声を上げると、アルスが突っ込んだ。
「いや、私は他人のも自分のも、魔力量を見るなんて出来ないし」
「結構ユーカって、色々使えないよな。魔力量はあっても魔法の種類はあまりないし」
イルダが言う。失礼な。結構最近は、色々考えてるんだけど。
「あはは…、そうそう、雷魔法を見せて頂けませんか?」
「ああ、雷魔法は女神と勇者にしか使えないという話でしたね」
「正確に言うと、勇者でも使えたのは過去にお一人だけですね。それに、女神の魔法と違って精霊魔法らしいですよ」
「精霊魔法ですか?」
「ええ、前回の女神と共に旅をしていたエルフだそうで。一般魔法の他、精霊魔法も神聖魔法も使えたとか」
私の問いにタルタリウスさんが答える。雷の精霊とかがいるってことかしら。
「過去の女神の事を調べても、あまり詳しいことはわからないのよね…」
「魔王や魔将に情報が伝わる事を恐れて、敢えてなるべく記録は残さないようにしたらしいですからね。しかも、前回の女神が降臨なさってから200年以上経っていますし」
タルタリウスさんが言う。実際、過去の勇者にエルフがいたとか、はっきりした記録は読んだことがないし。いや、お話はたくさんあるのだが、どれも脚色が強い小説のようなもので、どこまでが真実か分からないのだ。
「雷魔法も見せて頂きましたし、魔術師団の方にもそれなりの話が出来るでしょう」
タルタリウスさんが言う。あれから戻ってきて、例によってフレアの屋敷で皆でお茶をしている所だ。
「つまんねーな。ユーカとの魔法大戦が見られるかと思ったのに」
アルスが余計な事を言う。
「魔力量と雷魔法を見せて頂きましたしね…。それに、魔術師団の方は、元からユーカ…さんに好意的でしたから」
私への敬称でちょっと詰まったようにタルタリウスさんが言う。雷魔法を見て「様」付けになる所を、お願いして止めてもらったのだ。
「好意的って言うと?」
「ほら、ギルド経由で魔法と音の関係とか色々な発見を報告して頂いたでしょう?あのおかげで、理論を基にして各自の伸びしろや向いている魔法の系統が分かるのではないかと期待されているのですよ」
「自分達の実力を上げる方法を教えてくれた、というわけか」
アルスが納得したように言う。
「専属の魔工技師などもやる気になっていますね」
「あと、妖精が付いているというのも大きい。妖精は正しい者としか縁を結ばないというし」
ソランダさんがスピカを見ながら言う。スピカは例によって何も考えていないようなだらけた感じでふよふよと空中に漂っている。ヴェンティでもそんな事を言われたっけ。とてもそんな大層な存在には見えないけど、伝説の存在ということで、一部の人たちからは女神と同じくらいに思われているらしい。
「力は『女神と称するほど』のパーティーとして問題はない。国に変に取り入ろうといういう素振りもなく冒険者として魔物を退治してくれていて特に褒賞を求めるでもない。かといってその力を国に向ける事も考えられず、国王や教皇との関係も良好」
「何の問題もないな」
アルスが纏めてイルダが結論付ける。
「全て解決ね」
「いえいえいえいえ」
私がホッとしたように言うと、タルタリウスさんが手を振った。
「そもそも一番大きな問題が残ったままですよ」
「大きな問題?」
「今回、表向きの問題はユーカさ…ん達の実力と、国に対する態度が問題になっているわけですが、解決したのはあくまで『女神と称せられるほどの方達』としての話です。実力などが分かれば、ろくでもないことを言う貴族連中は納得するでしょうが…」
「が?」
「実際には『称せられる』ではなく、本物の『女神』らしい。とすると、何故降臨されたのか」
「あー、それがあったか」
「そもそも、本物の『女神様』と理解されていれば、文句を言うような方はいらっしゃらないですからね」
「しかし、本物であれば、何らかの目的があるはず。それもこの世界にとって良くないことが」
「だから、あたしも来たのよ。本当に自分では分からないの?」
アルスに続いて、イルダ、フレア、スピカが言ってくる。そんな事を言われても。
「ユーカが間抜けな女神で、間違って落ちてきたという可能性を祈るしかないか」
アルスはひどい言い様だ。落ちてきたときにウイッチから助けてあげたというのに。
「魔将が現れているのに魔王が復活しているという話もないしなあ。国の方で色々調べると言ってたけど、その辺りはどうなんだい?」
「芳しくない。そもそもその魔将も、そう騙っているだけの少々強いだけの魔物ではないのか、という意見もあった」
イルダの問いにソランダさんが答える。まあ確かに、倒した後の魔石を調べても、名前は書いてないだろうし。
「結局情報待ちか…。そういえば、俺達の腕試し以外に何か依頼があるかもって聞いたけど?」
「ああ、それですか。いえ、多少情報操作というか喧伝をさせて頂きたいので、その許可を」
「ジョーホーソーサ?」
「ええ、皆様の強さや国王や教皇との関係をちょっと脚色して都合の良いように広めるという話ですね」
「例えば?」
「そうですね、この前のヴェンティでの戦いでは…、『魔将の起こした港町を飲み込まんばかりの大津波。それが罪のない多くの漁民に叩きつけられようとした、まさにその瞬間、光を纏った少女の魔法が一瞬にしてその暴力を止めた。女神と称せられるその名に恥じない大魔法で海水を凍らせたのだ。その魔法に怯む魔将であったが、懲りずに無数の眷属を呼び出し、町を蹂躙せんとする。しかし、そこに立ち塞がったのは少女の仲間である剣士と女戦士。剣士の剣は目にも留まらぬ速度で眷属達を切り裂き、女戦士の大剣は信じられない勢いで叩き切る。他方で恐ろしい魔物から逃げ出した住民を守るのは教皇の娘である聖女。神聖魔法で皆の傷を癒す。津波や眷属の攻撃を防がれた魔将は業を煮やし、ついに自ら町を攻撃しようと海から姿を現した。それは見るもおぞましく、また小山のように巨大な魔物であった。この魔物にまず立ち向かったのは、仲間の中では反対に体の一番小さな妖精であった。その小さな体から発せられる美しき魔歌は、善良なるものの心を癒し邪悪なものの心をを打ち砕く。動きの止まった魔将は、剣士と女戦士の攻撃を何も出来ずに受けるしかない。止めを刺したのはやはり女神の魔法であった。光の剣が魔将の胸を貫く…』といった感じでしょうか」
「…大体合ってるわね」
「わたくしの活躍が少ない気がしますが…」
「おいおい」
スピカとフレアにアルスが突っ込む。
「さらに、『王都やトレンタから遠く離れたヴェンティに、これほどまで早く女神と称せられる少女のパーティーが赴く事ができたのは、ひとえに国王の慧眼があった。国王の密命により、ネレイスが各地を調査していたのである。先にネレイスと友好を結んでいたのはこういうときのためであった…』という感じでしょうか」
「おいおい」
アルスがまた突っ込む。実際は、国王に連絡が行ったのは魔将が倒された後だったけど。
「フレアさんの活躍が少ないなら、教皇様がフレアさんにパーティーを聖女の力でもって守るように言う場面も追加しましょうかねぇ」
「おいおい」
アルスがさらに突っ込む。そもそも『聖女』も初耳だ。
「彼はこういうのが得意」
ソランダさんが済ました顔で言う。やれやれ。タルタリウスさんは、まともな人だと思ったのに。
「…まあ、冗談は置いておいてですね」
「冗談かよ」
「いや、まあ皆さん方の実力がまさに女神と勇者と称されてもおかしくない事と、国や教会との関係が良好だという事をちょっと広めておきたいというだけです」
アルスに突っ込まれたタルタリウスさんは、笑いながら言った。
「まあ、あたしらの実力は良いとして、国王や教皇との関係は『それなりに良好』ぐらいにしておいた方が良いんじゃないのか?実力から『取り入る』必要がないのは分かるだろうけど、国王の直属みたいなのもまずいだろ」
「あくまで冒険者であって、冒険者は国から独立している、ということですか」
「ギルドマスターも、依頼はギルドを通してくれって言ってたぜ。まあ、理由は依頼料がギルドに入るってのが大きいだろうけど」
「分かりました。そういうお話を考えましょう」
イルダにタルタリウスさんが答える。まだ「お話」を作る気のようだ、
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる