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64 アルス大活躍(裏)
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**********
…話は、朝に遡る。
朝、朝食を食べ終わると、アルスはさっさと出て行った。やる気だけは十分らしい。しかし…。
「写真を忘れて行ってるじゃない、もう…」
ネックレスの写真がテーブルの上に置きっぱなしだ。私はため息を吐いて、写真をポケットにしまった。
ちょっと長居をするかもしれないと、フレアはメイド長に頼んでおいたパンとクッキーをお土産に抱えている。これで、夕方までお邪魔しても大丈夫だろう。
コンラートさんの屋敷に着いてみると、迎えてくれたのはアマティアさんだ。応接室に案内される。
「コンラートから聞きました。昨日は不在にしていて申し訳ありませんでした」
『コンラート』と呼び捨てなだけでなく、口調から感じられる距離感が依然と大部違う。これは、結婚も近いな。
「…そうですか、イライザちゃんが…。ちょっと変わった感じのする子でしたが…。ユーカさんのおかげで、良い結果になりそうで良かったです」
「魔工で魔力を作るってのは、たまたまですけどね」
さて。
「さて、こちらの話としてはそんなものなんですけど、何か相談があったのでは?昨日の用事もその関係だと聞きましたが」
「あー、それなんですけどね。イアイラに、その…何ていうか『いい人』が出来たみたいなのですよ」
「…『いい人』って、あれか。えーっと、相手は人族かい?」
「そうなんですよ。なんというかその、私とコンラートを見てそういう気になったらしく」
イルダの問いに、ちょっと顔を赤くしてアマティアさんが答える。そういえば人間との恋に憧れる~とか言ってたような。
「何か問題があるのでしょうか?」
「そーそー、別に良いじゃない」
「…それがですね、えーっと、あの季節祭のときに私たちの店で絡んできた男達の一人で」
フレアとスピカに、アマティアさんは言いにくそうに答えた。
「ああ、アマティアさんが湖に投げ込んだという」
「水魔法で引き込んだ、です。あの後、反省したと言い寄って来たらしく、最初は相手にしなかったものの、だんだん絆されたようで…。最近ではプレゼントを貰ったとか喜んでいまして」
私の言葉を訂正しながら説明するアマティアさん。うーん、それはちょっと心配にもなるかな。店に絡んできた所は見てないけど、恐らくセリアさんに絡んできたのと同じ連中だと思う。
「もしかして二人組の一人は面白い髪型をしてた?」
「ええ、鶏の頭みたいな。イアイラの相手もその人ですよ」
「やっぱり…スピカ、セリアさんにぶつかってきた例の連中よ」
「ああ、あたしが魔歌で吹っ飛ばした?」
「『ボクっ娘』は需要も多いのに、よりによってねえ…」
「ボクッコ?いや、ユーカ、あたしは別に心を入れ替えたのなら良いと思うけどな」
イルダはそう言うけど、そう簡単に心を入れ替えられれるものかしら。
「まあ、しばらくは様子を見るしかないんじゃないかしら」
「ですが、わたしはイアイラが傷付かないか心配で…」
「うーん…」
何かするっていっても、下手に忠告すると逆効果だし、こっそりと後をつけるとか…あ、もしかしたら、昨日アマティアさんがいなかったのはそれか。
私たちが唸っていると、ドアをノックする音がして、コンラートさんが顔を出した。
「やあ、皆さんこんにちは。…アマティア、コリンナ嬢がいらっしゃったのだが」
「来客ですか?わたくしたちは、おいとましたほうがよろしいでしょうか」
「いえ…宜しかったら、コリンナさんに会っていって頂けないでしょうか」
「コリンナさんって?」
「近所の屋敷の娘さんで、最近懇意にしているのですよ。…その、聖女様や女神様(と称せられる方)に憧れているというか…」
「あー」
イルダが変な声を出すが、まあアマティアさんと仲が良いような人なら問題ないだろう。
「…どうも初めまして。コリンナ・オーラントと申します」
名前もそうだけど、見掛けも如何にも貴族のお嬢様っぽい。悪い意味の貴族っぽさではなく、深窓の令嬢っぽいという意味だ。
「聖女様や女神様と言われる方にお会い出来て光栄です!フェアリー様もいらっしゃるのですね!そちらは無敵の戦士様かと!」
目がキラキラしている。聖女様とか、いつから広まったのよ。タルタリウスさんのせいか。
「ど、どうも、フレアです」
「よ、よろしく、悠歌と申します」
「スピカよ」
「あたしはイルダだ。仲間はもう一人いるんだが、今日は生憎…」
「神速の剣士様ですね!」
「…あ、ああ、アルスっていうんだが、今日は一人で依頼を受けていて…」
「そうなのですか…え、ア、アルス様?そう、なのですか…」
「…?、まあ今日のところはアルスはいなくても良いんじゃない?これだけ女性ばかりだと居心地が悪いでしょう」
「そ、そうですね…」
「…まあ、あたしらも毎日のように強大な魔物と戦ってるって訳じゃないんだよ。普段は町の周りに出る雑魚魔物の退治ぐらいでさ。今日なんか、それもなく暇だからアマティアさんに会いに来たようなものだしな」
「いえ、町の周りの魔物を退治して頂けるだけでもありがたい話です。冒険者なんて憧れてしまいますわ!」
最初はちょっと遠慮している雰囲気だったが、今までの旅の話をすると、本当に喜んでいる感じだ。冒険者を馬鹿にする貴族もいるようだけど、こういう人もいるのね。
「あ、あら、申し訳ありません、私ったらはしゃいでしまって。今日アマティアさんとは冒険の話で?」
「違うのよ、ちょっとした世間話。…そうねえ、ねえコリンナさん、町でちょいちょい悪い事をしているチンピラみたいな人をどう思う?」
「おい、ユーカ、彼女にそんなことを聞いたって…」
「大きな悪事に係わっているなら別ですけど、そういうちょっと乱暴なだけの方達は、周りの状況でそういうことをしているだけで、実際は良い方も多いのではと思いますわ」
イルダは止めたが、コリンナ嬢はすらすらと答えた。皆はちょっとあっけに取られている感じだったが、私は色々と考えていた。
そのとき、ドアが乱暴に開かれると、誰かが飛び込んできた。アマティアさんに抱きつく。
「アマティアー!」
わんわん泣いて、アマティアさんに抱きついているのは…、イアイラだった。少し遅れてコンラートさんが息を切らしながら、ドアの所に顔を出す。
「失礼、急に家に来て…、大丈夫なのかい?」
落ち着くようにとお茶を用意したのはコンラートさんだ。今日もメイドはいないらしい。私たちも知らない仲ではないので、そのまま同じ部屋にいる。コリンナ嬢だけはイアイラと初対面だったらしいので、フレアが一所懸命紹介していた。
「…それで、どうしたの?」
「グスッ、うん、今日ね、パーンに誘われて、彼の良く知っているっていうお店に行ったの」
「パーン?」
コリンナ嬢が疑問の声を上げるが、パーンというのは最近付き合い始めたという、相手の名前だろう。
「ウッ、そうしたら、急にパーンとよく一緒にいる人と、あと知らない男数人に部屋に連れ込まれて、そしてその男達が下卑た笑いを浮かべながら、ボクを取り囲んで…」
「乱暴されたのね!おのれ、ネレイス族の敵!粛清してくれるわ!」
アマティアさん、気持ちは分かるけど、言葉遣いが変だ。私も怒りが込み上げて来ていたが、気勢が削がれてしまった。
「ううん、ちょっと小突かれただけ。棒を持って取り囲んで、ボクを罵倒したの。お前みたいな魚くさい奴を相手にするもんかって。オマエの仲間に湖に叩き込まれた仕返しだって。付き合うなんて言ってたけど、ボクはからかわれていたんだ…。馬鹿みたい、ウウッ」
「おのれ、あの鶏冠頭!粛清よ!」
コンラートさんが完全に退いているが、アマティアさんの怒りは分かる。
「そ、それで…?」
「ウン、棒で殴られそうになったけど、人化の術を解いて、尾で思いっきり引っ叩いてやった。みんなのびちゃったから、パーンの口に、もらったネックレスを突っ込んで逃げてきたの」
「ネックレス?」
またコリンナ嬢が疑問の声を上げるが、ネックレスというのは、イアイラが鶏冠頭にプレゼントされたという物だろう。
「あまり酷いことをされる前に逃げられたのは良かったけど、そいつらは許せないな」
「心が傷付けられただけで、十分酷いことをされていますよ」
イルダとフレアもかなり怒っているようだ。
「パーン…鶏冠頭…ネックレス…」
「コリンナさん?」
コリンナ嬢の様子がおかしいのに気付いたフレアが声を掛ける。これは、当たりか。私はポケットを探って、写真を取り出した。
「…そのネックレスってこれじゃない?」
「これは…確かにそーだけど、どうしてユーカが?」
「ああ、やっぱり!」
イアイラは写真を見て不思議そうに呟いたが、コリンナ嬢はガックリと腰を落とした。顔面蒼白だ。
「…ユーカ、どういうことだ?…え?じゃあ、アルスが依頼で探しているネックレスを盗んだのが鳥頭で、それをイアイラに渡した?」
「イルダ、鳥頭じゃなくて鶏冠…まあそれは合ってるかも知れないけど、オーラントって名字に聞き覚えがあったの。…それに盗んだんじゃないわ。それならアルスに対する態度がおかしいものね。話してくれる?」
コリンナ嬢は、ゆっくりと頷いた。
「私の父はとても厳しく、町に遊びに行くのも中々許してくれませんでした。それで、たまに隠れて町に遊びに出ていたのですが、ある日乱暴な男に絡まれまして、そのときパーンに助けてもらったのです」
「あー」
「それで、その後も度々会っていたのですが、彼の話はとても面白く、また私を大事にしてくれました」
「あー」
「一方的に私が熱を上げていたようなものですが、彼は『俺みたいな奴と付き合っちゃいけねぇ』と優しく…。それで、先日、『こんな事を頼めた義理じゃねえんだが』と言われたときに、頼られたのが嬉しくて、言われるままにお金に困っていると言う彼に、家から持ち出したネックレスを渡してしまって…」
「あー」
イルダ、呆れるのは分かるけど、その合いの手は止めなさいよ。
「なるほど、ネックレスがなくなった事に気付いたあんたの親が、ギルドに依頼を出したって訳だ」
「警備隊だけならともかく、まさかギルドにまで依頼を出すなんて」
「いや、あんたは知らないのかもしれないけど、これはかなりの値打ち物だぜ」
「騙されていた私が馬鹿でした。本当のことも言えないので、アルス様にも酷い事を言ってしまいました。そればかりかイアイラさんにもご迷惑を…」
「いや、アルスはどうでも良いし、イアイラのことはあんたに責任はないぞ。ネックレスも気を引くのに使われただけだし。まあ、今日イアイラから奪い返して、売り飛ばすつもりだったんだろうな」
しかし、イアイラもコリンナ嬢も、何で揃いも揃って、よりによって、あんな鶏冠頭に騙されるんだか。
「おのれ、種族を越えた女性の敵!粛清しかないわ!」
「…ここは、しっかりと牢屋に入ってもらいましょうよ」
アマティアさんを抑えて、私は言う。
「でも、ネックレスは貰っただけですし、イアイラさんの件も、犯罪と認めてもらうのは難しいのでは?」
「貴族の御令嬢からネックレスを奪った挙句、脅迫したらかなりの罪になるでしょ?」
「なるほど」
フレアも分かってくれたようだ。
「でも、良いのでしょうか…」
「貴族の令嬢があんな連中と付き合っていて、家から宝飾品を持ち出して渡していた、なんて正直なことを言ったら、酷い醜聞よ。下手をすると家にまで何らかの処分が下りかねないわ。後は、アルスに活躍してもらいましょ」
コリンナ嬢に私が言うと、他の皆も頷いた。
**********
「…アルスさんなんて如何ですか?今回の事で御分かりのように頼りになりますよ」
夕食の席で、フレアが、アルスをさらに持ち上げるような事を言う。アルス以外、笑いを堪えているみんなが注目する中、イアイラはちょっと苦笑いをして口を開いた。
「…そうだなー、うーん、アルスも頼りになるかもだけど、ちょっとボクの好みじゃないかなー」
私たちは爆笑した。
「おいおい、ひどいなー。…ちょっとみんな、そんなに笑わなくても良いだろう?」
…話は、朝に遡る。
朝、朝食を食べ終わると、アルスはさっさと出て行った。やる気だけは十分らしい。しかし…。
「写真を忘れて行ってるじゃない、もう…」
ネックレスの写真がテーブルの上に置きっぱなしだ。私はため息を吐いて、写真をポケットにしまった。
ちょっと長居をするかもしれないと、フレアはメイド長に頼んでおいたパンとクッキーをお土産に抱えている。これで、夕方までお邪魔しても大丈夫だろう。
コンラートさんの屋敷に着いてみると、迎えてくれたのはアマティアさんだ。応接室に案内される。
「コンラートから聞きました。昨日は不在にしていて申し訳ありませんでした」
『コンラート』と呼び捨てなだけでなく、口調から感じられる距離感が依然と大部違う。これは、結婚も近いな。
「…そうですか、イライザちゃんが…。ちょっと変わった感じのする子でしたが…。ユーカさんのおかげで、良い結果になりそうで良かったです」
「魔工で魔力を作るってのは、たまたまですけどね」
さて。
「さて、こちらの話としてはそんなものなんですけど、何か相談があったのでは?昨日の用事もその関係だと聞きましたが」
「あー、それなんですけどね。イアイラに、その…何ていうか『いい人』が出来たみたいなのですよ」
「…『いい人』って、あれか。えーっと、相手は人族かい?」
「そうなんですよ。なんというかその、私とコンラートを見てそういう気になったらしく」
イルダの問いに、ちょっと顔を赤くしてアマティアさんが答える。そういえば人間との恋に憧れる~とか言ってたような。
「何か問題があるのでしょうか?」
「そーそー、別に良いじゃない」
「…それがですね、えーっと、あの季節祭のときに私たちの店で絡んできた男達の一人で」
フレアとスピカに、アマティアさんは言いにくそうに答えた。
「ああ、アマティアさんが湖に投げ込んだという」
「水魔法で引き込んだ、です。あの後、反省したと言い寄って来たらしく、最初は相手にしなかったものの、だんだん絆されたようで…。最近ではプレゼントを貰ったとか喜んでいまして」
私の言葉を訂正しながら説明するアマティアさん。うーん、それはちょっと心配にもなるかな。店に絡んできた所は見てないけど、恐らくセリアさんに絡んできたのと同じ連中だと思う。
「もしかして二人組の一人は面白い髪型をしてた?」
「ええ、鶏の頭みたいな。イアイラの相手もその人ですよ」
「やっぱり…スピカ、セリアさんにぶつかってきた例の連中よ」
「ああ、あたしが魔歌で吹っ飛ばした?」
「『ボクっ娘』は需要も多いのに、よりによってねえ…」
「ボクッコ?いや、ユーカ、あたしは別に心を入れ替えたのなら良いと思うけどな」
イルダはそう言うけど、そう簡単に心を入れ替えられれるものかしら。
「まあ、しばらくは様子を見るしかないんじゃないかしら」
「ですが、わたしはイアイラが傷付かないか心配で…」
「うーん…」
何かするっていっても、下手に忠告すると逆効果だし、こっそりと後をつけるとか…あ、もしかしたら、昨日アマティアさんがいなかったのはそれか。
私たちが唸っていると、ドアをノックする音がして、コンラートさんが顔を出した。
「やあ、皆さんこんにちは。…アマティア、コリンナ嬢がいらっしゃったのだが」
「来客ですか?わたくしたちは、おいとましたほうがよろしいでしょうか」
「いえ…宜しかったら、コリンナさんに会っていって頂けないでしょうか」
「コリンナさんって?」
「近所の屋敷の娘さんで、最近懇意にしているのですよ。…その、聖女様や女神様(と称せられる方)に憧れているというか…」
「あー」
イルダが変な声を出すが、まあアマティアさんと仲が良いような人なら問題ないだろう。
「…どうも初めまして。コリンナ・オーラントと申します」
名前もそうだけど、見掛けも如何にも貴族のお嬢様っぽい。悪い意味の貴族っぽさではなく、深窓の令嬢っぽいという意味だ。
「聖女様や女神様と言われる方にお会い出来て光栄です!フェアリー様もいらっしゃるのですね!そちらは無敵の戦士様かと!」
目がキラキラしている。聖女様とか、いつから広まったのよ。タルタリウスさんのせいか。
「ど、どうも、フレアです」
「よ、よろしく、悠歌と申します」
「スピカよ」
「あたしはイルダだ。仲間はもう一人いるんだが、今日は生憎…」
「神速の剣士様ですね!」
「…あ、ああ、アルスっていうんだが、今日は一人で依頼を受けていて…」
「そうなのですか…え、ア、アルス様?そう、なのですか…」
「…?、まあ今日のところはアルスはいなくても良いんじゃない?これだけ女性ばかりだと居心地が悪いでしょう」
「そ、そうですね…」
「…まあ、あたしらも毎日のように強大な魔物と戦ってるって訳じゃないんだよ。普段は町の周りに出る雑魚魔物の退治ぐらいでさ。今日なんか、それもなく暇だからアマティアさんに会いに来たようなものだしな」
「いえ、町の周りの魔物を退治して頂けるだけでもありがたい話です。冒険者なんて憧れてしまいますわ!」
最初はちょっと遠慮している雰囲気だったが、今までの旅の話をすると、本当に喜んでいる感じだ。冒険者を馬鹿にする貴族もいるようだけど、こういう人もいるのね。
「あ、あら、申し訳ありません、私ったらはしゃいでしまって。今日アマティアさんとは冒険の話で?」
「違うのよ、ちょっとした世間話。…そうねえ、ねえコリンナさん、町でちょいちょい悪い事をしているチンピラみたいな人をどう思う?」
「おい、ユーカ、彼女にそんなことを聞いたって…」
「大きな悪事に係わっているなら別ですけど、そういうちょっと乱暴なだけの方達は、周りの状況でそういうことをしているだけで、実際は良い方も多いのではと思いますわ」
イルダは止めたが、コリンナ嬢はすらすらと答えた。皆はちょっとあっけに取られている感じだったが、私は色々と考えていた。
そのとき、ドアが乱暴に開かれると、誰かが飛び込んできた。アマティアさんに抱きつく。
「アマティアー!」
わんわん泣いて、アマティアさんに抱きついているのは…、イアイラだった。少し遅れてコンラートさんが息を切らしながら、ドアの所に顔を出す。
「失礼、急に家に来て…、大丈夫なのかい?」
落ち着くようにとお茶を用意したのはコンラートさんだ。今日もメイドはいないらしい。私たちも知らない仲ではないので、そのまま同じ部屋にいる。コリンナ嬢だけはイアイラと初対面だったらしいので、フレアが一所懸命紹介していた。
「…それで、どうしたの?」
「グスッ、うん、今日ね、パーンに誘われて、彼の良く知っているっていうお店に行ったの」
「パーン?」
コリンナ嬢が疑問の声を上げるが、パーンというのは最近付き合い始めたという、相手の名前だろう。
「ウッ、そうしたら、急にパーンとよく一緒にいる人と、あと知らない男数人に部屋に連れ込まれて、そしてその男達が下卑た笑いを浮かべながら、ボクを取り囲んで…」
「乱暴されたのね!おのれ、ネレイス族の敵!粛清してくれるわ!」
アマティアさん、気持ちは分かるけど、言葉遣いが変だ。私も怒りが込み上げて来ていたが、気勢が削がれてしまった。
「ううん、ちょっと小突かれただけ。棒を持って取り囲んで、ボクを罵倒したの。お前みたいな魚くさい奴を相手にするもんかって。オマエの仲間に湖に叩き込まれた仕返しだって。付き合うなんて言ってたけど、ボクはからかわれていたんだ…。馬鹿みたい、ウウッ」
「おのれ、あの鶏冠頭!粛清よ!」
コンラートさんが完全に退いているが、アマティアさんの怒りは分かる。
「そ、それで…?」
「ウン、棒で殴られそうになったけど、人化の術を解いて、尾で思いっきり引っ叩いてやった。みんなのびちゃったから、パーンの口に、もらったネックレスを突っ込んで逃げてきたの」
「ネックレス?」
またコリンナ嬢が疑問の声を上げるが、ネックレスというのは、イアイラが鶏冠頭にプレゼントされたという物だろう。
「あまり酷いことをされる前に逃げられたのは良かったけど、そいつらは許せないな」
「心が傷付けられただけで、十分酷いことをされていますよ」
イルダとフレアもかなり怒っているようだ。
「パーン…鶏冠頭…ネックレス…」
「コリンナさん?」
コリンナ嬢の様子がおかしいのに気付いたフレアが声を掛ける。これは、当たりか。私はポケットを探って、写真を取り出した。
「…そのネックレスってこれじゃない?」
「これは…確かにそーだけど、どうしてユーカが?」
「ああ、やっぱり!」
イアイラは写真を見て不思議そうに呟いたが、コリンナ嬢はガックリと腰を落とした。顔面蒼白だ。
「…ユーカ、どういうことだ?…え?じゃあ、アルスが依頼で探しているネックレスを盗んだのが鳥頭で、それをイアイラに渡した?」
「イルダ、鳥頭じゃなくて鶏冠…まあそれは合ってるかも知れないけど、オーラントって名字に聞き覚えがあったの。…それに盗んだんじゃないわ。それならアルスに対する態度がおかしいものね。話してくれる?」
コリンナ嬢は、ゆっくりと頷いた。
「私の父はとても厳しく、町に遊びに行くのも中々許してくれませんでした。それで、たまに隠れて町に遊びに出ていたのですが、ある日乱暴な男に絡まれまして、そのときパーンに助けてもらったのです」
「あー」
「それで、その後も度々会っていたのですが、彼の話はとても面白く、また私を大事にしてくれました」
「あー」
「一方的に私が熱を上げていたようなものですが、彼は『俺みたいな奴と付き合っちゃいけねぇ』と優しく…。それで、先日、『こんな事を頼めた義理じゃねえんだが』と言われたときに、頼られたのが嬉しくて、言われるままにお金に困っていると言う彼に、家から持ち出したネックレスを渡してしまって…」
「あー」
イルダ、呆れるのは分かるけど、その合いの手は止めなさいよ。
「なるほど、ネックレスがなくなった事に気付いたあんたの親が、ギルドに依頼を出したって訳だ」
「警備隊だけならともかく、まさかギルドにまで依頼を出すなんて」
「いや、あんたは知らないのかもしれないけど、これはかなりの値打ち物だぜ」
「騙されていた私が馬鹿でした。本当のことも言えないので、アルス様にも酷い事を言ってしまいました。そればかりかイアイラさんにもご迷惑を…」
「いや、アルスはどうでも良いし、イアイラのことはあんたに責任はないぞ。ネックレスも気を引くのに使われただけだし。まあ、今日イアイラから奪い返して、売り飛ばすつもりだったんだろうな」
しかし、イアイラもコリンナ嬢も、何で揃いも揃って、よりによって、あんな鶏冠頭に騙されるんだか。
「おのれ、種族を越えた女性の敵!粛清しかないわ!」
「…ここは、しっかりと牢屋に入ってもらいましょうよ」
アマティアさんを抑えて、私は言う。
「でも、ネックレスは貰っただけですし、イアイラさんの件も、犯罪と認めてもらうのは難しいのでは?」
「貴族の御令嬢からネックレスを奪った挙句、脅迫したらかなりの罪になるでしょ?」
「なるほど」
フレアも分かってくれたようだ。
「でも、良いのでしょうか…」
「貴族の令嬢があんな連中と付き合っていて、家から宝飾品を持ち出して渡していた、なんて正直なことを言ったら、酷い醜聞よ。下手をすると家にまで何らかの処分が下りかねないわ。後は、アルスに活躍してもらいましょ」
コリンナ嬢に私が言うと、他の皆も頷いた。
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「…アルスさんなんて如何ですか?今回の事で御分かりのように頼りになりますよ」
夕食の席で、フレアが、アルスをさらに持ち上げるような事を言う。アルス以外、笑いを堪えているみんなが注目する中、イアイラはちょっと苦笑いをして口を開いた。
「…そうだなー、うーん、アルスも頼りになるかもだけど、ちょっとボクの好みじゃないかなー」
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