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65 王都からの依頼
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朝食を終えると、例によってアルスとイルダは面白そうな依頼を探しにギルドへ行った。
「私もたまにはギルドの依頼を探してみた方が良いかしらねえ」
そう、ギルド以外の直接的な依頼や、頼まれたわけでもない仕事?が多く、自分で依頼を選ぶ事が殆どない状態になっているのだ。
「どうせ、すぐに事件の方からやってくるわよ。暇なら、新しい魔法の開発でもする?最近サボってるでしょ」
スピカが余計な事を言う。
「まあ、暇なのは悪いことではありませんよ。何なら、湖の周りを散策でも…」
等とフレアが暢気なことを言っていると、さっき出て行ったばかりのアルスとイルダが戻ってきた。
「おい、ケヴェスンさん、いやギルドマスターが指名依頼をしたいってさ」
なるほど、これが虫ならぬ妖精の知らせって奴ね。
「国からの依頼です」
ケヴェスンさんが言う。副長のアズノールさんも同席している。重大な依頼のようだ。
「まあ、詳しい内容は聞いていないのだがな。コマンダリアとファットリアの情報収集みたいなものらしい」
「情報収集っていうと、コマンダリアに行く事になるのか…」
「もちろん、指名依頼は形式的には断る事もできる。ただ、今回の依頼は国といっても『かなり上』の方からでな。ギルドとしては、あまり無下にしたくないのが正直な所だ」
アズノールさんは、少々言いにくそうだ。かなり上って、王様とか教皇とか?直接頼めば良いのではと思うが、この前タルタリウスさんたちに、依頼はギルドを通せと言ったので、そのせいかも知れない。
「俺達は特に問題ないが…そうだ、イルダはどうだ?」
「ん?あたし?」
アルスがイルダに尋ねる。そういえば、イルダはコマンダリア出身だけど、国が嫌になって出てきた、と言っていた。帰りたくないかもしれない。
「あまり気乗りはしないけど、別に『二度と足も踏み入れたくない』って程じゃないよ。行きたくない場所はあるけどな。とにかく、一応依頼主に話を聞いてみようぜ」
「…それでは、一応話を聞いてから判断するということで宜しいでしょうか。依頼主にその旨伝えますが。どのみちここからコマンダリアに行くには王都を経由していく必要がありますから、そこで話をしていただければと思います」
「…話を聞いてから断っても良い、ということだったけど、これは断り辛いな」
アルスが苦笑する。話を聞いてから、と伝えてもらったら、そのためだけに迎えの馬車が来たのだ。今、その馬車に乗って王都に向かっている途中だが、揺れも少なく内装もかなり豪華っぽい。
「表向きはタルタリウスさんとソランダさんの依頼ということだったけど、実際は国王と教皇なのかしら」
「だろうな。とすると、面倒くさい依頼ってことだな」
「何で?」
「ただの調査なら、国にはそういう専門の人間がいるはずだろ?そこをわざわざ俺達に依頼しようっていうんだからな」
アルスが言う。なるほど。
「他に面倒な話もあるかも知れません」
フレアが封筒をひらひらと振りながら言う。
「ん?それはギルドから貰った書状だろ?あたしらが、依頼を受ける冒険者という証明書じゃないのか?」
イルダが不思議そうに言う。
「いえ、これは先ほど御者の方から渡された別の封筒ですよ。『招待状』だそうです」
「はあ?何の?」
「さあ?」
何だか分からないものの招待を受けちゃ駄目でしょ。
「恐らく、この前のスキュラとか、色々なものの功績を称えて~とかで、何か貰えるんじゃね?」
「金とか貰えるだけならいいけど、叙勲式とかパーティーとかは勘弁して欲しいな」
アルスの言葉に、イルダが嫌そうな顔で答えた。
内装だけではなく、性能も豪華なのか、思ったよりも短い時間で王都までやって来た。話が付いているのか、馬車はノーチェックで門を潜り抜けた。
「あれが王城か。大きいな」
「すごーい」
アルスと私が感心して声を上げる。以前は聖都を通り抜けただけで、王都には寄らなかったので、見るのは初めてだ。
敷地に入る大きな門も、馬車を見るとそのまま開いた。そのまままっすぐ広い道を進めば正面の城に行くのだろうが、左手前の大きな建物の手前で馬車は停まった。
「迎賓館ですね。こっちの方がありがたいですね」
フレアが言う。何度も来たことがある感じだ。御者に頭を下げ、馬車から降りる。ぞろぞろと歩いて扉の前まで行き、前に立っている兵士にフレアが慣れた感じで招待状を見せると、扉が開かれた。
中に入ると、受付のようなものがあり、メイド服の受付嬢が二人座っている。えっ、迎賓館ってこういうシステム?
招待状を見せるまでもなく、受付嬢が立ち上がって、
「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
と案内する。たぶん、フレアの顔を知っているのね。
大分廊下を歩いてから案内された部屋は、扉も大きかったが中も広かった。部屋の中には国王、教皇、タルタリウスさんとソランダさんの他に、壮年の男性が一人と、私達よりちょっと年上ぐらいの若い男性が二人座っていた。
えっと、国王に挨拶すれば良いのかな、と考えていたら、若い男性の一人がすくっと立ち上がって挨拶してきた。
「いやー、いらっしゃい、君らのことは聞いているから、こちらから初めて会う面々を紹介させてもらうね。こっちが騎士団長のツェレク、こっちが第一王子のチャールズ、僕が第二王子のアレンだよ。後は知ってるよね?」
王子?私は慌てて胸に手を当てて挨拶しようとしたが、アレン王子は手を振って制した。
「あー、いいよいいよ。細かい事情も聞いてるから、畏まらなくて。それより、フレア、ちょっと見ないうちに、また一段と美しさが増したのではないかな」
「…王子、お戯れはお止めください」
「またまた、そんなわざとらしい口調でー。幼馴染みたいなものでしょ?その冷たさがまた良いけど…」
「お前はいい加減にしろ!」
あ、隣の第一王子に殴られた。
「弟が済まんな。私が第一王子のチャールズ=ウィスタリアだ。本日は招待を受けてくれて感謝している」
チャラい弟と比べて正統派王子という感じだけど…。何で「キンバル」の息子が「チャールズ」なのかしら。普通、「シャルル」か「カルロス」なんじゃないの?前からこの世界の人の名前は、どこかちぐはぐだと思っていたけど、これは(たぶん気が付かないうちに行われている)異世界語自動翻訳のせいかもしれない。
「コホン、そろそろ始めて宜しいじゃろうか?まあ適当に座ってくだされ。それと、フェアリー殿も姿を現していただいて構わないですかな?」
アレン王子を睨んでいた教皇が、私の左肩に視線を移して言う。スピカが肩から飛び上がって、ポンという音と共に姿を現した。
「おお、ソランダとタルタリウス殿が仰っていた妖精殿か」
ツェレク騎士団長が声を上げる。筋肉の塊で如何にもいかついが、目を細めて笑うと優しいオジサンという感じに見える。スピカは、ふふーんという表情でふわふわと浮いている。
「さて、お主達に願いたいことが二つある。一つは招待状の件で、もう一つは冒険者ギルド経由の依頼の件だ。まず招待状の件から済ませてしまおう」
王様が言う。
「招待の内容はの、お主等の魔将退治をはじめとする数々の功績に対する褒章を与えるから王城に来られたい、というものだ」
「魔将のこと以外にも、ネレイス達のことや、魔法の理論なども含めてね」
チャールズ王子が付け足す。
「ギルドからお金も貰っていますが」
「それは一般的な賞金や素材としてであろう?最初から魔将を倒してくれという前提での依頼ではなかったはずだ。その他の働きにしても、あまりにも功績が大きすぎるのでな。それに、国や教会との関係も良好ということになっている。褒章を与えない訳には行かんのだ」
私としてはもうお金を貰っていますから、という感じだったのだが、国の立場というのもあるのだろう。
「だけど、君達は領地だの爵位だのを貰って変な足かせになっても困るだろう?だから簡単な勲章的なもので済ませてしまおうって訳」
「あたしらの立場を考えてくれたって訳か」
アレン王子が軽い口調で言うと、イルダが軽く笑って言った。
「…そう申したいのだがな。実際の所、お主らを面白く思っていない者もおる。そういう者達の意を汲んだ結果でもあるのだ」
「そういう連中は、爵位だの領地だのに飛びつくような輩だからね。それらを与えず、殊勲式だの何ちゃらパーティーだのも開かずってことで、満足するんじゃないの」
「ただ、お主らが軽く見られるかも知れぬがな」
王様の言葉をアレン王子が問題ないと混ぜっ返すが、問題もあると。
「そういえば、そういう連中を抑えるってことで、この前タルタリウスさんとソランダさんが来られたのだと思いますが、うまく行かなかったのでしょうか」
「…それなりにうまく行ったとは思いますよ。あなた達の強さや、王家と距離を置いているということも理解されたと思いますし、表向き力で何かしてくるような事はないでしょう」
「表向きは、な。魔術師団の方は寧ろ好意的なのだが、騎士団はな…」
私の質問に、タルタリウスさんはまあうまく行ったと言うが、ツェレク騎士団長は口を濁した。魔術師団は私達がもたらした魔法理論や魔工で、自分達の力の底上げになるから好意的だけど、騎士団はねえ…。
「騎士団は冒険者のように身軽ではないのですから、自分達の手の回らない部分を冒険者がやってくれても、そんなに問題はないと思うのですけどねえ」
「いや、それよりも魔術師団が力をつけるほうが面白くないのだろう。競争相手でもあるし、そもそも仲が悪いからな」
タルタリウスさんにツェレク騎士団長が言う。良くある軋轢だけど、仲良くした方が結果として良いと思うのだけど。
「それにな、お前らのせいでもあるのだぞ」
と、タルタリウスさんだけでなくソランダさんのほうにも視線をやって言う。
「だ、団長、それは…」
「この二人が必要以上に仲が良くてな。騎士団の中でも憧れるものが多い副団長を、魔術師団の団長が『掻っ攫っていった』と不満が溜まっているのだ」
「うっわ」
真っ赤になるソランダさんを無視して、ツェレク騎士団長はこっちを見てニヤッと笑って見せた。イルダが呆れて思わず声を上げる。それはそれは。
「まあ、こちらの事情でお主らを悩ませることの無いようにしたいと考えておるよ。それで、領地でも爵位でもなく、軽い勲章を受け取って貰おうというわけだ。それを受け取っても、何かの義務が生じるわけではない。その代わり、それを見せれば王城に自由に出入りできる。何かあったときには便利であろう」
「フレアは立場上受けられないと思うけど、今まで通り巫女の証で入れるから。いつでも僕に会いに来てもらって構わないよ」
王様の言葉にみんな頷くが、続くアレン王子の言葉は全員にスルーされた。
「…え、えーと、気を取り直して、依頼の方の話をして良いかな?」
「私もたまにはギルドの依頼を探してみた方が良いかしらねえ」
そう、ギルド以外の直接的な依頼や、頼まれたわけでもない仕事?が多く、自分で依頼を選ぶ事が殆どない状態になっているのだ。
「どうせ、すぐに事件の方からやってくるわよ。暇なら、新しい魔法の開発でもする?最近サボってるでしょ」
スピカが余計な事を言う。
「まあ、暇なのは悪いことではありませんよ。何なら、湖の周りを散策でも…」
等とフレアが暢気なことを言っていると、さっき出て行ったばかりのアルスとイルダが戻ってきた。
「おい、ケヴェスンさん、いやギルドマスターが指名依頼をしたいってさ」
なるほど、これが虫ならぬ妖精の知らせって奴ね。
「国からの依頼です」
ケヴェスンさんが言う。副長のアズノールさんも同席している。重大な依頼のようだ。
「まあ、詳しい内容は聞いていないのだがな。コマンダリアとファットリアの情報収集みたいなものらしい」
「情報収集っていうと、コマンダリアに行く事になるのか…」
「もちろん、指名依頼は形式的には断る事もできる。ただ、今回の依頼は国といっても『かなり上』の方からでな。ギルドとしては、あまり無下にしたくないのが正直な所だ」
アズノールさんは、少々言いにくそうだ。かなり上って、王様とか教皇とか?直接頼めば良いのではと思うが、この前タルタリウスさんたちに、依頼はギルドを通せと言ったので、そのせいかも知れない。
「俺達は特に問題ないが…そうだ、イルダはどうだ?」
「ん?あたし?」
アルスがイルダに尋ねる。そういえば、イルダはコマンダリア出身だけど、国が嫌になって出てきた、と言っていた。帰りたくないかもしれない。
「あまり気乗りはしないけど、別に『二度と足も踏み入れたくない』って程じゃないよ。行きたくない場所はあるけどな。とにかく、一応依頼主に話を聞いてみようぜ」
「…それでは、一応話を聞いてから判断するということで宜しいでしょうか。依頼主にその旨伝えますが。どのみちここからコマンダリアに行くには王都を経由していく必要がありますから、そこで話をしていただければと思います」
「…話を聞いてから断っても良い、ということだったけど、これは断り辛いな」
アルスが苦笑する。話を聞いてから、と伝えてもらったら、そのためだけに迎えの馬車が来たのだ。今、その馬車に乗って王都に向かっている途中だが、揺れも少なく内装もかなり豪華っぽい。
「表向きはタルタリウスさんとソランダさんの依頼ということだったけど、実際は国王と教皇なのかしら」
「だろうな。とすると、面倒くさい依頼ってことだな」
「何で?」
「ただの調査なら、国にはそういう専門の人間がいるはずだろ?そこをわざわざ俺達に依頼しようっていうんだからな」
アルスが言う。なるほど。
「他に面倒な話もあるかも知れません」
フレアが封筒をひらひらと振りながら言う。
「ん?それはギルドから貰った書状だろ?あたしらが、依頼を受ける冒険者という証明書じゃないのか?」
イルダが不思議そうに言う。
「いえ、これは先ほど御者の方から渡された別の封筒ですよ。『招待状』だそうです」
「はあ?何の?」
「さあ?」
何だか分からないものの招待を受けちゃ駄目でしょ。
「恐らく、この前のスキュラとか、色々なものの功績を称えて~とかで、何か貰えるんじゃね?」
「金とか貰えるだけならいいけど、叙勲式とかパーティーとかは勘弁して欲しいな」
アルスの言葉に、イルダが嫌そうな顔で答えた。
内装だけではなく、性能も豪華なのか、思ったよりも短い時間で王都までやって来た。話が付いているのか、馬車はノーチェックで門を潜り抜けた。
「あれが王城か。大きいな」
「すごーい」
アルスと私が感心して声を上げる。以前は聖都を通り抜けただけで、王都には寄らなかったので、見るのは初めてだ。
敷地に入る大きな門も、馬車を見るとそのまま開いた。そのまままっすぐ広い道を進めば正面の城に行くのだろうが、左手前の大きな建物の手前で馬車は停まった。
「迎賓館ですね。こっちの方がありがたいですね」
フレアが言う。何度も来たことがある感じだ。御者に頭を下げ、馬車から降りる。ぞろぞろと歩いて扉の前まで行き、前に立っている兵士にフレアが慣れた感じで招待状を見せると、扉が開かれた。
中に入ると、受付のようなものがあり、メイド服の受付嬢が二人座っている。えっ、迎賓館ってこういうシステム?
招待状を見せるまでもなく、受付嬢が立ち上がって、
「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
と案内する。たぶん、フレアの顔を知っているのね。
大分廊下を歩いてから案内された部屋は、扉も大きかったが中も広かった。部屋の中には国王、教皇、タルタリウスさんとソランダさんの他に、壮年の男性が一人と、私達よりちょっと年上ぐらいの若い男性が二人座っていた。
えっと、国王に挨拶すれば良いのかな、と考えていたら、若い男性の一人がすくっと立ち上がって挨拶してきた。
「いやー、いらっしゃい、君らのことは聞いているから、こちらから初めて会う面々を紹介させてもらうね。こっちが騎士団長のツェレク、こっちが第一王子のチャールズ、僕が第二王子のアレンだよ。後は知ってるよね?」
王子?私は慌てて胸に手を当てて挨拶しようとしたが、アレン王子は手を振って制した。
「あー、いいよいいよ。細かい事情も聞いてるから、畏まらなくて。それより、フレア、ちょっと見ないうちに、また一段と美しさが増したのではないかな」
「…王子、お戯れはお止めください」
「またまた、そんなわざとらしい口調でー。幼馴染みたいなものでしょ?その冷たさがまた良いけど…」
「お前はいい加減にしろ!」
あ、隣の第一王子に殴られた。
「弟が済まんな。私が第一王子のチャールズ=ウィスタリアだ。本日は招待を受けてくれて感謝している」
チャラい弟と比べて正統派王子という感じだけど…。何で「キンバル」の息子が「チャールズ」なのかしら。普通、「シャルル」か「カルロス」なんじゃないの?前からこの世界の人の名前は、どこかちぐはぐだと思っていたけど、これは(たぶん気が付かないうちに行われている)異世界語自動翻訳のせいかもしれない。
「コホン、そろそろ始めて宜しいじゃろうか?まあ適当に座ってくだされ。それと、フェアリー殿も姿を現していただいて構わないですかな?」
アレン王子を睨んでいた教皇が、私の左肩に視線を移して言う。スピカが肩から飛び上がって、ポンという音と共に姿を現した。
「おお、ソランダとタルタリウス殿が仰っていた妖精殿か」
ツェレク騎士団長が声を上げる。筋肉の塊で如何にもいかついが、目を細めて笑うと優しいオジサンという感じに見える。スピカは、ふふーんという表情でふわふわと浮いている。
「さて、お主達に願いたいことが二つある。一つは招待状の件で、もう一つは冒険者ギルド経由の依頼の件だ。まず招待状の件から済ませてしまおう」
王様が言う。
「招待の内容はの、お主等の魔将退治をはじめとする数々の功績に対する褒章を与えるから王城に来られたい、というものだ」
「魔将のこと以外にも、ネレイス達のことや、魔法の理論なども含めてね」
チャールズ王子が付け足す。
「ギルドからお金も貰っていますが」
「それは一般的な賞金や素材としてであろう?最初から魔将を倒してくれという前提での依頼ではなかったはずだ。その他の働きにしても、あまりにも功績が大きすぎるのでな。それに、国や教会との関係も良好ということになっている。褒章を与えない訳には行かんのだ」
私としてはもうお金を貰っていますから、という感じだったのだが、国の立場というのもあるのだろう。
「だけど、君達は領地だの爵位だのを貰って変な足かせになっても困るだろう?だから簡単な勲章的なもので済ませてしまおうって訳」
「あたしらの立場を考えてくれたって訳か」
アレン王子が軽い口調で言うと、イルダが軽く笑って言った。
「…そう申したいのだがな。実際の所、お主らを面白く思っていない者もおる。そういう者達の意を汲んだ結果でもあるのだ」
「そういう連中は、爵位だの領地だのに飛びつくような輩だからね。それらを与えず、殊勲式だの何ちゃらパーティーだのも開かずってことで、満足するんじゃないの」
「ただ、お主らが軽く見られるかも知れぬがな」
王様の言葉をアレン王子が問題ないと混ぜっ返すが、問題もあると。
「そういえば、そういう連中を抑えるってことで、この前タルタリウスさんとソランダさんが来られたのだと思いますが、うまく行かなかったのでしょうか」
「…それなりにうまく行ったとは思いますよ。あなた達の強さや、王家と距離を置いているということも理解されたと思いますし、表向き力で何かしてくるような事はないでしょう」
「表向きは、な。魔術師団の方は寧ろ好意的なのだが、騎士団はな…」
私の質問に、タルタリウスさんはまあうまく行ったと言うが、ツェレク騎士団長は口を濁した。魔術師団は私達がもたらした魔法理論や魔工で、自分達の力の底上げになるから好意的だけど、騎士団はねえ…。
「騎士団は冒険者のように身軽ではないのですから、自分達の手の回らない部分を冒険者がやってくれても、そんなに問題はないと思うのですけどねえ」
「いや、それよりも魔術師団が力をつけるほうが面白くないのだろう。競争相手でもあるし、そもそも仲が悪いからな」
タルタリウスさんにツェレク騎士団長が言う。良くある軋轢だけど、仲良くした方が結果として良いと思うのだけど。
「それにな、お前らのせいでもあるのだぞ」
と、タルタリウスさんだけでなくソランダさんのほうにも視線をやって言う。
「だ、団長、それは…」
「この二人が必要以上に仲が良くてな。騎士団の中でも憧れるものが多い副団長を、魔術師団の団長が『掻っ攫っていった』と不満が溜まっているのだ」
「うっわ」
真っ赤になるソランダさんを無視して、ツェレク騎士団長はこっちを見てニヤッと笑って見せた。イルダが呆れて思わず声を上げる。それはそれは。
「まあ、こちらの事情でお主らを悩ませることの無いようにしたいと考えておるよ。それで、領地でも爵位でもなく、軽い勲章を受け取って貰おうというわけだ。それを受け取っても、何かの義務が生じるわけではない。その代わり、それを見せれば王城に自由に出入りできる。何かあったときには便利であろう」
「フレアは立場上受けられないと思うけど、今まで通り巫女の証で入れるから。いつでも僕に会いに来てもらって構わないよ」
王様の言葉にみんな頷くが、続くアレン王子の言葉は全員にスルーされた。
「…え、えーと、気を取り直して、依頼の方の話をして良いかな?」
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