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74 戦争というもの
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私は哄笑するウルリーを見つめていたが、例によってピリピリとした感じがした。
「皆、気を付けて!」
私の声と同時に、入口に近い末席に、向かい合うように座っていたウルリーと騎士団長は、立ち上がっていた。ウルリーが剣を抜いたのを見て、騎士団長も剣を抜く。私達はグレースさんをかばいつつ、入り口であわわと声を上げている兵士共々部屋の外へ後ずさりするように移動した。王様と他の人たちは、部屋の奥に逃げている。
「ウルリー、お前本当に…」
「残念です、団長。うまく行けば、もっと『まともな戦争』に出来るかと思ったのですが」
「『まともな戦争』だと?」
「先ほども言ったではないですか、こんな約束された戦争ではなく、どちらかが完全に降伏するまで続くまともな戦いですよ。おかしいと思いませんか?毎回適当な所で止める不毛な争いなど。民が国が疲弊するだけです。本気で戦って、こちらが勝てば良いのです。コマンダリアの民だけでなく、戦争が終われば、いずれファットリアの民も良かったと思うはずです」
「戯言を…」
二人はじりじりと距離を測りながら部屋から出てきた。外の大広間の方が戦いやすい。…それにしても、ウルリーの言うことに頷いている部屋の奥の連中は何なの。
「…と、馬鹿な大臣連中を煽って、うまく行くと思ったのですがねえ」
「貴様…」
これは手を出した方が良いのだろうか。私はペンダントにしている女神の剣に手を伸ばした。
「お主らには感謝するが、今は手を出さないで頂きたい」
「グレッグ!」
「この国の騎士団長の務めです」
騎士団長の言葉にイルダが叫ぶが、騎士団長はそう答えて剣を大上段に構えた。ウルリーの方は下段に構える。
次の瞬間、一気に距離を詰めた騎士団長は、思い切り剣を振り下ろした。ズンという音と共に床に亀裂が入る。その剣をウルリーはギリギリで躱していた。床に剣を振り下ろした隙のある体勢の騎士団長に下段から剣を振り上げるが、返す剣で防がれる。
「素早いだけでは勝てんぞ」
「団長こそ、床を相手にしていても勝てませんよ。それに、練習試合では五本の内三本は私が勝っていたでしょう?」
「試合と実戦は違う」
コマンダリアの騎士というから、イルダやソランダさんと同じ流派で、似たような戦い方をするのかと思ったけど、全然違う。騎士団長は大剣を使うけど、イルダのような体を回転させるような動きはなく、あくまで直線的だ、ウルリーの方は、騎士団長の剛と対照的な柔といった感じだが、やはり異なる動きだ。
「くっ」
ウルリーが苦しげな声を上げる。床や柱にいくつもの亀裂を生じさせている威力の剣撃を、躱しきれずに体力を削られているのだ。切傷はないが、打撲を多数受けている状態だ。一方、騎士団長の方は細かな傷を多数受けているが、動きの妨げになるようなものではない。
「試合なら何本も取られている所だがな。実戦では負けんよ」
「…」
ウルリーは今までになく大きく飛び下がると、騎士団長が追って飛ぶ。ウルリーが剣を持たない方の手を上げて、何かを叩きつけようとしたが、その手が止まった。それを見て、騎士団長は大きく振りかぶっていた大剣を止めようとしたが、そのまま反射的に剣を振るってしまい、致命傷にはならないものの、ウルリーに大きな傷を与えた。
「ぐわっ!」
ウルリーの体が大きく飛ばされて、複雑な模様の入った大きな柱に激突して止まった。その手から魔石が転がり落ちる。転移の魔石か、あるいは何かの攻撃・目くらましとかか。
ウルリーの手を止めたのは、フレアのシールドだ。
「手を出して申し訳ありません。でも、魔石を使うのは騎士の戦い方ではないでしょう?」
フレアは、転がってきた魔石を無造作に拾い上げると、申し訳のかけらもないような口調で言った。
「騎士ウルリーよ…」
「近づいては危険です!」
倒れているウルリーに近づいて声を掛ける王様に、大臣達が声を掛ける。
「お、お助けを…」
口から血を流しながら手を伸ばすウルリー。一瞬後、王様が剣を抜き、ウルリーに勢い良く振り下ろした。
「・・・!」
「わ、我はまたしても主君に…」
ウルリーは血を吐いてバッタリと倒れた。騎士団長もそうだけど、私達も唖然として声が出ない。
「な、何をなさいますか!生きたまま捕らえて、罪を白状させねば…」
「無駄だ。良く見ろ」
一瞬後、我に返った大臣の一人が声を上げたが、王様はそれを遮ってウルリーの方を顎で示す。
ポンという音と共に、ウルリーの死体が消える。そこに残るのは大きな魔石だ。
「魔物!?」
「王は魔物だということを見抜いておられたのか!」
「…魔物では罪を認めさせるもなにもなかろう」
騎士団長は、ウルリーのいたところを何かを堪えるような苦しそうな顔で見ていたが、一度目を瞑ってから顔を逸らした。
「…さて、こうなっては、お主らに色々と聞かねばならん。久しぶりに帰ってきた娘にもな」
**********
会議をしている部屋が大きかったので、そのままそこで話をする事になった。イルダがお姫様だってことに、私やアルス、エドさんは驚いていたけど、フレアとグレースさんは驚いた様子がなかった。以前から知っていたのかもしれない。
一番話の得意そうなフレアが、私たちのことと今までのことを説明する。ウィスタリアから調査に来たこと、邪教が戦争に関係しているらしいと分かったこと、それで戦争を止めるために不和の荒野を水浸しにしたこと等だ。
暗殺者3人組は、取調べのために兵士に連れて行かれた。先ほどの騒ぎでたくさんの騎士や兵士が集まってきていたが、部屋の中には入り口で立っている二人だけだ。後の人たちは、外で壊れた床や柱の片づけをしているはずだ。
どうやって不和の荒野を水浸しにしたのか、等という質問も出たが、話は戦争を止めた事の是非に移っていった。
「戦争が良くないものというのは、思慮の足りない愚かな考えに過ぎません。ここで戦争を止めてどうします?兵士や救護人として集まった貧しい農民や神官はどうするのです?明日からの食事にも困るのではないですか?」
「民が貧しいのは、あんたら王族や貴族が高い税金を取っているからだろう?それを免除すると言って戦争に参加するのを強制しているくせによく言う。あんたらは貧しい民の苦しみを見たこともないんだろう?邪教だって、民の貧しさに付け込んで広まっているのに」
「はて、邪教と申しますが、それで人々が救われれば構わないのではないですかな?確かに騎士ウルリーは邪教の信徒であり、魔物であり、さらに姫様らを襲った悪人でもありました。しかし、その教主が魔物であるという証拠はないのではないですかな?」
「それに、我々が貧しい民の苦しみを見たこともないと仰いますが、姫様たちも民を守らねばならない王族や貴族の悩みを理解できないのでは?特に姫様は家から出ていらっしゃいましたからなあ」
「何だと…」
「邪教が必要だと…」
イルダに対する大臣達のあまりの物言いに、アルスとグレースさんまで声を上げる。邪教に関しては不明の事が多いので、魔物が関与しているらしいとしか話していないとはいえ、それを認めるような発言はグレースさんには許せないだろう。
私も何か言おうかと思ったけど、さっきから気になっている事があって部屋の中を見回した。そのとき、ズズンという大きな音がした。
「おっと失礼、手が滑ってしまったの」
音は、エドさんの斧が床に叩きつけられたときのものらしい。半分近く床に埋まっている。背中に括りつけてあった斧が、手が滑っただけで床に刺さるとは、さすがだ。
「イルダの嬢ちゃんが王族だというから少しは期待したのだがの。やはり、貴族だのというのはろくでもない連中が多いようだの」
「…な、何を!平民のドワーフ如きが、我らに盾突いてただで済むと思うな!」
「ほれ、それがお主らの正体だの。民を守るなどと抜かしておいて、実際は貴族という立場を利用して、その民を害することしか考えておらん。戦争でも民を戦わせるだけで自分は後ろで震えておるのだろうの」
「ぶ、無礼な…」
「お互い様だの。さて、王、いや王様、お主、いやあなた様?の意見を聞かせて欲しいものですがの。儂らがやったこと…戦争を止め、さらに戦争に賛成する貴族に意見を言うことが悪いことなのかどうかとの、返答次第ではまた手が滑るかもしれませんがの」
「貴様、王陛下を脅迫するか!」
「…良い、控えろ。娘の命の恩人であるぞ」
エドさんと大臣を王様が遮る。
「娘を襲った暗殺者を捕まえてくれた事には感謝する。しかし、戦争に関しては、正直迷っているところだ」
「…!何で!」
「落ち着け、イメルダ。民を苦しめるのを由とするわけではないが、定期的な戦争で経済が回っているのも事実だ。戦争をなくすのは良いが、拙速ではいかんのだ。また、今回の洪水に関しては、コマンダリアが交戦法規を破ったと看做されてもしょうがない。今後の事をファットリアと話し合う上でも、我が国が弱い立場になる」
「そんなことを…。昔はファットリアと融和しようとしていたのに、いつからそうなったんだよ!だからあたしはっ…!」
「落ち着けと言うに。それに、邪教や魔将が戦争に関係しているという話も根拠がない。確かに騎士ウルリーは先ほど、戦争を拡大すべきと言っていたが、その程度は一つの意見でしかないゆえにな」
「魔将?」
「あ、いや、これだけの魔石を持つ魔物は魔将に間違いないだろう」
騎士団長の言葉に、王様は、ウルリーが消えた後に現れた魔石を手にとって見せた。
それにしても、さっきから気になっているのは、危険が迫ったときのあのピリピリとした感じだ。弱いけど、ウルリーが倒されたのに止まない。弱くてどこからかはっきりしないのだけど。
あと、違和感といえばフレアだ。もっと大臣達に反論しても良いと思うのだけど、私たちのことを説明してからは、皆の発言を冷笑を浮かべたまま黙っている。
「案外、ファットリアが騎士ウルリーや邪教を送り込んできたのかもしれませぬな」
「なるほど、姫様達はそれに踊らされて、コマンダリアの立場を悪くしてしまったと」
大臣たちも言いたい放題だ。
「それでは…」
それまで黙っていたフレアが、冷笑を崩さずに静かに声を上げた。
「それでは、コマンダリアは、いえ王様は、戦争を進めているのは自分の意思であり、魔物に操られているわけではないと?」
「戦争を喜んでやっているかのように思われては心外であるが、そう申すしかないな」
イルダが嫌な顔をして顔を背ける。アルスやエドさんの雰囲気が変わる。部屋の温度が急に下がったようだ。大臣達がへらへらとした笑いを浮かべているのが気に入らない。
フレアは、部屋の雰囲気を気にせず、冷笑を強めて続けた。
「そうでしょうね、あなたは操られているのではなく、操っている方でしょうから」
「皆、気を付けて!」
私の声と同時に、入口に近い末席に、向かい合うように座っていたウルリーと騎士団長は、立ち上がっていた。ウルリーが剣を抜いたのを見て、騎士団長も剣を抜く。私達はグレースさんをかばいつつ、入り口であわわと声を上げている兵士共々部屋の外へ後ずさりするように移動した。王様と他の人たちは、部屋の奥に逃げている。
「ウルリー、お前本当に…」
「残念です、団長。うまく行けば、もっと『まともな戦争』に出来るかと思ったのですが」
「『まともな戦争』だと?」
「先ほども言ったではないですか、こんな約束された戦争ではなく、どちらかが完全に降伏するまで続くまともな戦いですよ。おかしいと思いませんか?毎回適当な所で止める不毛な争いなど。民が国が疲弊するだけです。本気で戦って、こちらが勝てば良いのです。コマンダリアの民だけでなく、戦争が終われば、いずれファットリアの民も良かったと思うはずです」
「戯言を…」
二人はじりじりと距離を測りながら部屋から出てきた。外の大広間の方が戦いやすい。…それにしても、ウルリーの言うことに頷いている部屋の奥の連中は何なの。
「…と、馬鹿な大臣連中を煽って、うまく行くと思ったのですがねえ」
「貴様…」
これは手を出した方が良いのだろうか。私はペンダントにしている女神の剣に手を伸ばした。
「お主らには感謝するが、今は手を出さないで頂きたい」
「グレッグ!」
「この国の騎士団長の務めです」
騎士団長の言葉にイルダが叫ぶが、騎士団長はそう答えて剣を大上段に構えた。ウルリーの方は下段に構える。
次の瞬間、一気に距離を詰めた騎士団長は、思い切り剣を振り下ろした。ズンという音と共に床に亀裂が入る。その剣をウルリーはギリギリで躱していた。床に剣を振り下ろした隙のある体勢の騎士団長に下段から剣を振り上げるが、返す剣で防がれる。
「素早いだけでは勝てんぞ」
「団長こそ、床を相手にしていても勝てませんよ。それに、練習試合では五本の内三本は私が勝っていたでしょう?」
「試合と実戦は違う」
コマンダリアの騎士というから、イルダやソランダさんと同じ流派で、似たような戦い方をするのかと思ったけど、全然違う。騎士団長は大剣を使うけど、イルダのような体を回転させるような動きはなく、あくまで直線的だ、ウルリーの方は、騎士団長の剛と対照的な柔といった感じだが、やはり異なる動きだ。
「くっ」
ウルリーが苦しげな声を上げる。床や柱にいくつもの亀裂を生じさせている威力の剣撃を、躱しきれずに体力を削られているのだ。切傷はないが、打撲を多数受けている状態だ。一方、騎士団長の方は細かな傷を多数受けているが、動きの妨げになるようなものではない。
「試合なら何本も取られている所だがな。実戦では負けんよ」
「…」
ウルリーは今までになく大きく飛び下がると、騎士団長が追って飛ぶ。ウルリーが剣を持たない方の手を上げて、何かを叩きつけようとしたが、その手が止まった。それを見て、騎士団長は大きく振りかぶっていた大剣を止めようとしたが、そのまま反射的に剣を振るってしまい、致命傷にはならないものの、ウルリーに大きな傷を与えた。
「ぐわっ!」
ウルリーの体が大きく飛ばされて、複雑な模様の入った大きな柱に激突して止まった。その手から魔石が転がり落ちる。転移の魔石か、あるいは何かの攻撃・目くらましとかか。
ウルリーの手を止めたのは、フレアのシールドだ。
「手を出して申し訳ありません。でも、魔石を使うのは騎士の戦い方ではないでしょう?」
フレアは、転がってきた魔石を無造作に拾い上げると、申し訳のかけらもないような口調で言った。
「騎士ウルリーよ…」
「近づいては危険です!」
倒れているウルリーに近づいて声を掛ける王様に、大臣達が声を掛ける。
「お、お助けを…」
口から血を流しながら手を伸ばすウルリー。一瞬後、王様が剣を抜き、ウルリーに勢い良く振り下ろした。
「・・・!」
「わ、我はまたしても主君に…」
ウルリーは血を吐いてバッタリと倒れた。騎士団長もそうだけど、私達も唖然として声が出ない。
「な、何をなさいますか!生きたまま捕らえて、罪を白状させねば…」
「無駄だ。良く見ろ」
一瞬後、我に返った大臣の一人が声を上げたが、王様はそれを遮ってウルリーの方を顎で示す。
ポンという音と共に、ウルリーの死体が消える。そこに残るのは大きな魔石だ。
「魔物!?」
「王は魔物だということを見抜いておられたのか!」
「…魔物では罪を認めさせるもなにもなかろう」
騎士団長は、ウルリーのいたところを何かを堪えるような苦しそうな顔で見ていたが、一度目を瞑ってから顔を逸らした。
「…さて、こうなっては、お主らに色々と聞かねばならん。久しぶりに帰ってきた娘にもな」
**********
会議をしている部屋が大きかったので、そのままそこで話をする事になった。イルダがお姫様だってことに、私やアルス、エドさんは驚いていたけど、フレアとグレースさんは驚いた様子がなかった。以前から知っていたのかもしれない。
一番話の得意そうなフレアが、私たちのことと今までのことを説明する。ウィスタリアから調査に来たこと、邪教が戦争に関係しているらしいと分かったこと、それで戦争を止めるために不和の荒野を水浸しにしたこと等だ。
暗殺者3人組は、取調べのために兵士に連れて行かれた。先ほどの騒ぎでたくさんの騎士や兵士が集まってきていたが、部屋の中には入り口で立っている二人だけだ。後の人たちは、外で壊れた床や柱の片づけをしているはずだ。
どうやって不和の荒野を水浸しにしたのか、等という質問も出たが、話は戦争を止めた事の是非に移っていった。
「戦争が良くないものというのは、思慮の足りない愚かな考えに過ぎません。ここで戦争を止めてどうします?兵士や救護人として集まった貧しい農民や神官はどうするのです?明日からの食事にも困るのではないですか?」
「民が貧しいのは、あんたら王族や貴族が高い税金を取っているからだろう?それを免除すると言って戦争に参加するのを強制しているくせによく言う。あんたらは貧しい民の苦しみを見たこともないんだろう?邪教だって、民の貧しさに付け込んで広まっているのに」
「はて、邪教と申しますが、それで人々が救われれば構わないのではないですかな?確かに騎士ウルリーは邪教の信徒であり、魔物であり、さらに姫様らを襲った悪人でもありました。しかし、その教主が魔物であるという証拠はないのではないですかな?」
「それに、我々が貧しい民の苦しみを見たこともないと仰いますが、姫様たちも民を守らねばならない王族や貴族の悩みを理解できないのでは?特に姫様は家から出ていらっしゃいましたからなあ」
「何だと…」
「邪教が必要だと…」
イルダに対する大臣達のあまりの物言いに、アルスとグレースさんまで声を上げる。邪教に関しては不明の事が多いので、魔物が関与しているらしいとしか話していないとはいえ、それを認めるような発言はグレースさんには許せないだろう。
私も何か言おうかと思ったけど、さっきから気になっている事があって部屋の中を見回した。そのとき、ズズンという大きな音がした。
「おっと失礼、手が滑ってしまったの」
音は、エドさんの斧が床に叩きつけられたときのものらしい。半分近く床に埋まっている。背中に括りつけてあった斧が、手が滑っただけで床に刺さるとは、さすがだ。
「イルダの嬢ちゃんが王族だというから少しは期待したのだがの。やはり、貴族だのというのはろくでもない連中が多いようだの」
「…な、何を!平民のドワーフ如きが、我らに盾突いてただで済むと思うな!」
「ほれ、それがお主らの正体だの。民を守るなどと抜かしておいて、実際は貴族という立場を利用して、その民を害することしか考えておらん。戦争でも民を戦わせるだけで自分は後ろで震えておるのだろうの」
「ぶ、無礼な…」
「お互い様だの。さて、王、いや王様、お主、いやあなた様?の意見を聞かせて欲しいものですがの。儂らがやったこと…戦争を止め、さらに戦争に賛成する貴族に意見を言うことが悪いことなのかどうかとの、返答次第ではまた手が滑るかもしれませんがの」
「貴様、王陛下を脅迫するか!」
「…良い、控えろ。娘の命の恩人であるぞ」
エドさんと大臣を王様が遮る。
「娘を襲った暗殺者を捕まえてくれた事には感謝する。しかし、戦争に関しては、正直迷っているところだ」
「…!何で!」
「落ち着け、イメルダ。民を苦しめるのを由とするわけではないが、定期的な戦争で経済が回っているのも事実だ。戦争をなくすのは良いが、拙速ではいかんのだ。また、今回の洪水に関しては、コマンダリアが交戦法規を破ったと看做されてもしょうがない。今後の事をファットリアと話し合う上でも、我が国が弱い立場になる」
「そんなことを…。昔はファットリアと融和しようとしていたのに、いつからそうなったんだよ!だからあたしはっ…!」
「落ち着けと言うに。それに、邪教や魔将が戦争に関係しているという話も根拠がない。確かに騎士ウルリーは先ほど、戦争を拡大すべきと言っていたが、その程度は一つの意見でしかないゆえにな」
「魔将?」
「あ、いや、これだけの魔石を持つ魔物は魔将に間違いないだろう」
騎士団長の言葉に、王様は、ウルリーが消えた後に現れた魔石を手にとって見せた。
それにしても、さっきから気になっているのは、危険が迫ったときのあのピリピリとした感じだ。弱いけど、ウルリーが倒されたのに止まない。弱くてどこからかはっきりしないのだけど。
あと、違和感といえばフレアだ。もっと大臣達に反論しても良いと思うのだけど、私たちのことを説明してからは、皆の発言を冷笑を浮かべたまま黙っている。
「案外、ファットリアが騎士ウルリーや邪教を送り込んできたのかもしれませぬな」
「なるほど、姫様達はそれに踊らされて、コマンダリアの立場を悪くしてしまったと」
大臣たちも言いたい放題だ。
「それでは…」
それまで黙っていたフレアが、冷笑を崩さずに静かに声を上げた。
「それでは、コマンダリアは、いえ王様は、戦争を進めているのは自分の意思であり、魔物に操られているわけではないと?」
「戦争を喜んでやっているかのように思われては心外であるが、そう申すしかないな」
イルダが嫌な顔をして顔を背ける。アルスやエドさんの雰囲気が変わる。部屋の温度が急に下がったようだ。大臣達がへらへらとした笑いを浮かべているのが気に入らない。
フレアは、部屋の雰囲気を気にせず、冷笑を強めて続けた。
「そうでしょうね、あなたは操られているのではなく、操っている方でしょうから」
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