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79 魔法の周波数
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コマンダリアとトレンタとの行き来やその後始末で忙しかったけど、やっと落ち着ける。ギルドに暇つぶしの依頼を探しに行ったり、戦闘訓練(アルスとイルダは模擬戦、私は町の外で魔法の練習)をしたりする日常が戻ってきた感じだが、今回の事で魔将の動向が余計分からなくなってきたので、少し焦れているところもある。
私は、以前よりも力を入れて、魔法について研究中だ。何といっても、一応ドレミファソラシドが揃ったのが大きい。これで、協和する和音で新しい魔法を考えたり、魔歌を作ったりすることが可能になったわけだ。…CDEGAが揃った段階で、五音音階で曲が作れたはずとかいう突っ込みはなしね。七音の最後がBかHかの方に興味があってそっちに気がまわらなかったし。…って、誰に言い訳しているんだ。
「結構面倒くさいわねー」
まず手始めに、この世界の魔法の共鳴音の周波数を求めようとしていた。といっても、チューナーのような便利な機械があるわけではないので、自分の音感を元にして、後は計算だ。
小さい頃からピアノをやっていたせいか、絶対音感がある。ピアノというか、家にあった音叉で良く遊んでいたらしいので、そのせいかもしれない。絶対音感というと、ピアノとかの助けを借りずに音の高さが分かる能力と言われているが、正確には、音の高さである波長に対してどれだけ分解能があるかだ。分解能が半音以下であれば、(音の高さをピアノの鍵盤のどれに相当するか当てられるという意味で)絶対音感があると言える。
生まれつき中央Aの音が分かる、というのは伝説だ。実際、A=440Hzは最近の話で、もっと低かったり高かったりしたこともある。実際バロック音楽は現在でもA=415Hzで演奏されたりするが、これはA=440HzならGisに当たる。「AかGisか分かる」というのは、あくまで後天的に記憶することだ。生まれつきといえば、赤ちゃんの泣き声は440Hzだという話もあるけど、それも有名な都市伝説というもので、赤ちゃんはそんなに精度良く泣いたりしない。
魔法の共鳴する音は、E(水)とA(雷)、それとH(闇)は低く感じたけど、他の音はずれているようには感じなかった。Eが、低いけどCやGと良く協和するような高さだったので、魔法の共鳴音が純正律になっているのではないかと気付いたのは、あの川の畔で初めてレナと会ったときだった。私の絶対音感はA=440Hzの平均律を覚えてしまっているので、ずれて聞こえる音とそうでない音があるのだろう。
「何でこの世界には電卓がないのよ…いや、せめて対数表があれば…」
まず、A=440Hzの平均律の周波数を計算で求める。次に、私がずれていないと感じるC,D,F,Gの周波数を正として、その他の音の周波数を純正律の周波数比に直せば良い。平均律の周波数計算には2の12乗根を求める必要があるため、対数の概念の存在しない時代には平均律は実現できなかった、と言う人がいるが、これは誤解というもので、古代ギリシャでは既に平均律の考えがあったし、12乗根の計算なら出来たはずだ。…今まさに私がやっているように。
「…思ったほど大変じゃなかったわね」
計算しやすい数値が途中で出てきたりしたので、2の12乗根はわりとあっさりと求まった。近似だけど。A=440Hzでの平均律のGの周波数が392Hzに極めて近く、魔法の共鳴音のGとずれていないようなので、これを中心に決めてしまえば良い。
「これだと、A=435Hzってところかしら…ってAを基準にする意味もないか」
私は出来上がった表を見てにんまりとした。これで、魔歌や魔曲の作曲に役に立つかもしれない。後はチューナーとか音叉みたいなものが作れないか、ケヴェスンさんに相談してみよう。あと、電卓とはいわないけど、計算機とか対数表とか。
一息ついて一階の広間に下りていくと、フレアがお茶を飲んでいた。
「お疲れさま」
「ええ…、アルスとイルダは?」
「いつも通りギルドに面白そうな依頼を探しに行きましたよ」
「すっかり普段どおりになったわね」
イルダが実はイメルダ姫だったということで、特にアルスが何となくギクシャクしていたが、元に戻ったようだ。
「…それで半日潰したのですね」
午前中何をやっていたかを話すと、そう返された。いや、計算は一時間ぐらいだったけど。
「魔歌や魔曲を作るのにも役立つし、あとカールのホルンの音と私の魔力が共鳴して魔力が大きくなった(制御できなくなった)のを思い出したのよ。複数の楽器や魔術師の魔力を共鳴させる事が出来れば…」
「そのために基準が欲しいと?」
「ええ、みんなが魔力と一番共鳴できる『音』の高さを感じられるわけじゃないでしょ?基準の音を出せる魔道具かなんかがあれば、役に立つんじゃないかと」
魔法の『音』を感じられて魔力を共鳴させている人も、正しく協和する音と共鳴するように出来れば、魔法の威力が上がるかもしれない。
「なるほど、周波数ですか…。しかし、そこからユーカさんの仰る『ちゅーなー』や『おんさ』を作るのは無理そうですね」
「やっぱり駄目ですか…」
ケヴェスンさんに話してみたけど無理そうだった。ちなみに、冒険者ギルドに行ってみたら、副長のアズノールさんが渋い顔で、ギルドマスターはまたも休みだと言うので、自宅兼工房にお邪魔している。当然のようにセリアさんもいるが、良いのだろうか。
「時間も振動の数でも、そこまでの精度で測れませんからね」
「うーん、相対的な周波数の差があるかどうかは、『唸り』で分かるかもしれないですけどー、絶対的な数値はどうしようもないですねー」
やっぱりこれは、私自身が原器になるか原器を作って、後はそれを基準に唸りがないように複製してもらうしかないかも。
「昔の女神様が長さの単位を決めようとしてうまく出来ず、標準の原器を作ることで諦めた、というお話を以前したと思いますが、それは女神様の肘から中指の先までの間の長さの2倍が元ですからね」
キュビットですかい。
「でも、実際の周波数は測れなくても、基準となる魔道具は作れますよ」
「え?」
「ほら、魔石を接続するとき、一番魔力が減衰しなくなる長さが接続する金属線の種類によって大体決まっているじゃないですか」
うん、それで、通信機が出来たのよね。
「金属線の振動する音が魔力の音に一致していたでしょう?」
「なるほどー、魔石から魔力を流して金属線を振動させつつ、張力を変えて一番良く振動するところを見付ければ良いのですねー」
おお、なるほど。一番大きな音がするように合せれば良いのかな。
「面白そうなので考えて見ましょう」
「私も手伝いますー」
ありがたいけど、午前中の計算はまったく無駄だったわね。
少々がっかりして、次の日の午前中ボーッと和音について考えていたら、アルスとイルダがギルドから戻ってきた。
「指名依頼だよ。何となく面白そうだ」
「面白そうなの?」
「ああ、特にユーカにエルフの森に来て欲しいってさ」
イルダが言う。おお、ついにエルフが出てきたか。
「『来て欲しい』ってことは、エルフの依頼なのね?」
「会えなかったけどな。昼過ぎに来てくれれば依頼者と会えるって話だったぜ」
昼過ぎに冒険者ギルドに行くと、例によってどこでも同じ人に見える受付の女の人に会議室に行くように言われた。もう会議室も案内なしで慣れたものだ。
会議室に入ってみると、アズノールさんが向かいに座っていた。ケヴェスンさん…ギルドマスターはいないようだ。
「お前さんのせいだぞ」
「え?」
「また何かギルドマスターに変な事を吹き込んだろう。しばらくは魔工に集中したいとか言って休みだ」
音の基準を決める魔道具は、すぐに出来そうだったけど。
「いや、良く分からないが、『周波数が波長を振動して…』とか何とかだな」
それは本当に良く分からない。
「何でも魔法の周波数だか何だかを利用して、長さや時間の基準を決められるとか言ってたな」
「ははあ」
「魔工の進歩に役立つとか言ってたが、しょっちゅう休まれる私の身にもなって欲しいものだな」
「何か済みません」
「まあ、いい。それより座ってくれ。今日来てもらったのは、そちらのエルフの依頼の件でな…」
アズノールさんがそう言うと、横に座っていた人がフードを外してこちらを見た。外す途中に一瞬引っ掛かった耳が、ピンと跳ねる。間違いない、エルフの女性だ。
「おぉー」
「何感心してるんだよ」
「だ、だって、エルフよエルフ!」
「指差すな、失礼だろ。それにエルフが初めてって訳じゃないだろ?」
「初めてよ。ザクルは胡散臭いし、何より男だし」
私の態度を咎めるアルスにきちんと指摘しておく。エルフといったら、若い美女。他は認めない。
エルフの女性は、私達、というより私を見てびっくりした顔をしていたが、すぐに微笑んだ。
「初めまして、私はテレシアと申します。あなたが、『女神と称されるほど』と噂の方ですね?」
「え、ええ…」
「…良く分かったな。あたしはともかく、フレアとは間違えそうなものだけど」
イルダが突っ込む。
「…魔力が桁違いですから」
――――――――――
余計な註:
2の12乗根(2の1/12乗:2^(1/12))を、関数電卓などを使わずに求める場合、級数展開やニュートン法が思い付きますが、筆算ではあまり現実的ではありません。また、これらの方法は近年まで当然知られていませんでした。
悠歌が行ったのは、立方根の平方根の平方根=12乗根を用いる方法です。まず2の立方根を求めますが、1.2^3=1.728、1.3^3=2.197、この間だから1.25^3を計算すると1.953125、ちょっと少ないので1.26^3を計算してみると2.000376。これで、1.26が2の立方根として4~5桁の精度があると考えられます。
平方根の筆算は簡単で1.26の平方根は1.12249…、1.12249の平方根は1.05947…で、2の12乗根として約1.0595を求める事ができます。この1.0595を繰り返し使うと誤差が累積するので、適宜途中で求めた値や2の平方根、4乗根を使います。
2^(1/12)≒1.0595 (正確には1.0594630943…) 12乗根(立方根の平方根の平方根)
2^(2/12)≒1.1225 (1.1224620483…) 6乗根(立方根の平方根)
2^(3/12)≒1.1892 (1.1892071150…) 4乗根(平方根の平方根)
2^(4/12)≒1.2600 (1.2599210498…) 立方根
2^(6/12)≒1.4142 (1.4142135623…) 平方根
これを使って平均律の周波数を計算できます。A=440とすると、Gは440/1.1225=391.98…となり(正確には391.9954…)、392に極めて近いので、悠歌はこれを392Hzと仮定しました。
G=392とした場合の純正律の計算ですが、純正律の周波数比が、Ⅰの和音(ドミソ)、Ⅳの和音(ファラド)、Ⅴの和音(ソシレ)全てにおいて4:5:6になっている事を知っていれば、簡単です。
階 音 魔法種 平均律(正確な値) 魔法の共鳴音
ド C 光 261.63(261.6255…) 261.33
レ D 土 293.66(293.6647…) 294
ミ E 水 329.64(329.6275…) 326.67
ファ F 火 349.21(349.2282…) 348.44
ソ G 風 391.98(391.9954…) 392
ラ A 雷 440 435.56
シ H 闇 493.90(493.8833…) 490
記憶の音と3Hz程度の差で低いと感じる悠歌の音感の良さが分かります。
私は、以前よりも力を入れて、魔法について研究中だ。何といっても、一応ドレミファソラシドが揃ったのが大きい。これで、協和する和音で新しい魔法を考えたり、魔歌を作ったりすることが可能になったわけだ。…CDEGAが揃った段階で、五音音階で曲が作れたはずとかいう突っ込みはなしね。七音の最後がBかHかの方に興味があってそっちに気がまわらなかったし。…って、誰に言い訳しているんだ。
「結構面倒くさいわねー」
まず手始めに、この世界の魔法の共鳴音の周波数を求めようとしていた。といっても、チューナーのような便利な機械があるわけではないので、自分の音感を元にして、後は計算だ。
小さい頃からピアノをやっていたせいか、絶対音感がある。ピアノというか、家にあった音叉で良く遊んでいたらしいので、そのせいかもしれない。絶対音感というと、ピアノとかの助けを借りずに音の高さが分かる能力と言われているが、正確には、音の高さである波長に対してどれだけ分解能があるかだ。分解能が半音以下であれば、(音の高さをピアノの鍵盤のどれに相当するか当てられるという意味で)絶対音感があると言える。
生まれつき中央Aの音が分かる、というのは伝説だ。実際、A=440Hzは最近の話で、もっと低かったり高かったりしたこともある。実際バロック音楽は現在でもA=415Hzで演奏されたりするが、これはA=440HzならGisに当たる。「AかGisか分かる」というのは、あくまで後天的に記憶することだ。生まれつきといえば、赤ちゃんの泣き声は440Hzだという話もあるけど、それも有名な都市伝説というもので、赤ちゃんはそんなに精度良く泣いたりしない。
魔法の共鳴する音は、E(水)とA(雷)、それとH(闇)は低く感じたけど、他の音はずれているようには感じなかった。Eが、低いけどCやGと良く協和するような高さだったので、魔法の共鳴音が純正律になっているのではないかと気付いたのは、あの川の畔で初めてレナと会ったときだった。私の絶対音感はA=440Hzの平均律を覚えてしまっているので、ずれて聞こえる音とそうでない音があるのだろう。
「何でこの世界には電卓がないのよ…いや、せめて対数表があれば…」
まず、A=440Hzの平均律の周波数を計算で求める。次に、私がずれていないと感じるC,D,F,Gの周波数を正として、その他の音の周波数を純正律の周波数比に直せば良い。平均律の周波数計算には2の12乗根を求める必要があるため、対数の概念の存在しない時代には平均律は実現できなかった、と言う人がいるが、これは誤解というもので、古代ギリシャでは既に平均律の考えがあったし、12乗根の計算なら出来たはずだ。…今まさに私がやっているように。
「…思ったほど大変じゃなかったわね」
計算しやすい数値が途中で出てきたりしたので、2の12乗根はわりとあっさりと求まった。近似だけど。A=440Hzでの平均律のGの周波数が392Hzに極めて近く、魔法の共鳴音のGとずれていないようなので、これを中心に決めてしまえば良い。
「これだと、A=435Hzってところかしら…ってAを基準にする意味もないか」
私は出来上がった表を見てにんまりとした。これで、魔歌や魔曲の作曲に役に立つかもしれない。後はチューナーとか音叉みたいなものが作れないか、ケヴェスンさんに相談してみよう。あと、電卓とはいわないけど、計算機とか対数表とか。
一息ついて一階の広間に下りていくと、フレアがお茶を飲んでいた。
「お疲れさま」
「ええ…、アルスとイルダは?」
「いつも通りギルドに面白そうな依頼を探しに行きましたよ」
「すっかり普段どおりになったわね」
イルダが実はイメルダ姫だったということで、特にアルスが何となくギクシャクしていたが、元に戻ったようだ。
「…それで半日潰したのですね」
午前中何をやっていたかを話すと、そう返された。いや、計算は一時間ぐらいだったけど。
「魔歌や魔曲を作るのにも役立つし、あとカールのホルンの音と私の魔力が共鳴して魔力が大きくなった(制御できなくなった)のを思い出したのよ。複数の楽器や魔術師の魔力を共鳴させる事が出来れば…」
「そのために基準が欲しいと?」
「ええ、みんなが魔力と一番共鳴できる『音』の高さを感じられるわけじゃないでしょ?基準の音を出せる魔道具かなんかがあれば、役に立つんじゃないかと」
魔法の『音』を感じられて魔力を共鳴させている人も、正しく協和する音と共鳴するように出来れば、魔法の威力が上がるかもしれない。
「なるほど、周波数ですか…。しかし、そこからユーカさんの仰る『ちゅーなー』や『おんさ』を作るのは無理そうですね」
「やっぱり駄目ですか…」
ケヴェスンさんに話してみたけど無理そうだった。ちなみに、冒険者ギルドに行ってみたら、副長のアズノールさんが渋い顔で、ギルドマスターはまたも休みだと言うので、自宅兼工房にお邪魔している。当然のようにセリアさんもいるが、良いのだろうか。
「時間も振動の数でも、そこまでの精度で測れませんからね」
「うーん、相対的な周波数の差があるかどうかは、『唸り』で分かるかもしれないですけどー、絶対的な数値はどうしようもないですねー」
やっぱりこれは、私自身が原器になるか原器を作って、後はそれを基準に唸りがないように複製してもらうしかないかも。
「昔の女神様が長さの単位を決めようとしてうまく出来ず、標準の原器を作ることで諦めた、というお話を以前したと思いますが、それは女神様の肘から中指の先までの間の長さの2倍が元ですからね」
キュビットですかい。
「でも、実際の周波数は測れなくても、基準となる魔道具は作れますよ」
「え?」
「ほら、魔石を接続するとき、一番魔力が減衰しなくなる長さが接続する金属線の種類によって大体決まっているじゃないですか」
うん、それで、通信機が出来たのよね。
「金属線の振動する音が魔力の音に一致していたでしょう?」
「なるほどー、魔石から魔力を流して金属線を振動させつつ、張力を変えて一番良く振動するところを見付ければ良いのですねー」
おお、なるほど。一番大きな音がするように合せれば良いのかな。
「面白そうなので考えて見ましょう」
「私も手伝いますー」
ありがたいけど、午前中の計算はまったく無駄だったわね。
少々がっかりして、次の日の午前中ボーッと和音について考えていたら、アルスとイルダがギルドから戻ってきた。
「指名依頼だよ。何となく面白そうだ」
「面白そうなの?」
「ああ、特にユーカにエルフの森に来て欲しいってさ」
イルダが言う。おお、ついにエルフが出てきたか。
「『来て欲しい』ってことは、エルフの依頼なのね?」
「会えなかったけどな。昼過ぎに来てくれれば依頼者と会えるって話だったぜ」
昼過ぎに冒険者ギルドに行くと、例によってどこでも同じ人に見える受付の女の人に会議室に行くように言われた。もう会議室も案内なしで慣れたものだ。
会議室に入ってみると、アズノールさんが向かいに座っていた。ケヴェスンさん…ギルドマスターはいないようだ。
「お前さんのせいだぞ」
「え?」
「また何かギルドマスターに変な事を吹き込んだろう。しばらくは魔工に集中したいとか言って休みだ」
音の基準を決める魔道具は、すぐに出来そうだったけど。
「いや、良く分からないが、『周波数が波長を振動して…』とか何とかだな」
それは本当に良く分からない。
「何でも魔法の周波数だか何だかを利用して、長さや時間の基準を決められるとか言ってたな」
「ははあ」
「魔工の進歩に役立つとか言ってたが、しょっちゅう休まれる私の身にもなって欲しいものだな」
「何か済みません」
「まあ、いい。それより座ってくれ。今日来てもらったのは、そちらのエルフの依頼の件でな…」
アズノールさんがそう言うと、横に座っていた人がフードを外してこちらを見た。外す途中に一瞬引っ掛かった耳が、ピンと跳ねる。間違いない、エルフの女性だ。
「おぉー」
「何感心してるんだよ」
「だ、だって、エルフよエルフ!」
「指差すな、失礼だろ。それにエルフが初めてって訳じゃないだろ?」
「初めてよ。ザクルは胡散臭いし、何より男だし」
私の態度を咎めるアルスにきちんと指摘しておく。エルフといったら、若い美女。他は認めない。
エルフの女性は、私達、というより私を見てびっくりした顔をしていたが、すぐに微笑んだ。
「初めまして、私はテレシアと申します。あなたが、『女神と称されるほど』と噂の方ですね?」
「え、ええ…」
「…良く分かったな。あたしはともかく、フレアとは間違えそうなものだけど」
イルダが突っ込む。
「…魔力が桁違いですから」
――――――――――
余計な註:
2の12乗根(2の1/12乗:2^(1/12))を、関数電卓などを使わずに求める場合、級数展開やニュートン法が思い付きますが、筆算ではあまり現実的ではありません。また、これらの方法は近年まで当然知られていませんでした。
悠歌が行ったのは、立方根の平方根の平方根=12乗根を用いる方法です。まず2の立方根を求めますが、1.2^3=1.728、1.3^3=2.197、この間だから1.25^3を計算すると1.953125、ちょっと少ないので1.26^3を計算してみると2.000376。これで、1.26が2の立方根として4~5桁の精度があると考えられます。
平方根の筆算は簡単で1.26の平方根は1.12249…、1.12249の平方根は1.05947…で、2の12乗根として約1.0595を求める事ができます。この1.0595を繰り返し使うと誤差が累積するので、適宜途中で求めた値や2の平方根、4乗根を使います。
2^(1/12)≒1.0595 (正確には1.0594630943…) 12乗根(立方根の平方根の平方根)
2^(2/12)≒1.1225 (1.1224620483…) 6乗根(立方根の平方根)
2^(3/12)≒1.1892 (1.1892071150…) 4乗根(平方根の平方根)
2^(4/12)≒1.2600 (1.2599210498…) 立方根
2^(6/12)≒1.4142 (1.4142135623…) 平方根
これを使って平均律の周波数を計算できます。A=440とすると、Gは440/1.1225=391.98…となり(正確には391.9954…)、392に極めて近いので、悠歌はこれを392Hzと仮定しました。
G=392とした場合の純正律の計算ですが、純正律の周波数比が、Ⅰの和音(ドミソ)、Ⅳの和音(ファラド)、Ⅴの和音(ソシレ)全てにおいて4:5:6になっている事を知っていれば、簡単です。
階 音 魔法種 平均律(正確な値) 魔法の共鳴音
ド C 光 261.63(261.6255…) 261.33
レ D 土 293.66(293.6647…) 294
ミ E 水 329.64(329.6275…) 326.67
ファ F 火 349.21(349.2282…) 348.44
ソ G 風 391.98(391.9954…) 392
ラ A 雷 440 435.56
シ H 闇 493.90(493.8833…) 490
記憶の音と3Hz程度の差で低いと感じる悠歌の音感の良さが分かります。
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