私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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85 宴には音楽

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 「わあ…」

 思わず声が上がる。料理やお菓子を振舞う小さな屋台がたくさん出ている。いや、お金は要らないみたいだから、「店」じゃないのか。おもちゃを配っていたり、並んで歌ったり踊ったりしているエルフもいる。
 …まだこの路線で行くのか。殆どテーマパークのイベントだ。作りもの感が酷い。

 「まあ、そんな微妙な顔をしないで」

 長老さんの短い挨拶の後、ちょっと高い舞台のような所の席に座った私達のテーブルに、テレシアさんが大きな皿を載せる。これは…。

 「…肉ね」

 鳥を丸焼きにしたもののようだ。

 「テレシアさん…」
 「あはは…、もう色々ばれてるから良いでしょ。エルフって、結構肉も食べるんですよ。実際、肉を食べなかったら、お肌がかさかさになっちゃうって。まあ、野菜と果物以外は、卵と山羊の乳しか駄目ってエルフもいますけどね」
 「そもそも火も使わないって噂だったけどな」

 テレシアさんにイルダが突っ込む。

 「サラマンドルと仲が良くないのは本当だぞ。火を起こすのは、一般の生活魔法を使っておる」

 長老さんが言う。仲は悪いのか、サラマンダー。何だかな…。

 「そんなに隠さなくても良いのに」
 「いやいや、いめーじというのは大事だぞ?たまに来る商人の扱いも違ってくるからな。森の奥で野蛮なこともせず、果物と野菜だけを食べてひっそりと暮らしている大人しい種族。その村ではいつも歌が流れ…」
 「はいはい。…そういえば、ユーカは最初からなんとなく疑っていたみたいだったよな。何か気が付いたのか?」

 イルダが聞いてくる。うーん、テーマパークみたいな作り物感が…とか言っても通じないでしょうね。

 「…ええ、あの音楽を演奏しているエルフ達がいるでしょ?あれが怪しかったのよね」
 「うん?どこがまずかったか」
 「…竪琴ですね。琴の原型は弓。弦を弾くと音がする。その音が弦の長さや張りによって異なることに気が付いて、楽器にすることを思いついた、というのが良くある話。弓矢の得意なエルフのイメージにも合うわけですね」
 「…」

 長老さんが黙って頷く。

 「でも、弓なら弦は草の蔓でも良いけど、竪琴の弦には使えないでしょう?太さが一定のものを見つけるのが難しいし伸びるから、一定の高さで大きな音を出すのは難しい。とすると、何を使っているのかしら?」
 「私が村を案内しているときに、演奏しているエルフを見て首を振っていたけど、そのときに気付いたのですね」

 テレシアさんが溜め息を吐く。

 「木綿みたいな植物起因の糸は強度的に駄目。絹なら使えるけど、蚕を犠牲にする必要がある。ガットも動物の腸だから使えない。精製した金属が触れないから金属線も無理。エルフについて言われていることが本当なら、弦に使える材料がないのですよ」

 まさかナイロンとかっていうことはないだろうし。

 「魔物が吐き出す糸とか…」
 「それこそ、エルフらしくないでしょ?」

 「それにね、弦の材質によって音が違うの。あそこで演奏している竪琴の弦は、たぶん金属線ね。…そうですね、長老さん。エルフが精製した金属に触れないというのも、たぶん嘘なのでは?」
 「…やれやれ、その通りだ。下の村には金属を精製する溶鉱炉や鍛冶場もある。ドワーフほどではないが、金属工芸もそこそこ得意だ」

 本当に何だかなあ…。スピカの言う「胡散臭さ」が良く分かったわ。

 「あれ、そういえばスピカは?」
 「アルスさんと一緒に屋台巡りに行きましたよ。座って食べるより、回った方が楽しいとかで」

 フレアが言うので下を見てみると、手に飲み物を持ったアルスが、エルフの女性と楽しそうに話しているのが見えた。イルダの眉が上がる。懲りないなあ。
 スピカは、エルフの何人かが輪になって楽器を奏でている間に混ざって、歌っているようだ。

 「…ま、楽しんでいるなら良いけど」
 「わたくし達も、料理を頂いたら下に行きましょうか」
 「ああ、色々と楽しそうだ」

 軽く食べてから、「お肉♪お肉♪」と料理を食べ続けているテレシアさんを置いて、下に降りる。
 エルフ達に口々にお礼を言われるが、囲まれるでもなく、程良い距離を保って、自然に食べ物や飲み物を勧めてくれる。さすがテーマパークのホスト達だ。

 ちょっと飲食を楽しんでから、私とフレアはエルフ達の演奏で歌っているスピカの所に移動した。ちなみにイルダは、アルスの方に行ったようだ。きっとアルスに近づくエルフの女性を、目で牽制しているに違いない。

 「ああ~あああぁぁぁ~」

 スピカは、敵に攻撃する「あ゛ー」という声でなく、以前クロンダイクのときに聞いたような美しい声で歌っている。いや、あの時以上か。
 どこまでも伸びる高い声。人間なら一流のソプラノ歌手でも金切り声になってしまいそうな音域なのに、柔らかい。エルフ達も聞き惚れているようだ。

 「…これは見事ですね」

 フレアも感心している。まさに楽器のようで、詞がないのも気にならない。
 歌い終わると、周りのエルフが一斉に拍手をした。私とフレアも一緒に手を叩く。

 「いや、すごいですね」
 「それほどでも…あるでしょ?」

 フレアが褒めると、スピカは一瞬照れくさそうにしていたが、空中で胸を張った。

 「ユーカも歌ってみる?」
 「そんな気になれないわー」

 『妖精の歌』の後に歌うなんて、とても無理だわ。いや、フレアなら行けそうな気がするけど。

 「それでは楽器はどうですか?ちょっと吹いてみません?」
 「いやあ…」

 と言いながら、一人のエルフの女性が差し出してきた横笛を、受け取ってしまう。ちょっと構造とかに興味があったのだ。

 「へえ…」

 思わず呟く。竹のような堅い木を使っているのは想像通りだったが、穴の形状に感心した。てっきり、同じ大きさの穴が6つ等間隔に並んでいるのかと思っていたのだけど、そうではない。微妙に穴の大きさや間隔が違う。しかも穴が7つ、いや裏にも一つある。

 「これは…、でも笛によって運指は微妙に違うから…」

 いくつかの音を確かめる。うんうんと頷いていると、周りの期待するような視線に気が付く。

 「はあ、期待しないでくださいよ?」

 私は、軽く溜め息を吐いて、笛を構えた。



 「ユーカの笛がヘタクソだったら笑ってやろうと思ったのに、そこそこ微妙にうまかったから、つまらなかったわー」

 次の日の朝、朝食に降りてきたら、スピカがひどい事を言う。結局、散々歌と踊りに付き合わされ、エルフの村に来た最初の日に紹介された宿屋に泊まったのだった。
 まあ、笛に関しては、義務教育で音楽をまともにやっていれば、ある程度吹けると思う。最近は横笛はやらない学校も多いらしいけど。

 窓から外を見ると、屋台などはすっかり片付けられ、遠くではまたエルフがわざとらしく輪になって踊っている。既に、「エルフらしい作られた日常」に戻ったようだ。
 テレシアさんも、最初の日のように部屋の中に生えている木から果物を採って、直接ストローを刺して飲んでいる。朝食も野菜のスープのようだ。

 「…もう肉は食べないの?」
 「…やだなあユーカさん、エルフが肉なんて食べるわけないじゃないですか」

 そうでしょうとも。

 「やあ、ユーカ殿。昨晩は却って疲れさせてしまったようで申し訳なかった」

 そう言いながら、外から帰ってきたのは長老さん。フレアも一緒だ。この二人は、なぜか良く二人っきりで話をしている。

 「いえいえ、一応私達のための宴でしょう?ありがとうございました(本当は、自分達が楽しみたかったのも大きいだろうけど。肉も食べられるし)」
 「そう言ってくれるとありがたい(まあ、自分達も楽しめるしな。肉も食べられるし)」
 「…」
 「…」
 「…ところで、アルスとイルダは?」
 「…あの二人なら、剣の練習をしていたぞ?模擬戦は、それは見事だった。もうすぐ帰ってくるだろう」

 私だけが朝食を食べていなかったので、慌てて食べていたら、ちょうど食べ終わった頃、アルスとイルダが戻ってきた。

 「…さて、約束どおり、前回の女神の話をしようか」

 全員が揃ったところで、長老さんが話し始めた。
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