私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

文字の大きさ
86 / 115

86 前回の女神

しおりを挟む
 「さて、何から話そうか。そうだな、前回の女神が降臨したのは200年とちょっと前になる。エルフにとってもかなり昔のことだな。ほれ、テレシアなどはまだ生まれておらんし」

 やはり、200年以上前というのは間違いないのか。色々と疑問なことはあるのだけど。

 「一緒に行動していたパーティーは4人組でな、女神様、女神の巫女様、女戦士、エルフの魔法使い、だった」
 「エルフの魔法使いは、女性ですか?」
 「いや、男だが?」
 「とすると、今と大体同じで、アルスの代わりにエルフの魔法使いが入った感じでしょうか?」
 「そうだな、女戦士がヴァルキリーだったことも同じだな」

 え?ヴァルキリーって、ワルキューレ?戦女神の?

 「それは本物のワルキューレなのか?」
 「なんだ?イルダ殿もそうだろう?」
 「え…」

 イルダの問いにあっさり答える長老。イルダ本人が一番びっくりしている。

 「人族の国で言えば、北のコマンダリアとファットリア、そのさらに北の海を越えた先にある極寒の島。そこにヴァルキリーが住んでいるらしい。戦の化身とも言われておるな。人族なのか、そうでないのかも分からん。イルダ殿はどう見ても、ヴァルキリーなのだが」
 「いや、あたしもそういう伝説があるのは知ってるけど…」
 「人族はすぐに歴史を忘れてしまうからな。昔ヴァルキリーの一人がコマンダリアに流れ着いた。そこで人族の男と結婚し、子を成したということだ。コマンダリアとファットリアにはヴァルキリーの血が混ざっている人族も少なくない。その血が色濃く現れた女性がヴァルキリーになるわけだな。特徴は、白い肌と華奢な体躯に似合わない力と、高い戦闘力だ」
 「イルダそのまんまだな」

 アルスが頷く。

 「コマンダリアやファットリアでは、ごく稀に私みたいのが生まれるんだ。しかし、ワルキューレの話は知らなかったよ」

 たぶんソランダさんもそうね。

 「ワルキューレ特有の能力もあるようだぞ?探してみると良いかも知れん」

 コマンダリアかファットリアで、文献等があるかもしれない。

 「女神様のパーティーはその4人だったが、他に行く先々で助言を与えてくれた水の精のような存在がいたらしい」

 たぶんレナね。

 「その前回の女神様が、女神に『目覚めた』のはどのような状況だったのですか?目覚める前はオクトーの町で色々なものを作ったりしていたようですが」

 今後のために「目覚めた状況」は聞いておきたい。参考になるし。

 「簡単だ。魔王軍が宣戦布告して攻めて来たのだ」
 「っ!そうなのですか?過去の本などを読んでも、魔物が活性化して、その後何となく戦争が起こったような話ばかりなのですが」
 「人族に関してはあまり自慢できない話なので、脚色したのだろう」
 「自慢できない話?」

 アルスが聞く。

 「魔王軍は、南の外海の先の国家であるヴィナリアとヴァルカンツィリアを下し、海を渡り、港町ヴェンティを通ってウィスタリアの王都・聖都に向かってきた。迎え撃つ場所に選ばれたのがトレンタの郊外だな。女神様のパーティーの他、ウィスタリアに味方をするコマンダリアやファットリアからも兵が出された。それで、我らエルフにも協力を仰ぎに、女神様のパーティーがやって来て、そのとき面識を得たわけだ。魔法使いは同じエルフであるしな」
 「…」
 「何とか一度は魔王軍を退けたものの、両方に大きな損害が出た。そして魔王軍より使者が来て、その提案に乗ることにしたのだ」
 「提案とは?」
 「魔王軍の狙いは女神のみ。女神との戦いを邪魔しなければ、王都・聖都を含め町や村に攻め込むことはしないとな」
 「そんな!…」
 「いや、それは女神様達の希望でもあったのだ。女神様のパーティーはオクトーまで後退し、オクトー郊外でパーティーの4人だけで魔王軍に立ち向かおうとした」
 「酷い話じゃないか」

 イルダが顔を顰めていった。

 「しかし、長らく女神様が滞在していたオクトーの領主と住民は女神様を見捨てることが出来ないと立ち上がり、王都から追って来た少数の貴族とともに魔王軍と戦った」
 「おお、熱い展開だね」

 アルスが混ぜっ返す。

 「オクトーで女神様が魔王を討ち、魔王軍を撃退。この戦いで特に戦功のあったオクトーの住民の中には、爵位を賜って貴族となった者もいるらしいな」
 「…なるほど、オクトー以外ではあまり自慢できる話ではないですね。それで、何となく女神様を手伝って、何となく魔王を倒しました、めでたしめでたし、なんていう話ばかりが残っているわけですね」

 私は溜め息を吐いた。

 「しかし、魔王の直接の目的は何だったんだ?女神の命か?」
 「それは分からん。侵攻の方向から、もしかしたら、女神の塔に何か目的のものがあるのかも知れんな」

 イルダの疑問に答えはないようだ。でも、あの塔には女神の剣以外に何もなかったけど。

 「その後、女神様はどうなったのですか?」

 レナは、帰らずにこの世界で亡くなったかのようなことを言っていたけど…。

 「行方不明になってな」
 「行方不明、ですか?」
 「魔王を倒したことから、『役目を終えて天界に帰った』ということになっているが、私は違うと思っている」
 「というと?」
 「エルフの魔法使いと心が通じ合っているように見えたのでな。女神様以外の3人も全員行方知れずになっている。どこかでひっそりと暮らしているのではないか」

 200年前だと、他の人はともかく、エルフはまだどこかで生きているかもしれない。直接話が聞ければ良いのだけど。今度レナにあったら聞いてみよう。

 「まあ、私の知っているのはそれぐらいだ。ところで、ユーカ殿は楽器を嗜まないのかな?」

 私がレナのことを考えていると、長老がいきなり聞いてきた。

 「え?まあ楽器によりますが」
 「前回の女神様は、魔法を行使するときに良く竪琴や横笛を演奏していらっしゃってな。聞くところによると音の高さを確かめるためと、楽器の音を鳴らしながらだと魔力が共鳴して強い魔法が使えるという話だったが…。女神様が楽器を奏でると、敵も味方も皆その姿に見惚れ、その音に聞き惚れたと言われている」
 「へー、そりゃあ如何にも女神っぽいなあ。戦いの最中だと余計『映える』だろうねえ。うーん、これが女神と『ぽい人』との違いかぁ」

 イルダがまたひどいことを言っている。

 「であるから、オルムとの戦いで、いきなり魔法を使った時は些か驚いた。楽器も使わずにあの威力とは、とな」
 「ユーカの魔法は何か力押し、って感じだからな。昨日の雨もさ、ボーっと空を見て魔力を溜めてるんじゃなくてさ、竪琴や笛か何かを奏でていれば絵になったろうに、惜しいねえ」

 イルダ、しつこいんだけど。しかし、真面目な話、楽器の音と魔力が共鳴して威力を増すのは、今までに何度も経験している。…殆どの場合、共鳴して威力が上がり過ぎて、制御に失敗してるけど。今後、もっと強い敵には有効かもしれない。でも、荷物が増えるのはねえ。

 「いや、その女神の剣があれば大丈夫ではないかな?自由に形を変えられるのだろう?前回の女神も、女神の剣を楽器に変えていたようだ」

 なるほど、今度試してみよう。

 「他に何か私が答えられるような事があれば…」
 「あ、そうだ、長老さん、ザクルって奴を知らないか?」

 アルスの問いに、私達も、ああそれを聞くんだった、と思い出した。

 「ザクル?エルフの名前ではないようだが、知らんな」
 「えっと、見た目はまるっきりエルフで、剣と弓は得意だけど魔法は使えないか苦手。魔将とも繋がりがあるようだけど、一応俺達に情報を与えてくれるから、はっきり敵というわけではないんだけど、何ていうか…うーん、怪しいというか胡散臭いというか…」

 アルスもうまく言えないようだ。

 「剣が得意で魔法が苦手とは、およそエルフらしくないな。しかも、エルフの名前ではない。うーむ、ひょっとしたら『取替え子』ではないか?」
 「取替え子?」

 御伽噺では聞いたことがあるがけど。

 「取替え子というのはの、生まれたばかりの赤ん坊を妖精が攫って、代わりに妖精の子を置いていくという話の、その妖精の子のことだ」
 「…」

 「…いや、そんなことはしないぞ」
 「…そんなことはしないわよ」

 イルダにジト目で見られた長老とスピカが、慌てて答える。

 「コホン、あくまで人族の御伽噺の話だ。恐らく、子供に何か『問題』があったときの言い訳に、妖精が使われたということだろうな。人族とエルフの混血も、過去にないわけではないからな。知らずに僅かにエルフの血が混じっていて、小さな確率で人族からエルフが生まれてくることもある。そうしたら、どうなるか見当が付くだろう?」
 「差別を受けたり、捨てられたりするでしょうね」
 「ザクルがそうだとは限らないが、説明は付くな」

 まあ、仮説の一つということね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...