私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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87 再びコマンダリアへ

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 「結局また報告することが出来ちゃったな」

 アルスが言う。私達はトレンタに帰ってきて、ギルドの会議室にいる。本来、ギルドにはテレシアさんが依頼の完了を報告して、私達は後から都合の良いときに依頼料を受け取れば良いはず。しかし、また魔将と戦いになってしまったので、私達も報告が必要になったわけだ。今はテレシアさんが依頼の完了の手続きをしているが、それが終わり次第、ここで一緒にギルドマスターに魔将などの報告をすることになっている。

 「すみません、お待たせしましたね」

 テレシアさんと一緒に、ギルドマスターのケヴェスンさんが会議室に入ってきた。後ろには副長のアズノールさんもいて、早速声を掛けて来た。

 「また色々やらかしたんだって?」

 何を言うかな、この人は。やらかしているのは私達じゃなくて魔将なんだけど。



 「…なるほど。しかし、魔将のこと以上に、過去の女神の話の方が驚きでしたね」
 「ああ、まさかそんな『恥ずべき歴史』があったとは…」

 ケヴェスンさんとアズノールさんが言う。一代30年というから、200年以上だと七代前になる。ここでは結婚は早いようだから、十代以上前になるかもしれない。その上、隠すようなことがあれば、もう分からなくなっていてもしょうがないだろう。

 「前回と異なるのは魔将の動きだな」
 「というか魔王の動きが違うんだろうな」

 アルスにイルダが答える。

 「前回は、魔王が魔将や魔族を引き連れて、はっきりと女神を狙ってきた。しかし、今回の魔王は争いが嫌いだという」
 「魔将も、はっきりと女神『っぽい』ユーカを狙ってきているのもいれば、まったく勝手に動いているのもいるな」
 「ヴラドは女神の塔を狙っていました。モーザもユウカさんをを誘うために迷宮を作っていましたね。でも、他はたまたまですね」
 「えーっと、レイミアは私達が行く前からオクトーに潜り込んで悪さをしていたし、カリュブディスとスキュラのときは依頼だったけど、私達が行ったのは意外そうだった。ウルリーとクロンダイク、そして今回のオルムは、別の依頼でたまたま遭遇した、という感じね?」

 私が纏める。

 「気になるのは、魔王がつい最近復活したということですね」
 「そうなの?」
 「そうですよ。ヴラドは、まだ魔王が復活していないようなことを言っていたでしょう?」
 「あ、そうか」

 フレアに言われて思い出す。そうだった。それで、魔王が復活していないのに、魔将が復活しているのはおかしいと思ったのだった。

 「うーん、それはおかしくないかもしれないぜ」
 「どういうこと?」
 「いや、200年前の戦いで魔王を討って魔王軍を退けた、って話だけどさ、そのとき魔王軍が全滅したって訳じゃないだろ?魔将なんか生き残っててもおかしくないじゃないか」

 ああ、そういう考えもあるのか。

 「あと、あたしが気にしているのは、クロンダイクが魔王のことを『失敗作』と言ったことなんだよな」
 「失敗作というのは、争いが嫌いだからでしょうね」
 「いや、『魔王を作るような存在』を気にしてるんだよ」
 「魔王以上の存在…」
 「いや、魔将たちが集まって復活させたのかもしれない」
 「うーん…」

 「とにかく、今回は魔王にその気がないので、魔王軍が攻めてくるようなことはない。しかし、魔将が好き勝手やっているので、個別に対応するしかない、ということでしょうかね」
 「本当にそれで良いのか…」

 ケヴェスンさんにアズノールさんが突っ込む。

 「仕方がないでしょう。今現在、魔王がどこにいるのかも分かりませんしね。200年前は外海の向こうのヴァルカンツィリアとヴィナリアのさらに先に魔物の国があったようですが、両国から何も伝わってこない以上、今は違うのでしょうし」
 「うーむ。結局、今何も出来ることはないのか」

 アズノールさんは頭を掻き毟った。

 「じれったいなあ。そのせいか、ユーカもなかなか女神として目覚めないし」

 イルダが言う。それは申し訳ないけど。

**********

 「いや、何と言うか、ちょうど良いときに来てくれたと言うべきかな」

 そう言うのはチャールズ王子だ。私達は王城横の迎賓館で、王様、教皇と王子の3人に会っていた。チャラいアレン王子はいない。クワランタに行っているのだろう。

 「と言うと?」
 「うん、実はコマンダリアの事なんだけど…」
 「また何か?」

 イルダが食い気味に聞く。

 「この前の君達の活躍のおかげで、ファットリアや我が国との関係も良好なんだけど、一つ問題があってね。例の『魔人教』の勢力がまったく落ちてない、というか力を増している」
 「教祖を倒したのに?」
 「うん、これはアレンからの情報なんだけどね、特に教会の力が及びにくいような場所で、変な病気が流行っているらしい。それを魔人教の神官を名乗る者が治療していると」
 「うーん…」
 「まあ、高い金を取ったり魔人教への改宗を強制したり、良くない噂も聞くんだけど…」

 と言って、チャールズ王子は教皇の方をチラッと見る。何か言い難そうだ。

 「問題は、こちらの神官の神聖魔法が、その病気に無力であることじゃな」

 教皇が渋面を作って言う。神聖魔法が無力って、ヒールやキュアが効かないって事?

 「うーん、それじゃあ宗旨替えしてもしょうがないわね。多くの人は目先のご利益を求めるものだし」
 「ユウカさん、女神様がそんなことでは困りますよ」

 あ、フレアに怒られた。

 「どんな病気なんですか?」
 「突然昏倒して、そのまま目が覚めない、というものらしいね」
 「それはまたやっかいな病気ですね」

 アルスが考え込む。

 「しかし『ちょうど良いときに来た』というのは?病気では、私達はあまり役に立たないと思いますが。ヒールやキュアが効かないのでは、フレアでもどうしようもないと思いますし」
 「まあ、実際、今のところコマンダリアの国内問題ではあるし、特にウィスタリアに協力を求めてきている訳ではないけどね」
 「なら…」
 「まあ、個人的には君達なら何とかしてくれるのでは、という勝手な思いもある。病気なら、ウィスタリアまで広がる恐れもあるしね。それに、国としては他国から何も求められていない中で勝手に動くわけには行かないけど、魔人教が勢力を拡大しているとなれば、教会としては動く理由になるだろう?」

 私の問いに、チャールズ王子はすらすらと答える。

 「儂はお主らを行かせるのは反対なのじゃがな。その病気に罹られたりしたら、大変なことじゃからな」」

 教皇はそう言うが、心配なのはフレアだけだろう。

 「まあ、儂としても心配はしている。その上で、フレア殿やイメ、イルダ殿は無関係とは言えまい?秘密にすることは出来ないしな」

 王様も言う。

 「今回、君達が王都まで来たのは、ワルキューレのことを調べる目的も在ったのだろう?」
 「ああ、報告ついでにね。トレンタじゃあフレアの屋敷以上に文献があるところはないし、王都や聖都の図書館や王城なら、もっと詳しいことが分かるかと思ってね」
 「それはその通りだけど、コマンダリアの方が当然詳しい文献があるはずじゃないか」
 「ああ…」

 チャールズ王子に畳み込まれて、イルダが仕方なさそうに頷く。

 「里帰りだと思って行って来れば良いんじゃないかな」
 「ついこの前帰ったばかりだから何となく行き辛いんだよな…」

 イルダはぼやくが、この流れは行かなければならない感じだ。
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