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88 謎の病気
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たまたまイルダのことを知っていたのか、この前の事件で私達が有名になってしまったのか、国境で警備員が少々焦っていたけど、普通にコマンダリアに入国出来た。
「アレン王子にも話を聞きたかったな」
「ったく、あの方はどこへ行っているのやら」
イルダが言うとフレアが溜め息を吐いた。コマンダリアの様子やワルキューレのことなどを聞こうとクワランタのお城に行ったけど、アレン王子は留守だと。留守なだけなら良いけど、明らかに城の兵士や事務官も行先を知らないようだった。
「昔から好い加減なところがありましたからねえ」
うん、何となく分かる。チャラい感じだったし。民の生活を知る必要がある、などと言い訳をして、町で遊んでいそうな感じだ。
「まあ、後でまた話を聞けば良いんじゃないか?それより、最初に行くのはここの教会で良いのか?イルダは先に城へ行った方が良いんじゃないか?」
「いや、とう…親父は今はここの城にはいないよ。中央のトレジアにある城にいると思う。あっちが首都で、ここアネンの城は、あくまでファットリアとの戦争のためにあったようなものだから」
「あー、それなら後でそっちにも行かないといけないのか」
「コマンダリアは横に長いから、あまり距離はないけどな」
教会に着いてみると、何だか静まり返っていて人の姿も見えない。昼間なら、庭の花壇に水をやっている神官の姿でも見えそうなものだけど…。
「いや、たまたまだろ」
と言いながら入り口の扉に手をかけたアルスの表情が固まった。
「おい、鍵が掛かっているぞ」
「そんなばかな、えーっと、もしもーし、グレースさーん!」
「おいおい」
私の能天気な声掛けにイルダが突っ込む。
「おかしいですねえ」
フレアも首を傾げる。
私が扉をドンドンと叩いていると、僅かに開いて、神官が半分だけ顔を出した。
「あ、もしもし、グレースさんは…」
「申し訳ない、グレース神官長は所用でいらっしゃらない。それと、今はちょっと事情があって教会を開けられないのだ…。帰ってもらえないだろうか…」
いや、教会ってそういうものじゃないでしょ。その何というか…。
「信徒に扉を閉ざすとはどういうことですか。何があったのです?」
フレアが後ろから声を上げる。そうそう、そう言いたかった。
「せ、聖女様!これは…」
「話は中で聞きます。とにかく入れてください」
「どういうことなのです?」
「は、はい。国の外れの方で、原因不明の病気が発見されました。それとともに邪教の噂も…。そこでグレース神官長とともに、我々も治療に向かったのですが…」
「神聖魔法が効かなかった、それは俺達も聞いている。だが魔法以外にも手はあるだろう?薬とか」
アルスが聞く。
「ええ、今でも治療に当たっている神官もいます。あまり効果は出ていませんが…」
「グレース様も?」
「それが、その…」
「…案内してください」
神官の言葉に事実を察したフレアが言う。私達は神官の案内で奥に通された。予想通り、そこには寝台に横たわるグレースさんがいた。
「グレースさん…」
「いつからです?」
「…もう、三日になります。眠っているだけのようですが、ヒールやキュアでも効果がなく…」
「…神よ、慈愛に満ちたる天の光をもって、全ての者を癒したまえ、キュアオール」
フレアが跪いて呪文を唱える。
「こ、これは…」
「フレア、やはり駄目かい?」
イルダが尋ねるが、フレアは首を振った。
「ええ、ですが、原因が分かったかもしれません」
「本当か!」
「ええ。皆さんも集まってください。…神よ、慈愛に満ちたる天の光をもって、全ての者を癒したまえ、キュアオール」
魔法陣が広がり、その魔方陣から光の粒が上がる。魔法陣の中の全員の身体が光り、その光が消えるとともに疲れが消える。傷があれば傷も消えていたはずだ。いつも通りのキュアオールだ。…いや。
「グレースさんの身体が光らない?」
私が驚いて声を上げると、フレアが頷いた。
「キュアやヒール等の回復魔法は、受ける側にも魔力が必要なのですよ」
「それって…!」
「…ええ、グレース様の身体から魔力を感じません。完全に枯渇していますね」
キュアやヒールは生物にしか効かない。壊れた物を直すことは出来ないのだ。生物とそうでない物との違いは、この世界では魔力を持つかどうかだ。
「魔力は、自動的に回復するものじゃないの?」
「通常はそうなのですが、普通完全に魔力がなくなるまで使い切ることは出来ないですからね」
「魔力が完全に枯渇すると、回復しない?」
「そう考えるべきでしょうね」
皆が沈黙する。もしそうだとすると、この病気は危険すぎる。
「魔力を回復するMPポーションとかないの?」
「そんな都合の良い物あるわけないだろ」
私の問いに、アルスが呆れたように言う。確かに、今まで聞いたことがなかった。うーん、魔石になら誰でも魔力を込められるのに。魔物と違って人間には魔石はない。考えていると、頭の上でポンと言う音を立てて、スピカが姿を現した。というか、ずっと頭に乗っていたのだけど。
「ポーションといえば、あれ」
「ええ、そうですね」
スピカに言われたフレアは、小さな薬の瓶を取り出した。中には無色透明の液体が入っている。
「フレア、それは?」
「『ポーション』ですよ」
「え?」
ニッコリ笑って言うフレア。アルスはポカンとした顔をしている。
「飲んで頂けると良いのですが…」
そう言って瓶の蓋を開けるとグレースさんの口に当てる。しばらく待つと、グレースさんの喉がわずかに動き、軽く咳き込んだ。
「キュア」
フレアが無詠唱でキュアを唱えると、グレースさんの身体が光り、目を覚ました。上体を起こしたグレースさんは驚いた顔で自分の身体を見回している。
「グレースさん!」
「神官長!」
「…私は…。ここは?」
「アネンの教会です。神官長は、例の病気で昏睡状態だったのですが、聖女様たちのおかげでお目覚めになったのです」
神官は泣き声だ。
「…そうでしたか。皆様、ありがとうございます。すぐに地方に行っている他の神官にも連絡しなければ。そう、王様にもお話しなければ…」
かなり焦っているようだ。地方では病気が蔓延しているのかもしれない。
「キュアで身体の不調は無くなっているでしょうが、お腹が空いているはずです。魔力も完全には戻っていないはず。わたくしたちも王城に行く予定ですから、明日一緒に行きましょう。ゆっくり食事を取って、一晩お休みください」
「ああ、ああ、そうですね。お見苦しい所を。ただ、なるべく早く皆にお知らせしなければ…」
「何をですか?」
「…これは病気ではありません」
「アレン王子にも話を聞きたかったな」
「ったく、あの方はどこへ行っているのやら」
イルダが言うとフレアが溜め息を吐いた。コマンダリアの様子やワルキューレのことなどを聞こうとクワランタのお城に行ったけど、アレン王子は留守だと。留守なだけなら良いけど、明らかに城の兵士や事務官も行先を知らないようだった。
「昔から好い加減なところがありましたからねえ」
うん、何となく分かる。チャラい感じだったし。民の生活を知る必要がある、などと言い訳をして、町で遊んでいそうな感じだ。
「まあ、後でまた話を聞けば良いんじゃないか?それより、最初に行くのはここの教会で良いのか?イルダは先に城へ行った方が良いんじゃないか?」
「いや、とう…親父は今はここの城にはいないよ。中央のトレジアにある城にいると思う。あっちが首都で、ここアネンの城は、あくまでファットリアとの戦争のためにあったようなものだから」
「あー、それなら後でそっちにも行かないといけないのか」
「コマンダリアは横に長いから、あまり距離はないけどな」
教会に着いてみると、何だか静まり返っていて人の姿も見えない。昼間なら、庭の花壇に水をやっている神官の姿でも見えそうなものだけど…。
「いや、たまたまだろ」
と言いながら入り口の扉に手をかけたアルスの表情が固まった。
「おい、鍵が掛かっているぞ」
「そんなばかな、えーっと、もしもーし、グレースさーん!」
「おいおい」
私の能天気な声掛けにイルダが突っ込む。
「おかしいですねえ」
フレアも首を傾げる。
私が扉をドンドンと叩いていると、僅かに開いて、神官が半分だけ顔を出した。
「あ、もしもし、グレースさんは…」
「申し訳ない、グレース神官長は所用でいらっしゃらない。それと、今はちょっと事情があって教会を開けられないのだ…。帰ってもらえないだろうか…」
いや、教会ってそういうものじゃないでしょ。その何というか…。
「信徒に扉を閉ざすとはどういうことですか。何があったのです?」
フレアが後ろから声を上げる。そうそう、そう言いたかった。
「せ、聖女様!これは…」
「話は中で聞きます。とにかく入れてください」
「どういうことなのです?」
「は、はい。国の外れの方で、原因不明の病気が発見されました。それとともに邪教の噂も…。そこでグレース神官長とともに、我々も治療に向かったのですが…」
「神聖魔法が効かなかった、それは俺達も聞いている。だが魔法以外にも手はあるだろう?薬とか」
アルスが聞く。
「ええ、今でも治療に当たっている神官もいます。あまり効果は出ていませんが…」
「グレース様も?」
「それが、その…」
「…案内してください」
神官の言葉に事実を察したフレアが言う。私達は神官の案内で奥に通された。予想通り、そこには寝台に横たわるグレースさんがいた。
「グレースさん…」
「いつからです?」
「…もう、三日になります。眠っているだけのようですが、ヒールやキュアでも効果がなく…」
「…神よ、慈愛に満ちたる天の光をもって、全ての者を癒したまえ、キュアオール」
フレアが跪いて呪文を唱える。
「こ、これは…」
「フレア、やはり駄目かい?」
イルダが尋ねるが、フレアは首を振った。
「ええ、ですが、原因が分かったかもしれません」
「本当か!」
「ええ。皆さんも集まってください。…神よ、慈愛に満ちたる天の光をもって、全ての者を癒したまえ、キュアオール」
魔法陣が広がり、その魔方陣から光の粒が上がる。魔法陣の中の全員の身体が光り、その光が消えるとともに疲れが消える。傷があれば傷も消えていたはずだ。いつも通りのキュアオールだ。…いや。
「グレースさんの身体が光らない?」
私が驚いて声を上げると、フレアが頷いた。
「キュアやヒール等の回復魔法は、受ける側にも魔力が必要なのですよ」
「それって…!」
「…ええ、グレース様の身体から魔力を感じません。完全に枯渇していますね」
キュアやヒールは生物にしか効かない。壊れた物を直すことは出来ないのだ。生物とそうでない物との違いは、この世界では魔力を持つかどうかだ。
「魔力は、自動的に回復するものじゃないの?」
「通常はそうなのですが、普通完全に魔力がなくなるまで使い切ることは出来ないですからね」
「魔力が完全に枯渇すると、回復しない?」
「そう考えるべきでしょうね」
皆が沈黙する。もしそうだとすると、この病気は危険すぎる。
「魔力を回復するMPポーションとかないの?」
「そんな都合の良い物あるわけないだろ」
私の問いに、アルスが呆れたように言う。確かに、今まで聞いたことがなかった。うーん、魔石になら誰でも魔力を込められるのに。魔物と違って人間には魔石はない。考えていると、頭の上でポンと言う音を立てて、スピカが姿を現した。というか、ずっと頭に乗っていたのだけど。
「ポーションといえば、あれ」
「ええ、そうですね」
スピカに言われたフレアは、小さな薬の瓶を取り出した。中には無色透明の液体が入っている。
「フレア、それは?」
「『ポーション』ですよ」
「え?」
ニッコリ笑って言うフレア。アルスはポカンとした顔をしている。
「飲んで頂けると良いのですが…」
そう言って瓶の蓋を開けるとグレースさんの口に当てる。しばらく待つと、グレースさんの喉がわずかに動き、軽く咳き込んだ。
「キュア」
フレアが無詠唱でキュアを唱えると、グレースさんの身体が光り、目を覚ました。上体を起こしたグレースさんは驚いた顔で自分の身体を見回している。
「グレースさん!」
「神官長!」
「…私は…。ここは?」
「アネンの教会です。神官長は、例の病気で昏睡状態だったのですが、聖女様たちのおかげでお目覚めになったのです」
神官は泣き声だ。
「…そうでしたか。皆様、ありがとうございます。すぐに地方に行っている他の神官にも連絡しなければ。そう、王様にもお話しなければ…」
かなり焦っているようだ。地方では病気が蔓延しているのかもしれない。
「キュアで身体の不調は無くなっているでしょうが、お腹が空いているはずです。魔力も完全には戻っていないはず。わたくしたちも王城に行く予定ですから、明日一緒に行きましょう。ゆっくり食事を取って、一晩お休みください」
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