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94 ジルさんの依頼
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私達はパーティーだけで王都に帰ってきていた。チャールズ王子と教皇に、今回の件を報告するためだ。
「大体の内容は聞いているよ。今回は弟が迷惑をかけた。弟は何だかんだと言いながら、現状に満足していると思っていたのけど…。私にも責任があったのではないかと考えてしまうよ」
「そんなことはありませぬ、殿下」
「…ありがとう。フレアは教誨もしてくれたんだって?」
「…ええ、わたくしも神官の端くれでありますので」
「それで、今後クワランタはどうするのですかな?」
「父上と相談せねばわからないが…、妹に任せるのもどうかと思うし」
教皇の質問にチャールズ王子が答える。妹がいたのか。
「政治の世界に入って欲しくはないしな…」
王子は呟いた。
「これがその魔石です。割れちゃってますが」
「なるほど、古代技術ですか、興味深いですね」
「どうやって魔石の中に文字を書くんでしょーねー」
「今回の依頼の報酬なんですよ」
数日後、トレンタに帰ってきた私は、ケヴェスンさんのところに割れた魔石を持ち込んでいた。今回の件の報酬でもらったものだ。それにしても、セリアさんはすっかり居ついてしまったようね。
「魔力を吸収するのと、その量を増やす、二つの効果がある式が書き込まれているわけですね?…うーん、よくわからないけど、ここで魔力を圧縮してるのかな…?」
「色々試してみると面白そうですねー」
「イライザにどうかと思ったの。環境魔力を吸収出来れば良さそうでしょ?」
「それは良いですねー。現在検討中の魔力発生器では、消費分に追いつかないのでは、と悩んでいたのですよー」
「しかし、こんな貴重なものを頂いて宜しいのですか?国の秘宝ですよね?」
「私は使わないし、悪用しない魔工技術者になら渡して良いって言われてるから」
「国王からですか?」
ケヴェスンさんは、国王も知っている有名な魔工技術者だし、問題ないだろう。
「そーいえばー、アレン王子さまの病気は大丈夫なんですかー?」
「え?ええ、あまり良くないみたいで、王様もちょっと元気がなかったわ…」
私は、ケヴェスンさんの方をチラッと見て言った。そう、表向きというか対外的には、アレン王子は先のファットリアの魔物騒動の時に魔将と戦って傷を受け、最近それが悪化して病に臥せっているということになっているのだ。ケヴェスンさんはギルドマスターとして真実を知っているかもしれないが、セリアさんの前では言うわけにはいかない。今回の魔石も、アレン王子が魔物と戦った時に壊れたことになっている。
「そうなんですかー。アレン王子さまは人気があるので、町の人もだいぶ気にしてるのですよー」
「…」
本当に残念な話ね。
「…で、またお前さんがギルドマスターのところに変なものを持ち込んだせいで、こうなっているわけだ」
指名依頼だということで、パーティーみんなで冒険者ギルドの会議室に行くと、いきなり副長のアズノールさんにジト目で言われた。
「ああ、例の魔石か」
イルダが笑って言う。
「面白い魔工ネタに夢中になってギルドに来ない。で、副長の仕事が増えるって訳だ。良いじゃないか、ケヴェスンさんの魔工はギルドに役立つことも多いんだし」
「趣味半分だけどな…」
「ま、まあそれは置いといて、今日はどんな用件で?」
私は必死に話を逸らした、っていうか、こっちが本当の話のはず。
「う、うむ。まず紹介しよう。こちらがモンターニャから来られたジル殿だ」
左奥に座っていた若い女性を手で示してアズノールさんが言う。
「モンターニャ?」
「ヴェンティに行ったときに、大きな山を迂回したでしょう?あの山のことですよ」
フレアが、こそっと教えてくれる。それにしても、モンターニャって山のことだったような。山の名前が「山」?
「まあ、あの辺りでは一番高い山だからな」
アルスが言う。ああ、「ライン川」みたいなこと。
「言いにくいので、地元ではもっぱら『モンテ』と略して呼ばれていますよ。私の住んでいる麓の町も同じ名前です」
ジルさんがニッコリと笑って言う。黒髪のちょっと神秘的な感じのする、中々の美人だ。着ている服は、ちょっと和服っぽい。
「依頼の内容はな、最近その町の周りに魔物が良く出没するので、その調査をお願いしたいということだそうだ」
「うん?そんな依頼なら、わざわざこんな離れた町までやって来なくても、地元の冒険者がいるんじゃないか?そりゃあ、俺たちは腕利きだけど」
「自分で言うなよ、アルス。何かあたしらじゃなきゃ駄目な理由があるんだろ」
「ええ、皆様は、ここからヴェンティの間で、あまり魔物が出ない理由をご存知でしょうか?」
「辺境と違って、人間が多いからじゃないんですか?土地の魔力も少ないって話だし」
「都から近いこの辺りはそうですが、ヴェンティまでの途中の山や森は、それほど大きな人間の町もありませんし、モンテ山の辺りは土地の魔力も高いですよ」
私の思いついた適当な理由は、ジルさんにあっさりと否定された。
「モンテ山とその近くには、ドラゴンが棲んでいます。そして、そのドラゴンが人間と敵対しないように魔物を従えているのです。もちろん、言うことを聞かない下等な魔物などは、人間と出会うと襲ったりしますが」
「まあ、伝説のような話だがな。以前、魔王の軍勢とと女神様が戦った時には魔将として姿を現したと言われているが、その後ドラゴンの目撃情報はないしな」
アズノールさんが口を挟む。
「モンテでは皆信じていますよ…。それで、何らかの原因でドラゴンの支配が弱まったり、人間と敵対する理由が出来ると、魔物が人間を襲うようになると言われています」
「その原因や理由が、今あるかもしれないと?」
「ええ、魔物が人間を襲うことが増えただけでなく、魔物を目撃した冒険者が気になる情報をギルドの報告して来たのです。…その、異なる種族の魔物が一緒に行動していたと」
魔物は同じ種族で村を作ったりするが、別の種族と行動することはなく、普通はお互いに無関心か敵対するかだ。
「なるほど、迷宮なら核の魔石に従って魔物が協力して侵入者を襲ってくるけど、普通はあり得ない話だ。要するに強い魔物…今の場合はドラゴンに従って似たようなことをしてると」
「まだ、魔物が一斉にモンテを攻めてくるというようなことにはなっていませんが、最悪そのような可能性もあるかと」
アルスの言葉にジルさんが頷いた。
「そ、それなら大変じゃない!冒険者に依頼するだけじゃなく、国に報告して、騎士や兵士を出してもらわないと」
「いやいや、ユーカ殿、まだ魔物がまとまって攻めてきたわけでもないし、そもそもドラゴンがいるかどうかもはっきりしない」
「そもそも一緒に行動していた魔物も、襲ってくるより何かを調べているようだった、と言う話もありますしね」
アズノールさんとジルさんが、慌てた私を諫めた。
「そういうわけで今の段階では、最悪の可能性を考えて、最も有効な手立ては女神様のいるパーティーに調査依頼をすることだろうというわけですよ」
ジルさんは、フレアをじっと見て言った。
「あー、いやいや、女神っぽいのはフレアじゃないから」
「え?」
「女神っぽいのは、こっちのユーカだよ」
「ええ?」
アルスが私を指さすと、ジルさんが目を丸くした。久しぶりだな、間違われるのは。
「わたくしは、女神の巫女ですよ。女神に仕える者です」
「だ、だって、フレアさん?私の知っている女神本人に見えるけど」
女神を『知ってる』?
「あ、ああ、聖都の女神像を見たのではないですか?あの像とわたくしがそっくりなのはただの偶然ですよ」
そう言って、フレアはジルさんをじっと見つめた。
「女神像?…あ、ああ、そうだったかも。ごめんなさいね。すっかり勘違いしちゃった、あははは…」
「いや、ユーカが女神に見えないのはしょうがない」
「見た目はフレアの方が女神だよなあ」
アルスもイルダも酷いんじゃないの。
「大体の内容は聞いているよ。今回は弟が迷惑をかけた。弟は何だかんだと言いながら、現状に満足していると思っていたのけど…。私にも責任があったのではないかと考えてしまうよ」
「そんなことはありませぬ、殿下」
「…ありがとう。フレアは教誨もしてくれたんだって?」
「…ええ、わたくしも神官の端くれでありますので」
「それで、今後クワランタはどうするのですかな?」
「父上と相談せねばわからないが…、妹に任せるのもどうかと思うし」
教皇の質問にチャールズ王子が答える。妹がいたのか。
「政治の世界に入って欲しくはないしな…」
王子は呟いた。
「これがその魔石です。割れちゃってますが」
「なるほど、古代技術ですか、興味深いですね」
「どうやって魔石の中に文字を書くんでしょーねー」
「今回の依頼の報酬なんですよ」
数日後、トレンタに帰ってきた私は、ケヴェスンさんのところに割れた魔石を持ち込んでいた。今回の件の報酬でもらったものだ。それにしても、セリアさんはすっかり居ついてしまったようね。
「魔力を吸収するのと、その量を増やす、二つの効果がある式が書き込まれているわけですね?…うーん、よくわからないけど、ここで魔力を圧縮してるのかな…?」
「色々試してみると面白そうですねー」
「イライザにどうかと思ったの。環境魔力を吸収出来れば良さそうでしょ?」
「それは良いですねー。現在検討中の魔力発生器では、消費分に追いつかないのでは、と悩んでいたのですよー」
「しかし、こんな貴重なものを頂いて宜しいのですか?国の秘宝ですよね?」
「私は使わないし、悪用しない魔工技術者になら渡して良いって言われてるから」
「国王からですか?」
ケヴェスンさんは、国王も知っている有名な魔工技術者だし、問題ないだろう。
「そーいえばー、アレン王子さまの病気は大丈夫なんですかー?」
「え?ええ、あまり良くないみたいで、王様もちょっと元気がなかったわ…」
私は、ケヴェスンさんの方をチラッと見て言った。そう、表向きというか対外的には、アレン王子は先のファットリアの魔物騒動の時に魔将と戦って傷を受け、最近それが悪化して病に臥せっているということになっているのだ。ケヴェスンさんはギルドマスターとして真実を知っているかもしれないが、セリアさんの前では言うわけにはいかない。今回の魔石も、アレン王子が魔物と戦った時に壊れたことになっている。
「そうなんですかー。アレン王子さまは人気があるので、町の人もだいぶ気にしてるのですよー」
「…」
本当に残念な話ね。
「…で、またお前さんがギルドマスターのところに変なものを持ち込んだせいで、こうなっているわけだ」
指名依頼だということで、パーティーみんなで冒険者ギルドの会議室に行くと、いきなり副長のアズノールさんにジト目で言われた。
「ああ、例の魔石か」
イルダが笑って言う。
「面白い魔工ネタに夢中になってギルドに来ない。で、副長の仕事が増えるって訳だ。良いじゃないか、ケヴェスンさんの魔工はギルドに役立つことも多いんだし」
「趣味半分だけどな…」
「ま、まあそれは置いといて、今日はどんな用件で?」
私は必死に話を逸らした、っていうか、こっちが本当の話のはず。
「う、うむ。まず紹介しよう。こちらがモンターニャから来られたジル殿だ」
左奥に座っていた若い女性を手で示してアズノールさんが言う。
「モンターニャ?」
「ヴェンティに行ったときに、大きな山を迂回したでしょう?あの山のことですよ」
フレアが、こそっと教えてくれる。それにしても、モンターニャって山のことだったような。山の名前が「山」?
「まあ、あの辺りでは一番高い山だからな」
アルスが言う。ああ、「ライン川」みたいなこと。
「言いにくいので、地元ではもっぱら『モンテ』と略して呼ばれていますよ。私の住んでいる麓の町も同じ名前です」
ジルさんがニッコリと笑って言う。黒髪のちょっと神秘的な感じのする、中々の美人だ。着ている服は、ちょっと和服っぽい。
「依頼の内容はな、最近その町の周りに魔物が良く出没するので、その調査をお願いしたいということだそうだ」
「うん?そんな依頼なら、わざわざこんな離れた町までやって来なくても、地元の冒険者がいるんじゃないか?そりゃあ、俺たちは腕利きだけど」
「自分で言うなよ、アルス。何かあたしらじゃなきゃ駄目な理由があるんだろ」
「ええ、皆様は、ここからヴェンティの間で、あまり魔物が出ない理由をご存知でしょうか?」
「辺境と違って、人間が多いからじゃないんですか?土地の魔力も少ないって話だし」
「都から近いこの辺りはそうですが、ヴェンティまでの途中の山や森は、それほど大きな人間の町もありませんし、モンテ山の辺りは土地の魔力も高いですよ」
私の思いついた適当な理由は、ジルさんにあっさりと否定された。
「モンテ山とその近くには、ドラゴンが棲んでいます。そして、そのドラゴンが人間と敵対しないように魔物を従えているのです。もちろん、言うことを聞かない下等な魔物などは、人間と出会うと襲ったりしますが」
「まあ、伝説のような話だがな。以前、魔王の軍勢とと女神様が戦った時には魔将として姿を現したと言われているが、その後ドラゴンの目撃情報はないしな」
アズノールさんが口を挟む。
「モンテでは皆信じていますよ…。それで、何らかの原因でドラゴンの支配が弱まったり、人間と敵対する理由が出来ると、魔物が人間を襲うようになると言われています」
「その原因や理由が、今あるかもしれないと?」
「ええ、魔物が人間を襲うことが増えただけでなく、魔物を目撃した冒険者が気になる情報をギルドの報告して来たのです。…その、異なる種族の魔物が一緒に行動していたと」
魔物は同じ種族で村を作ったりするが、別の種族と行動することはなく、普通はお互いに無関心か敵対するかだ。
「なるほど、迷宮なら核の魔石に従って魔物が協力して侵入者を襲ってくるけど、普通はあり得ない話だ。要するに強い魔物…今の場合はドラゴンに従って似たようなことをしてると」
「まだ、魔物が一斉にモンテを攻めてくるというようなことにはなっていませんが、最悪そのような可能性もあるかと」
アルスの言葉にジルさんが頷いた。
「そ、それなら大変じゃない!冒険者に依頼するだけじゃなく、国に報告して、騎士や兵士を出してもらわないと」
「いやいや、ユーカ殿、まだ魔物がまとまって攻めてきたわけでもないし、そもそもドラゴンがいるかどうかもはっきりしない」
「そもそも一緒に行動していた魔物も、襲ってくるより何かを調べているようだった、と言う話もありますしね」
アズノールさんとジルさんが、慌てた私を諫めた。
「そういうわけで今の段階では、最悪の可能性を考えて、最も有効な手立ては女神様のいるパーティーに調査依頼をすることだろうというわけですよ」
ジルさんは、フレアをじっと見て言った。
「あー、いやいや、女神っぽいのはフレアじゃないから」
「え?」
「女神っぽいのは、こっちのユーカだよ」
「ええ?」
アルスが私を指さすと、ジルさんが目を丸くした。久しぶりだな、間違われるのは。
「わたくしは、女神の巫女ですよ。女神に仕える者です」
「だ、だって、フレアさん?私の知っている女神本人に見えるけど」
女神を『知ってる』?
「あ、ああ、聖都の女神像を見たのではないですか?あの像とわたくしがそっくりなのはただの偶然ですよ」
そう言って、フレアはジルさんをじっと見つめた。
「女神像?…あ、ああ、そうだったかも。ごめんなさいね。すっかり勘違いしちゃった、あははは…」
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