私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

文字の大きさ
96 / 115

96 意外な出会い

しおりを挟む
 「…」
 「しばらくなのねん」
 「…モレアさん?」
 「やっぱり分かるのねん、さすがなのねん」

 まさか仙女じゃなくてドリュアスに会うとは思わなかった。しかし、相変わらずくねくねしながら話す。美人が本当に台無しだ。

 「えっと、あなたは普段エルフの森にいるんじゃないの?」
 「大きな森ならどこにでもいるのねん」

 はい?

 「大きな森なら、私とカリュアは必ずいるのねん」
 「…えっと、あなたがたくさんいるってこと?」
 「たくさんじゃなくて私は一人だけ。どの森にいるのも、みんな私なのねん。木と一緒なのねん」

 うーん、良くわからないけど、同じ名前のドリュアスがみんな繋がっているみたいな?

 「繋がっているんじゃなくて、同じ名前なんじゃなくて、一人なのねん」

 同一人物、じゃなくて同一ドリュアスが同時に複数個所に存在するってことかな?

 「…結局、あなたは私の知っているモレアさんで良いのね」
 「うん、違うけど同じ私なのねん」

 ややこしいな…。

 「もう良いわ。それで、あなたはこの森で今起きていることや、その理由を知ってるのね?」
 「起きていることは知っているのねん。理由は、いなくなった仲間を探しているからなのねん」

 探している?魔物が魔物を?…確かにそんな雰囲気だった。

 「ねえ、ドリュアスは森を管理していて、森で起きたことは何でも知っているんでしょ?いなくなった魔物のことも知っているんじゃないの?」
 「森の植物は管理しているけど、動物は管理外なのねん。知っているのは、探されているのも、探されていないのも、いなくなったのはどちらも人間のせいなのねん」

 人間のせい?

 「どこにいるか知っているのなら、そのことを魔物達に…」
 「森の中じゃないのもいるし、詳しくは分からないのねん。それに、私たちは魔物と人間のどちらか一方の味方をするわけにはいかないのねん。…森を荒らされない限り」

 「森が荒らされるような心配があるわけ?」

 スピカが口を挟む。

 「人間と魔物が過度に争ったらそうなるのねん。そうならないように、お願いに出てきたのねん。探されているのは、竜の子供なのねん」
 「竜…ドラゴン?」
 「竜の子供は森の中にいないのねん。たぶん人間のところにいるのねん。それが魔物に見つかったら争いになるのねん」

 「…おーい、ユーカ、まだここにいたのか」

 「…お願いしたのねん」
 「あ、ちょっと…」

 慌ててモレアさんに手を伸ばすが、彼女は舞い上がる木の葉と共に消えてしまった。

 「はぁ、アルスのせいね」
 「え?俺何かしたか?」

 スピカと二人でジト目で見るが、アルスは訳が分からないような顔をして焦った。



 一応の情報が得られたということで、ギルドに報告に来ている。

 「『優秀な冒険者の元には、自然と向こうから情報が集まってくる』。私の言った通りでしたね」
 「しかし、俺が現れたからって消えることはないのになあ。一緒に魔将と戦った仲なのに。俺なんかしたか?」
 「ちょうど私た…、私との話が終わった所だったし。モレアさんの口調というか言い回しがそもそもわかりにくいから、皆もいれば良かったんだけど…」

 私は、『私達』、と言いかけて慌てて『私』と言い直す。私の頭の上で姿を消しているスピカのことは、まだ内緒だ。

 「ドラゴンの子供が行方不明で、それが人間のせいだって言うのかい。にわかには信じられないが、そのドリュアスは信用できるのかい?」
 「ええ、嘘を言う必要はないと思いますし、種族的にも人間を騙すこともないのではないでしょうか」

 フレアがアレッタさんに答える。

 「まあ、いつも人間の味方という訳ではない、とも言っていましたけどね」
 「下級の魔物ならともかく、ドラゴンやドリュアスを敵に回して戦うなんてことになったら冗談じゃない。そのドラゴンの子供のことはすぐに調査するよ。…あと、念のために騎士や兵士の派遣も国に依頼した方が良いだろうね。あくまで表向きは調査目的だけど…」
 「一度はドラゴンと戦ってみたいけどね」
 「おい、イルダ…」
 「冗談だよ、アルス。真面目な話、ドラゴンの存在自体疑っていたんだけど、ドラゴンの子供までいて、さらにドラゴンの子供を害するような奴もいるとは…」

 「ドラゴンの子供って珍しいんですか」
 「そりゃあ、ドラゴン自体、伝説の存在だからね」

 アレッタさんが言う。数百年、数千年生きるというのに、存在自体疑われるんだから、子どもなんか滅多に生まないのかもしれないわね。



 「ますます人がいなくなったな」

 翌日の朝、宿屋の食堂で朝食を取っていると、イルダが周りを見て呟いた。

 「ドラゴンの子供の話が広まっていますからね。『ドラゴンの子供に手を出した人間への復讐のために、ドラゴンや魔物がこの町を襲いにやってくる』等という噂になっているのですよ」
 「もうそんな噂が…。そりゃあ、観光客は逃げるわけだ」
 「迷惑な話ね…。ところでアルスとジルさんは?」
 「…」
 「…アルスさんがジルさんに声を掛けて、どこかに連れ立って行きましたよ。何でも『ジルさんのことが気になる』のだそうです」

 ええ?それはもしかして…、ジルさん美人だし。あ、でもイルダはどう思ってるのかな。この話題は止めた方が…。

 「それは一目惚れってやつね!」

 私の頭の上で、ポンという音と共に姿を現したスピカが、ビシッと言う効果音の出そうな口調で言った。頭の上なので見えないが、きっと何かの決めポーズを取っているに違いない。
 …いや、余計なことを言うなって…。

 「まあ、あたしはアルスが何をどうしようが関係ないけどな。じゃあな!」

 イルダはそう言い捨てると、さっさと自分の部屋に向かってしまった。

 「ああ、もう分かりやすいというかなんというか…。スピカ、ドラゴンのことで大変な時に、余計な面倒事を増やさないでよ」
 「あたしが言っても言わなくても同じでしょ。こういうのは、煽ってはっきりさせた方が良いのよ」
 「まあ、ユウカさんも無関係という訳ではないですし」

 私は関係ないでしょ。何故か溜息を吐くフレアに、心の中で突っ込んだ。



 森を探索する意味がなくなってしまったが、もう一度レナを探しに行こうか、等と色々考えていたが、町の中でドラゴンの子供のことを聞いて回った方が良いとスピカが言うので、あちこち廻っていた。しかし、元々この町に住む人はドラゴンを信仰しているので、ドラゴンに何かしようとしている人がいる、とかいう類の話は聞けなかった。

 「やれやれ、収穫なしね」
 「あ、ユーカさん、そちらも駄目でしたか」

 夕方宿屋の食堂で溜息を吐いていると、ジルさんがやって来て、そう言いながら向かいに腰かけた。

 「私もアルスさんと一緒に廻っていたのですが、何も分かりませんでしたね」

 アルスと一緒にねえ。考えていると、スピカが姿を消したまま頭をガシガシと蹴ってきた。はいはい、分かったから。面倒事を片付けてしまいましょう。

 「えーっと、ジルさんはアルスのことをどう思います?」
 「はい?…ああ、素敵な殿方だと思いますね。でも私は…」

 その時、大きな音と人の悲鳴が遠くから聞こえた。狼の遠吠えのような声も聞こえる。続いて、非常時に鳴らされる鐘の音が響く。私は思わず立ち上がった

 「これは…」
 「町の表門の方ですね」
 「すぐに行きましょう。もしかしたら魔物が…」

 アルスとフレア、そしてちょっと遅れてイルダが階段を駆け下りてきた。

 「…ああ、みんないるな!」
 「表門の方です。行きましょう!」

 アルスが全員揃っていることを確認して声を上げると、ジルさんが頷いて答えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...