私は女神ではない。…と思う。

山口 慶佳

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115 スフレーヘル家の再興7(結婚式とそれから)

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 な、何?この結婚に反対な男の乱入?…と驚いた私が下を覗き込むと、同じように思ったのか幾人かが立ち上がったが、

 「し、静まれ!国王陛下であらせられるぞ!」

 というタルタリウスさんの慌てた声で、皆が動きを止めた。しかし、騒めきは収まらないようだ。

 「…陛下、本日はこちらには来られないはずだったのでは?」

 教皇が驚いたというより呆れた声を上げた。

 「ん?いやいや大事な方の結婚式なのでな。顔を出さないわけにはいかんだろう?」

 国王はそう言ってつかつかと前に歩いていき、コンラートさんとアマティアさんの前で止まった。コンラートさんはさっと跪いた。慌てて同じように跪こうとしたアマティアさんを、国王は手で制した。

 「アマティア殿は、ネレイスの女王ともいうべきお方。儂ごときに頭を下げる必要はないですぞ。…コンラート・スフレーヘル伯爵」
 「ははっ」
 「アマティア殿を支えるよう、儂からも宜しくお願いする」
 「はい、確かに」

 うんうんと楽しそうに頷き、「いやあまったく伯爵がうらやましいものだ、うんうん、わっはっは」等と言いながら出ていく王様を、教皇をはじめとした王様をよく知る人たちははっきりと呆れて見ていた。具体的にはタルタリウスさんとソランダさんや私のパーティーなどだ。フレアなんかは溜息を吐きながら頭を振っている。
 貴族本人の代わりに出席している代理人連中は、ちょっと焦っているようで、「国王とあんなに親しいとは」「襲爵は本当だったのか」「子爵にすぐ報告しなければ」等と騒いでいるようだ。…ああ、なるほど、王様はこれが狙いだったのか。

 「…コホン、それでは、えーっと、ただいまより二人を夫婦と認める!」

 何となくグダグダな感じで教皇が宣言し、コンラートさんとアマティアさんが振り返ると、招待客が一斉に立ち上がって拍手をした。また音楽が鳴った。結婚行進曲というところか。やっと私の出番だ。私は立ち上がり、音楽に引きずられないように注意しながらCの音に魔力を込めた。

 教会内が光で満たされ、花弁が舞い落ちる。驚いた招待客が上を見ると、そこにいるのは妖精。音楽に合わせて歌う妖精の歌声は天使のよう。歓声の中、舞い散る花弁は光を反射して輝き、その荘厳さはまさに天上のよう…

 …という感じでうまく行っていれば良いんだけど。私はかなり集中して、光魔法による幻影を制御していた。以前王城で披露した光の粒に比べると、制御が段違いに難しい。イメージを維持するのが大変なのだ。
 教会の入り口の扉が開けられ、腕を組んだコンラートさんとアマティアさんが出ていくと、私はバルコニーに移動して、教会の外で新郎新婦を待っていた人たちの上にも花弁を降らせる。一所懸命手を伸ばして花弁をつかもうとしている子供たちの中に、イライザが見える。ごめんね、この花弁は幻だから掴めないのよ。
 新郎新婦が前の道の馬車に乗り込み、皆に見送られて出ていったところで、私は幻影を操るのをやめ、ぐったりと座り込んだ。

 「お、思っていたよりもきつかった…」
 「ご苦労様。でも、馬車に付いて行って、町中に花弁を降らせればもっと良かったかもよ」
 「出来る気がしないわ…」

 私は声を掛けてきたスピカに、手を挙げて見せた。


 その後は、限られた人でガーデンパーティーだ。限られた人とは、さっき教会の式に招待された人たちの一部と、新郎新婦と個人的に親しい人たちだ。式はあまり親しくない貴族などもいたが、逆にこちらは貴族でなくても親しい人が参加している。

 「おお、こちらだったか」

と、声を掛けられたので見てみると、ベアード辺境伯だ。

 「お久しぶりですね。でも式には出席していらっしゃらなかったようですが…」
 「ああ、肩が凝るのでな。それより…」
 「それより、モンテでのお披露目の式が、あたしらにとっちゃ重要なんでね」
 「アレッタさん?」

 モンターニャの冒険者ギルドのギルドマスターのアレッタさんだ。

 「お知り合い?」
 「ああ、昔馴染みでね」

 昔馴染みの多い人だ。

 「こいつが、昔冒険者だったのは知っているだろう?そのとき、ウチの辺まで荒らしに来たのさ。そのときからヤコブとも知り合いさね」
 「人聞きの悪いことを。まあ否定はせんがな。当時は『良い魔物』というのが分からなくてな。迷惑をかけたというわけだ。…ドラゴンと戦いたくてな」

 おいおい。なるほどー。ああ、そういえば。

 「アレッタさん、ジルさん達は来なかったんですか?」

 喜んで来そうなんだけど。

 「彼女らはね、ほらモンテは大丈夫だけどここはね。気分が良くないらしいね」

 こそっと言ってくる。ああ、トレンタは王都や聖都と同じくらいの結界があるからか。彼女達ぐらいになると入ることは出来るんだろうけど。


 多くの人と顔見知りなので、あちこち動いて楽しい時間を過ごした。皆の話題は結婚そのものについても多かったが、王様の乱入に付いても多かった。
 一部の貴族やその代理などは、コンラートさんが国王と親しいことや襲爵のことを知って慌てているようだが、ベアード辺境伯に言わせると、今日初めて知るようでは貴族としてなっていないとのことだ。
 コリンナさんとイアイラは、

 「扉が勢いよく開いて、誰かが入って来た時、これは恋敵が乱入してきたのかと思いました」
 「ああ、それで花嫁を奪って逃げるのね。そういうのもあこがれちゃうなあ」

 等と、結婚式の後のパーティーの話題にするのはどうかと思うような内容で盛り上がっていた。あんたたちねえ、そんなだから変な男に騙されるのよ。

 パーティーは、新郎新婦が町を一周して戻ってきて、挨拶をして終わりになった。今更コンラートさんに言い寄る貴族やその代理連中は、ベアード辺境伯に纏めて片付けられていた。


 その夜、私たちのパーティーの他、王様と教皇、ソランダさんとタルタリウスさん、ベアード辺境伯が、フレアの屋敷に集まっていた。宿泊の件もあるが、大事な話もあるらしい。ちなみに、コンラートさんとアマティアさんは、たぶんコンラートさんの家、何をしているかは知らない。

 「今日のような目出度い日にこんな話はしたくないのだがな。この面々が揃う機会は滅多にないから止むを得まい」

 王様は、躊躇しながら話し始めた。

 「今回のスフレーヘル父子(ふし)の陞爵に関して、先のルシャールの悪事を調査していたのだがな、思ったよりも根が深いようだ」
 「根が深い…予想よりも多くの悪事を働いていたということでしょうか。私は、てっきり他の貴族から陞爵に文句が来ないように、良く分からないものも全てルシャール元侯爵に押し付けたのかと思っていましたが…」
 「そういうことをはっきり言うなよ」

 私が言いたいことを言うと、アルスに突っ込まれた。

 「まあ、そういう点もあることはあるが」

 やっぱりあるんじゃない。

 「ナナセ殿を利用して王位簒奪を企てたこと、兵や火薬を密かに集めていたこと、その資金のためにモンターニャの森の魔物を不法に狩っていたこと、等は間違いない。さらに、過去に不当な手段でスフレーヘル家を追い落として領主になっていたことも違いないだろう。これは先王のせいでもあるな。また取り調べ中ではあるが、スフレーヘル辺境伯の両親の殺害にも係っていると見ている」

 それだけで十分じゃ。

 「うむ、他に、タルタリウス殿」
 「…ええ、ヴェンティまで調査範囲を広げたところ、ヴェンティとルシャール侯爵との間で怪しいやり取りが確認されていまして」
 「ええっ、本当ですか?」
 「町長さんや町の代表の方たちと会いましたが、悪い方達には見えませんでしたが…」

 フレアが庇うように言った。

 「町の人ではなく、外から来た人ですね。ヴェンティは港町故に、多くの人が出入りします。国内だけでなく外海の向こうからも。自由な貿易を認めているので、目の届かない部分もあります。今回もこれ以上追えませんでした」
 「外界の向こうの国って線はあるのかい?」
 「ヴィナリアとヴァルカンツィリアですね。向こうの国とは悪い関係ではないというか、そもそもあまり国交がないですからね。わざわざこちらを攻めるような理由が見当たりません。まあ200年前のように、既に向こうの国が魔物に支配されていればこちらに攻めてくるということもあるかもしれませんが、現在普通に貿易が出来ている以上、その線はないでしょう」
 「単独の魔将の仕業ってのは、あるんじゃないのかい?」

 イルダが言う。確かに、何故だか分からないが魔将がそれぞれ勝手に嫌がらせをしている現状ではあり得る話だ。

 「そうかもしれません。現状では分かりませんね。前にヴェンティで確認されたスキュラとカリュブディスではないようですが」

 どちらも人型じゃなかったから…。スキュラの方は一部人型っぽかったけど、人間の前に出るのを嫌がっていたみたいだし。

 「何だかんだ言って、大分前から魔物が暗躍してたって事ではないか。オクトーの件などは最近の話と思っておったが、この件やコマンダリアとファットリアの件などは、数十年以上前から魔族がかかわって関わっていたと考えられるからな」
 「200年前の全面戦争というべき戦いから時が過ぎ、一部の魔物とは良好な関係も築けている。それに安心しすぎたか…」

 ベアード辺境伯の言葉に、王様は溜息を吐いて答えた。魔物と共存できるのは悪いことではない。一番の問題は、一部の魔将の暴走なのか、それとも上位の総意なのかということだ。私は、クロンダイクの「今回の魔王は失敗作」という言葉の意味を考えていた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

高天神田
2018.06.26 高天神田

ストーリー面白い!続きが気になる!!

2018.06.27 山口 慶佳

ありがとうございます。頑張って書きます。これからもよろしくお願いします、
(最初の感想が好意的な内容で良かった・・・(^_^;))
システムが良く分かっていなくて、感想に気が付くのが遅れました。申し訳ないです。

解除

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