シプレのコロン

あさぎ いろ

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それからしばらく、俺は大学の講義と部活で、かなり忙しい日々を送っていた。
サークルには、全く参加出来ず、橘さんにも、時々、生存確認みたいなメッセージを送る事しか出来ずに…。
大きな大会を控え、同じ目標に向かって集中する仲間や先輩と過ごす初めての大学生活は、とても充実していて、絢音との事も、少しつづ過去へとなっていく感覚もあった。

この試合に勝てば…、県大会優勝で、さらに上に登れる。
今日は、そんな試合だ、まだ一年の俺は補欠扱いで、ベンチで出番が来るのを待っていた。
その時、隣に居たチームメイトが俺を突ついてきた。
「なぁ、田辺、なんかあそこ、女子の人だかりが出来てるんだけど……」
指差した先には……
なんと、橘さんが居た。
幻かと…驚く俺に、気付いた橘さんが、俺に対して笑顔で手を振ってくる。
「え、田辺の知り合い?なんか、めっちゃイケメンなんだけど?」
「あー、友達?先輩?サークル仲間?ライバル?……まぁ、なんか色々で、知り合いで間違い無い」
「すげ~な。俺らの試合なんて観てないよな、あの女子達は。どうやら、イケメンしか見てないぞ!」
「まぁ、あの人、めちゃくちゃモテるんで……」
久しぶりに見れた顔に、嬉しい半面、なんか分からないけど、周りに居る女の子達に対して、黒い気持ちがウズウズ……と来るような。
なんだろ……と、分からないから探りたいような、探りたく無いような……その気持ちには、蓋をして…前を向いた。
試合に集中だ。
「ナイス!まだまだ!ファイトー!」
大声で声援を送る。
「田辺、ウォームアップ!」
監督から声がかかった。
俺はジャンバーを脱ぐと、準備運動を始める。屈伸に足首と手首を解す。
トントンと、リズム良く跳ねる度に、気持ちが落ち着いてきた。
「田辺、行け!」
「ハイ!」
俺はコートに入ると、必死にボールを拾い、とにかく先輩へとボールを上げる。
大学の部活だけあって、相手チームは、とんでもなく、デカくてガタイの良い奴らばかりだ。
背の小さめの俺は、それでも、負けん気だけで、抜けてやる!と、得意のジャンプを活かして、なんとか、アタックを3本決める事が出来た。
相手チームから受ける緊張からか、段々と身体が思うように動かなくなり……肩が強ばり、息が上がる。
監督から、チェンジの声がかかり……
俺はコートを出た。
「田辺、ナイスだった!」
監督は、声をかけてくれた。
が、自分が役目を果たしたかどうかは、分からない……ダメだったんじゃないかという意識ばかりが頭を支配する。
スっと、橘さんの方に目が向かう。
橘さんは、俺の気持ちが、読めてるかのように穏やかな目で、1度だけゆっくりと頷いてくれた。
それを見て、何故か飲み込めた。
橘さんは、別にバレーの猛者でも無いし、解説者でも無いのに。
……俺はちゃんと出来たのだと。
不思議とすんなり、そう思う事が出来た。
そこで頭は切り替えれて、改めて、仲間への声援をかける。
大声で叫んだ!
無事に勝利を収め、祝杯を部室で上げた後、高揚感のままに帰宅した。

俺は、スマホを手に持つ。
橘さんの連絡先を開くと、通話ボタンを押した。少し緊張してる自分が居た。
「もしもし、おめでとう!」
「あっ、あの、今日は、応援……ありがとうございま……」
「迷惑じゃなかった?コッソリ応援しようと思って観に行ったのに…さぁ…」
被せるように言われた。
「ハハッ、めちゃくちゃ目立ってましたよ」
「だよな……」
「でも、どうして?試合……」
「弟に聞いたんだよ。朔の大学が……今日決めたら、次の駒へ進めれるって。俺の弟も、違う大学で今もバレーしてるから」
「あぁ、なるほど……わざわざすいません」
「えっ?なんで?推しの応援は当然!むしろ、ごめんな目立ってしまって、でも、プレーしてるトコ、見たくて……めちゃくちゃカッコ良かったよ!」
「生粋のイケメンから、カッコイイとか言われると……照れますね」
「なにそれ…生粋って、フフッ。あ、そうだ!明日は空いてる?勝利のお祝いに、コロン買いに行こ!」
「試合後なんで、明日は空いてます。……って、覚えてたんですか?コロンの事」
「忘れて無いよ!じゃ、店がモールの中にあるから、明日10時に入り口でね」
「了解です。おやすみなさい」
「おやすみ」
2人で会うのが久しぶりで、楽しみなのに、ドキドキとして少し落ち着かない……
この昂る気持ちが、試合後の、高揚感からなのか、緊張なのか、他の何かなのか、この気持ちが……ハッキリとしないけど。
深く考えても仕方ないので……
遅刻なんてして行ったら、多分、橘さんの周りは女の子の人だかりが出来てると思うので、しっかりと目覚まし時計をセットして、眠りについた。



待ち合わせ時間少し前に着いて、俺は到着のメッセージを送る。
キョロキョロしていると、橘さんがやって来た。
やっぱり、目立つんだよなぁ……
その際立った見た目と共に、オーラみたいなの纏ってて。
すぐに俺に気付いて、こっちに向かってくる。
歩いてくる姿が、ドラマのワンシーンみたい……
「お待たせ!」
「いや、俺も今来たんで……店、どっちですか?」
「こっちだよ」
橘さんに誘導されて入った店は、白を基調としたシンプルな内装で、ズラリと、沢山の瓶が並んでいて、外からの太陽の光を受け、それぞれがキラキラとしていた。インテリアに余計な飾り無い分、瓶が際立って美しく見える。
「素敵なところですね……男の俺でも、入りにくさは無いですし。キレイですね」
「でしょ?ゆっくり見れるし、手に取っても、すぐに店員さんが寄って来る店じゃないから安心して」
「それは良いですね」
「えっと……この辺りが、僕の好きな香りで、使ってるブランドのヤツかなぁ……」
透明から深い青や、薄緑から深い緑へと変わるグラデーションの綺麗な瓶が並ぶ一角。
「僕が、使ってるのより、少し甘くない感じの……コレなんかどうかな?」
柑橘系と樹木の香りが薄く香るシプレ系と呼ばれる物らしい……
説明文を読む。なるほど……
どう?って、橘さんが、僕の手首に軽く散らしてくれた。
香りを嗅いでみる。
確かに、嫌味の無い控えめな香りで……橘さんのコロンと似てるようで、少し違う。
「あ、この香り好きです。これにします!瓶の色もエメラルドグリーンのグラデーションが、めっちゃカッコイイですし。」
「他は試してみなくて良い?」
「見てるのは楽しいですけど、これだけ数があると、どれがどんなのか分からないですし。この香り、落ち着くのでコレに決めます」
「そっか、じゃ……すいません、これください」
橘さんが店員さんに声をかける。
下の扉から箱を取り出した店員さんについて、レジに行くと、俺がポケットから財布を取り出している時、ごく自然な動作で橘さんがスマホをかざす。
ピッ……て、え?支払い、終わった?
「あの、支払いは?」
「ん?だから、プレゼントするって言ったよ?」
「え?いやっ、ぇえっ?」
「まぁまぁ……。あ、ありがとうございます。行こう?」
紙袋を笑顔で持つ店員さんから、受け取ってくれ、俺を店の外へと促した。
「いや、橘さん、悪いですよ……プレゼントなんて……貰うような立場じゃないし。それにコレ高いでしょ?」
「いや、香水じゃなくて、コロンだから、そんな高く無いし。そもそも僕があげたかったんだし……はい、おめでとう!これからまだまだ頑張ってね!」
極上の笑顔で、これ以上の反対意見、受け付けません…的に押し付けられた。
「あっ、じゃ!俺っ、昼ごはんっ!奢ります!」
「もう……いいのに。でもなんか、引いてくれそうに無いから、ごちそうになろうかなぁ……あ、あそこのパン屋さん行こ!」
俺の手を引いて指差した先のパン屋に向かう。
店内で、ものすごく香ばしい匂いを嗅ぐと……
めちゃくちゃお腹が減ってきた。
ぐるっと店内を巡り、お互いに数個のパンを選んだ。
「今度は俺ですから!」
美味しそうなパンの乗ったトレイをガッチリ持ってレジに行く。
「はいはい。ゴチになりますよ」
ニヤリと笑う姿も、絵になる美丈夫。
その後、少しだけモール内を探索すると、行き交う女の子達の視線を受け流しながら、早々と、疲れた……なんて言う橘さん。
じゃ、もう行きますか?の一言で一転、笑顔になった橘さんの家で、買ったパンを食べる事になった。


「お邪魔しまーす」
「どうぞ、狭いけど……そのソファにでも座ってて…今、コーヒー淹れるから」
ベットとソファ、TVにパソコン……ローテーブル。グレーとブラックを貴重としているシンプルだけど、センスの良い部屋だ。
「さすが、モテる男の部屋って感じですね……」
「何それ……どうぞ、粗茶ですが(笑)?」
「ちょっと!それ、俺の真似ですか?」
クスッと笑いながら、ローテーブルに、静かにコーヒーが置かれた。
「食べよ~お腹減った!」
向かい合わせに座ると、いただきまーす。と手を合わせた。
俺がモグモグとウインナーパンを頬張っていると
「ケチャップ付いてる……」
ん?どこだろ……と、舌でペロっとした所へ、ちょうど橘さんの親指が伸びてきていて……
俺は、意図せず……橘さんの親指を舐めてしまった。
あっ!!と思って、ティッシュを渡そうとした時……
橘さんが、その親指に付いたケチャップを唇へと運んだ。 
これは、間接的な……ヤツでは。
その光景を目の当たりにして、急激に顔の温度が上がり、額に薄っすら汗が出てきた。
橘さんの親指から目が離せなくなり、落ち着かない程にドキドキしてきた俺は…なんか他の事を考えたくて…
「あー、あのっ、橘さんって……今彼女とかは?」
「彼女?居ないなぁ……まぁ、広い意味での……彼女……は居ないこともないような……」
なんか、モゴモゴ言い出した。
「え?それって……」
「あ、いやいや、僕、そもそもあんまり恋愛得意じゃないし。好きな人は、ちゃんと居る……朔にだけは言えないけど……」
俺にだけは……言えないって。
俺の知ってる人って事か……な。
好きな人が居る……って聞いた時に感じた衝撃が……心の奥底から湧き上がる冷たくてズキズキした何か。
何でこんなにショックを受けてるのか分からない。
「僕より、朔は?」
「俺ですか?俺は別れたばっかですから……」
眉間にシワを寄せる彼が沈黙の後……急に
「三門絢音?」
「えっ、え?は?な、な、なんで?」
どもってしまう程に焦る。
俺は、サークルでも、誰にも言ってないのに。
「そんな慌てないでよ……女の子達から聞いた。高校の時、有名なカップルだったって」
橘さんが知ってると分かったら……
絢音がショックを受ける……
俺が教えたと思われる……
その事にサッと血の気が引く。
「俺ら、高校の時は、周りがそう思ってただけで……実際は数ヶ月の付き合いしか……それに振られたのは俺の方で……」
「そうか……朔は……まだ好きなんだ…」
そう問われるとは思って無くて……
まだ、好き……か?
え?
絢音を好き?
泣かせたくは無いけど……
俺が深く深く自分の気持ちを探してる沈黙を正解と取ったらしい橘さんは
「大丈夫、誰にも言わないから……」
重たい空気が流れ、陰る橘さんの顔は……
今日の楽しかった時間が全て無くなるみたいに、もの凄く淋しげに見えた。
結局、自分の気持ちも分からないままに、苦笑いで答える俺に、コーヒーのおかわり持ってくるね……と橘さんは行ってしまった。
コーヒーを手に戻ってきた時には、もう、さっきの空気も無くて、すっかり他の話になっていた。
帰る時も……
橘さんは、何か言いたげな瞬間があった気もしたけど……
「あのっ、コロン、本当にありがとうございました!大事に使います!」
と言いお辞儀をしてから顔を上げると、とても嬉しそうな顔に変わっていた。
俺は……安心して扉をパタンと閉めた。


ーーーーー
結局、俺の大学は……その次の次の試合で負けてしまい……
トーナメントに勝ち上がって行く事が出来なかった。

大学で、勝つか負けるかの試合も無くなってしまった虚しさから……少しでも気分を変えたくて……
久しぶりに橘さんと絢音の大学のサークルに顔を出す事にした。
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