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その場で、前へ進む足が止まった。
俺が目にした光景……
橘さんが、柔らかな笑顔で、絢音と話している。今まで、見た事も無い光景だった。
女の子に対して笑顔を向ける事も、話をする事も珍しい橘さんだからこその、特別感なのだろう……
向けられる笑顔で、顔の周りに艷やかな花でも咲いたかのような表情で受け答えする絢音。
美人の絢音は、橘さんの隣に並んで居ても不遜は無い。確実にお似合いだった。
そうか……
橘さんの好きな人は、絢音だったんだ。
だから、俺には言えないって……
絢音に未練残してる俺に、悪いからって、遠慮したんだ。
言葉にならない表情を向けられた理由が、ストンと腑に落ちた。
相思相愛であろう2人を見つめる俺。
その時俺は、突然に分かってしまった。
絢音に対して、嫉妬してる自分にハッキリと気付いた。
並ぶ2人を見て。
正に嫉妬の向いている方向を。
そうか、俺は……
橘さんの事が好きらしい。
驚きもあったが……どこかで……にわかに分かっていたような気もしていた。
失恋と同時に、自分の気持ちをキチンと自覚した。
絢音の言っていた。
俺への気持ちと、橘さんへの気持ちの違いに気付いた。……それも、少しだけ理解出来た。
自分の事って、案外分からないもんだな……突きつけられて初めて自覚する。
今朝、気付かぬ想いのまま、初めて手首に付けた時の淡い高揚感を、橘さんからプレゼントされたコロンを……ゴシゴシと擦る……無駄なのに消えない香りを払いたくて、拭いてみた。
足が地面から離れるのを拒否していて、どうにも前に進めない。
それでも、俺の眼はしっかりと、2人の姿を捉えていて、瞬きも忘れてしまったかのように。
見ているのが、しんどくなってきた時、俺のスマホが振動した。
電車内でマナーモードにしたままだったんだ。
取り出し、画面を見ると。
ばあちゃんのデイサービスからだった。友達作りと、趣味の幅を拡げる為に、ばあちゃんは、週に1回デイサービスに行っていた……なんだろ?
「あっ!田辺さん?繋がったぁ!良かった!私、デイサービスそよ風の看護師で菊池と申します……」
「はい…」
「田辺さん、うちで急に呂律が回らなくなって……身体の傾きが見られて、脳梗塞の疑いで……急遽、うちから病院に運んだんです。中央病院、すぐ向かって頂けますか?」
「えっ?」
あまりの事に、言葉の出てこない俺。
「すいません、こちらからは、搬送するしか出来なくて、ご家族さんに、あとの事はお願いするしか出来ないんですけど、大丈夫ですか?」
「あ、あっ!、はい。中央病院ですね?とにかく、いっ、行きます!すいません!」
電話を切った俺は、とにかく病院へ!と、駆け出した。
「おーい!田辺~!」
呼ばれた方を見ると……
どヤンキー車が目に入った。
車高の低さと、ピカピカと黒光りする車体。
見てはいけないモノを見て……目を逸らし、また駆け出そうとすると。
「お~いっ!無視すんな!」
やっぱり……その声。
そのどヤンキー車から出てきたのは……
青木さんだった。
「どっか急いでんのか?サークルは?」
俺の方へ歩み寄ってくる。
「え、あ、ちょっと…っ…」
「お前っ!大丈夫か?めちゃくちゃ顔色……悪いけど?吐くか?」
「いやっ、大丈夫です、急ぐんでっ!」
立ち去ろうとすると、腕を捕まれる。
「乗っけてやる!俺様の車……来い!」
ズルズルと、引きずられた俺は、ポイッと、助手席に押し込まれた。
「どこ行くんな?」
「中央病院です…」
ラジャ!っと、爆音と共に……車は発進した。
俺は、ミラーからぶら下がっている、揺れるサイコロのぬいぐるみ達を見つめていると
「かっこいいだろ?ソレ。で?なんで病院?」
「あっ、あー、うちのばあちゃんが、運ばれたらしくて……」
「は?それ、めっちゃ大事じゃねぇか!はよ言えや!」
青木さんは、ハンドルをギュッと握り直し、そのまま無言で集中した。
見た目のヤバい車とは、真逆の安全運転で……
15分程度で病院に着いた。
「着いた!急げっ!」
「すいません、ありがとうございます!」
「ええよ!サークルのみんなには、休むって言っとくから、気にすんな!行けっ!」
ペコッとお辞儀した俺は、病院の正面玄関へとダッシュした。
受付で、ばあちゃんの名前を告げると……少し待つように言われた。
座って待っていると、看護師さんが1人やった来た。
「田辺さん?」
「はい」
「今ね、田辺サクラさんはオペに入ってるから……こっちね」
無言でドンドン院内を進む看護師さんに着いていく。
ここに座って待ってて……と、椅子を指さされた。
そのまま、看護師さんは、どこかへ行ってしまっので……
手術中の文字が赤く点ったランプを見つめるしかなかった。
どのくらい時間が経ったか分からないけど…少し横を向くと…ずっと見つめていたせいで、目の前が赤くチカチカする。
静かな廊下は、誰も居なくて……別の世界に居るかのようだった。
パタパタと……靴の音がした気がして…
ふと、その方を向く。
絢音と橘さんが……
なんで?
しかも、2人で……
「はぁっ…はぁ…朔、お婆さんは?」
息を切らして絢音が問いかけてくる。
「分かんない……待ってろって言われて……待ってる」
「大丈夫なの?」
今度は橘さんが聞いてくる。
「分からないです……」
俯く俺……
1人で廊下で待たされる不安と、絢音と橘さんが2人で現れた事への変な嫉妬心。
ぐちゃぐちゃになる俺は……一言。
「もう、俺1人で大丈夫なんで……帰ってください……ごめん」
俯く俺に…
2人は沈黙を落とした。
「絢音、行こう…」
発した声は橘さんからで。
呼び捨て…絢音って……
俺が特別って、だから、呼び捨てって……アレ、嘘じゃないか…
そんな些細なことにすら気付いてしまい、脆い心にヒビが入る。
2人が立ち去ると、はぁ…と大きな溜息が。
心配してきてくれたのは分かる…それに応えれない俺の小ささに…
更にしんどくなっただけだった。
静かな1つの足音に…
俯いたまま、顔だけ横に向ける。
目に入ったスニーカー、橘さんのだ。
ペットボトルのコーヒーが目の前に差し出された…。
「飲む?」
黙ったままで…俺は受け取る。
「青木から…聞いて。その時、絢音も居て…お婆さんの事知ってるって言うから…それに、朔は…絢音にいて欲しいかと思って…」
橘さんが…『絢音』と口にする度…
勝手にズキリと心が反応してしまう。
橘さんは、俺の隣に腰を下ろすと、自分のペットボトルを空け、グイと飲んだ。
「ごめんな、僕だけ…どうしても…心配で、戻って来た…」
「俺こそ…すいません、あんな態度……」
なんとか、普通にしようと思う程、顔が歪む…
「あっ!」
橘さんの声に反応して見ると、手術中のランプが消えていた。
自動扉が開き、青い手術着を着た医師らしき人が出てくる。
慌てて駆け寄る俺。
「あっ!あの!ばあちゃんは?」
「大丈夫ですよ、早期の発見だったので…」
医師から説明されたのは、脳梗塞だった事、そして、今行ったオペが血栓回収療法で、発症から24時間以内にしか出来ないという事。
脚の付け根からカテーテルを入れ、血栓を回収する。ステントで血栓を絡め取る方法。
この2つを組み合わせでする処置らしく。
早期発見だったので、難なく3時間の手術で無事に終わった…と。
この後については…看護師に聞いてください…と、医師は下がって行った。
俺は、もう、ホッとして…
再び、椅子にドサリと座った。
「良かった…ほんと良かったよ…朔」
肩に手を置かれる。
「はい、とりあえず安心しました」
そこで脱力感を感じて初めて…
ずっと身体が緊張していたんだと分かった。
しばらくすると看護師さんがやって来て詳しく説明を受けた。
結局今日のところは、リカバリー室で1晩過ごし、明日、一般病室に移る…という事で、また明日来てください…と言われた。案内してくれたリカバリー室では、今は麻酔で眠っているらしく、すやすやと眠るばあちゃんの姿を見て、生きてる…って事を確認をして、ジワリと目尻に涙が溜まった。
看護師さんに丁寧に何度もお礼を伝え…
病院を出た。
俺の横に、ずっと付き添って居てくれた橘さんに、全力でお辞儀した。
「あんな態度取ったのに…ずっと一緒に居てくれて…本当、心強かったです」
「大丈夫だって…それに、僕もお婆さんが心配だったから…朔の事も。むしろ、無理矢理居させて貰ったから」
さっき引っ込んだ涙が再び落ちそうになる。
「ありがとうございました」
言った勢いのまま立ち去ろうとする俺に、
「待って!今夜、ウチに泊まろ?そんな青ざめた顔…見てらん無いよ」
強引な程に手を捕まれ、そのままタクシーに乗せられる。
断る隙を与えず、運転手さんに行先を告げられた。
橘さんの勢いに負けた俺は、半分諦めると座席に深くもたれた。
もう…精神的に疲れていた俺の瞼は、ユルユルと閉じてしまった。
着いたよ…と起こされ、のろのろとする身体を引っ張られる様にしながら、橘さんの家に上がる。
確かに…ばあちゃんの居ない家に帰っていたら…辛くなっていただろう事を思うと…心遣いが有難かった。
晩御飯をコンビニに買いに行き、2人で食べ、そのまま、泊めてもらう事に。
友達なら、何でもない事なのに…
自分の気持ちに気付いた俺は、橘さんをまともに見る事が…もう出来なくなっている。
そんな俺を、ばあちゃんの件で疲れてる…と取ってくれたらしく、変にぎこちない俺を受け入れてくれた。
ベッドが1つしかないから…
でも、寝相は良いから…と笑う橘さん。
2人でベッドに入ると…
橘さんからは、俺と同じシャンプーの香りがした…俺がシャンプー借りたから、逆か。
「青木の車、どヤンキーだろ?良くアレに乗ったなぁ…」
「 乗ったというか、乗らされたというか、断れ無くて…。まぁ、実際助かりましたけど…ビックリしましたね…あのクルマには…あと、超安全運転のギャップ!」
並んでそんな事を笑い合っていると、
ドキドキして寝れないと思っていたのに…いつの間にか眠りに落ちていた。
ヒビ割れた暗闇の隙間から伸びてくる沢山の手に追われ…
引きずられて、必死にもがく…
明るい場所を探して走っても走っても…暗闇が追ってくる。
身体がグラグラと揺れ、目眩がした。
「サク…朔…」
と耳に拾った声。
声に導かれ薄っすら目を開くと…
覗き込む橘さんの前髪が、俺の鼻頭を掠めた。
「橘さん?」
「なんか…うなされてたから、起こした。大丈夫?」
「あー、なんか、ヤバい夢見てました。」
「水持ってくるから」
橘さんが行ってしまうと、途端、暗闇で中に1人で不安になる。
すぐ戻ってきた事にホッとして、貰った水を飲見干すと、コップを持って行こうとする、橘さんの服の裾を…思わず掴んでしまった。
「大丈夫だから…朔、…大丈夫だよ……」
と、ギュッと抱きしめてくれた。
俺は、胸に顔を埋めたまま…
氷が熱で溶けてしまうように…
ハラハラと涙が落ちるのを止められず…ヒクッと、喉が鳴る。
今回は、発見が早かったけど、俺が出かけてる間に倒れて、そのまま時間が過ぎて手遅れになったり……とか、安易に想像出来てしてしまい…これからの事が不安で仕方なくて…
ばあちゃんが逝ってしまって、今度こそ1人になってしまうのが怖いというような事を、涙の間で…
言葉を連ねて吐き出すのを、橘さんは、何も言わずに…聞いてくれた。
「あのね、朔…」
と、橘さんは自分のTシャツを少しめくると、俺の手を脇腹辺りに持ってくる。
暗闇に慣れて…何となく見えるが…触るとよく分かる、蚯蚓脹れのような…
傷跡?
「これ、手術の痕……中学の時、車とぶつかって、その時のなんだけど…死にかけた…んだよ…僕」
「えっ?」
驚きで…少し涙が止まった。
「あのね…朔は、人が簡単に逝ってしまう…って言ってたけど…死なない時もあるからね……慰めになるか分からないけど…僕の強運分けたげるよ」
と言うと…
触れるか触れないか…
唇と唇が…軽く合わさる。
キス…
直ぐに離れた唇…
暖かいものが離れて…一気に冷んやりした。
「それにね、お婆さんは、まだまだ死なないと思うよ?そう思わない?実はね、そうめん流しを一緒にする約束もしてるんだよ…僕」
確かに…と、暗闇で引きずられた心が少しだけ浮上する。そうめ流しの約束なんて、いつの間に……ばあちゃん。
「言えてますね…それは」
「そうだよ…明日一緒に病室行こ?意外な程に元気かもしれないよ?」
再び抱きしめられたまま、2人横たわる。
俺は…このまま…橘さんに何処までも依存してしてしまうのでは無いかという恐怖と…得たい安心感で、往復する心を持て余し…眠りから遠いところに居た。
それなのに……
橘さんから穏やかな寝息が、聞こえると…眠気が急激に襲ってきて…目を閉じると意識が薄れた。
起きると…
隣では、心配顔で朝日を浴びてる橘さんと目が合った。
途端に、柔らかく美しく笑いかけてくれる橘さんに、俺は…
もう、これ以上一緒に居てはイケナイと…唐突に思った。
同時に、想いを振り切る覚悟も…すんなり受け入れる事が出来た。
そう、俺は…男らしく…そして、俺らしく、相手の幸せを…願いたいんだ。
絢音と橘さんは、実際似合いのカップルだと思うし…
幸せになってくれるなら…俺の見えない所でなら、大丈夫な気がしてきた。
それに、俺は…橘さんから…分けて貰った強運もある。想いを閉じる事が出来る理由は、ここにもあった。
支度をすると…
一緒に玄関を出ようとする橘さんを止める。
「ありがとうございました。病室には、家族しか入れないみたいなので…また、退院したら…会いに来てください。お世話になりました」
無理矢理笑顔を作ると…
それ以上は、言いようが無いのだろう…
橘さんは、少し寂しげに
「そっか…お大事に…って伝えてもらえる?退院祝い用意しとくからって……ね?」
「はいっ!」
今度こそ、ちゃんと笑顔が作れ、いつものような顔で、俺の中では別れも含むサヨナラが言えた。
俺が目にした光景……
橘さんが、柔らかな笑顔で、絢音と話している。今まで、見た事も無い光景だった。
女の子に対して笑顔を向ける事も、話をする事も珍しい橘さんだからこその、特別感なのだろう……
向けられる笑顔で、顔の周りに艷やかな花でも咲いたかのような表情で受け答えする絢音。
美人の絢音は、橘さんの隣に並んで居ても不遜は無い。確実にお似合いだった。
そうか……
橘さんの好きな人は、絢音だったんだ。
だから、俺には言えないって……
絢音に未練残してる俺に、悪いからって、遠慮したんだ。
言葉にならない表情を向けられた理由が、ストンと腑に落ちた。
相思相愛であろう2人を見つめる俺。
その時俺は、突然に分かってしまった。
絢音に対して、嫉妬してる自分にハッキリと気付いた。
並ぶ2人を見て。
正に嫉妬の向いている方向を。
そうか、俺は……
橘さんの事が好きらしい。
驚きもあったが……どこかで……にわかに分かっていたような気もしていた。
失恋と同時に、自分の気持ちをキチンと自覚した。
絢音の言っていた。
俺への気持ちと、橘さんへの気持ちの違いに気付いた。……それも、少しだけ理解出来た。
自分の事って、案外分からないもんだな……突きつけられて初めて自覚する。
今朝、気付かぬ想いのまま、初めて手首に付けた時の淡い高揚感を、橘さんからプレゼントされたコロンを……ゴシゴシと擦る……無駄なのに消えない香りを払いたくて、拭いてみた。
足が地面から離れるのを拒否していて、どうにも前に進めない。
それでも、俺の眼はしっかりと、2人の姿を捉えていて、瞬きも忘れてしまったかのように。
見ているのが、しんどくなってきた時、俺のスマホが振動した。
電車内でマナーモードにしたままだったんだ。
取り出し、画面を見ると。
ばあちゃんのデイサービスからだった。友達作りと、趣味の幅を拡げる為に、ばあちゃんは、週に1回デイサービスに行っていた……なんだろ?
「あっ!田辺さん?繋がったぁ!良かった!私、デイサービスそよ風の看護師で菊池と申します……」
「はい…」
「田辺さん、うちで急に呂律が回らなくなって……身体の傾きが見られて、脳梗塞の疑いで……急遽、うちから病院に運んだんです。中央病院、すぐ向かって頂けますか?」
「えっ?」
あまりの事に、言葉の出てこない俺。
「すいません、こちらからは、搬送するしか出来なくて、ご家族さんに、あとの事はお願いするしか出来ないんですけど、大丈夫ですか?」
「あ、あっ!、はい。中央病院ですね?とにかく、いっ、行きます!すいません!」
電話を切った俺は、とにかく病院へ!と、駆け出した。
「おーい!田辺~!」
呼ばれた方を見ると……
どヤンキー車が目に入った。
車高の低さと、ピカピカと黒光りする車体。
見てはいけないモノを見て……目を逸らし、また駆け出そうとすると。
「お~いっ!無視すんな!」
やっぱり……その声。
そのどヤンキー車から出てきたのは……
青木さんだった。
「どっか急いでんのか?サークルは?」
俺の方へ歩み寄ってくる。
「え、あ、ちょっと…っ…」
「お前っ!大丈夫か?めちゃくちゃ顔色……悪いけど?吐くか?」
「いやっ、大丈夫です、急ぐんでっ!」
立ち去ろうとすると、腕を捕まれる。
「乗っけてやる!俺様の車……来い!」
ズルズルと、引きずられた俺は、ポイッと、助手席に押し込まれた。
「どこ行くんな?」
「中央病院です…」
ラジャ!っと、爆音と共に……車は発進した。
俺は、ミラーからぶら下がっている、揺れるサイコロのぬいぐるみ達を見つめていると
「かっこいいだろ?ソレ。で?なんで病院?」
「あっ、あー、うちのばあちゃんが、運ばれたらしくて……」
「は?それ、めっちゃ大事じゃねぇか!はよ言えや!」
青木さんは、ハンドルをギュッと握り直し、そのまま無言で集中した。
見た目のヤバい車とは、真逆の安全運転で……
15分程度で病院に着いた。
「着いた!急げっ!」
「すいません、ありがとうございます!」
「ええよ!サークルのみんなには、休むって言っとくから、気にすんな!行けっ!」
ペコッとお辞儀した俺は、病院の正面玄関へとダッシュした。
受付で、ばあちゃんの名前を告げると……少し待つように言われた。
座って待っていると、看護師さんが1人やった来た。
「田辺さん?」
「はい」
「今ね、田辺サクラさんはオペに入ってるから……こっちね」
無言でドンドン院内を進む看護師さんに着いていく。
ここに座って待ってて……と、椅子を指さされた。
そのまま、看護師さんは、どこかへ行ってしまっので……
手術中の文字が赤く点ったランプを見つめるしかなかった。
どのくらい時間が経ったか分からないけど…少し横を向くと…ずっと見つめていたせいで、目の前が赤くチカチカする。
静かな廊下は、誰も居なくて……別の世界に居るかのようだった。
パタパタと……靴の音がした気がして…
ふと、その方を向く。
絢音と橘さんが……
なんで?
しかも、2人で……
「はぁっ…はぁ…朔、お婆さんは?」
息を切らして絢音が問いかけてくる。
「分かんない……待ってろって言われて……待ってる」
「大丈夫なの?」
今度は橘さんが聞いてくる。
「分からないです……」
俯く俺……
1人で廊下で待たされる不安と、絢音と橘さんが2人で現れた事への変な嫉妬心。
ぐちゃぐちゃになる俺は……一言。
「もう、俺1人で大丈夫なんで……帰ってください……ごめん」
俯く俺に…
2人は沈黙を落とした。
「絢音、行こう…」
発した声は橘さんからで。
呼び捨て…絢音って……
俺が特別って、だから、呼び捨てって……アレ、嘘じゃないか…
そんな些細なことにすら気付いてしまい、脆い心にヒビが入る。
2人が立ち去ると、はぁ…と大きな溜息が。
心配してきてくれたのは分かる…それに応えれない俺の小ささに…
更にしんどくなっただけだった。
静かな1つの足音に…
俯いたまま、顔だけ横に向ける。
目に入ったスニーカー、橘さんのだ。
ペットボトルのコーヒーが目の前に差し出された…。
「飲む?」
黙ったままで…俺は受け取る。
「青木から…聞いて。その時、絢音も居て…お婆さんの事知ってるって言うから…それに、朔は…絢音にいて欲しいかと思って…」
橘さんが…『絢音』と口にする度…
勝手にズキリと心が反応してしまう。
橘さんは、俺の隣に腰を下ろすと、自分のペットボトルを空け、グイと飲んだ。
「ごめんな、僕だけ…どうしても…心配で、戻って来た…」
「俺こそ…すいません、あんな態度……」
なんとか、普通にしようと思う程、顔が歪む…
「あっ!」
橘さんの声に反応して見ると、手術中のランプが消えていた。
自動扉が開き、青い手術着を着た医師らしき人が出てくる。
慌てて駆け寄る俺。
「あっ!あの!ばあちゃんは?」
「大丈夫ですよ、早期の発見だったので…」
医師から説明されたのは、脳梗塞だった事、そして、今行ったオペが血栓回収療法で、発症から24時間以内にしか出来ないという事。
脚の付け根からカテーテルを入れ、血栓を回収する。ステントで血栓を絡め取る方法。
この2つを組み合わせでする処置らしく。
早期発見だったので、難なく3時間の手術で無事に終わった…と。
この後については…看護師に聞いてください…と、医師は下がって行った。
俺は、もう、ホッとして…
再び、椅子にドサリと座った。
「良かった…ほんと良かったよ…朔」
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「はい、とりあえず安心しました」
そこで脱力感を感じて初めて…
ずっと身体が緊張していたんだと分かった。
しばらくすると看護師さんがやって来て詳しく説明を受けた。
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看護師さんに丁寧に何度もお礼を伝え…
病院を出た。
俺の横に、ずっと付き添って居てくれた橘さんに、全力でお辞儀した。
「あんな態度取ったのに…ずっと一緒に居てくれて…本当、心強かったです」
「大丈夫だって…それに、僕もお婆さんが心配だったから…朔の事も。むしろ、無理矢理居させて貰ったから」
さっき引っ込んだ涙が再び落ちそうになる。
「ありがとうございました」
言った勢いのまま立ち去ろうとする俺に、
「待って!今夜、ウチに泊まろ?そんな青ざめた顔…見てらん無いよ」
強引な程に手を捕まれ、そのままタクシーに乗せられる。
断る隙を与えず、運転手さんに行先を告げられた。
橘さんの勢いに負けた俺は、半分諦めると座席に深くもたれた。
もう…精神的に疲れていた俺の瞼は、ユルユルと閉じてしまった。
着いたよ…と起こされ、のろのろとする身体を引っ張られる様にしながら、橘さんの家に上がる。
確かに…ばあちゃんの居ない家に帰っていたら…辛くなっていただろう事を思うと…心遣いが有難かった。
晩御飯をコンビニに買いに行き、2人で食べ、そのまま、泊めてもらう事に。
友達なら、何でもない事なのに…
自分の気持ちに気付いた俺は、橘さんをまともに見る事が…もう出来なくなっている。
そんな俺を、ばあちゃんの件で疲れてる…と取ってくれたらしく、変にぎこちない俺を受け入れてくれた。
ベッドが1つしかないから…
でも、寝相は良いから…と笑う橘さん。
2人でベッドに入ると…
橘さんからは、俺と同じシャンプーの香りがした…俺がシャンプー借りたから、逆か。
「青木の車、どヤンキーだろ?良くアレに乗ったなぁ…」
「 乗ったというか、乗らされたというか、断れ無くて…。まぁ、実際助かりましたけど…ビックリしましたね…あのクルマには…あと、超安全運転のギャップ!」
並んでそんな事を笑い合っていると、
ドキドキして寝れないと思っていたのに…いつの間にか眠りに落ちていた。
ヒビ割れた暗闇の隙間から伸びてくる沢山の手に追われ…
引きずられて、必死にもがく…
明るい場所を探して走っても走っても…暗闇が追ってくる。
身体がグラグラと揺れ、目眩がした。
「サク…朔…」
と耳に拾った声。
声に導かれ薄っすら目を開くと…
覗き込む橘さんの前髪が、俺の鼻頭を掠めた。
「橘さん?」
「なんか…うなされてたから、起こした。大丈夫?」
「あー、なんか、ヤバい夢見てました。」
「水持ってくるから」
橘さんが行ってしまうと、途端、暗闇で中に1人で不安になる。
すぐ戻ってきた事にホッとして、貰った水を飲見干すと、コップを持って行こうとする、橘さんの服の裾を…思わず掴んでしまった。
「大丈夫だから…朔、…大丈夫だよ……」
と、ギュッと抱きしめてくれた。
俺は、胸に顔を埋めたまま…
氷が熱で溶けてしまうように…
ハラハラと涙が落ちるのを止められず…ヒクッと、喉が鳴る。
今回は、発見が早かったけど、俺が出かけてる間に倒れて、そのまま時間が過ぎて手遅れになったり……とか、安易に想像出来てしてしまい…これからの事が不安で仕方なくて…
ばあちゃんが逝ってしまって、今度こそ1人になってしまうのが怖いというような事を、涙の間で…
言葉を連ねて吐き出すのを、橘さんは、何も言わずに…聞いてくれた。
「あのね、朔…」
と、橘さんは自分のTシャツを少しめくると、俺の手を脇腹辺りに持ってくる。
暗闇に慣れて…何となく見えるが…触るとよく分かる、蚯蚓脹れのような…
傷跡?
「これ、手術の痕……中学の時、車とぶつかって、その時のなんだけど…死にかけた…んだよ…僕」
「えっ?」
驚きで…少し涙が止まった。
「あのね…朔は、人が簡単に逝ってしまう…って言ってたけど…死なない時もあるからね……慰めになるか分からないけど…僕の強運分けたげるよ」
と言うと…
触れるか触れないか…
唇と唇が…軽く合わさる。
キス…
直ぐに離れた唇…
暖かいものが離れて…一気に冷んやりした。
「それにね、お婆さんは、まだまだ死なないと思うよ?そう思わない?実はね、そうめん流しを一緒にする約束もしてるんだよ…僕」
確かに…と、暗闇で引きずられた心が少しだけ浮上する。そうめ流しの約束なんて、いつの間に……ばあちゃん。
「言えてますね…それは」
「そうだよ…明日一緒に病室行こ?意外な程に元気かもしれないよ?」
再び抱きしめられたまま、2人横たわる。
俺は…このまま…橘さんに何処までも依存してしてしまうのでは無いかという恐怖と…得たい安心感で、往復する心を持て余し…眠りから遠いところに居た。
それなのに……
橘さんから穏やかな寝息が、聞こえると…眠気が急激に襲ってきて…目を閉じると意識が薄れた。
起きると…
隣では、心配顔で朝日を浴びてる橘さんと目が合った。
途端に、柔らかく美しく笑いかけてくれる橘さんに、俺は…
もう、これ以上一緒に居てはイケナイと…唐突に思った。
同時に、想いを振り切る覚悟も…すんなり受け入れる事が出来た。
そう、俺は…男らしく…そして、俺らしく、相手の幸せを…願いたいんだ。
絢音と橘さんは、実際似合いのカップルだと思うし…
幸せになってくれるなら…俺の見えない所でなら、大丈夫な気がしてきた。
それに、俺は…橘さんから…分けて貰った強運もある。想いを閉じる事が出来る理由は、ここにもあった。
支度をすると…
一緒に玄関を出ようとする橘さんを止める。
「ありがとうございました。病室には、家族しか入れないみたいなので…また、退院したら…会いに来てください。お世話になりました」
無理矢理笑顔を作ると…
それ以上は、言いようが無いのだろう…
橘さんは、少し寂しげに
「そっか…お大事に…って伝えてもらえる?退院祝い用意しとくからって……ね?」
「はいっ!」
今度こそ、ちゃんと笑顔が作れ、いつものような顔で、俺の中では別れも含むサヨナラが言えた。
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◆
触れられるたびに、息が詰まる。
優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。
——これ、本当に“偽装”のままで済むの?
そんな疑問が芽生えたときにはもう、
美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。
笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の
恋と恐怖の境界線ラブストーリー。
【青春BLカップ投稿作品】
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
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本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
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