55 / 103
本編7話(修学旅行編 四・五日目)
高瀬くんの修学旅行⑦
しおりを挟む
修学旅行最終日。
各自、お土産等の買い物を済ませて乗り込んだ新幹線の車内は、四日間の疲れもあってか、往路と比べると随分静かである。それは我が班も例外ではない。
「…………」
「…………」
「…………」
西田がじゃがるこを無心で食べるサクサクとした音だけがシンとした空間に響いていた。柏木は、疲れたしちょっと休むわ、と言ってワイヤレスイヤホンを耳に詰め込んだっきり、窓際で静かにスマホと睨めっこしている。僕は、結局今日も朝食の場に現れず、今も空いたままの誰かさんの席を見つめては、遣る瀬無い気持ちを抱えるばかりだった。唯一連絡の取れている柏木に聞いたところ、一応、同じ新幹線には乗っているらしい。けれど、指定席に座るのは気乗りせず、一人で自由席のほうに座っているのだとか。
なんだよ。正直、もう怒ってないよ。このまま尾形に避けられ続けたら、またこの先十年喋れない日が続くんじゃないかって心配のほうが今は勝っている。普段はあんなに人のことなんかお構いなしで、自分勝手で無神経なくせに、今回だって、何事もなかったかのように話しかけてこいよ。そうしたら僕だって。
『まもなく名古屋です。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました──……』
流れる車内アナウンスを右から左に聴き流しながらヤキモキとした気持ちを抱えていると、不意に、車両と車両とを繋ぐ自動ドアが静かに開いた。何の気なしにそちらを見遣った僕は、目に映った人影に、思わず、その場で立ち上がって情けない声を漏らした。
「……尾形っ……」
「…………」
開くドアの向こうから突如現れた尾形に気付くや否や、西田の咀嚼がピタリと止まり、柏木も右耳のイヤホンをそっと外す。僕が言葉を発する前に、尾形は、控えめに頭を下げて地面と睨めっこしながら言った。
「ごめん。不誠実なことばっかして」
「…………」
「もう口もききたくないって思われてるだろうし、仕方ないし、それでいいけど、でも、俺、今回は、あのときみたいに瑞葵に話しかけるの諦めないからっ」
「…………」
「百万回無視されても、そんなん無視してこっちは百万一回話しかけるからっ……俺、それぐらい瑞葵のこと本気だからっ、東京帰ったら覚悟しとけよっ……」
「…………」
「じゃ、じゃあなっっっっっ」
そう言い逃げて、僕の返事も聞かずに尾形は颯爽と踵を返して新幹線のドアからホームへと降りて行った。
「ちょっ、おいっ、尾形っ、ここ名古屋っ……!」
僕は腹から声を出したが、尾形には届かず、虚しくも新幹線は定刻通りに発車してしまう。
「ええ~……おがちゃあ~~~~~~ん……」
「尾形くんを意地でも名古屋で降ろしてやるっていう丹羽くんの深い祈りが届いたんですかね……」
「いやそれもう祈りっつーか、もはや呪いじゃん」
「ここからまた新幹線で帰るんですか……?」
「あいつ、チケット一人で買えんの?大丈夫か?」
ホームにポツンと取り残された尾形を窓から食い入るように見つめながら、ああだこうだと二人が人騒がせな坊ちゃんの心配を繰り広げる中、僕は一人、さっき言われたことを思い返して、人知れず熱くなる頬を冷まそうとペットボトルの水を口に含んだのだった。
各自、お土産等の買い物を済ませて乗り込んだ新幹線の車内は、四日間の疲れもあってか、往路と比べると随分静かである。それは我が班も例外ではない。
「…………」
「…………」
「…………」
西田がじゃがるこを無心で食べるサクサクとした音だけがシンとした空間に響いていた。柏木は、疲れたしちょっと休むわ、と言ってワイヤレスイヤホンを耳に詰め込んだっきり、窓際で静かにスマホと睨めっこしている。僕は、結局今日も朝食の場に現れず、今も空いたままの誰かさんの席を見つめては、遣る瀬無い気持ちを抱えるばかりだった。唯一連絡の取れている柏木に聞いたところ、一応、同じ新幹線には乗っているらしい。けれど、指定席に座るのは気乗りせず、一人で自由席のほうに座っているのだとか。
なんだよ。正直、もう怒ってないよ。このまま尾形に避けられ続けたら、またこの先十年喋れない日が続くんじゃないかって心配のほうが今は勝っている。普段はあんなに人のことなんかお構いなしで、自分勝手で無神経なくせに、今回だって、何事もなかったかのように話しかけてこいよ。そうしたら僕だって。
『まもなく名古屋です。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました──……』
流れる車内アナウンスを右から左に聴き流しながらヤキモキとした気持ちを抱えていると、不意に、車両と車両とを繋ぐ自動ドアが静かに開いた。何の気なしにそちらを見遣った僕は、目に映った人影に、思わず、その場で立ち上がって情けない声を漏らした。
「……尾形っ……」
「…………」
開くドアの向こうから突如現れた尾形に気付くや否や、西田の咀嚼がピタリと止まり、柏木も右耳のイヤホンをそっと外す。僕が言葉を発する前に、尾形は、控えめに頭を下げて地面と睨めっこしながら言った。
「ごめん。不誠実なことばっかして」
「…………」
「もう口もききたくないって思われてるだろうし、仕方ないし、それでいいけど、でも、俺、今回は、あのときみたいに瑞葵に話しかけるの諦めないからっ」
「…………」
「百万回無視されても、そんなん無視してこっちは百万一回話しかけるからっ……俺、それぐらい瑞葵のこと本気だからっ、東京帰ったら覚悟しとけよっ……」
「…………」
「じゃ、じゃあなっっっっっ」
そう言い逃げて、僕の返事も聞かずに尾形は颯爽と踵を返して新幹線のドアからホームへと降りて行った。
「ちょっ、おいっ、尾形っ、ここ名古屋っ……!」
僕は腹から声を出したが、尾形には届かず、虚しくも新幹線は定刻通りに発車してしまう。
「ええ~……おがちゃあ~~~~~~ん……」
「尾形くんを意地でも名古屋で降ろしてやるっていう丹羽くんの深い祈りが届いたんですかね……」
「いやそれもう祈りっつーか、もはや呪いじゃん」
「ここからまた新幹線で帰るんですか……?」
「あいつ、チケット一人で買えんの?大丈夫か?」
ホームにポツンと取り残された尾形を窓から食い入るように見つめながら、ああだこうだと二人が人騒がせな坊ちゃんの心配を繰り広げる中、僕は一人、さっき言われたことを思い返して、人知れず熱くなる頬を冷まそうとペットボトルの水を口に含んだのだった。
73
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる